金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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Information

――政府は、脱炭素社会に向けた新たな国債の発行を検討している。そのポイントは…。

 齋藤 欧州では、政府が発行するグリーン国債をグリーンボンド市場のベンチマークとするような取り組みも始まっている。世界各国で環境分野への取り組みが加速する中、日本でも、「GX経済移行債(仮称)」が新たな国債として検討されている。しかし、具体的には未だ殆ど白紙状態だ。というのは、その資金使途によって、グリーン国債として発行できるのか、トランジション国債になるのか、或いはそもそもそのような国債として認証されないかもしれないからだ。それは予算編成プロセスに大きく関わってくる。理財局としては、その辺りを横目で見ながら、この新たな国債をどのような形で出せるのかを考えているところだ。また、「GX経済移行債」の償還財源は別途議論されていく予定になっている。その償還財源が何年後にどれくらいの金額なのかといった議論の成り行き次第で、何年物の国債が発行できるのかが決まってくる。我々としてはその議論を見守りながら考えていくしかない。「GX経済移行債」をどのような形で発行しうるのかは、資金使途と償還財源次第だ。

――今後の国債管理政策について…。

 齋藤 先ず、日本銀行の金融政策のこれからについて、我々が何か具体的なスケジュールやシナリオを想定しているというようなことは一切ない。一方で、今の日銀の金融政策が未来永劫続いていくことは無く、いずれ長期金利は、昔のように市場の動きによって決まっていく世界に戻っていくだろう。そうなった時に、国債発行当局としての課題は、いかに安定的に低コストで資金調達できるかだ。それは私がかつて国債課で課長補佐や課長を務めていた時代に行ってきたことと大きな違いはない。橋本内閣から小渕内閣に変わった時には国債の発行額が急激に増えたが、それを安定的に消化していくために、発行当局として出来る事を行い、しっかり管理してきた。そういった、これまでの経験の中で積み重ねてきたものは、きちんと整理されている。

――低コストで安定的な資金調達を行うために必要な事は…。

 齋藤 近年は日銀の金融政策によって低コストで発行出来ているが、その分、今の市場関係者の多くは「動かないマーケット」に慣れてしまっている。マーケットが再び金利の動く世界に戻った時に安心して取引できるようにするためには、流動性と厚みのあるマーケットが必要だ。それをもう一度きちんと育てていかなければならない。そのために、今、国債両課が一丸となって海外の国債管理政策の研究などを進めているところだ。特にトレジャリー(米国債)は私が課長補佐を務めていた時代にも参考としていたものであり、米国の発行当局がどのように国債を発行しているのか、円滑な資金調達のために何を行っているのかを見ながら、日本の制度改革を行ってきた歴史がある。そういったものを改めて研究することで、今後に役立てていきたい。

――今後の国債市場は「動くマーケット」を経験している人たちの力が必要になってくる…。

 齋藤 再び到来し得る国債市場の「動くマーケット」に備えて、昔を経験した人材を確保するのか、若い人たちの勉強の場として経験させるのかは別の話として、マーケットが金利の動く世界に戻っていくとなると、割安なのか割高なのかなどきちんと相場観を持って、押し目買いに入ったり逆張りしたりする人が必要になる。順張りする人ばかりでは市場が一方通行になってしまうからだ。しかし、そういう人材をどのように確保していくのかは、我々発行当局だけでどうにかできるものでもない。市場関係者の方々と情報交換・意見交換しながら、民間でもそういった体制を整えてもらう必要があると考えている。

――「GX経済移行債」とは別に、50年国債など新たな国債を発行する可能性は…。

 齋藤 長い目線で見て、それなりのニーズが期待でき、流動性と厚みのあるマーケットを作り上げることが出来るものでなければ新商品として導入することは難しい。そういった観点で、今直ちに期待できそうな新商品はなかなか見当たらない。また、50年債については、日本では超長期ゾーンは20年、30年、40年の3本建てと既に品揃えが豊富にある。国債の入札スケジュールもかなり過密になっている。そんな中で単純に新商品を追加して入札スケジュールがさらに込み合う事になると、それはそれで、また大変なことになる。来年度の国債発行計画については、発行額もこれからの予算編成の過程次第であり、財投債やGX経済移行債についてもどうなるかわからないため、今の段階で話せるようなことは殆ど無いが、需要と供給を見ながら安定的に消化できるように、厚みと流動性のあるマーケットにしていくという事に尽きる。そして、それは毎年やってきた事とあまり変わらない。

――マイナス金利政策の影響で、第二非価格競争入札限度は15%から10%に引き下げられた。コロナ禍の今、これを再び戻す予定は…。

 齋藤 マイナス金利であるにもかかわらず利付国債として発行するためにクーポンを付けると、オーバーパーでの発行となり発行収入金が増え、国債発行による資金調達は計画での想定以上に増えてしまう。そこで、第二非価格競争入札限度を一旦下げるとともに、最低クーポンを下げることでオーバーパーの度合いも減らした訳だが、もともと、第二非価格競争入札は、プライマリーディーラー向けの特典という性質を持つものでもある。市場関係者のニーズによって変えていくことはあり得ると思うが、今の段階では、第二非価格競争入札限度の割合を元に戻してほしいという声はそれほど届いていない。

――超長期国債はスティープ化している。この需給関係をどのように見ているのか…。

 齋藤 イールドカーブの形状や長短金利差についてはコメントする立場にないが、超長期国債の需給については、発行する立場としては、入札結果が大きな参考となる。札が集まらなければ発行のロットが多すぎるという事を意味する。その観点で言えば、今の超長期債の入札が弱いとか、札が流れているとか、そういう感じは受けておらず、足元の状況において超長期が発行過多とは言えないと考えている。

――最後に、局長としての抱負を…。

 齋藤 先ずは、今の時点での国債管理政策の総点検を実施しておきたいと考えている。というのは、私は長い間この国債関係に携わりながら、これまでのキャリアを築いてきた。しかし、私の後にこのポジションに就く人物が、私の様な経歴を持っているとは限らない。総点検してまとめ上げたものを、私の時代に実行に移せるかどうかはわからないが、これまで長く国債関係を歩んできたものとして、その経験をしっかりと後任に引き継いでいきたい。それが私の責務だと思っている。(了)
※8月29日に伺いました。

アセアンは世界経済のトップランナー

――アセアン経済の現状は…。

  アセアンの直近の経済動向は、かなり回復しつつある。4~6月期のGDPも軒並み改善が見られる。一部で物価高の影響などから足踏みも見られるが、全般的には上向きの方向だ。主要国の4~6月期の前年同期比でのGDPは、タイで2.5%、マレーシアで8.9%、インドネシアで5.4%、ベトナムで7.0%となっている。

 B 低成長の先進国やほぼゼロ成長となっている中国経済をしり目に、いまやアセアンが突出している感じだ。アセアンでもたついている国はタイぐらいか。

 A 観光がひとつの主要産業であるタイが戻り切れていない。自動車産業も、需要はあるが半導体など部品不足が生産の足かせとなっている。物流などのコスト高も逆風だ。タイはアセアンのなかでは先進国だから、世界の先進国に引きずられている面もある。しかし、いまやアセアンが世界経済のトップランナーのような感じだ。

 B アセアン各国の内需が強いことが経済を下支えしている。各国政府の消費者や企業向けの積極的な景気刺激策もプラスだろう。インドネシアでは自動車の優遇税制により販売が好調となっている。輸出も、資源価格が高いことからインドネシアやマレーシアでは非常に良い。ブルネイは統計が明らかでないが、産油国であるため相当儲かっているだろう。

 C アセアンへの日本企業の進出も、件数でみるとコロナ前を回復してきている。本紙集計では8月の進出件数がコロナ前を上回った。シンガポールやタイといった主要国への進出が堅調だ。とくにシンガポールは昨年に続いてかなり回復してきた印象が強い。ただ、コロナ前に最も多かったベトナムへの進出は鈍化して、タイやシンガポールと同程度になってきた。ベトナムは市場がまだ小さく発展途上であり、進出に一巡感も出てきている。

 B ベトナムは人口が拡大中で9000万人を超えた。近い将来1億人市場となる見通しで、経済成長が著しい。ただ、このところは成長の勢いがやや鈍化している印象だ。

――ベトナムの賃金動向は…。

  引き続き上昇してはいるがかつてほどの伸びではない。工場の労働者の賃金は、1カ月に200~300ドル程度ではないか。つまり日本円だと3万~4万円ほどでまだ安い。中国では地域にもよるが、もう10万円を超えている。ただ、縫製業など企業進出の初期段階の業種はベトナムから、ミャンマーやバングラデシュなどに以前からシフトしてきている。

 C アセアン進出を業種別にみると、引き続きサービス業や情報・通信業が多い。卸売業も含め、上位の業種は従来と変わらない。製造業はすでに一巡感が出ている。製造業は進出に歴史のある企業が、例えば第1工場に加えて第2工場を建設するといった動きが見られる。マレーシアでは半導体関連の企業が生産を拡大しており、直近ではシンフォニアテクノやフェローテック、JCUなどが新たなプロジェクトを立ち上げている。

高まる中国リスク

――インドでも脱中国の動きが活発化しているが、アセアン進出の日本企業は10年以上前からチャイナプラスワンといわれ中国からシフトしている。最近の状況はどうか…。

  従来からあったことだが、ここ数年は米中貿易摩擦やコロナの問題で脱中国が加速している印象だ。企業の発表などでは表に出てこないが、内部的には生産移管や、海外生産の割合を中国で減らしてアセアンを増やしている企業は少なくないだろう。政府機関や自治体の調査などでも、将来の有望国として従来トップだった中国の勢いが落ちアセアンが逆転するような結果も出ている。中国は依然として有望視されているが、相対的な支持率は落ちた。

 B 中国は米国とのデカップリングや、中国当局の企業に対する強権的な動きなど様々な問題を抱えている。それにもっとも大きな脱中国の原因は、賃金を含めたコスト競争力が落ちてしまった。そもそも親日国ではないことや政治的に日本と対立することも大きな問題だ。

 A コスト高や製造拠点のリスクを勘案すると、中国で生産して海外に輸出するようなビジネスはメリットがなくなってきた。一方で、ユニクロなどモノを売るビジネスはいい。むしろ東南アジアで作って中国で売る方はメリットがある。あるいは中国で作って中国国内で売る。輸出するためにわざわざ中国で作る必要はなくなってきた。先般も日本の自動車メーカーが「ゼロコロナ」のあおりを受け、中国生産の部品が供給できないため自動車を生産できないという事態も起こっている。結局、中国にいるリスクが高くなりすぎている。

 B その他さまざまな要因を含め、中国経済自体がかなり構造的な問題を抱え始めており、今度は国内の購買力も低下してくる。中国市場の内需を当て込んでいた企業もメリットが薄れてくる。輸出産業と国内消費を当て込んだ企業のいずれもメリットがなくなってしまう。それであれば中国にいないで購買力の高まるアセアンに行った方が良いということになる。そういう意味で、いよいよアセアンの時代になってきた。

シンガポール進出が依然人気

 C 企業進出の点ではシンガポールとタイ、ベトナムが堅調に推移していて、なかでもシンガポールは強いと感じる。アセアン地域統括拠点としての役割を担いやすいことが背景にあり、一時コロナで出張が滞って地域統括の役割がなくなるのではとも言われたが、やはり引き続き地域統括拠点を設ける企業はでている。また、最近ではWEB3.0(ウェブスリー、次世代の分散型インターネット)に関するトピックがシンガポールで多い。

 B 確かに、日本人がシンガポールに行っても生活がしやすい。タイも生活はしやすいが、まだ発展途上国の雰囲気があり日本並みの生活を求めるのは難しい。その点、シンガポールに地域統括拠点を置くというのは理解できる。

 C シンガポールでは税制面でもメリットがある。タイは税金が35%くらいと高い。シンガポールは最高でも20%だ。このため、アセアンのスタートアップも、インドネシアなどで活動していても本社はシンガポールにあるケースが少なくない。

――その他のアセアンで注目の国は…。

  マレーシアへの進出が増えている。生産拠点として活用している企業があるほか、域内では比較的経済発展していること、言語の多様性があることなどに注目する企業もある。マレーシアは電機・電子産業が集積していて、輸出の大部分も電機・電子が大部分を占めている。そうした産業基盤があるうえ、シンガポールほどではないがインフラがかなり整備されている。世界的に電子部品や半導体へのニーズが高まるなか、生産増強や工場拡張をしようという企業が目立つ。また、所得水準も高いため、消費関連の企業の関心も高い。

 A マレーシアは半導体産業の集積地で、ロックダウンの際には半導体の供給が滞って自動車工場が操業停止したケースもあった。欧米系をはじめ、中国から電子部品の生産をマレーシアに移管しようという企業が増えているようだ。

 C 台湾企業も中国に攻められたら工場が止まってしまうリスクから、生産移管する可能性がある。半導体大手のTSMCは日本側の要請もあり熊本に工場を建設する一方で、中国の影響の強いミャンマーやカンボジア、ラオスに関しては外国企業の進出であまり前向きな話は聞かない。その3カ国はそもそも経済規模が小さく、日本企業の進出も目立たない。政治に関わらなければ市民生活は守られているが、民主主義国家でない危うさがある。

アウンサンスーチーの失敗

 B ミャンマーでは企業の操業停止状態が目立つ。アウンサンスーチー氏は大失敗した。トップに就任後、すぐに訪問したのが中国だったことは間違いで、まず日本と仲良くすべきだった。西側にしっかりと顔を向けるべきだった。結局政権を奪われたうえに、中国が背後にいる軍事政権になり、自分自身は監獄に入れられてしまった。ラオスとカンボジアを含め、経済発展はしているが中国に近い国はあまり良い話は聞かない。

 A その点でベトナムは立派だと思う。過去、中国軍を撃退した歴史もあり、現在も中国と一線を画して経済成長している。同じ社会主義国という形を取りながら。ハノイなどでは気候的に寒い時期もあり、知的レベルの高い人々が多い。ミャンマーやラオス、カンボジアは暖かいからのんびりしたところがある。カンボジアではポルポト時代に多くの知識人が抹殺されたという歴史も影響しているだろう。

