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Information

――新年の目玉政策は…。

 片山 やはり新しい資本主義の目玉である「貯蓄から投資へ」だ。税制改正大綱では、つみたてNISAの年間投資上限額を現行の40万円から120万円と倍増どころではなく3倍増とし、また現行の一般NISA(年間投資上限額は120万円)の役割を引き継ぎ退職金の運用などにも活用可能な成長投資枠(年間投資上限額は240万円)を設け、さらには生涯非課税限度額として1800万円(現行は最大で800万円)を設けた。しかも簿価(取得価額)残高方式管理のため、NISA枠の再利用についても格段に扱いやすくなり、制度恒久化とともに非課税保有期間も無期限となるなど、物凄く大きな拡充とした。税制に係るこのような大きな変更は通常であれば従来財務省主税局が認めてくれなかった。しかし、「貯蓄から投資へ」を推進することで、自分自身で老後資金に向けて計画を立てることができ、世の中の人々に安心感をもたらすことができるうえ、資本主義や成長の果実を国民が得ることもできることから拡充の意義は大きい。

――NISA拡充は国内資本市場に好影響を与える…。

 片山 現在、個人投資家の株式保有比率は16.6%(東証の21年度株主分布状況調査)しかなく、また国民の多くが加入している生命保険の国内株式の運用割合も7%程度、GPIFの国内株式の運用割合も4分の1程度と、成長の果実を得るにはこれではいくらなんでも少な過ぎる。このため、NISAを通じて日本の商品が選ばれる必要がある。もちろん利回りは重要で、また個人投資家の多くが投資しているニューヨーク証券取引所やナスダック証券取引所上場銘柄もよいが、トランジションやグリーン・トランスフォーメーション(GX)に関連する国内株式に投資したい人、日本がSDGsやDXを推進していく力となる投資をしたい人は増えており、こうした声を拾い上げて国内株式へ投資を呼び込んでいく必要がある。例えば、GXリーグ基本構想に賛同した、いわゆるGX銘柄が発行する社債のスプレッドはノンラベルよりも低い。これは、日本でGXが評価されているということだ。今後もGX銘柄をさらに増やすとともに、GX銘柄に投資する投資信託を組成すれば、利回り差があったとしても大義名分があるため、外国投信に勝てる実力を持つことができるだろう。そうすることで東京国際金融都市の再建にもつながる。このため、魅力ある商品を組成していただけるよう投資信託協会などとも連携していきたい。

――金融経済教育の改革も進めていく…。

 片山 金融教育を受けたことがある人が7%(金融広報調査委員会調べ)しかいないという現状では、NISAを拡充したところで活用は限られる。その問題を解決するために金融教育が必要だ。法改正を念頭に徹底していく。今後、金融教育の中心となる組織として金融経済教育推進機構を設立するが、しっかりとした組織とすべく金融調査会を通じて確認していく。年金や保険も含めて生涯を通じて必要な金融の知識が学べ、自己判断できる大人を育てていく。

――スタートアップ支援については…。

 片山 スタートアップ支援も拡充する。スタートアップへ再投資した場合は譲渡益に課税しないという優遇措置を設けるという一歩踏み込んだ施策を打つことになった。しかし、スタートアップ支援には難しさもある。エンジェル税制はかれこれ40年近く実施しているが、投資拡大につながっていない。つまり税制だけの問題ではないということだ。課題を改めて整理していかなければならない。他方では、NFT(ノンファンジブルトークン)についても本人保有分については証券などと同じように売却時課税とする。このように今回の税制改正では、いいものがたくさんできた。革命的進捗だと考えている。

――デジタル人材育成PT座長としてデジタル人材投資の拡充は…。

 片山 人材投資においては所得税において特定支出控除の条件がよくなる程度に留まっている。今後はDXの研修を受ければ特定支出控除額が広がるぐらいまで税制面での優遇を頑張らなければならない。現状でも東京都が講座を開き、受講者は1000人程度の規模までは拡大しているほか、大手クラウドサービス提供企業との連携を通じ、クラウド化に合わせた人材を開発している。しかし、例えば高卒・文系の女性で研修終了資格取得率5~6割に達するなど、イメージより簡単に資格取得できることを多くの人が知らないため、浸透・活用されていない。また、どういう資格を取ればどういった職に就けるのかというプラットフォームを作りきれていない。国も模索中、企業も模索中であることから国が全体をまとめていく必要がある。他方、デジタル教育が既に実践されている金融機関において、取引先である中小企業370万社に対してデジタル経営を指導してもらいたい。卯年は銀行ないし銀行子会社の専門会社が、こうした事業を新しい収益柱として展開していただくことを考えている。