 C アセアン諸国は対外的に特定の国・地域に偏らないことが特徴で、外資も欧州や中国、韓国、日本などを広く受け入れている。中国は落ち目になっているが、アセアンが中国と交流を断絶するといった状況ではなく、引き続き中国経済を利用したいという考えで、米国のデカップリング論には組みしないというスタンスだ。アセアンは対外的に巧みにふるまっている。例えばタイではコロナ前に中国人観光客が年1000万人も訪れていたこともあり、中国をむげにできない。

 B ただ、今後20年くらいは中国経済がどんどん右肩下がりになってきて、その後の状況は変わってくる。今の中国は、日本の1990年代前半頃のイメージだ。中国の技術力は西側のものを模倣したもので、それをもとに経済発展してきた。しかし米国や日本などが距離を置くにつれて、今後は自主独立でやっていかなければならないが、すぐに対応できるものではない。当然、半導体などの技術を持っている台湾は吸収合併しなければならない、自国に取り込まなければ経済発展はできないと考えるだろう。そうしたリスクがアセアンにはないこともアセアンの魅力の一つだ。(了)

――「参政党」が結成されたのは2020年4月。その注目はネットから始まった…。

 松田 昨年12月、「参政党」は今夏の参議院選挙のため初の記者会見を行った。しかし、政党要件を満たさない政党はマスコミが報道しないため、情報源がテレビや新聞だけという人達の間ではあまり知られていなかった。参院選後に政党要件を満たしたことでようやく新聞やテレビが取り上げるようになり、「突然出てきた党」というイメージをお持ちの方も多いようだが、既に2年4カ月以上も前から活動している。参院選に向けて「参政党現象」が起こったが、これだけの熱量で人々が集う現象は日本社会で何かが起こっている証しでもある。それについての報道を封じていたマスメディアは、国民の知る権利を邪魔していたとすら言えるのではないか。ネット世代の若手記者たちの間では関心が高かったようだが、新聞もテレビも既得権益を守ろうとする圧力のもとに置かれているのかもしれない。当初、参政党の認知度向上で力を発揮してくれたのは、街頭演説で実際に我々の演説を聞いて、その熱量に注目し、街頭演説の様子を拡散してくれたユーチューバーたちだった。SNSで共鳴と感動が広がる過程を通じて、参政党は知る人ぞ知る存在となっていった。今年5月の政治資金パーティでは5000人以上の人が集まり、今夏の参議院選挙最終日には芝公園に1万人を超える人たちが街頭演説に集まった。選挙後も8月のパーティは7000人規模で盛り上がった。もはや選挙活動を超えて、歴史を変える瞬間に起こる一種の国民運動のようなものを感じている。

――結党の目的は…。

 松田 結党時に我々が掲げたキャッチコピーは「投票したい政党がないから自分たちで作ってみた」だ。今の日本で国民の政治離れが進み、投票率が低下しているのは、既存の政党に魅力がないからだ。そこで、ごく普通の一般国民が当たり前のように政治に参加できる、手作りの政党を作ろうと考えた。政治とは決して特殊な世界でもいかがわしいものでもない。成熟した民主主義社会では、日常の中に政治がある。新しい参加型の民主主義を日本に生み出すために、我々は結党した。もともと私は大学卒業後に大蔵省に入省した財務官僚だったが、グローバリズム勢力のもとで衰退の道を辿る日本国家の危機を痛感し、石原慎太郎氏や平沼武夫氏たちが立ち上げた「たちあがれ日本」の結党に加わって政界へ足を踏み入れた。この党は「太陽の党」への改名を経て日本維新の会と合流し、私も衆議院議員に当選したが、2014年の分党で「次世代の党」に移ることになる。結局、同党が結党してすぐに行われた同年12月の衆議院選挙で、党名の知名度の低さからほぼ全員が落選し、私も議席を失うことになったが、当時から感じていたのは、日本の国に立脚した国民国家を軸とする政治勢力と、党員たちが主体となって運営され、選挙も党員が担う、そして政治家は国政に専念するという形で営まれる「近代型政党」の必要性だった。

――維新の会との違いは…。

 松田 私が「維新の会」にいた頃からそうだったが、自治体の事業に外資を呼び込んででも効率を優先する姿勢は「国民国家」を軸とする考え方とは相容れないものを感じた。小泉構造改革もそうだが、多くの政治家たちが唱えた「改革」という言葉は何をもたらしたか。日本国民の賃金が上がらず、主要国の中で最も経済成長できなかったのが平成の30年ではなかったか。あたかもグローバリズムの手先のような政治を未だに指向しているのが維新ではないか。日本維新の会は保守だと誤解している人は多いが、次世代の党へと分党が起こったのも、憲法に対する考え方を始めとする国家観の欠如だった。そこは我々「参政党」とは根本的に異なる点だ。また、橋下氏は「近畿や名古屋は独立した方が良い」といった趣旨の発言をしたとも聞くが、「サイレント・インベージョン」という言葉が知られるようになっている現在の国際情勢のもとでは、安易な地方の自立が中国への身売りに繋がっていくという様な発想が維新の会にはない。実際にオーストラリアでは一つの州が勝手に中国と外交を行い、一帯一路に組み込まれそうになったという例もある。結局、オーストラリア国家はそれによって目覚めて、反中国になっていった。

――「自国に立脚した国民国家」とは…。

 松田 これからの政治の対立軸は、もはや「右か左か」ではない。世界を席巻している「グローバリズム全体主義」に対抗して、「自由社会を守る国民国家」という軸を打ち立てなければならない。これは世界的な潮流でもあり、健全なナショナリズムの台頭が各国でも起こっている。欧州ではEUグローバリズムに対抗して英国のEU離脱が起こり、米国ではトランプ現象が見られた。コロナパンデミックやウクライナ戦争も、各国の国民を苦しめているのはグローバルな利権であるという認識を広げている。日本でいち早く、こうした気付きを有権者に促したのが参政党だ。米国では、バイデン・グローバリスト勢力に対抗するかのように、次期中間選挙では共和党の勝利が予想されている。欧州ではイタリアで「五つ星運動」が政界の主流となっており、フランスでは今年の大統領選挙では「国民連合」のル・ペン党首が40%以上の得票率を獲得、ドイツに至っては「ドイツのための選択肢」が多数の議席を獲得している。いずれも、グローバリストが支配するマスメディアからは極右とのレッテル貼りがなされてきたが、各国の国民はそうではないことに気付き始めている。日本においてこの位置にあるのが我々の「参政党」だ。新しい国づくりの立脚点を、世界一の歴史を誇る日本国に置き、日本の建国理念である八紘一宇の「一つの家族世界の実現」の考え方に基づきながら、排外主義とは全く異なる「世界に大調和を生む国」を党の理念に掲げている。

――中国に対しては…。

 松田 今、日本では北海道ニセコや山形県蔵王などにもみられるように、あちこちで国土が中国系資本によって買い荒されている。選挙に向けて全国を回ってみて、このことへの危機感が国民の間に広がっていることを実感した。普通の主婦の方やお母さんたちが、このままでは子どもたちに日本を残せないという思いから、主体的に参政党に参画してくれている。自民党は、中国寄りとされる公明党と連立を組んでいるためか、中国利権におかされているからか、こうした国民の危機感に十分に応えられていない。もちろん自民党の中には我々と同じような国益重視の立場に立つ保守派の方々もいるが、党内では少数派であるため自民党全体の意思決定には反映されにくい。このままでは中国の属国になってしまうという危機感を持つ自民・公明の党員や支持者の中には、今回の選挙では参政党を支持したという人も多かった。

――経済政策についての考え方は…。

 松田 中国がデジタル人民元を開始し、世界共通のブロックチェーンの共通基盤を運営し始めた。これは、あまり注目されていないようだが、中国の世界覇権の切り札となるだろう。デジタル通貨は、スマートフォンは持っているが預金口座を持たないという、新興国や発展途上国の人たちにとって非常に便利なものになる。中国の影響力の強い国々から始まって、デジタル人民元を使用する人口が世界的に増えていく可能性がある。インターネット革命の次はブロックチェーン革命だと言われるように、近く、世界中のあらゆるサービスがブロックチェーンを使って展開される時代が来るだろう。そのとき、私たちは中国が運営する基盤の上で様々なサービスの提供を受け、お金の支払いまで行うことになっていいのか。当然、そこで懸念されることになるのが、デジタル通貨の発行元となる共通基盤を持つ中国に多くの個人情報が集中してしまうことだ。これはグローバリズム全体主義による究極のサイレント・インベージョンだともいえる。この点において参政党では、日本独自の国産ブロックチェーン基盤を創るべきだと主張しており、新たな財政や通貨の基盤として考えている「松田プラン」も、このことを前提にしている。米国でも、2020年の大統領選挙の不正を指摘する共和党系が、GAFAと言われる現在のグローバリストプラットフォーマーが支配するIT基盤とは異なる、信頼度の高いブロックチェーン基盤の開発に強い関心を示しているようだ。その辺りとの連携も考えられる。

――「松田プラン」とは、具体的に…。

 松田 今の日本では、供給面からインフレが起きたとしても需要面はデフレのままであるため、他国の様には利上げが出来ず、結局、デフレ体質からの脱却まで日銀が国債を買い続けなければならないだろう。金融政策に限界があることが見えた以上、市中マネーを増やすためには財政出動しか選択肢がないが、財務省が積極財政に踏み切り、日銀が国債購入を継続していくためには、別途、国債残高が減っていく道筋を作り、出口を示す必要がある。そこで、日銀が保有する五百数十兆円の国債が、政府が発行する「デジタル円」に転換されていく仕組みを創るのが「松田プラン」だ。このデジタル円は銀行が預金通貨や現金と両替して国民のスマホに入金する形で市中に流通していく。銀行は、このデジタル円を日銀から購入する。日銀は、これに応じて、自らが保有する国債を、政府から政府発行のデジタル円をもって償還してもらう形で取得する。こうして、日銀の資産として計上されていた国債はデジタル円に転換し、これを日銀が銀行に売却すれば、日銀のバランスシートは資産と負債(日銀当座預金)の両建てで縮小する。これは日銀にとっては、これまでの金融緩和策の円滑な出口にもなる。政府から見れば、これによって国債が税金で返済すべき借金ではなく、通貨に転換されるのであるから、その分、国債を増発して積極財政を行う道が開かれることになる。デジタル円を政府が発行すれば、政府はマイナンバーで個人情報のビッグデータを管理しているのであるから、このデジタル円は様々なプッシュ型行政サービスと結びつけられることになる。民間のサービスとも結びつければ、さらに便利なお金ということで、国民からのニーズも高まるだろう。急速に発展する情報技術を活用することで、これまでの通貨の概念自体が大きく変わっていくことになる。これを日本が先導することで、財政を立て直し、マネーの循環で経済を活性化するとともに、日本の国のまもりにも資するというのが「松田プラン」だ。

――今後、参政党をどのように発展させていくのか…。

 松田 参政党はすでに、全国の全ての都道府県に支部を置き、党員党友が10万人にのぼる組織を備えた政党になっている。今年7月の参院選挙では全選挙区に候補者を立てることができた。それも一般国民からの寄付金によってだった。今後は各支部が自発的に色々な活動を展開し、来年の統一地方選挙で多くの地方議員を生み出し、次の国政選挙に向けて党勢をさらに拡大させていきたい。現在のほとんどの政治家たちは、選挙に勝つことが仕事の「職業政治家」だ。そうではなく、前述の近代型政党としての参政党を発展させることによって、国政に専念する真の政治家を生み出すとともに、国民が投票だけでなく、国の政策形成にも参加できる新しい民主主義を日本に創っていきたい。(了)

――現在の世界情勢は…。

 渡辺 今の世界に対する影響度合いは、1番目に米国のインフレと金利引き上げ、2番目にロシアによるウクライナ侵攻、3番目にコロナだ。米国のインフレによる高金利は日本や他のアジアの国にも影響を与えている。他のアジアの国では国外にマネーがシフトしていることもあり、金利が上がっている。米国の利上げは去年の7月ごろから始めるべきだったが、FRBが判断を間違えたと言って良いだろう。FRBは昨年、インフレは一時的なもの(transitory)と判断していたが、最近でもインフレは高騰し続けており、うなぎ登り(rocket sky-high)の状態だ。今は逆にきつめの金融引き締め(overkill)を行っている。さらに、ロシアのウクライナ侵攻により、EUなどへのエネルギーの供給が大幅に細り、インフレに拍車を掛けている。コロナもなかなか終息の道筋が見えてこない。

――ロシアの対制裁対応から見てドイツのエネルギー源は大丈夫なのか…。

 渡辺 現在、ドイツではエネルギー供給が2割程度足りていない。国内備蓄が冬まで持つか、更に積み上げられるかが焦点だ。燃料が来ないからと言って、再びロシア頼みするのは不可能だ。そのため、色々な国・地域から、国境を越えて電力を集めなければならない。ヨーロッパは、サハラ砂漠の太陽光発電からジブラルタル海峡を越えてスペイン経由での供給やフランスの原発から供給できるなど、周辺国の間で電力の融通が利く。しかし、日本の場合は島国であり、他国からの電力供給策を造る場合、例えば朝鮮半島経由で電力線を引くことになる。とはいえ、北朝鮮がその構想に乗るとは思えないし、韓国も電力に余力があるわけではないので多国間供給網は現実的ではない。過去には、ロシアのハバロフスクやウラジオストクから海底ケーブルを通して北海道に繋げる話もあった。しかし、サハリン2プロジェクトの件からも分かるように、ロシアから電力供給を受けるのは厳しい。

――ヨーロッパのエネルギー供給縮減が経済に与える影響は…。

 渡辺 ヨーロッパでは、エネルギーの供給減少により、インフレが起こり、成長率も下がる可能性が出てきた。しかし、現時点で、ドイツもオランダも日本よりは成長率や生産性が高いので何とかなるかもしれない。別の話になるが、あと2年くらいで日本とドイツのGDPが並ぶ見通しだ。特に、対ドルではユーロの下落率より円の下落率のほうが大きいので、日本のGDPの下げが顕著になるだろう。もし今後、円安がストップすれば、ドイツに抜かれることはないが…。一時勢いのあったブラジルやメキシコも失速していることから、今までの計算では、2050年にはインドに抜かれるだけで、日本はGDP世界ランキングでベスト5に残る計算だった。しかし、為替の変動が大きく、将来の順位は分からなくなっている。

――黒田総裁は為替の状況にかかわらず、金利を上げないとしているが…。

 渡辺 これは、影響の配分と分配の認識の問題だ。日本経済全体を見たときと、消費者あるいは中小企業の視点から見たときでは、日銀と政府の対応が異なってくる。日銀は日本経済全体を見ており、円安によりプラスの影響を受ける人のほうがマイナスの影響を受ける人より多かったら、金利を上げない。一方、円安は輸入品の高騰により、消費者の生活に影響を及ぼす。しかし、あくまで日銀は、日本経済全体を見ており、貧しい人への所得の再分配は政府が対応することとして、経済を優先する。現段階では、日本経済全体で見れば円安の効果が高いと判断したことになる。日銀は、金利を上げてGDPの伸び率がゼロになる可能性を恐れているが、実際に今の経済実態だとそれは起こり得るだろう。経団連やトヨタなど産業界が明確に円安に否定的にならないと日銀の意見は変わらないと思う。

――今後、円高に戻ることは考えられるか…。

 渡辺 米国の金利引き締めが落ち着いても1ドル=120円より円高にならないだろう。1ドル=100円から135円への円安のうち、FRBと日銀の政策金利差も10~15円分ほど影響しているが、半分以上は日本経済に対する世界の評価が下がっているためだ。今、世界を主導する日本の産業はない。東芝などの、かつて世界に誇ることができた白物家電は崩壊の一途をたどっている。また、自動車もトヨタが頑張っているが、EVで米国と中国に先を取られている。為替はその国の経済状況を表す。円安は経済力の弱さを表しており、悪いことなのに日本人のほとんどが錯覚して円安がいいと言ってきた。プラザ合意などにより急激な円高を経験したことから、多くの日本人は円高に対して恐怖を持っているが、時代は変わった。

――日本の現状を打破するためには…。

 渡辺 技術革新と賃上げが必須だ。まず、技術革新に関しては、民間企業が主導的に進めなくてはいけない。しかし、日本の民間企業は困ったらすぐ政府頼みになる癖がある。イノベーションや技術革新について、政府の役人や政治家に知恵があるわけではないのに、政府に頼ろうとしていること自体が問題だ。また、現状ではまず先に賃金を上げなくてはいけない。本来なら長期的視点から基本給を上げるべきだが、賃金を一度上げると下げることが難しくなる。現在、インフレボーナスと称して臨時で数万円程度支給している企業がある。賃金を一度上げたら下げることは難しいが、ボーナスだったら業績に応じて変えることができる。このほか、最低賃金を全国平均で1000円以上に上げる案もある。ただ、そうすると多くの中小企業が倒産すると言っており、実現が難しい。ステークホルダー主義か、ストックホルダー主義かが問題となる。BtoCの分野では値上がりが良く話題になり、値上げが起こり始めたと見られているが、問題なのはBtoBだ。ネジなどの最終製品に組み込まれる部品・中間財のコストアップを最終製品メーカーは受け入れなければいけないが、価格転嫁はなかなか進んでいない。そのため多くの製造業では単位当たりの利益が減少し、人件費を上げることが難しくなっている。

――雇用の流動性と賃金の値上げのジレンマは…。

 渡辺 雇用の安定化は日本の近代化に大きな役割をもたらしたが、現在では雇用の安定化と賃金の値上げは二律背反になっている。どちらかを選ばなくてはいけないが、クビにしやすい雇用環境を創り出すという、国民に辛いことを求める政治家はいない。そこで、ベースを上げることになるが、仕事ができない人の給与も上げることになり、後が大変になる。評価の高い人には給与を上げるボーナス制か、雇用の流動性を高めてクビにしやすくするか、臨時給でインフレ対応するか、さまざまな選択肢が考えられる。この点、日本労働組合総連合会(連合)のこれまでの間違いは、雇用の確保に重点を置いたことだ。そのせいで、賃金の値上げがほとんど議論されなかった。連合は、雇用がある程度確保されている大企業の集まりで、中小企業の状況を連合の方針は受け止めていない。

――世界大恐慌になるとの予想もちらほら出てきている…。

 渡辺 大恐慌にはならないと思うが、ゼロ%成長が続く可能性がある。リーマンショック時には、欧米などの先進国は打撃を受けたものの、中国などアジアの成長率が高かった。しかし、現在では中国なども伸び悩んでおり、4~6月期の3か月はほぼゼロ成長と軟調だった。日本も1%くらいの成長で、米国もインフレを本気で押さえれば3~4%の成長が予想される。今までは中国や東南アジアを含めて世界全体の成長率が5%を超えることが多かったが、今年は世界全体の成長率が3%に達しない見通しで、これはリーマンショック時の成長率と同じだ。平均が5%だと、成長率が低い国であってもゼロ%程度で済むが、平均が3%になると、マイナス成長の国が出てくる。

――日本が今後やるべきことは…。

 渡辺 エネルギー供給のために、原発を動かすかどうかを早く決める必要がある。準クリーンエネルギーに位置付けられるLNGの供給がひっ迫し、価格が高騰するなかでも、日本は石炭を燃やし続けると言えるほど石炭発電の経過的正当性を世界にアピールする力はない。そのため、原発を動かすか、ヨーロッパが行っているように15%の節約を国民に求めるかのどちらかになる。ただ、後者は我慢の必要性など辛いことであるがこれは誰も言い出さないだろう。加えて、日本はエネルギー源の90%以上を輸入しているため、原発の是非を議論することに加えて、使用する電力をいかに減らすかの議論をしなくてはいけない。足元でも停電が起こるくらい電力状況がひっ迫しているが、先進国でそんな国はありえない。日本の場合、海底がすぐ深くなるので洋上風力が簡単では無く、太陽光も雨が降るので上手くいかない。コストの問題では無く、供給量確保の可能性の問題である。このため、ベース電源が必要になってくる。日本の主要な工業地帯である中京工業地帯には、中部電力が電力を供給している。中部電力が使用する大部分のLNGはカタール産であるが、今後ヨーロッパからの需要も強くなっていくため、値上がりは必至で、中京工業地帯の電力価格は上がるだろう。このため、トヨタなどの工場の電力コストが上がり、日本の競争力低下につながることが懸念される。この点も含めて、例えば静岡にある浜岡原子力発電所を再稼働するかどうか議論することが求められている。(了、収録日:2022年7月27日)

――そもそもESGとはどのような概念か…。

 髙木 ESGは、投資家が投資判断においてリターンだけではなく企業の社会的責任も考慮するという、いわゆる責任投資の視点から生まれた概念で、企業経営には環境(Environment)や社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点が必要だという考え方である。現在では、環境問題や社会問題が深刻化するなかで、さまざまな文脈で使われている。厳密に定義すれば、サステナビリティという大きな枠組みのなかに投資家主導のESGと国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)がある。環境問題や社会問題に対する投融資を指す場合には、国際的にはサステナブル・ファイナンスと呼ぶのが正しい。

――ESGの観点から投資家が具体的に注目しているのはどのようなポイントか…。

 髙木 サステナブル・ファイナンスが急拡大するなか、第三者評価や信用格付けに関連して、市場が関心を持っているポイントが3つある。1つ目はESGが信用格付けにどのような影響を与えるか、ESGと信用格付けの関係性についてだ。信用格付けではこれまでもESGの要素が織り込まれていたと考えられるが、今後はいかにシステマティックに信用格付けに織り込むかという観点が重要である。2つ目は、ESGをうたう金融商品の信頼性だ。乱立するサステナブル・ファイナンス商品に対して、国際的な基準に合致しているかを第三者の視点から専門的・かつ一貫性を持った評価をすることだ。3つ目に、企業がESGに対する全般的な取り組みをスコアリングするESG格付けがある。JCRは当該商品に対応していないが、企業の公開情報だけで企業のESGへの取り組みに点数を付けることが主となるため、情報の品質の問題、ESG評価各社の評価の適切性に未だ課題があると思っている。

――JCRではどのような取り組みを行っているのか…。

 髙木 JCRは信用格付会社であるので、信用格付けにESGがどのように影響しているのかを分析することが重要だ。JCRは、ESGの要素を格付けにシステマティックにできるだけ織り込むような取り組みを行っているほか、信用格付けのリリースとは別に、「ESGクレジットアウトルック」という新たなレポートを国内の格付会社では初めて提供を開始した。このレポートでは、ESG要素がそれぞれの信用格付けにどのような影響を与えるか、詳細を開示している。具体的には、環境や社会の要素において、多くの企業で共通して重視している項目を選定し、事業基盤や財務基盤への影響度を数値化して示している。

 信用格付業とは別に、企業が資金調達する際にグリーンやソーシャルといったESGのラベルを付けるいわゆるサステナブル・ファイナンスに対する第三者評価のリクエストも増えている。この要請に応えるため、JCRは2017年から独立した部門を設置し、サービスを開始している。また、より組織立った対応を可能とするため、個別に企画機能や広報機能も持たせた本部制を2021年から採用している。案件として代表的なものは、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンドなど、資金使途を環境・社会に資するものに限定する金融商品がある。他にも、サステナビリティリンクファイナンス、トランジションファイナンスやインパクトファイナンスなど年々金融商品の種類が増え、多岐にわたっている。マーケットがまだ発展段階にあるため、JCRが提供する第三者評価を活用していただくことにより、投資家が安心して投資できる仕組みづくりに貢献できていると自負している。金融商品も公募債、長期借入金、証券化商品とさまざまな商品に対応している。例えば、発行体は起債時に、自身の信用リスクに関連して信用格付けを取得し、資金使途や中長期戦略におけるESGの取り組みを訴えたい場合には、JCRのサステナブル・ファイナンス評価も取得するといった活用をしていただいている。

――信用格付機関の業務範囲が拡大している…。

 髙木 ESGをめぐり世界的な潮流が形作られるなか、信用格付機関の間でもこの大きな変化に対応できるかが問われている。JCRは21年のサステナブル・ファイナンスに関する社債の評価件数で、日本でトップ、世界でも上位に位置しているという公表データもある。サステナブル・ファイナンス評価本部には、十数名が所属している。現状では、信用格付けによる収益を上回る段階ではないが、今後急速に伸びていくだろう。業容拡大に伴い新たな人材も募集している。信用格付けなら発行体の財務状況や経営状況を専門とするアナリストが対応するが、サステナブル・ファイナンス評価では多様な人材が必要で、環境や社会問題に対する専門的な知識を持つ人を採用したいと思っている。従来の金融の枠にとどまらず、グローバルな基準に合致する資質も求められ、専門性とグローバル性を持ち合わせた人材が必要だ。

――ESGの概念には一致するものの、経済安全保障の観点から見ると問題があるケースが出てくる可能性がある…。

 髙木 国際的な議論のなかで、グリーン性やソーシャル性について本質的な議論をしなければならない。例えば、エネルギーにおけるカーボンニュートラルが一例として挙げられる。ドイツでは、エネルギーミックスにおける天然ガスの比率を増やし、石炭の比率を減らしたが、ロシアから天然ガスの供給を止められてしまった途端に、石炭火力の稼働を増やさざるを得なくなった。そして、EUでは原子力発電をサステナブル・ファイナンスのタクソノミーに加えるという方向性が打ち出された。日本でも、エネルギー基本計画を基にエネルギーの安全保障の観点から電力・ガスについて経済産業省が移行ロードマップを策定していて、これらは重視されるべきだ。グローバルで2050年までにカーボンニュートラルを達成するという大きな目標を見据えていれば、その過程で一時的に化石燃料が残るのは、地理的特性や産業構造・資源の制約を考慮すればやむを得ない側面があると考えている。どの時点で化石燃料から次世代燃料に移行するのかといった、2030、2050年を見据えたロードマップがしっかりしていれば、その過程にはある程度企業の自由な経営判断があっていいはずだ。

――今後のJCRの経営については…。

 髙木 サステナブル・ファイナンスをめぐる大きな市場の変化に対応して、新しい業務とあわせて信用格付けの方にも好影響が出るように努力して発展したい。財務上の計数だけではなく、信用格付けにもESG要素を取り入れないと、社会的に評価されなくなっている。この点、信用格付けは3年の単位を基本としているが、サステナブル評価は2050年のカーボンニュートラルといった長く広い視点で企業を評価することが求められる。JCRでも考え方や意識を変え、さまざまな視点を取り入れた業務運営を行っていきたい。(了)

――北総鉄道のこれまでの歩みと、現状について…。

 室谷 北総鉄道は千葉ニュータウンと都心を結ぶ通勤通学路線だ。そのため定期券購入のお客様が太宗を占めている。昭和40年代当初に計画された千葉ニュータウンの入居人口は34万人で、その足を担うべく設立されたのが当社だ。しかし、ニュータウン事業は10年経っても20年経っても上手くいかず、40年経ってようやく入居者が10万人と、我々の事業計画は最初から需要面での目論見が大きく外れてしまっていた。同時に当時のバブルによる不動産価格の高騰で、鉄道建設コストは予定を大幅に上回り、公的資金の注入もない中でそれらの費用を運賃に反映させて借金を返済しなくてはならなかった。そういった背景から、北総鉄道は日本一高い運賃だと言われ続けてきた。振り返ると、建設コストとして必要となった有利子負債額は約1500億円。当時は7~8%という高金利だったため、例えば40億円の収入で60億円の利払いが迫られるというような状態だった。それらの赤字額が累積して450億円となった2000年に、ようやく単年度での黒字化が実現した。そこから22年間、毎年少しずつ過去の累損を返済し続け、ようやく今年度、累積赤字解消の目途が立った。それでもまだ612億円という通常の有利子負債は残っているが、設立50周年を迎える今年に累積赤字をゼロに出来るのは喜ばしいことだと思っている。

――空港へのアクセスなど、いわば国家的機能を担っているにもかかわらず公的資金も入らず、行政から放置されていた理由は…。

 室谷 私は元々、国土交通省に勤務していたため分かるが、例えば道路への予算は以前は、ガソリン税や重量税など特定財源として潤沢にあり、全国津々浦々、立派な道路が整備できたし、受益者負担の面でも受け入れられやすかった。一方で鉄道は独立採算が基本で、予算は、ゼロサムゲームの中で新幹線に費用が掛かれば他のところは削らなくてはならず、とてもではないが当社の様な鉄道には予算は回ってこない。高齢化が進む中でテレワークも増え、我々のような専業の鉄道会社は本当に大変だ。先日発表した当社の決算では、売上げが前年度比5%増となり利益も増えたが、これはコロナ禍の影響が大きく出た昨年度との比較であり、コロナ以前と比べると未だ鉄道収入は全然回復していない。4~6月の第1四半期の定期券収入はコロナ以前よりも20%程度落ち込んだままの状態で、これはコロナ禍によって相当程度が在宅勤務のままだということを表している。コロナ禍によってテレワークが一定程度浸透することは予想していが、2割という数字は我々の予想を上回るものであり、それが鉄道事業の経営に大きな影響を及ぼしている。