――防衛費のための増税が決定された…。

 片山 防衛力強化のための財源確保にはとてもびっくりした。総理大臣から「これこれの税目で1兆円調達してほしいので具体的な税率やいつからかを決めてくれ」などあそこまで発言することはこれまでになかったためだ。私自身が防衛関係の主計官だったこともあり、よく承知しているが、防衛予算は伝統的に特定財源ではない。この度、法人税について4~4.5%の新たな付加税を課す方向が税調答申に書かれ、500万円控除とするものの、中堅以上の企業には負担となりかねない。コロナが明け始めているが、例えば大手のホテル・旅館で黒字化した割合は全体の3割に留まっている。これは、放漫経営をしたからではなく、国が移動制限を課したからだ。我々はゼロゼロ融資で支援してきたが、今年に返済のピークが到来するため、再度延長ないし何らかの債務圧縮を含む事業再生をしなければ乗り越えられないと考えている。100%保証の借換保証も新設しているが、大手となれば1億円の借換保証では足りない。一方で、今、事業を売りに出しても買い手は中国資本ぐらいだろう。そうなると彼らはお金はあるが地域と折り合った経営ができるわけではないため、日本中でおかしな状況が生じている。とくに温泉街は地域コミュニティの中にある事が多いことから国民が訝っている。今の世の中を象徴するようなシーンだ。

――景気後退のなかで増税は企業の負担となる…。

 片山 今年、企業はようやく自助努力で黒字転換したものの、まだ繰越欠損が出ているなかで将来は増税になるとなれば、それは怒る。せめてコロナの影響を受けている業種を対象外とすべきだと進言した。他方、宮沢洋一自民党税制調査会長はかつて、法人税収の基本税率を下げるために尽力したものの、尽力して下げた分を内部留保にされてしまったという悔しい思いがおありになる。そのため、今後の検討で内部留保が貯められた大企業に増税をシフトすることはあり得るだろう。内部留保の議論はあったが、今回の課税対象を一律としたのは非常に残念だ。

――DX移行債はどうなるのか…。

 片山 DX移行債の発行が決まり、その財源の一つとして考えているのが、いわゆるカーボントレードで、これは28~30年から始めることを予定している。なぜ時間を要するのか。企業にとって大きな負担となることから、準備に慎重に時間をかける必要があるためだ。カーボントレードについては、米国の動向はわからないが、我々はアジアでやるなら日本基準が権威を持つよう頑張っていきたい。そしてそうなれば、東京国際金融市場の目玉商品にもなり得る。

――最後に抱負を…。

 片山 日本人全体がキャピタルマーケット化することを目指す。国民みんなのお金で日本経済が循環している、という参加意識を持って、株式投資にも誰もが賢く加わっていただける世の中にしていきたい。これまで日本には紙屑にもきちんと値段が付くようなマーケットエコノミーがなかった。この点、電子記帳法やインボイスなどで合理化され、また経営者保証改革も進めることで債権の移転が容易となるほか、債権放棄も容易となっていく流れは良い方向だ。いつまでも過重債務に悩まされずに、早く経営の方向に結論を出して次に進む経済にすることで、日本は静かに革命的に変わるだろう。(了)

――新年は良い年になるかな?