――そんな状況の中で、今年10月から運賃値下げを決定した…。

 室谷 運賃を下げることによって当然収入は減るだろう。債権回収会社や株主など色々な関係者からは、何故この時期に運賃値下げを行うのかというような批判や心配の声もいただいた。特に当社の一番大きな債権回収会社であるJRTT(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)には「正気の沙汰とは思えない」とまで言われた。国に運賃改定の相談に行った時は「また値上げですか?」と言われる程、周りからは予想外のことだったと思う。そんな声がある中で値下げを決断した理由は二つある。一つは、運賃が高いことが積年の大きな課題だったことだ。ようやく累損がゼロに近づくなかで、利用者の身になって、長年の高運賃問題にどのように対応するかということ。もう一つは、単なる宿題返しにとどまらず、会社にとって将来を見据えた経営戦略にまで昇華(アウフヘーベン)したいと考えたからだ。沿線は何もしなければ高齢化が進んでいく。千葉ニュータウンも、多摩ニュータウンと同様に高齢者の1人住まいや2人住まいが増え、そういった方々の外出機会が少なくなれば、鉄道等も使ってくれなくなるだろう。沿線はどんどん先細っていく。そうなる前に、若い人たちに北総沿線に移り住んでもらうというのが我々の事業戦略だ。北総沿線地域は開発があまり進まなかった事もあり、緑が多く地盤は安定している。羽田空港と成田空港までともに直通もあり、かつ居住環境は良い。コロナによるテレワークの浸透は一時打撃となったが、むしろ毎日会社に通う必要がなければ都内に住む必要もなくなるだろう。そうであれば物件の安いこの辺りに住み、子どもは都内の学校に通わせるという考えもあってよいのではないか。そういった戦略から通学定期券をこれまでの約3分の1に引き下げた。100%家計の負担となる通学定期券の値下げを決定した効果は既に現れており、運賃改定が10月からにもかかわらず、既に通学定期券の購入数がコロナ前よりも増えてきている。4月からの新学期にあわせて引っ越しを済ませた人もいるのだろう。印西や白井市など沿線は自治体が子育て支援に力を入れていることもあり、我々の通学定期料金の大幅な引き下げはそういった自治体の施策にも沿っている。

――市と連携して、子育て世帯を北総エリアに呼び込む事業戦略を遂行していく…。

 室谷 コロナ以降、沿線の物件は確実に売れている。そこに、これまで「高い運賃」というイメージだった北総線の運賃を下げることで、北総エリアに居住を考えている人たちの後押しになれば良いと思う。ローカル線は負の連鎖だ。赤字になれば本数を減らしたり値上げしたりする。そうすると不便になり、ますます人は利用しなくなる。特に今はコロナのこともあり、他社鉄道会社では本数を減らす方向に動いている。しかし、我々はもっと路線を利用していただくために運賃を下げると同時に、運行本数を増やすことを決めた。これは一種の賭けだが、放っておけば減少の一途しかない。利用者に便利だと思っていただけるように、通学定期ほどではないが通勤定期や普通運賃も下げている。こうしたこともあって、まだ完成前の沿線のマンションが予約の段階で完売といった嬉しい話も聞いている。

――「小林一三モデル」については…。

 室谷 伝統的な鉄道会社のビジネスモデルは、沿線の土地を買い取って鉄道を通し、沿線周辺の不動産価値を上げて、そこにマンションやデパートを建築する「小林一三モデル」だったが、我々の現在の収入源は鉄道収入だけだ。もともと脆弱な経営基盤の上に開発可能性の乏しい鉄道だけをつくった。設立当初から資金面で苦しい状況が続き、ようやく累損をゼロに出来るという今のような段階で、沿線開発を主体的に進めていけるような見通しも体力もまだない。開発利益の還元方法については今後視野に入れていくべき事だとは思うが、今のところは沿線の自治体と一緒になって沿線の魅力の発信や駅前のにぎわい創りを進めていくことや、駅中の店舗や駅高架下の資産活用に注力し、駅周辺の不動産活用や開発事業などに取り掛かるのはもう少し後になりそうだ。

――上場についての考えは…。

 室谷 ようやく450億円の累損を解消する目途が立った中で、今、上場を考えるのは余りにも気の早いことだ。先ずは運賃を値下げした分、お客様を増やしていくことが重要だと考えている。そのために、現在、親子での車両基地体験や、各駅を巡りながらの謎解きラリーイベント、また夜中に行うレール交換の一般公開など、色々なイベントで北総の露出を増やし、存在を大きくアピールしているところだ。将来的には大学や魅力的な集客施設が沿線にあればよいとも考えているが、今は、そのための準備段階として、自治体や色々な方々にご協力を頂きながら沿線のPRや活性化をすすめていく。先ずは地域のインフラとしてのプレゼンスを向上させ地域の人たちに最大限の還元をしていきたい。

――社長としての抱負は…。

 室谷 会社創設から50年、鉄道が始動してから43年。「安全・安心の北総」「サービスの北総」をモットーに、長期にわたり維持していくべき地域の公共インフラとして、メンテナンスコストやリュニューアルコストも考えながら、これまで職員300名、総動員体制で取り組んできた。社員達には創設から長い間、赤字経営状態で色々なコスト制限が敷かれていることも理解してもらって、ここまでやってきた。ようやく累積赤字がなくなる中で、先ずは地域の皆様に還元するということで今回値下げを決定したが、次こそは、これまで一緒に頑張ってきてくれた社員の方々にも還元できればと考えている。そのためにもトップラインをさらに上げていく精一杯の努力を続けていきたい。(了)

――最近のインド経済の状況はどうか…。

  評価しづらいというのが現状だ。生産に関してはほぼ回復していると見て良い。例えば、工業生産などは既にコロナ前の水準を回復している。成長率に関しても当初の予想よりはかなり下方修正されているが、今年度(22年4月~23年3月)は世界銀行の予測で7.5%上昇とある程度の回復を見込んでいる。ただ、他の記者とも話しているが、その割にはあまり好調というイメージを持てない。

――好調のイメージが出てこない理由は…。

  やはりインフレが加速していることが大きい。例えば5月の卸売物価が15.8%上昇で、10年ぐらい同じ形式で記録を取り始めてから最高だ。消費者物価も7%でかなり危険なレベルだ。インドの中央銀行に当たるインド準備銀行(RBI)が大体4%から上下2%の枠で目標を立てているが、それを上回っている状態が続いている。インドはインフレが非常に重要視される。庶民のレベルで何が経済の良し悪しかを見るかというと物価高で、彼らの生活がかかっている。各種生産が回復する一方、物価上昇が続いており、庶民の暮らし向きは良くならないが、これらがアンバランスなため、経済全体として好調とは言いがたい。

――コロナ禍は終了したのか…。

  そうだ。インドでは、コロナはもう終わったと考えて良い。最近、数の上では少し増えているが、インドではあまり気にしないような雰囲気になっている。7月末時点の新規感染者数は1日2万人ほどだ。人口が日本の約10倍いることを考えると少ないと思う。インドの感染者のピークは一日40万人という数字が出たこともあるが、一時期1万人弱まで減少し、再び増加し始めた。なぜ感染者数が減少したかというと、自然免疫がついたということや、インドで生産するワクチンの接種が進んだことが考えられる。

――自然の摂理みたいなところかな…。

  そうかもしれない。自然免疫は相当普及したという話だが、正確な医者や科学者の回答としてはまだ不明ということにはなっている。以前から言われているが、なぜあんなに増えたのかがまだ分からないのと同様に、なぜここまで急に減ったのかというのもはっきりとわかっていない。

――そんななかで、インド経済というのはどういう展開だったのか…。

  コロナ禍の最初期は、世界で最も厳しいと言われるロックダウン(都市封鎖)の体制にインド政府が踏み切った。例えば、鉄道は臨時に数本の電車を動かすことはあっても半年間運行がストップしていたし、航空も対外的には完全に鎖国状態で、国内線も全面的に停止が3カ月間続き、完全に経済活動がストップしていた。

――庶民の生活は大丈夫だったのか…。

  政府がかなり支援をし、また国民相互で助け合って乗り切った感じだ。とにかく経済活動ができなかったわけなので、隣人同士の助け合いが基本となり、経済は大幅に落ち込んだ。ただ、2年ほど経って、鉄道など社会インフラが回復したなかで、実際コロナの影響がインド経済にどれほどの影響を与えたのか、今のところまだ明確な答えはない。長期にわたる厳格なロックダウンをしたのに経済の回復は意外と早いため、どこが影響を吸収したのか、あるいは、吸収せずどこかに皺寄せがいっていて、それがまだ明らかになっていないだけなのか、なかなか見えてこない。感覚的には、影響がないということはあり得ないと思っている。

――実際に足元の4~6月期も7%成長で推移している…。

  そうだ。今年の成長率に関してはほぼその7%の成長を達成できるだろう。ニューデリー事務所で見ていても、街の景気は戻り、企業も全面的に動いている。一部、ITなどはリモート勤務をしているが、その他の産業はもう対面の経済活動を行っている。

――コロナ禍の2年間に多くの日本人は日本に帰ってしまった…。

  もちろん、最初のロックダウンは、政府の命令で企業の活動にかかわらず全て止めなければならなかったが、他のインド企業が復活するのに合わせて、日本企業も復活していた。ただし、日本の駐在員はロックダウン初期から日本に帰ってしまったので、企業活動の回復期には、ほとんどインド人のスタッフで業務を行っていた。日本からリモートで参加したという会社もあると聞いているが、基本的には現地のスタッフでやりくりして回復を進めてきた。

――現状はどうか…。

  コロナで2年以上戻らなかったということもあって、インド人中心で人事の体制を構築してしまい、日本人のスタッフをコロナ前より減らした企業は結構ある。インド人中心にインドの企業を運営していくということだ。コロナ前からこのような兆しはあったのだが、コロナ禍によりさらに現地化率を高める流れになっている。

――そのなかで日系企業の進出状況は…。

  元々インドに進出していた企業は戻ってきて回復しているが、新規のインド進出はやや鈍っているという感じはある。特に、コロナ前に検討中だった企業が計画を躊躇して一旦延期などの判断もしたのだろう。このため、今はポツポツという感じであり、コロナ終了で日本企業が一斉に雪崩を切って進出を進めてきているという感じはない。コロナ前に比べるとその辺は落ちている。また、コロナとウクライナの問題で世界的にサプライチェーンを見直そうという話になっている一環で日本に回帰する企業もある一方で、もう一回インドを見直そうという動きもある。

――コロナ過に続いて、ロシアがウクライナに侵攻した関係で、インドはロシア産のエネルギーを大量に輸入しているという話を聞くが、ウクライナ侵攻によってインド経済に何か変化はあるか…。

  まず、日本でのウクライナ問題に関してのインドの立場の報道というのが多少偏っていると思う。政治的・国際関係的な側面から見た際、インドが国際社会の対ロシア制裁に参加していないというところが強調されすぎている。一方で、インドはロシアからの原油を安く輸入して、輸入量が増えているというのは確かにある。ただ元々ロシアから多くの原油を輸入していたわけではないので、おそらく現在の数字でも、インドが輸入している数字よりもEUがロシアから輸入している原油の方が多いはずだ。EU自体も輸入を中止しようと決めたのが5月末だから、インドがかなり批判されていた時には、まだはるかにEUの方が原油を輸入していた。それから、確かにロシアから値引きを受けて輸入しているが、なぜそういうことをしているのかというと、国際的な原油価格が大幅に上がって、インドは85%の原油を輸入に頼っているという状況なので、原油価格の値上がりというのは経済にとって打撃となることが背景にあるためだ。ロシアから安い原油が買えたと言っても輸入量と価格の上昇を考えると、インド経済にとってないよりはマシという程度なので、インド経済を大きく伸ばすという意図があるわけではない。

――インドとロシアの関係については、中国との三角関係でうまくやっていかなければいけないため、アメリカから「西側にいらっしゃい」と言われてもなかなか「はい」と言えない…。

  インドがロシアの戦争に反対というのは確かだと思うが、それだけを理由にアメリカやヨーロッパの陣営に与してしまうことはインドはやりたがらない。いずれ、経済的や政治的に対峙する可能性まで見据えて、安易に西側陣営に協力しないだろう。あくまで、中立的な立場に身を置くというのが基本的なインド政府のスタンスだ。一方で明らかに中国経済が斜陽になっているため、この中国との関係も見直す必要もある。

――インド経済に中国経済が斜陽になっている影響は出ているか…。

  インドと中国は戦争状態に入った。国境付近で衝突が起きて、それで国内の反中の雰囲気が非常に高まったこともあり、中国に大きく依存していた経済や大幅な赤字の対中貿易を是正していこうというのがコロナより前から始まっていた。そこに加えて中国は今落ち目ということで、貿易格差を改善はもちろん中国からの企業進出に逆風を吹かせ、中国からの企業を受け入れない、進出をやりづらい形にしている。例えば、中国のグレートウォールモーター(長城汽車)と言う自動車会社がインドに進出する大規模な計画があったのだが、それもついこの間に中止にさせた。中国がおそらく1番進出しているのがスマートフォンだが、それについてもインド政府の政策に従ってインド国内で製造するという約束の下なんとか許されている。中国が幅をきかせないようになってきている。

――インドも中国依存を下げようとしていると…。

  もともと中国との貿易で中国への依存度が高すぎるというのは問題だという考えがインド政府にあった。インドにとって中国は従来からリスク要因で、関係が深すぎるのは良くないと考えていたところに戦争が始まって、一層反中姿勢が強まった。動画配信のTikTokをインドは世界で真っ先に排除して、インドではTikTokは見られない状況になっている。中国を完全に排除ということはないが、徐々に排除していこうという動きが表面化している。

――戦争をやっている国だから当然デカップリングしてもおかしくない…。

  そうだ。ただ、インドという国の特徴だが、中国が落ち目になってきたというのを見て、インドが中国に取って代わろうというような動きはあまり見えない。インドはやはりコロナ禍を経て、むしろきっちりインド政府の政策で自立したインドというスローガンを掲げて、やや自給自足的な経済の方向に舵を取り始めていている。中国に取って代わって世界の工場を目指すというような姿勢はない。ここがやはりインドと中国の差だ。