  どうかな。今見えている大きな材料は、国内要因では春の日銀総裁の交代とその金融政策、岸田政権の持続力と秋の自民党総裁選だ。また、海外要因では引き続きロシア・ウクライナ戦争と中国の台湾侵攻の有無、そして米FRBの金融政策だ。これらが絡み合い、どのように金融資本市場が展開するのか、そして新たな材料が出てくるのかも注目される。

 B 確かにここ2~3年は、コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻という予期せぬ巨大な材料が世界経済を大きく動かした。2度あることは3度あるというが、2つのビッグイベントにより世界経済が疲弊しており、かつ東西の分断という要素が今年も続くとあれば、世界大不況や第三次大戦の序章に入ることも考えられる。

 C 新年早々、物騒だな。逆に、コロナ禍がほぼ終了しロシア・ウクライナ戦争がプーチン失脚という形で終了すれば、FRBも金融緩和に舵(かじ)を取ることで株価が年末にかけて暴騰することも期待される。ただ、ロシアとウクライナの終結が痛み分けとなりロシアの領土がさらに増えれば、中国が経済悪化やコロナ対策の失敗から国民の目をそらすために、台湾総統選や自衛隊の増強前に台湾に侵攻する可能性は十分にある。

一気に変えにくい日銀政策

――Cの予想も物騒じゃないか(笑)。

  その前に、新日銀総裁によって金融政策がどのように変わるのかということだが、結論から言うと徐々にしか正常化できない。いわゆるソフトランディングだ。国債残高の巨額さや世界的な景気後退リスクを勘案すると、徐々にしか金利を上げられないためだ。何か革新的な手法があれば別だが、金利が上昇することによる財政負担の圧迫を政府は恐れており、そのため政府は日銀との共同声明を変えて「安定的に2%の物価上昇が実現する」ことで合意したい考えが垣間見られている。

 B アベノミクスだか黒田緩和だか分からないが、金融政策の大失敗だな。年末の「突然」の政策変更による市場の混乱を含め、中央銀行の世界史に残る失敗と言ってもいいんじゃないか。それを明確に表しているのが、アベノミクスの開始からここまで国債は5割近く増えたものの、GDPはほぼ変わっていないし、実質賃金は下がり続けてついに世界で20位以下にまで落ちてしまった。しかし、税収だけはしっかり増えている。江戸時代なら農民一揆だ(笑)。

 C そうした金融政策を徐々にしか変えられないから、この先もしばらくは国債残高の増加や低成長・低賃金が続く可能性が高い。ただ、救いは霞ヶ関や政治家が黒田緩和の問題点にようやく気付き始めていることや、賃金抑制の大きな原因であるROE経営も問題視し始めている。金融庁の銀行監督指針も本紙が問題を指摘してから改正するまで時間がかかったが、金融政策も昨年末にようやく改善の第一段階を歩み始めた。新総裁が一刻も早く金利を自由化・正常化させることを祈る。

 A 金利の正常化が一気にできない理由の1つとして、ゼロゼロ融資が3月に終了することもある。まだコロナ禍から本格回復していないことに加え一気に金利が上がれば倒産も増え、ゼロゼロ融資がかなりの規模で返済不能になる。私はかねて日銀政策を変えるべきだと主張してきたが、今となっては一定期間はゆっくり金利を正常化していくしかない。しかし、それには日銀の市場からの信頼回復が大前提だが。

金融面でも安保リスク

  金利の正常化に一歩踏み出したことで国内要因では少しは楽観視もできようが、海外要因、例えば中国が台湾侵攻と同時に日本国債と日本株と円に巨額の売り仕掛けをしたらどうなるのか。戦費調達の思惑から国債は売られやすく、台湾と中国にある巨額投資の没収懸念から日本株は暴落し、それらの連想から円も売られる。つまりトリプル安に乗じて中国は巨額の売却益を得ることができる。台湾の領土と金融収益の両取りだ。

――そうなった時も日本の政府は想定外だと(笑)。

  笑い事では済まされない。経済安保はようやくその概念が世の中に伝わり始めたが、霞ヶ関の取り組みや経団連の問題意識はまだ相当遅れている。また、金融面における経済安保の意識はさらに低いのが現状だ。本紙は10年以上前から、中国は日本企業の3分の1を支配下に置くとの目標を立てていると警鐘を鳴らしてきたが、多くの経済人は見て見ぬふりをしてきた。

 B 台湾侵攻と国債の売り仕掛けを勘案すると、財務省が防衛費の一定部分を増税で賄うといった姿勢は悪くはない。国債で防衛費を賄えば台湾有事に国債を売り崩しやすくなる。また、埋蔵金の金額を公表することで、売り崩そうとしたら埋蔵金で反対売買をして痛い目に合わせることができる懐刀になる。もっともそういう意識が政府や財務省にあるのかは分からないが(笑)。

「中国産BMW作戦」

  中国が水面下で密かに進めてきたハイブリッド戦略もようやく表面化しつつあり、国民もそれに気付き始めている。中国は日中友好で接近した後に「中国産BMW作戦」などで、日本人に対中防衛意識を極力持たせないように働きかけ将来は属国にしようと狙っている。「中国産BMW」とは、中国によるbusiness=ビジネス仕掛け、Money=金仕掛け、Woman=色仕掛けだ。この3つによって、経済界はもちろん役人や政治家、メディアまで中国に取り込まれており、それが中国に対するさまざまなガードを甘くしている。

 B 日中友好で中国に招かれ会議をした後に、ホテルの部屋に若い女性が現れたという経験をした人は多い。その時、ことに及んで脅迫の材料に使われる写真を撮られてしまったという話も広くささやかれている。今でも政治家の美人秘書が中国人であったり、対中ビジネスで間接的に利益を得ていたり、カジノで賄賂をもらったりしていることが表沙汰になっている。どことは言わんが、大手新聞の3紙は中国の都合の悪い記事は小さく扱い、良いことは大きく書き、大した技術もないのに技術大国と紹介するなどしており、読者の皆さんもよく読むと分かる(笑)。

 A 日本のEEZ内に中国のミサイルが撃ち込まれても文句1つ言わず、また米で危険視されているTikTokを使わせ続けており、マイナンバーカードにも情報漏えいの懸念が絶えない。経済安保面でも、高度な技術を持った未上場企業が中国人が日本で設立した「日本企業」に買収され、その技術を中国に移転するといったケースが問題視されている。

――この国は大丈夫かね…。

  平和憲法の下、70年間余り性善説でやってきたからね。すべての国は国際法やモラルを守るし話せば分かるから軍備はいらないと思っていたら、中国の香港制圧、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル乱発によってそれまでの甘い常識がドテンした。いわゆる「お花畑」は世界の非常識であることを気付かされた。しかし、日本人の意識はまだまだ「お花畑」だ。特に、政治家、官僚、マスコミがひどい。核保有を含め国民の方が問題意識を先に持っている。

 C 中国などからすれば日本の支配層に対する「BMW」が一定の成果を上げているということだろう。しかし、BMWの母国ドイツよりはまだましだ。ドイツは天然ガスをロシアに支配され輸出を中国に握られており、もはや中露なしには身動きが取れなくなっている。メルケル前首相の失政によって経済を東側に握られており、その結果、ウクライナ支援も相当消極的でウクライナやEUからの批判の的だ。日本は50兆円ともいわれる投資残が中国にあるが、経済取引の中心は米国でありエネルギーのロシア依存度も低い。

大きい国内の政策リスク

  中国もリスクだが、国内の経済政策もそれ以上のリスクだ。アベノミクスもそうだったが、わざと日本を弱くする政策をしている。黒田緩和はもとより、脱炭素化を含むバラマキ政策、ROE重視、残業時間の削減、雇用の流動化など海外から言われたことをよく考えずに鵜呑(うの)みにしててしまい、墓穴を掘り続けている。そうした政府・霞ヶ関の姿勢は、バブル崩壊の原因となったいたずらなBIS規制や時価主義、株式の持ち合いの解消の導入などと同じ構図だ。日本経済を悪くしているのは自分の頭で考えない政府・霞ヶ関の権威主義だ。

 A 権威主義というより米国の言いなりだ。世界一の軍事力で日本を守ってくれているから仕方ない面もあるが、30年余り前の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時に日本を弱体化させるべく半導体産業と金融をめちゃめちゃに壊し、特に半導体は力ずくで韓国と台湾に移転させた。日本が米国より強くなっては困る一方で、韓国と台湾の経済が強化されれば、北朝鮮と中国からの脅威の防御壁となる。米国は日本より韓国を贔屓(ひいき)しているといわれるが、米国にしてみれば韓国は北朝鮮と中国に直接対峙しているわけだから当然だ。