――モディ政権は長期政権となっているが、目下最大の課題はインフレか…。

  インフレが最大の課題というのは間違いなく、インフレのために次の策が打ち出せないというのが今の大きなジレンマになっている。「インドの玉ねぎの値段が上がると政府が倒れる」ということわざ的なものがあるくらいで、かなりインフレが落ち着くまで迂闊なことはできないという雰囲気がある。このため、なかなか次へ進めないのだが、現在は自立したインドを打ち出し、サプライチェーンまで含めて国内で賄うことを目指している。特に中国がサプライチェーンの中心になっている分野、例えば自動車などについて、インドの企業と、日本企業も含めてインドに進出している自動車企業に呼びかけて、サプライチェーンまで含めた現地での生産を進めている。これは、従来からインド政府が推進している「make in India」政策の延長とも言えるが、近年さらに加速して、韓国も含めて中国離れを加速させている。

――モディ首相は現在2期目だが、インドはもう3期目もできるのか…。

  法的には3期目は可能。次の総選挙まであと2年しかなく、当初はそれまでに後継者を準備する話もあったが、やはり、モディ首相の人気によるところがかなり大きいので、代理を立てた時に勝負できるのかという不安が与党側にもある。インフレをうまく乗り越えて国民の怒りがあまり大きくなくなれば3期目の可能性もある。首相選挙までの2年間は、インフレ対策などの国民向け・選挙向けの政策が中心になって、大幅な改革などは少し減速すると予想している。

――日本企業がこれからインドに進出する場合に留意すべき点は…。

  インドの状況としては、以前と比べると外国企業は進出しやすくなっているが、やはり他国と比べるとインドに行ってからの過酷さは健在だ。厳しい規制など、表面に出ている規制だけでなく、現地での役人との付き合い方とか、労働組合などインドの独特の進出のしづらさがある。それに、現地の企業との競争も思いのほか強かったと感じる企業も多く、簡単ではない。ただ、反対に、やる気があればなんとかなってしまうというのも、インドの特徴だ。精神論になってしまうが、中途半端にインドを目指すよりも、インドは絶対取るというくらいの意気込みで行かないと、インド進出は難しいと思う。

――進出に当たっては現地企業との合弁は不可避か…。

  最近はそうでもなくなっている。かつてはそうしなければならないという規制がある分野もあったが、現在はほとんどの分野で合弁義務は廃止されているので、仕方なく合弁したのを解消するという日本企業も結構出てきている。また、インド企業との合弁には、技術を盗まれたり、無理難題を吹っかけられたり、色々なトラブルがある。もちろん現地につながりを持てるというメリットもあるが、デメリットもやはり多かったので、単独も含めた進出の仕方を進出前に検討して、しっかり意思を固めて進出することが必要だ。(了)

――太陽光や風力は発電効率が悪いと…。

 掛谷 福島第一原子力発電所の事故が起きて以降も、日本でなぜ自然エネルギーの普及が進まないのかというと、政府が推し進めている太陽光発電や風力発電のような自然エネルギーによる発電は、同時に自然破壊を引き起こすためだ。エネルギーの話は、基本的に高校で習う物理と化学で説明できる。例えば、化石燃料である重油1立方メートルを燃やすのと同じエネルギーを、高さ100メートルのダムを使った水力発電で得ようとすると、約4万立方メートルの水が必要になる。水力発電で得られるエネルギー量は高校物理で最初に習う、位置エネルギー=高さ×重力加速度×質量の公式で求められる。この公式に当てはめると、水1立方メートル当たりの質量は1000キログラムで、重力加速度は約9.8メートル毎秒毎秒(m/s²)、ダムの高さは100メートルなので、98万ジュール=0.98メガジュールとなる。一方、重油1立方メートルを燃やしたときに得られるエネルギーは化学の燃焼熱(反応熱)の考えを使い、熱化学方程式を立てると3万9000メガジュールと求められる。つまり、重油1立方メートルを燃やしたときと同じエネルギーを得るには、約4万立方メートルの水が必要になる。高校で理系だった人の大半は、物理と化学を学んでいるはずなので、水力発電の大変さがすぐわかると思う。また、風力発電も高校の物理で計算できる。1立方メートルの空気は1.3キログラムしかないが、同量の水は1000キログラムだ。運動エネルギーは2分の1×質量×速度の2乗で求められる。水力発電のためにダムを建設すると、大規模な自然破壊につながると言われているが、水力発電と同じエネルギーを風力発電で取り出すには、約5倍の土地面積を開発する必要がある。単位面積・体積当たりに取り出すことができるエネルギーをエネルギー密度というが、火力に比べて、水力、さらには風力がいかに密度が低いかが分かるだろう。

――なぜ政府は効率の悪い自然エネルギーを推進するのか…。

 掛谷 風力と同様に太陽光もエネルギー密度が小さく、気象に左右されるため不安定だ。エネルギー密度が低い自然エネルギーの中でも、風力や太陽光の密度は水力以下だ。一方で、日本ではあまり一般的ではないが、地熱発電はエネルギー密度が比較的高く、出力も安定している。カーボンニュートラルを目指して自然エネルギーを活用するのであれば、地熱や水力を推進すべきだが、政府は密度が低く不安定な太陽光や風力を推進している。この理由の1つに、外資系企業が参入しやすいことが挙げられる。太陽光は中国のシェアが高く、風力も中国政府主導で市場を拡大している。しかし、地熱や水力は国内での土木建設工事が必要であるため、外資系企業が参入しにくい。国内の企業の利益や雇用確保を考えれば、太陽光や風力より水力や地熱を推進すべきだ。ところが、自然エネルギー推進派は世界的に左翼色が強く、国境の破壊を目指して動くことが多い。ロシアのウクライナ侵攻でも、ドイツが脱炭素を標榜してロシア産天然ガスにエネルギー源を依存する状態になったことが、ロシアの軍事行動を後押しした。冷戦終結時、表向きには共産主義勢力は弱体化したように見えたが、彼らはその思想的根幹を変えないまま環境運動に流れたというのはよく言われる話だ。

――小池都知事は新築住宅へ太陽光パネルの設置を義務付けようとしている…。

 掛谷 実は、私も自宅に太陽光パネルを設置している。人間の居住するエリアは既に自然破壊をして作られているので、そこに太陽光発電設備を導入しても新たな自然破壊は起きない。ただ、東京をはじめ大都市圏は日照条件が悪いところが多いから、義務化するのはやりすぎだ。高層ビルの屋上など、都市部でも日照条件がいいところに設置するのは良いと思う。しかし、森を切り開くメガソーラーには大反対で、自然を破壊しているうえ不安定な電源が増えて制御が難しくなる。これ以上不安定な電源が拡大すると停電のリスクも増すので、出力が安定している水力や地熱に転換すべきだ。石炭火力でもエネルギー変換効率が高くて排出した温室効果ガスを回収するタイプのものが開発されている。最近では、太陽光発電の自然破壊と不安定性に世間が気づき始め、今度は風力と言い出したが、太陽光と同じように環境破壊につながり、出力も不安定なので使い物にならない。

――世の中に流布している「真実」は作られたものが多いと…。

 掛谷 新型コロナウイルスの起源をめぐる議論が巻き起こったとき、私はおそらく日本の科学界で唯一、新型コロナウイルスは武漢のウイルス研究所起源の可能性が高いと公言した。生物兵器などの意図的な流出ではなく、実験中のウイルスが漏れたのが起源だと考えている。欧米でも研究所起源説は約一年前まで少数派で陰謀論扱いされていたが、今では多数派になっている。一時期、それが陰謀論扱いされたのはなぜか。米国立衛生研究所(NIH)傘下の米国立アレルギー感染症研究所の所長で、バイデン米大統領の首席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ氏という人物がカギだ。米国の新型コロナ対策のトップで、日本で言う政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長のような立ち位置にいる。ファウチ氏は米国内の研究機関の権力を握っていて、米国のエコヘルス・アライアンスという非営利組織にNIHのファンドを出し、そこから中国の武漢ウイルス研究所に研究費が流れていた。新型コロナウイルスはその研究費で生み出された可能性が高い。よって、研究所起源となればファウチ氏も責任追及されるので、箝口令を敷いたと考えられる。裏付けも取れている。米国は情報公開が徹底しており、ファウチ氏と仲間の研究者がどのようなメールのやり取りをしていたかという情報も公開されている。ファウチ氏と話す前は、ウイルス学者たちも研究所起源だろうとメールに書いていた。ところがファウチ氏と打ち合わせをした2020年2月以降、研究者たちの意見がころっと変わってしまった。その後、ファウチ氏に近い研究者はNIHの研究費を多く獲得している。一方、ファウチ氏の影響下にない欧州の研究者からは、研究所起源ではないかという声が上がり始めた。WHOが6月に公表した報告書でも実験室からの流出の可能性も含め、さらなる調査が必要と結論付けている。この点、断定はできないが、塩基配列を見れば99・9%研究所起源としか思えない。公的機関がこれを結論付けるために2年半も掛かったということは、利害関係をめぐり多くの人が隠ぺいを試みたということだ。

――科学者も平気で嘘をつくと…。

 掛谷 エネルギーにしろ新型コロナにしろ、利権が絡むと科学者は嘘をつく。自然エネルギー研究で予算がとれると分かると、できないことをできるかのように語って研究者は予算をとる。地震予知はできないと分かっているのに、それができるようになると語って長年巨額の予算をとり続けた地震学者と同じだ。新型コロナが研究所起源と分かって、研究予算削減や規制強化されると都合が悪い研究者は少なくない。だから、彼らは徹底的に真実を隠し通そうとする。世間一般では、研究者はみんな純粋で真面目にやっている人だと考えられているが、政治家や官僚やマスコミと同じくらい「金目当て」なのだということを知ってほしい。マスコミを「マスゴミ」や「外国の傀儡」などと称し、スポンサーとの関係を勘ぐり、マスコミのことを信じていない人は多いだろう。政治家や官僚も昔から信じられてはいないが、なぜか学者だけは人々の絶大な信頼を勝ち得ている。学者であっても政治家、官僚、マスコミ関係者と同じような高校・大学に行って、机を並べて勉強している。だから、彼らの人間性は似たり寄ったりだ。学問を盾にして嘘をつく学者に対しては、その言動に対して責任の所在をはっきりさせる必要がある。私は2004年から言論責任保証を提案している。これは、正当性がすぐには確認できない主張を行って収入を得る場合、得た収入の一部を預託金として仲介機関に預け、主張の真偽が確定した段階で預託金の返還の有無を決定する仕組みだ。これであれば、言論の自由を担保しつつ、故意に誤った学説を流布する学者に経済的責任を取らせることができる。学問を利用し利権や政治的影響力を与えようとする学者がいることを一般市民が理解し、自分の言動に責任を持つ、オープンな科学的議論の場の構築が喫緊の課題だと思う。(了)

――「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」という報告書を発表された…。

 永濱 この報告書で一番伝えたかったことは「高圧経済政策と労働市場改革」の必要性だ。高圧経済とは、金融政策と財政政策に特化して需要不足の状態から需要超過の状況にする事だ。普通の国であれば高圧経済を行えば経済は過熱し、給料も上がっていく。今の米国がそうだ。しかし、日本の場合は高圧経済だけでは賃金まで波及しない。海外に比べてメンバーシップ型雇用が多いため労働市場の流動性が低く、企業が賃金を上げなくても従業員が辞めにくい仕組みになっているからだ。そのため、日本では高圧経済と労働市場改革の二本立てで経済の好循環を作り出す必要がある。

――日本でこれ以上の金融政策が可能なのか…。

 永濱 確かに日本の場合、マクロ経済学的にはほぼすべての金融政策をやりつくしている。そのため、財政をもう少し放出しなくてはならない。米国のように経済が過熱している国では、これ以上財政を放出するとインフレがさらに進むため注意が必要だが、日本の場合は現在需要不足という状況にあるため、もう一段の財政支出が可能だ。しかし、日本のように消費性向が低い国で給付金などをばらまいても消費には回りにくい。今は感染症や戦争といった100年に一度起こるような事態に直面している。これを、経済構造を変える契機だと捉え、例えば、環境やデジタル分野、軍事、食料、エネルギー、戦略物資など安全保障分野の規制を緩和して、官主導による長期的視点で大規模な財政支出を行い、需要を喚起すればよいのではないか。食料やエネルギーの自給率を上げ、生産拠点を国内回帰させるとともに、労働市場改革に取り組めば、物価上昇も抑制することが出来て、消費を促すような環境が整ってくるだろう。

――この20年で、日本の政府債務残高は1.8倍に増えているが…。

 永濱 確かに増えているが、拡大ペースはG7諸国の中で最低だ。米国と英国が5倍以上、フランス、カナダが3倍。ドイツとイタリアと日本など第二次世界大戦の敗戦国はあまり増えておらず、ドイツ2倍、イタリア1.9倍となっている。日本は支出傾向の高まる財政政策にはアレルギーがあるようだ。しかし、政府が国債発行をしてお金を使えば、国内で使われた分は民間資産となる。つまり、米英はこの20年間で政府債務を5倍に増やし、その分民間資産を増やしたことになる。一方で、日本は1.8倍しか政府支出を増やしていないため、相対的に民間資産も増えていない。また、財政を使うのであれば出来るだけ需要喚起効果を高めるために、お金を使った人が得をするような減税政策を取り入れるべきなのだが、日本政府は減税をやりたがらない。当局者にその理由を聞くと「一回下げると再び上げるのが大変だから」だという。

――日本が「財政均衡主義」であることも一つの要因だ…。

 永濱 日本は「財政均衡主義」だが、他方、グローバルスタンダードでは「機能的財政主義」という「政府債務は減らすことが是とは限らない」という考え方が一般的だ。つまり、政府債務はマクロ経済の物価や雇用を安定させるために適切な水準にコントロールすべきものとされている。そう考えると、需要不足が続いている今の日本には政府債務が足りていないことになる。日本以外の国では企業が投資超過主体としてお金を使うため、政府債務をそこまで増やさなくてもある程度経済は安定するのだが、日本はバブル崩壊後、マクロ経済政策を誤ったために、民間部門がお金を溜め込むようになった。そんな中で経済を安定化させるには、政府が呼び水となって民間部門の経済を回すしかない。経済が冷え込んで金融政策も限界にある国は政府債務を増やさなくてはならないという事だ。ただ、日本には他の国と違って国債償還60年ルールがある。戦後のGHQ傘下で日本が再び戦争を起こすようなことがないように作られたとの説があるが、このルールがあることによって、政府は財政均衡主義を何としてでも貫こうとしている。この財政法第4条にこだわり続ければ、日本経済の正常化は難しいだろう。

――今の日本では、企業に潤沢なお金があっても上手く民間に流れず、国債ばかりに回っている。そして、実質賃金も増えていない…。

 永濱 マイナス金利なのにお金が流れないのは、需要に期待できるものが乏しいからだろう。さらに、日本では企業も国民もお金を使わずにため込んでおり、中立金利が大幅にマイナスとなっているため、金融緩和によって今より金利を下げるような事はマクロ経済学的に困難となっている。そういう停滞時には財政政策で底上げするしかないのが世界標準の考え方だ。また、そもそも経済が成長していない中で賃金を上げるのは難しい。加えて、冒頭に述べたように、日本的雇用慣行で労働市場の流動性が低いことも賃金が上がらない原因だ。端的に言うと、日本は賃金よりも雇用の安定を重視しており、新卒一括採用や年功序列、退職金の優遇などもあって、同じ会社に長くいるほど恩恵を受けやすい仕組みになっている。そうなると企業側は釣った魚にエサをあげなくても逃げられにくい。それが、日本が高圧経済だけでは賃金が上がりにくい理由だ。労働市場の流動性を上げるためには、解雇規制の緩和と公的職業訓練の充実が必要だ。また、海外のようにジョブ型雇用を拡大していくことも重要な鍵となろう。

――日本で働く人の賃金を上げる事を要請されるなら、賃金の安い海外の工場ですべての生産を完結させようという流れもあるが…。

 永濱 一昔前までは、出来るだけ低い賃金で質の高い製品を作るために、工場を海外移転させグローバル展開をしてきたが、今は経済安全保障を考える必要性が高まっており、サプライチェーンの再構築が進められている。技術流出問題も考慮すると、日本の賃金が非常に安くなってきている今、このタイミングで生産拠点を国内回帰させるのは良い機会なのではないか。それをやることによって国内の雇用も確保できるようになるだろう。一方で、日本は海外で安く製品を作っているから国内の物価が上がらないという声があるが、米国や英国も海外でモノを作って輸入している。それでもインフレ率は日本と全く違う。特に違うのは、サービスの値段だ。サービスはモノのやり取りがない分値段に占める人件費の比率が高いため、賃金が上がらない中でサービスの値段が上がらないのは当然の事と言えよう。

――MMT(現代貨幣理論)に異を唱えておられるが、同じような財政出動でもどのような点が違うのか…。

 永濱 MMTを端的に「マクロ経済をコントロールするのは財政政策主導」という理論とするならば、私が賛同出来ないのは「金融政策は無効であり、すべては財政政策でコントロールできる」という点だ。MMTが主張する理論は主に「信用貨幣論」「機能的財政論」「内生的貨幣供給論」の3つだ。「信用貨幣論」は説明するまでもなく正しく、「機能的財政論」も基本的には正しい。しかし「内生的貨幣供給論」は「貨幣量は実体経済の状況によって内生的に決まり、金融政策は無効」という理論であり、一方で、私が正しいと考えるのは「外生的貨幣供給論」という「実際の経済状況に応じて金利をコントロールすることで金融政策は機能する」という理論だ。この点がMMTと私の考えでは決定的に異なっている。(了)

――中国を念頭に米国の企業買収をめぐる制度が大きく変わった…。

 平井 トランプ氏が米国大統領に就任し、2017年ごろから、米国から「これから、米国の企業買収をめぐる外資規制が大きく変わる」という情報が来るようになった。当時読んでいた米国の法律事務所発行のニュースレターには、「米国対米投資委員会の審査範囲が大幅に拡大する見通し」と書かれていた。2019年度米国防権限法と同時に、外国投資リスク審査現代化法と輸出管理改革法が成立して、中国による米国の機微技術(重要技術、重要インフラ、機微個人情報)を持つ企業などへの投資への審査が厳格化された。米国議会は、民主党への政権交代後も、世論を反映し、対中強硬政策を継続している。金融では、トランプ政権の時にできた外国企業説明責任法に基づき、米公開会社会計監査委員会(PCAOB)の検査を3年連続で受けない中国企業を米国国内で上場廃止にしようとしている。

――中国人は平気で人をだますという姿勢が背景にある…。

 平井 AがBにウソをついて騙したとしよう。日本人は、「ウソをついたAが悪い」とするが、中国人は、「ウソを信じて騙されたBがバカだ」と考える。日中では文化が違う。中国には、会計規則はあるが、これを守る文化はない。中国企業には、本物の帳簿の他に税務署に提出する粉飾帳簿など数種類の帳簿があると言われる。米国に上場する中国企業が粉飾決算書を使うことが問題になった。一例を挙げると、中国のスターバックスと呼ばれていたラッキンコーヒー事件だ。同社は、米ナスダック市場に上場していたが、内部告発で、架空売上などの粉飾決算を行っていることが明らかになり、ナスダックを上場廃止になった。この事件を契機に外国企業説明責任法が作られた。PCAOBは、米国に上場する企業を担当する監査法人を検査し、適切な会計監査が行われているか確認する組織だ。外国企業説明責任法は、米国の証券取引所に上場する外国企業を対象に、外国政府の支配・管理下にないことの立証義務を課すとともに、3年連続でPCAOBが米国に上場する企業を担当する監査法人を検査できない場合、米国の証券取引所から退場させることを定める法律だ。同法に従い、米証券取引委員会は、2021年12月に上場規則を改定し、規則を順守していない海外企業を公表している。2022年6月時点で、上場廃止リスク警告対象は150社になり、ほとんどが、中国や香港に本拠を置く企業だ。米中間で中国企業の米国上場を維持するための協議が続いているが、妥協点を見いだせる見通しは立っていない。

――進出リスクが大きくなっている中国から日本企業が撤退する方法は…。

 平井 法律上は、日本企業が中国から撤退することは可能だが、実際には、撤退すれば、中国に投資した設備類などをすべてタダ同然で置いてくることになる。日本企業にとっては、特別損失を計上することになり、このことが、脱中国が遅れる一因となっている。脱中国を推進するため、脱中国をする企業に中国撤退で生じる損失と同額の補助金を出すべきだ。例えば、1億円の特損が出る企業に、政府が1億円の補助金を出せばよい。2020年、安倍首相(当時)は、中国から撤退する企業に対する補助として、2200億円を準備し、申し込みは1兆7000億円にもなった。同時期に、米国政府が準備した脱中国補助金は5兆5000億円。わが国の経済規模からして、2兆円は準備する必要があった。経済安全保障の観点からは、日本企業の脱中国、国内回帰や、中国から東南アジアへのサプライチェーン変更に補助金を準備し、サプライチェーンの中国外しを進めることが必要だ。上場企業の場合、利害関係者も多く、簡単にサプライチェーンの変更も決められないが、オーナー経営の中堅・中小企業は迅速に撤退を決断できる。有価証券投資などを含めると、中国には既に50兆円規模の日本の資産があるとの見方もある。中国には国防動員法がある。台湾有事や同時に起きる沖縄侵略時、いわゆる有事に、中国政府が日本企業の在中資産を接収できるとする法律だ。中国政府にすれば、日本企業の50兆円の在中資産をタダで中国のものにできるおいしい話だ。ロシアのサハリン2の例を見れば、中国の国防動員法発動リスクを過小評価するべきではない。

――半導体をめぐるサプライチェーンが大きく変わろうとしている…。

 平井 米国では、上下両院で競争法2022の調整を進めている。同法が成立すれば、米国の半導体のサプライチェーンが、法律で変更される。半導体は兵器の頭脳だ。中国を半導体のサプライチェーンから排除することになる。米国議会、米国政府は本気だ。日本も米国と足並みを揃えることになるだろう。日本の企業経営者は、中国には14億人の市場があると言い、中国市場に固執する。中国には中国製造2025、2035、2049という産業政策があり、2049年までに、世界最強の製造強国になるつもりだ。中国が世界一の製造強国になった時に何が起きるか。中国企業が生産する電気自動車の方がトヨタやホンダの電気自動車よりも安く高品質になる。14億人の中国人は、中国メーカーの車を買い、トヨタやホンダは売れなくなる。14億人はいるが、日本企業の製品は売れないのでは意味がない。中国に進出している日本企業は、自分たちの技術を競合相手に教えて、30年後に競合相手に市場で負けて撤退することになる。だから、競合相手に技術を教えず、盗まれず、工場を中国国外に移転することが必要だ。日本企業の経営者は、米国市場と中国市場は全く異質なものだと理解する必要がある。

――ドイツは中国にインフラを握られてしまった…。

 平井 メルケル前政権は、中国によるドイツ企業へのM&Aに寛容だった。ドイツでは、中国企業によるフランクフルト郊外のハーン空港の買収や、ドイツ最大のハンブルク港の運営権の一部が買収されるなど、国の根幹とも言えるインフラを中国に売却した。ありえないことだ。ドイツのダイムラー(メルセデス・ベンツ)の筆頭株主は、発行済株式の10%を保有している中国人。ドイツ経済が中国に過度に依存するようになり何が起きたか。メルケル首相(当時)が北京を訪れた際、「ドイツが5Gネットワークからファーウェイを排除したら、中国にあるドイツの自動車会社がどうなるかわからない」と脅された。いまだにドイツは5Gネットワークからファーウェイを排除できずにいる。米国や日本はファーウェイを5Gから排除した。通信は軍事に直結している。中国共産党の強い影響下にあるファーウェイを5Gネットワークに使うと、利用者が気づかない内に、通信内容が勝手に中国に転送される(バックドア)リスクを抱え、通信内容が中国に筒抜けになる。ドイツの例を見れば判るが、中国に依存すればするほど、中国に逆らえなくなる。日本は、中国を宗主国と崇める属国に墜ちたくなければ、中国ビジネスを希薄化するしかない。

――日本の喫緊の課題は…。

 平井 日本からの機微技術流出を防止することが必要だ。われわれが使う製品に使われる技術が進歩し、軍事技術との差がなくなった。例えば、家電量販店で販売されているカメラが軍事ドローンに組み込まれ、武器の一部になっている。ウクライナで撃墜されたロシア軍のドローンを分解したら、日本製カメラなどが使われていた。政府は、日本の軍民両用技術の流出防止にすぐに取り組まなければならない。スパイ取締法のない日本のサイバー空間では、サイバー泥棒(ハッカー)が跳梁跋扈している。サイバー空間の安全性を強化し、日本から先端技術を盗み出せなくすることが必要だ。

――この度、中国リスクを詳解した本を上梓された…。

 平井 以前、米中対立の現状を話したところ、国会議員の方から反響があり、出版の声に押されて、米中対立を受けた日本企業のリスクを解説した『経済安全保障リスク 米中対立が突き付けたビジネスの課題』(育鵬社)を2021年に出版した。出版当時はあまり世間の関心を集めなかったが、経済安全保障をめぐる議論が活発化して本が売れた。今年の5月に出版した、『トヨタが中国に接収される日 この恐るべき「チャイナリスク」』(ワック出版)では、状況をアップデートし、わかりやすく説明した。プライム市場に上場する会社であれば法務機能が充実しているだろうが、日本から中国に進出する1万3000社の中には、中堅・中小企業も多く中国リスクを認識していない。中国と取引する中堅・中小企業を含むすべての企業経営者に本書を通じて中国リスクを強く認識してもらいたい。(了)

――16歳から29歳の若者が予算権を持つ「若者議会」とは…。

 下江 若者議会は、前市長の穂積亮次氏が第2期市長選の際にマニフェストとして掲げ、2015年度に第1期新城市若者議会が開かれて以降、今年度で8期目となる。若者が普段感じている身近な課題や新城のためにできることを考え、課題解決のための政策立案を軸に、情報発信やワークショップ、市外団体との交流などの活動も行っている。政策立案では予算提案権を持ち、市長への答申と市議会の承認を得たうえで、実際に市の事業として実現することができる。新城市は市町村合併して今の市になる前の1998年から、世界各地にあるニューキャッスルシティと「ニューキャッスルアライアンス」という同盟を結び、交流を続けてきた。その2012年にイギリスで行われたニューキャッスルアライアンスの会議に新城市の若者が参加した時に、世界各国のニューキャッスルシティに住む若者と交流をして、それぞれの参加国の若者が自分たちの街(まち)について行動を起こしており、どういう街にしたいのかについて自らの意見をしっかり持っていたことに刺激を受けた。自分たちはまだ堂々と発言できなかったことにショックを受け、帰ってきた若者が新城ユースの会を作り、若者が街づくりについて考える活動が始まった。前市長の穂積氏はその様子を見ていて、若者議会という仕組みを作り、条例化し予算を確保した上で、若者の提案を事業化する政策を開始した。若者議会の定員は20人で、公募によって応募者から選ぶ。今年は定員を超えて全員を受け入れられなかった。若者議会議員の半数以上が女性で、また今年は高校生の方が多い。そうした高校生の方が街づくり活動に積極的に関わってくれることを期待している。

――若者議会の具体的な成果は出ているのか…。

 下江 若者議会の活動に1年間参加した若者議員は、1年間を振り返る発表の場で、私たちから見ても1年前の所信表明の時から成長したように感じられ、また自らも成長したと自信を持って言う人が多い。新城市は愛知県にある38の市の中で最も人口減少と少子・高齢化が進んでいる。そのため、若者の流失が多いことが市の課題だったが、若者議会に参加した高校生のうち、これまで7名が市役所の職員になった。市の職員になることだけを肯定するわけではないが、若者議会に参加した学生が、公共の意識をしっかり高校の時から育んで成長したことが示された。民間の会社に就職する場合でも、都市部の企業に就職するのではなく、市内の製造業中心の企業など、地元に就職してくれた方も若者議会の参加者の中にいる。まだ十分な市外への流出を留めている段階に至っているわけではないが、地元の新城市のことを考える機会が増えて、一定の成果が出ていると思っている。