 B しかし、バブル当時と違ってもはや日本は世界一ではないし米国を打ち負かす存在でもなく、また、米国の敵は中露であることがはっきりしてきている。むしろ米国はかつての日本にやったことを今の中国とロシアにやっている。このため、もういい加減に自分の頭で自分の国のことをよく考えて、バブル崩壊やアベノミクスの二の舞いは避けないと、今度は二流国どころか三流国に成り下がってしまう。

――霞ヶ関や政治家にその能力はあるのか…。

  微妙だね(笑)。政治家は地元民を通じ国民から聞く能力はあるが、それらを組み合わせてマクロ経済政策を作ることはできない。役人は頭は良いが権威主義であり、市場に目を凝らし現場で何が起きているのか理解する姿勢と能力に乏しいため、トンチンカンな政策を推し進めてしまう。市場と対話せずに500兆円も国債を買い込んでしまった黒田緩和が良い例だし、金融庁にしても未だに直間比率を直せない、いつまでたっても「規制庁」のままだ。

 B 日銀の最大の課題は市場との対話による信頼の回復だ。昨年末のような市場が予測できにくいことをやって市場を敵に回すようでは、お金がいくらあっても足りない。国債残高が増えるばかりだ。日銀のオペを極力行わずに、かつてのように口先だけで市場を誘導すればせいぜい日銀銀保有の国債残高は100兆円で済んだだろう。その意味では新総裁は市場をよく理解している人がふさわしい。となるとやはり日銀プロパーがふさわしいかな。民間人でも良いと思うが、市場をよく知る人ほど黒田緩和の尻拭いはしたくはない(笑)。

 A 金融庁は今回はNISAでよくやった。恒久化や1800万円の枠拡大などとりあえずは満額回答と言って良い。これで、株式の民主化が進み外国人主導相場が抑制され、金融資本市場が経済安保をてこに自国主導型になれば、防衛力の抜本強化とともに日本の安全性が増す。同時に株式投資益によって国民所得が増えるとともに、株式市場の流動化によって市場経済が活発化されればようやくGDPも動き出す。めでたし、めでたしだ。

――本当にそうなるように YCCを含めた市場規制の脱却・市場化元年になれば良いね。また、それには担保制限条項の見直しなど社債市場の活性化も不可欠だ。(B)

――非財務情報は任意とし、開示をしないことの説明を義務付け、投資家の判断に委ねる方式などで企業の開示負担を軽減したらどうか…。

 井藤 確かに企業負担が大きくなっているという声があるのは事実だ。しかし、一方で投資家が投資するうえで様々な情報を必要としているのも事実だ。我々としても企業には情報開示を充実させ、より中長期的に企業価値を高めるためにどうするべきかについて投資家と対話していただきたいと考えている。今年6月の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告では、サステナビリティ情報を充実すべきとの提言がなされ、今般、サステナビリティ情報の記載欄を設けるなどについてのパブリックコメントを終えたところだ。記載欄には人材育成方針や女性管理職比率などについても開示していただくということになるが、事細かに書いてくれというよりも、まずは、経営レベルで企業の中長期的な価値向上の観点からどのような戦略を描いているのかということを踏まえて、方針を示して貰うことが重要ではないかと考えている。こうした中で、企業負担については軽減できるところは合理化しつつ、情報自体の開示の充実は是非とも進めていければと考えている。その半面、チェックリストのような画一的な対応となれば、ボイラープレート(定型的文言、使い回し)化し、負担だけ増えて実が伴わなくなる可能性もある。そうした意味でも企業は自身がどのように取り組んでいるか、投資家にアピールできるようなものをしっかりと開示していただきたいと考えている。様々な開示項目に対し、企業がリスクあるいはチャンスと感じ、取り組んでいるという姿勢、情報を開示していただきたい。記載欄を設けたが中身はあくまでも自由だ。なお、女性管理職比率や男女間賃金格差などについては女性活躍推進法などに基づいて開示が義務付けられている企業について開示対象とするもので、何か追加的に負担を求めているわけではない。また、サステナビリティ情報の虚偽記載への対応や保証のあり方については、世界的にも議論が開始されており、今後検討していく必要がある。ただ、財務情報と異なり、何が間違いかどうか判断し難い。定量的な項目については判断し易いが、定性的な話は判断が難しい。グッドプラクティスや好事例を示しながらより良い情報開示が定着するよう支援していきたい。

――市場間競争の消失による市場機能の低下が問題視されている…。

 井藤 市場間競争が適切に働くことを市場全体として考えていく必要がある。特に現物市場は東京証券取引所の独占に近い状況にあるが、この点、私設取引システム(PTS)が適切に機能し、投資家にとって使い勝手の良い市場になればと考えている。PTSの売買高上限の緩和などについては、投資家の利便性向上の観点から進めていければと考えている。また取引所では取り扱われない非上場株式についても、例えば、今年7月には日本証券業協会で特定投資家向け銘柄制度が整備された。こうしたものを活用することによってスタートアップの資金調達が促進されるような取り組みを考えていきたい。一方で、取引所間の競争も大事だが、PTSの実態が取引所に近付いていくのであれば、価格情報の適切な提供など制度整備も必要となる。米国のようにマーケット開設者間で共通の自主規制機関を持ち、コスト負担するような体制とするところまで一気に行けるとは考えていないが、市場の透明性などについて必要な対応を求めたい。非上場株式については、主として、リスク許容度の高い個人を含む特定投資家(プロ投資家)に投資していただければと考えている。また、商品によってはリスクが非常に高く、またリスクの把握が非常に難しい商品もあり、適合性の原則を踏まえながら進めていくことが必要だと考えている。この点、ポートフォリオ、つまり資産の状況からリスクテイクの許容度を判断していくことも大事だ。例えば、ポートフォリオの相当部分をリスクの高い金融商品で占めるといったことはプロ投資家でもやらないだろう。そうした点をしっかりと確認したうえで市場参加していただくことが大事ではないだろうか。

――金融教育の強化を挙げているが、具体策を伺いたい…。

 井藤 金融教育の推進は資産所得倍増プランの中核のひとつとして、金融審議会の顧客本位タスクフォースにおいても議論が進められ、中立的な立場から金融教育ができる組織として金融経済教育推進機構(仮称)を設立するなどし、官民一体となって戦略的に対応すべきという方向性が示された。これまで日本銀行をはじめ、各業界、個社でも金融教育に取り組んでいた。しかし、国民全体にアプローチしていくためには各者各様で取り組んでいては効率性が良くなく、また販売会社による取組みには販売目当てではないかといった懐疑的な見方もされるなどの課題が指摘されていた。中立的な立場から求められる情報を的確に提供していくためには、まずは、個人の人生を通じたお金のマネジメントがしっかりできるよう、ライフプランに基づいて、あるいはライフステージに応じて、人生を俯瞰してお金の問題がどのように関わってくるのか、貯蓄、投資、年金などを含めて考えていくことが大事だが、こうした広い知識に立脚したうえで個人として知っておくべきことを展開していくなかで、つみたてNISAにも興味を持っていただき、実践していただけるような知識を提供していこうと考えている。また個人は何を買えば良いのかわからない人が多いだろう。この点、顧客の立場に立ったアドバイザーが重要で、「機構」において信頼できるアドバイザーがどういった方々なのかを見える化していく。もちろん顧客のためになるアドバイザーであれば、今回議論の対象としている以外の形態も当然あって良いと考えている。まずはそうした個人にとっての投資の入り口となりえる気軽にアドバイスを求められるようなアドバイザーを育成・支援していく。一方で、リスクプロファイルが高い商品を見分けるためには勉強が必要で、そのコストは一定程度かかる。また社会人で忙しいと勉強する時間もない。デリバティブが組み込まれている商品に対し、リスクを把握し、自身のポートフォリオを考えてどの程度保有できるのかまで考えられる投資家は少ないだろう。金融機関でも判断が難しいPEファンドの投資リスクを把握できる投資家も少ないだろう。「その金融商品のリスクを的確に理解しなければ投資すべきではない」ということも含め、しっかりと情報提供あるいはアドバイスができるように「機構」の体制構築に取り組んでいきたい。また、顧客本位の業務運営において金融機関が顧客の利益を第一に考える体制を構築して貰う。例えば、つみたてNISAを購入したいという顧客に対し、玄人筋が購入するような商品を推奨することはありえない。自分が相手の立場に立ってほんとうにこの商品を選択するのか、という目線を金融機関に持っていただき、顧客のためになるような金融商品を推奨・販売できる体制を整備していただきたい。