――若者議会から生まれてきた主な政策は…。

 下江 今年度も上限1000万円の枠内で379万円の予算を付け、若者議会という先進的な取り組みを全国に発信するPR活動や観光関係の取り組み、文化団体やスポーツ団体のマッチングなど市民との交流を深める活動を実施していく。観光関係では、観光客が少ない冬の時期にお客さんを増やすためのプランを若者議会で作成した。市民との交流を深める事業では、市内のスポーツ団体等と中学生・高校生のスポーツ、文化活動など部活動とのマッチングを進めていく。文化事業の担い手を作っていく上でも高齢化対策が課題だったが、文化部に所属する若者と高齢者がマッチングすることでその課題解決を目指している。

――若者議会の今後の課題は…。

 下江 予算ありきではなく、予算を付けなくてもできる事業を考えてもらうことが求められる。また、若者「議会」なので、地方自治法に基づく市議会のことを理解してもらいたい。若者議会第1期の卒業生の委員が、20代で市議会議員になり、現在も議員を務めている。そういった地方議会への道も目指してもらえるし、若者に地方自治法を学んでもらえることを行政ではなく市議会に主導してほしいと思っている。これは今後の課題ではなく、若者議会の発展系に位置付けられる。行政ではなく市議会が若者を教育するという展開が理想で、これは市議会にとっても刺激になるだろう。また、新城市の人口は4万4000人と比較的少ないが、人口37万人で中核都市の豊橋市でも若者議会に近い活動を取り入れている。大きな都市でもやり方次第で若者議会の活動は可能なので、他の地方自治体にも若者議会の活動を広げるよう、働きかけていきたい。

――地方自治体の財政は難しい局面だが…。

 下江 新城市は県内でも最も高齢化が進んでいる地域であるため、自治体の財政力を示す指数は0・6と非常に厳しい中、何とかやり繰りしている。市町村合併を行った後の15年間ずっと、財政は厳しいままだ。地方債を発行して歳入を得ているが、歳出を抑制し財政の健全性を保つため、当初予算を組む際には、地方債の借入を元本の返済額以内に収めている。一方、税収を増加させるために企業用地を分譲している。平成28年に新東名高速道路が開通して、新城市役所から10分程のところにインターチェンジができた。そこで、1期事業としてインターチェンジ周辺に約4ヘクタールの企業用地を売り出し、完売となった。現在、1期事業の土地の近くに2期事業として同規模の土地を所有しており、今年度は企業用地として売り出す計画を進める。ただ、企業誘致は税収増に繋がるが、高度経済成長期の時代とは異なり、必ずしも街の活性化に寄与するかは分からない。とはいえ、新しいインフラ、新東名高速道路のインターチェンジという立地的優位性は十分に活かしたいと思っている。

――新城市は森林面積が広いが、森林業はどうか…。

 下江 現状では、林業従事者が圧倒的に不足している。その要因には、危険を伴う仕事だが賃金が低いことが挙げられ、仕事はあるが従事者がいない。森林環境譲与税や愛知県の森林、里山林、都市の緑を整備、保全する「あいち森と緑づくり税」を活用した森林整備の事業をこれまで以上に強化していく必要がある。市の総合計画で林業を成長産業にする方針を掲げている。都会にはない森林資源を活用しない手はない。まずは、林業従事者の確保を目指している。しかし現時点では、林業従事者を増やす決定打となるような妙案は持っておらず、林業従事者確保へ試行錯誤している途上だ。

――人口増加を目指した取り組みは…。

 下江 移住定住促進策として、今年度、市の移住定住ポータルサイトを立ち上げる準備を始めた。これまでは移住に関するプラットフォームがなかったが、東京の交通会館にあるふるさと回帰支援センターに常駐している愛知県の相談員と連携しながら移住や定住に向けた手順を確認し、新城市へ住んでもらうための取り組みを開始した。また、子どもへの投資を積極的に行っている。こども園の給食費の無償化を愛知県東三河地域の中で唯一行うなど、こども園制度を充実させた。ほかにも、国の制度による保育料の無償化の前に新城市は市費で平日の基本保育料無償化を導入している。また、中学生までの医療費と高校生の入院医療費を無料にしたりしている。

――外国籍の方は増えているか…。

 下江 外国籍の方は増えている。日本語教育が必要な子どもがここ6年で約2.5倍に増え、60人弱になった。全体では1000人ほどの外国籍の方が居住している。ブラジル国籍の方が最も多く、ベトナム、フィリピン、中国と続く。現在、ブラジル国籍の相談員を市役所の職員として採用して、外国籍の方の相談役をしてもらっている。また、日本語教育が必要なお子さんが増えている現状に対して、日本語初期指導教室を前年度から開設して、今年はさらにそこに予算を上乗せして、より多くの生徒を受け入れられるようにした。

――新市長としての抱負は…。

 下江 昨年11月、2年間以上続いているコロナ禍の最中に市長に就任した。コロナで経済や社会活動が停滞したが、今年はウィズコロナに転換したい。今年度は中止していた花火大会を再開するなど積極的に事業を行いながら、20代前半の若い世代の転出を少しでも抑止するため、子育て支援や居住開始資金の補助などを通して、若者層の転出入の均衡を保ちたい。転出が目立つ一方で転勤、就職などで若い人が転入していることも事実だ。そのため、転入してくる人達に気に入ってもらえる街にしていきたい。そして、来年、嵐の松本潤さんが徳川家康を演じるNHKの大河ドラマ「どうする家康」で新城市が取り上げられる。新城市は「長篠・設楽原の戦い」の地で、新城市役所はお城の跡地だ。初代城主が徳川家康の娘、亀姫の夫だった。徳川家康にゆかりのある地として積極的にPRをしていくことでも、市の発展につなげていきたい。(了)

――ウクライナから日本に避難してきた経緯は…。

 オレナ 2月24日にロシアとウクライナの戦争が始まった。私は当初避難することは全く考えず、姉夫婦と一緒に3月5日までキーウに留まっていた。しかしその後、ウクライナ全土で激しい爆撃が続き、義兄の父親がマリウポリで戦渦に巻き込まれて亡くなってしまった。そこでキーウを離れ、ウクライナ西部を経由してリビウに移動することを決めた。キーウからリビウまではわずか500Kmだが、渋滞や夜間外出禁止令のため、移動には5日間を要した。リビウ近郊では軍事演習場への攻撃が一週間も続いており、私は姉と姉の子どもたちと一緒にポーランドへ移った。そこから私だけ3月20日に息子夫婦が住む日本へと向かった。難民体験は本当に辛いものだ。私は義娘が日本人だったため日本に来ることが出来たが、日本に来ることの出来なかった姉夫婦やキーウに留まっている夫、そして今もマリウポリにいる私の実母や夫の両親が今どのような状況にあるか、連絡を取る事すらままならない。親戚が殺されるかもしれないという恐怖感や、居場所が確定しないことによる不安感で鬱状態になってしまう。日本に着いてからも、私の心はずっとウクライナにあり、気が休まる日はない。

――ウクライナにいる親族の様子は…。

 オレナ 私の夫はキーウにいるため、他の都市よりも安全だ。しかし、激しい爆撃が続くマリウポリにいた私の母親は、4月20日に体調を崩して亡くなったという連絡がきた。マリウポリの病院は閉鎖されており医師を呼ぶことも出来なかったため、本当の死因はわからない。葬儀の手配も大変で、敵対行為のために十字架はなく庭に埋葬せざるを得ない状況だったが、善良な隣人達が手伝ってくれたお陰で、母を父の隣に眠らせてあげることが出来た。きっと母は天国で喜んでくれているだろう。私の妹は子どもと一緒に難民としてドイツに向かったが、故郷であるウクライナに戻りたいと言っている。夫の両親は一時避難していたが、やはり自分たちの家に住みたいとマリウポリに戻ったようだ。マリウポリはロシア軍に制圧され人の出入りも禁止されているため、ガスや水、食料等の調達が困難だ。唯一電波は繋がっているため電話での安否確認は出来るが、人が出入り出来ないマリウポリのアパートで義両親がどのように暮らしているのか、どうしたら救い出すことが出来るのか、それが今の私の最大の懸念だ。

――ロシアとウクライナが戦争になった原因は…。

 オレナ ロシアの帝国としての野心や政治的計画、その他、私が知らない理由もあるだろう。私が事実として知っていることは、ロシアがウクライナを何度も攻撃し、ウクライナの人々を大量虐殺しているという真実だ。ロシアはキーウが欧州で最初に設立された国家「キエフ大公国」であるという歴史を塗り替え、ロシア率いるソビエト連邦を再び作り上げたいと考えているのだろう。その計画を虎視眈々と進め、ロシア国民の中にプロパガンダを広めることに成功した。しかし、世界の人々にはそういったプロパガンダに洗脳された人たちの発言や、ロシアという国が発信する情報を信じないでほしい。また、ウクライナは30年前に核を放棄したが、それは、前提としてロシアや米国や英国からの支援が保障され、侵略者からの安全も保障されると約束されたからだ。しかし実際にはウクライナの安全は保障されず、核を持っていれば今回のようにロシアから攻撃されることもなかっただろう。核兵器を持たない国は強力なパートナーと協定を結ぶ必要があるが、一方で、ウクライナの経験が示すように、そのパートナーが全ての協定に違反する可能性もあるということを知っておくべきだ。

――日本での避難生活について、そして今後は…。

 オレナ ロシアによるウクライナ侵攻の日以来、私の人生は止まり、何も計画することが出来ず、ただ戦争のことを考えるだけの毎日を送っていた。今は息子の家族と一緒に住み、愛する孫娘2人とも一緒に過ごせているが、戦渦のウクライナにいる親や親戚のことを考えると、どうしても人生を楽しむことはできない。そんな中で、私は日本で仕事を得るという機会に恵まれた。驚きと感謝の気持ちでいっぱいだ。戦争のニュースを見て気分が沈んでいても、仕事に行くために朝起きて、顔を洗って、服を着替えて、外に出る。それは私に生きている意味を与えてくれる。これまでも、私は家族写真やポートレート、ファッションなど様々なジャンルの写真を撮ってきた。今まだ、心に余裕がなくクリエイティブな仕事をするのは難しいが、少なくともカメラを持って仕事をしている時間は戦争のことを忘れられる。日本で年間ビザを取得することも出来た。これから写真家としてのキャリアを積み上げていく事も可能なのではないかと思っている。今後も好きな写真を撮りながら日本で仕事を続けられたら嬉しい。

――最近の戦争状況は…。

 ユーリ 2月24日、ロシアは不当で違法なウクライナ侵略をあらゆる方面から開始した。来る日も来る日もミサイルや爆弾の攻撃、空襲、戦車等によって罪のないウクライナ人を殺し、ウクライナの土地を破壊した。4カ月以上もの間、私たちに平穏な日々はない。ロシアは我々の日常を致命的に変えてしまった。一方で、ウクライナでは既に31,000人以上のロシア軍人が死亡しており、2月24日以降ロシアは1日に30人近くの命を犠牲にしている。ウクライナに対して使用された様々なロシアのミサイルの総数はすでに2500発以上だ。ロシア軍の爆撃と砲撃によってウクライナの文化的・歴史的遺産や社会インフラ、住宅、そして普通の生活に必要なあらゆるものが破壊された。6月10日現在でウクライナの1,971の教育機関と113の教会が被害を受け、750人以上の子供たちが犠牲となった。6月5日に開始されたキーウへのミサイル攻撃ではダルニツァ自動車修理工場の作業場を破壊され、他の工場も被害を受けた。幸いなことに死亡者はいなかったが、日曜日の朝のキーウに対するロシアのミサイル攻撃は、欧米の軍事装備品の供給を妨害する試みだったのだろう。しかも、ミサイルは南ウクライナ原子力発電所の上空を極めて低く飛んだ。ミサイルの小さな破片によって原子力事故や放射線漏れを引き起こす可能性もあるのに、ロシアの攻撃は悪質極まりなく、本当に非人道的な行為だ。

――欧米諸国による武器供与はウクライナにとって有益なのか…。

 ユーリ ゼレンスキー大統領が「ウクライナが侵略者からの攻撃に打ち勝つには、人々の団結だけでなく、武器や制裁といった西側諸国やアジア諸国のパートナーによる政治的支援が欠かせない」と言っているように、武器供与は間違いなくウクライナ人がロシア軍から身を守るのに役立っている。銃がなければ、ウクライナ兵士も民間人も自衛できないからだ。ロシアが土地を略奪し、制空権を確立するのを妨げるためには国際的な軍事支援が欠かせない。残念ながら今のウクライナの軍事装備がロシアの重砲に劣っているのは事実であり、ロシアをウクライナ領土から追い出すためには、NATO基準の近代兵器と弾薬が必要だ。同時に燃料と財政を含む絶え間ない兵站支援も必要としている。

――停戦合意の可能性はあるのか。また、戦争を終わらせる鍵となるものは…。

 ユーリ 一部の政治家がロシアとのビジネスを再開するために、我々に停戦や紛争の凍結、一部領土の降伏といった議論を持ち掛けているが、ウクライナ大統領府は「市民、領土、主権をロシアに明け渡すような取引はしない」という意思を明確に表明し、ロシア軍が占領地に留まることを可能にするモスクワとの停戦協定を受け入れなかった。つまり、我々が勝利することだけがウクライナ領土の完全回復への唯一の道だ。ロシア軍が我々の領土にいる限りこの戦争は続くだろう。これは、自由のため、主権のため、国際法の原則のため、民主主義のための戦争だ。ミンスク合意のようなロシアとのいかなる合意も、今やウクライナに多大な犠牲者と危険をもたらすものでしかない。こういった安全保障協定を終わらせる事こそが現在の欧州の混乱を終焉させる鍵となるのではないか。

――ユーリさんの現在の状況、そして今後の活動は…。

 ユーリ 私が住んでいるキーウはここ数週間、比較的落ち着いているが、長距離ロケット弾による攻撃の脅威は続いている。私の職場はキーウのイゴール・シコルスキー・キーウ工科大学(KPI)国際教育センターで、普段は教育プロセスの管理部門や教師の外国人採用を担当しているのだが、この戦争の為、2022年4月以降は、教師や学生、卒業生達を様々なプロジェクトのボランティアとして参加させ、団結させる「イゴール・シコルスキーKPIボランティア運動」を進めている。ボランティアはキーウの軍隊に生活必需品を届けたり、戦争の解決策を見出すための新しいアイデアを提供する大規模組織だ。他にも衣服を縫ったり、食事を調理したり、領土防衛軍の学生のためにヘルメットを送るなど、ロシア軍と戦うためのあらゆる支援を提供している。ウクライナ人は、誰もがそれぞれの場所で、自分たちの土地を守り抜くために出来る限りのことをしながら必死に生きている。