――金融経済教育推進機構(仮称)は金融庁が主導していくのか…。

 井藤 関係省庁と連携しつつ、金融庁が主体的に進めていければいいと考えている。先般、学習指導要領で家庭科において金融教育を充実していただいた。家庭科の先生方に協力して頂き、授業推進に向けてディスカッションをするなどいろいろな面で取り組んでおり、そうしたなかで文部科学省や各地の教育委員会にご協力頂いた。この連携をさらに強化していきたいと考えている。ただ、学校の場だけではなく、社会人あるいは退職前の方々など様々なライフステージの方々に対して教育機会、情報提供の機会を提供していきたい。この点、職場における展開も選択肢にあると思う。さらには新しい情報メディアを通じた情報発信も必要となるだろう。

――今年度の行政方針において特に注力している政策は…。

 井藤 やはり貯蓄から資産形成へのシフト、成長と家計への分配の好循環を実現するための資産所得倍増プランに関する事項は極めて大きな意義を持っている。好循環という面では家計、投資家側だけではなく、企業自体が成長しなければならないため、これに資する市場関係の改革を両輪として進めている。企業の成長においてはコーポレートガバナンス改革も引き続き重要な課題だ。今年は3年ごとのスチュワードシップ・コードの見直しの年ではあったが、そのことにとらわれず、チェックリストのような形式的な対応を招きうるものを追加するよりも本質的な面で日本市場を良くするために、海外投資家を含むステークホルダーから幅広く意見を聞く場も設けており、来春を目途にコーポレートガバナンス改革をどのように進めていくかアクションプログラムを取りまとめたい。企業情報の開示についても四半期報告書と決算短信の一本化で企業負担を軽減していくが、より大事なのはサステナビリティ情報などの情報開示を充実していただくこと。この点、人的資本に関する情報を企業がどのように開示するのかは極めて大事な事項で、これは国際的にも気候変動対応については基準作りが進んでいるが、次にどういったことが重要なのかの議論も開始されつつあり、我が国として人的資本に関する情報開示の充実に向けたルール策定などの取り組みについて国際的な意見発信をしていこうと考えている。このほかにも事業成長担保権も重要だ。商取引先や労働者等の債権者の権利のあり方等の課題には対応していく必要があるが、今の金融機関の実務では土地や建物、人的保証なしに、事業性だけを見てリスクテイクしがたいという課題も指摘されていることから、事業性に着目して事業者に伴走するような取組みを十分進めてもらうためにも早く制度化したいと考えている。(了)

11/21掲載 「東京にシリコンバレー創設を」
衆議院議員 自民党経済安全保障推進本部 本部長 甘利 明 氏

――日本も米国などのように新しい技術を生み出していくことが経済安保につながる…。

 甘利 大事なことは、イノベーションが起きる生態系、エコシステムを作ることだ。それには、まずは大学を改革することを考えている。これまでの日本の大学は、自分の研究をマネタイズしてスタートアップ企業につなげていくという発想がなかった。まずは大学を改革して、大学を運営する従来の研究者に加え、経営する人を新たに置き、研究を事業につなげられるようにする。日本の国立86校の年間予算は、合計で1兆1000億円だが、例えばハーバード大学は自身の基金で5兆円を運用しており、日本と他国の研究費の差は歴然だ。そこで私は、東京に世界最大のシリコンバレーを作ろうとしている。そこにグローバルに展開できる大学のキャンパスを誘致し、さらに世界のベンチャーキャピタルや人材が集い、次々にスタートアップがデビューしていく生態系を作ろうとしている。これを今年の骨太方針に盛り込み、3年以内の実現を目指す。先端研究の成果は研究費に左右され、国からの一層の資金支援が必要だが、大学自身も研究産業の一面を自覚し、自身でも稼げるようになるべきだ。