――日本へのメッセージを…。

 ユーリ 今年5月、英国を訪問した岸田文雄内閣総理大臣は「今日ウクライナで起きていることは、明日、東アジアで再び起こるかもしれない。ロシアの侵略はヨーロッパだけの問題ではない。インド太平洋地域の国際秩序も脅かされている」と述べた。この戦争は全世界に大きな経済的影響を及ぼすとともに、各国の安全保障問題に対する危機意識を高まらせた。仮にロシアがこの戦争に勝てば、日本が直面する安全保障上のリスクは高まるだろう。そうならないように、日本にも他の国々と同じように「ロシアのウクライナ侵略はウクライナ国民に対するジェノサイド行為だ」という事を認めてほしい。そして一刻も早く、この一方的で非人道的な戦争が終わることを願っている。(了)

――ロシア・ウクライナ戦争が世界経済に色々な影響を及ぼしている…。

 古澤 ロシアのウクライナ侵攻前の今年1月にIMFが発表した2022年の世界経済の見通しは4.4%成長だったが、4月の見直しで3.6%成長となり、相当下振れた。もちろん当事国が一番大きな影響を受けており、ウクライナに至っては、今年1月の予想ではプラス成長だったものが、4月見直しでマイナス35%となり、来年の見通しは立てられない状況にある。またロシアにおいては、今年はマイナス8.5%、来年はマイナス2.3%と2年連続でのマイナス成長が予想されている。ロシアとの関係が深い欧州は1月発表の3.9%から4月の見直しで2.8%成長となっている。日本や米国、中国の成長率は欧州ほどではないものの、資源価格高騰や世界経済全体の減速の影響から下方修正された。コロナ禍からの回復過程で昨年夏頃から物価高騰は始まっておりサプライチェーンも混乱していたが、それが改善する前に、ロシア・ウクライナ戦争によって新たなサプライチェーンの混乱が引き起こされている。これによって世界経済は全体的に減速していくと見られている。

――資源や穀物の価格高騰による食料不足で、飢餓に陥っている国もある…。

 古澤 例えば、エジプトでは小麦の約8割をロシアやウクライナから輸入していたため、パン価格が高騰して国内が混乱に陥り、現在IMFに支援を求めている。また、スリランカは主に観光収入で成り立っていた国だが、コロナ禍で観光産業が大きく落ち込み、そこに今回の物価高騰で遂にデフォルトとなった。もともと途上国の財政状況はコロナの影響でかなり逼迫していた。そこにロシア・ウクライナ戦争が拍車をかけ更なる窮地に追い込まれている。資源も食糧もなく外国から外貨建てで借金をしているような国にとっては、米国の金利が上がれば自国通貨が下がり大打撃を受けることになる。そういった国はこれからも出てくるだろう。IMFが予想する今年のリスクは第1にウクライナの行方、そして2番目は社会不安だ。食料やエネルギー価格の上昇で社会不安が生じて政権が揺らぐような国には注意が必要だ。

――ロシア・ウクライナ戦争で穀物の輸入が厳しい中、自国通貨が安くなれば、穀物の購入自体が出来なくなり、国内不安はさらに広がっていく。今後の米国金利の動向は…。

 古澤 米国の5月のインフレ率は8.6%と前月を上回り、まだ暫く高止まりの可能性があり、インフレに対処するため金利を上げる必要がある。IMFは来年にはインフレは落ち着くという見通しだが、暫くは高止まりの状況が続く。FRBのパウエル議長の話しぶりからすると、データを見つつ、7月も金利を引き続き上げることになるのだろう。新興国では自国通貨の防衛策として金利を上げている国は多いが、金利をあげると国内経済にはマイナスに働くため、ジレンマに陥ることもある。日本は欧州に比べればロシア・ウクライナ戦争の直接の影響は小さいが、資源価格上昇や世界経済全体の減速の影響を受けている。英米ほどではないが、物価も徐々に上がっている。世界経済全体が落ち込めば輸出も落ち込むだろう。安穏としてはいられない。

――ECB(欧州中央銀行)はマイナス金利からの脱却を宣言した。一方で日本では金利引き上げの動きは見えず海外との金利差は拡大し、さらに円安も進んでいる…。

 古澤 欧州でもインフレ率が上昇し、早めに対処したいという事なのだろう。一方で日本経済はインフレ率も米・欧ほど高くはなく、英米ほど賃金が上がっている訳でもない。経済の状況が違うため、日本では今の金融緩和をまだ続けた方が良いということだろう。米国について言えば、コロナ禍によって仕事を辞めて財政支援を受けた人たちが増大し、それがなかなか戻らず労働力が不足し、賃金を上げざるを得なくなったという状況だ。日本は物価上昇も米・欧ほどではなく、賃金も上昇しておらず、状況は異なる。現在の円安を止めるために金利政策を変えるべきだという声もあるが、為替はファンダメンタルズを反映して動いている。金利や物価といった経済のファンダメンタルズが違うため金融政策の方向性が違い、そこで日米の金利差が出てくる。それは当然のことだ。現在の円安はなるべくしてなっている訳で、為替のために金融政策を変えるという考え方は妥当ではない。

――国連はロシア・ウクライナ問題によって機能しなくなっているが、IMFによるロシア制裁は…。

 古澤 今のロシアへの制裁はそれぞれの国が行っているものであり、IMFとしては、ロシアがIMFのメンバー国として、IMF協定に違反するといったようなことがない限り制裁を行う理由はない。世銀やEBRDはロシアやベラルーシに対して支援を見合わせているが、今のところロシアがIMFに支援を要請するという話はなく、仮にロシアが支援を要請したとしても、理事会が承認するかどうかは疑問だ。IMFの意思決定プロセスは、加盟190カ国の出資比率に応じた発言力を持つ24人の理事で構成される理事会で議論される。融資等の通常案件は過半数で決定されるが、重要な事柄については85%の賛成が必要となる。この点、米国が16%の発言権を持っているため実質的には拒否権を持つが、機能不全に陥っているということは無い。少なくとも今の段階ではきちんと機能している。

――ロシアと同様に、今度は中国が覇権主義を掲げて暴走する危険性もある…。

 古澤 中国が、商業ベースの金利で相手国に融資し、負債を返せなければ港湾等の利用権を得るといった手法が相手国の経済発展に資するのかという疑問が呈されている。中国に多額の債務を負う国がIMFに支援を要請するというケースも出てきている。この問題についてIMFのシェアホルダーは当事国の中国に対する債務がきちんと整理されていないままお金を貸すことはできないというスタンスだ。公的債務の再編を行ってきたパリクラブのメンバーではない中国等を含めて債務再編を行う枠組みは一昨年11月にG20で合意されたが、中国の協力が不十分で、まだ期待された成果をあげられていない。

――日本は今後どのように国際協調を進め、如何に中国と付き合っていくべきなのか…。

 古澤 中国が巨大なマーケットであり、世界第2位のGDPを持つ国だという認識を持ちつつも、日本は今後、如何にサプライチェーンを構築していくのかをもっとしっかり考えなくてはならない。政府の指針を待ち従うだけでなく、それぞれの経済主体が各々でリスクに備える必要がある。これまでの企業行動はグローバリゼーションの中で経済の最適化という観点からサプライチェーンを構築してきた。しかし、今回のロシア・ウクライナ戦争で我々が学んだ事は、経済の最適化だけに頼っていくのはリスクがあるという事だ。実際に国連安保理は機能不全に陥り、G20での国際協調も進んでいない。それをグローバリゼーションの終焉というのか、新たな局面に入ってきたというのかわからないが、今後暫くの間はG7を核にしてQUADやIPEF、TPPといった様々な枠組みの中で協調を模索するという状況が続くのではないか。日本としてはそれぞれの枠組みで、自国の利益に合致するものをうまく利用していくということではないか。

――IMFは今年5月にSDR通貨バスケットの見直しを行い、人民元の構成比率を引き上げた。この意味するところは…。

 古澤 SDR(特別引出権)の5つの通貨の構成比は5年毎に見直しを行い、基本的に米ドルの割合が一番大きいが、今回の見直しで人民元とドルが上昇し、一方でユーロと円とポンドは低下した。2016年に人民元がSDRに正式採用された際にはかなり議論になったが、貿易量や立地優位条件などからバスケットの割合が判断される中で、中国経済がさらに大きくなれば通貨バスケットの人民元の割合がさらに大きくなってくる可能性は否めない。もちろんSDRは個人が保有するものではなく、国家間の取引や国際機関で使用されるものだが、外貨流動性を供給するという意味合いはある。ドルの基軸通貨としてのポジションは、近い将来変わることはないと思うが、外貨準備の構成が調整される可能性はある。IMFにはコロナ禍から世界経済を立ち直らせるという課題に加えて、ロシア・ウクライナ戦争に起因する経済の減速への対応という難題がのしかかってきた。戦争の終結が最も重要だが影響を受けている国々を支援し、世界経済全体の回復を図っていかなければならない。(了)

――コロナ禍で鉄道事業は厳しい状況にあったと思うが、御社では22年3月期で黒字転換となった。その理由は…。

 古宮 JR九州の連結営業収益に占める鉄道旅客運輸収入の割合は3割程度であり、不動産事業や流通・外食事業をはじめとした、その他の事業の収益が大きなウエイトを占めている。22年3月期は、鉄道旅客運輸収入の緩やかな回復とマンション販売の好調な推移、私募REITへの当社保有資産の売却等により、連結営業利益は黒字となった。もともと当社の鉄道事業は、昭和62年の会社発足時から赤字で、発足時の営業赤字は280億円にも上っていた。その後、九州内では高速道路の整備が急速に進み、平成8年には鹿児島、長崎、大分など、九州内の主要都市を巡る高速道路が完成した。我々はその頃を在来線の鉄道収入のピークと考え、鉄道以外の事業展開に急ピッチで取り掛かった。そういった背景から現在のような多角的経営となっており、それが今に活きている。

――現在、一番大きな収益となっている事業は…。

 古宮 賃貸・分譲を含むマンション事業や駅ビル事業だ。すでに九州の主要な駅では、駅ビルの開発を終えつつあるため、今後は、主要駅周辺でのマンション開発、あるいは主要駅から少しエリアを広げたところでの商業施設の開発や新駅の設置など、新規開拓に力を入れていきたい。ただし、九州ではローカルエリアでの人口減少が著しく、都市部を中心に不動産開発は進めていく考えだ。また、JR九州のフラッグシップトレインとも言える「ななつ星?九州」のチケットの売れ行きは好調だ。2022年10月からの新コースにおいて最高級の部屋は3泊4日2名様の御利用で340万円と高額だが、申し込みは殺到している。長時間の飛行を強いられる海外旅行ではなく、国内でゆっくり贅沢に旅行を楽しみたいという方が沢山いらっしゃる。私自身この列車の開発には責任者として携わっており、乗車料金の設定には色々な意見があったことを記憶しているが、販売から1~2年の平均抽選倍率は30倍という程の人気を博した。中でも1部屋しかない最高級の部屋への申し込みは一番多く、その抽選倍率は200倍や300倍という時もあったほどだ。

――今秋に開業予定の西九州新幹線について…。

 古宮 西九州新幹線の開業は今年度の最大イベントだ。車両は現在東海道・山陽新幹線で運行されている「N700S」を6両編成にしたもので、内装や外装に力を入れて独自性を出している。長崎県や佐賀県の方々にとっては待望の新幹線だ。特に、有名な温泉があるにもかかわらずこれまで鉄道がなかった佐賀県嬉野市は初めて通った鉄道が新幹線という事で大いに盛り上がっている。これまで在来線で約2時間かかっていた博多-長崎間は、西九州新幹線の開通によって最速1時間20分にまで短縮される。また、九州の新幹線は駅間の距離が短く通勤や通学に利用する乗客も多いため、隣接特定の自由席の乗車料金は870円と設定し、利用しやすいようにしている。

――SDGsに対する取り組みや、IR活動については…。

 古宮 公共交通機関である鉄道の利用はCO2排出量の削減、環境負荷の低減につながるということで、鉄道は「人と地球環境に優しい乗り物」として社会的に注目されている。実際、当社グループは、2050年CO2排出量実質ゼロを目指しており、資金調達の面においては、昨年からグリーンボンドを活用するなど取り組みを強化している。コロナ禍の影響で、21年3月期の営業収益はコロナ前の6割程度にとどまり、200億円強の赤字も出したが、22年3月期でようやく92億円の経常利益を上げることができた。今期は300億円の経常利益を見込んでいる。今後、鉄道旅客運輸収入が想定通りに回復していけば、資金調達にもそれほど大きな問題はないだろう。現在、四半期報告書を廃止する案が議論されているが、これまで同様、IR等を通じて積極的な情報開示を行っていく姿勢は変わらない。

――今後、注力していくビジネスは…。

 古宮 コロナ禍で鉄道の利用が減少し、駅に人が集まらなくなると、駅中のコンビニや商業施設への立ち寄りも減り、ほぼ全ての事業が共倒れとなった。そこで、昨年、人流に依存しないビジネスを強化するために、物流事業へ参入した。現在は物流施設の保有と賃貸の事業を中心に行っているが、九州でも宅配の需要は急増しており、将来的に良い運送会社との巡り合わせなどがあれば事業提携や合併などで、さらに新しいビジネスを広げていきたい。実際に今、ドローンで鉄橋の検査などを行っていることもあり、ドローンを活用したビジネスなども考えている。

――今後の抱負は…。

 古宮 これまで鉄道事業は基本的に大きな浮き沈みがないビジネスであったが、コロナ禍では50%の減収というこれまでに経験したことのない落ち込みを見せた。これを乗り切るために、我々はこれまで経費削減などに取り組んできた。今後は、会社全体で新しい発想を生み出し、メンテナンスコストを下げられるようにしていきたいと考えている。例えば、これまで線路をひたすら歩きながら目視で行っていた検査を、営業列車にカメラをつけてチェックするような取り組みも始めている。新しい技術を使う事で、人間の負担を減らしていくことはこれからのビジネスには欠かせない。こういった取り組みをもっと色々な分野に広げ、メンテナンスコストを下げていきたい。我々の会社の規模は鉄道会社の中ではそれほど大きくない。そのため、機動的な運営が可能だ。この規模のメリットを十分に活用して、かっちりと固めすぎることなく柔軟な経営を心掛けていきたい。