10/17掲載 「3つのメガFTAで経済推進」
九州大学大学院 経済学研究院 清水 一史 氏

――日本はRCEP、CPTPP、IPEFの3つのFTAに加盟している唯一の国だ…。

 清水 まさに、日本はこれら3つをすべて活用することが重要だ。RCEPは東アジアのメガFTAで一番インパクトがある。CPTPPもかなり水準の高いFTAなので積極的に活用する意義がある。IPEFもサプライチェーンの強化やデジタル経済に大きな影響を与え、アジアに米国を引き込むという思惑もある。日本はこれらFTAに積極的に関わり、かつ、日本が相互補完させていくことが大切だ。民間分野でも、日本企業はRCEPの枠組みに大きく関わりがある。RCEP地域に進出している日系企業の輸出の約8割がRCEP域内だ。日系企業にとっても大きな意義があり、同時にRCEPやCPTPPを補完しながら活用するのが重要だ。また、日本はASEANと連携し、かつ支援することが重要だと思う。RCEPはASEANが提案して交渉をリードしてきた。日本が積極的にASEANを支援し、RCEPでASEANが中心に位置し続けることで、中国の影響力が拡大するなかでも、RCEPの中でのバランスがうまく保たれると思う。

10/11掲載 「金融の役目は経済の転換促進」
金融庁 監督局長 伊藤 豊 氏

――コロナや地政学的リスクなどこれまでにない不安定な局面にある…。

 伊藤 コロナは資金繰り支援から始まり、債務過多の事業者への前向きな投資資金の調達やアフターコロナに合うビジネスモデルへの転換支援に変わり、また金利上昇や円安進展で事業環境が大きく変化しているなか、今後のビジネス展開や防衛策も検討していかなければならないが、ここに金融機関の役割がある。一方では、3年間据え置きのゼロゼロ融資の返済が23年の春から本格化するため、返済期限の延長や借り換えなどの対応も必要となる。アフターコロナに向けては、ゾンビ企業を淘汰するということではないが、生産性を上げれば賃金も上がる。コロナを大きなきっかけとして、日本経済の転換点とすることが金融機関の役目だ。

9/20掲載 「国債管理政策を総点検し継承」
財務省 理財局長 齋藤 通雄 氏

――最後に、局長としての抱負を…。

 齋藤 先ずは、今の時点での国債管理政策の総点検を実施しておきたいと考えている。というのは、私は長い間この国債関係に携わりながら、これまでのキャリアを築いてきた。しかし、私の後にこのポジションに就く人物が、私の様な経歴を持っているとは限らない。総点検してまとめ上げたものを、私の時代に実行に移せるかどうかはわからないが、これまで長く国債関係を歩んできたものとして、その経験をしっかりと後任に引き継いでいきたい。それが私の責務だと思っている。(了)

7/11掲載 「脱中国に向け補助金を」
アシスト 代表取締役 平井 宏治 氏

――進出リスクが大きくなっている中国から日本企業が撤退する方法は…。

 平井 法律上は、日本企業が中国から撤退することは可能だが、実際には、撤退すれば、中国に投資した設備類などをすべてタダ同然で置いてくることになる。日本企業にとっては、特別損失を計上することになり、このことが、脱中国が遅れる一因となっている。脱中国を推進するため、脱中国をする企業に中国撤退で生じる損失と同額の補助金を出すべきだ。例えば、1億円の特損が出る企業に、政府が1億円の補助金を出せばよい。2020年、安倍首相(当時)は、中国から撤退する企業に対する補助として、2200億円を準備し、申し込みは1兆7000億円にもなった。同時期に、米国政府が準備した脱中国補助金は5兆5000億円。わが国の経済規模からして、2兆円は準備する必要があった。経済安全保障の観点からは、日本企業の脱中国、国内回帰や、中国から東南アジアへのサプライチェーン変更に補助金を準備し、サプライチェーンの中国外しを進めることが必要だ。上場企業の場合、利害関係者も多く、簡単にサプライチェーンの変更も決められないが、オーナー経営の中堅・中小企業は迅速に撤退を決断できる。有価証券投資などを含めると、中国には既に50兆円規模の日本の資産があるとの見方もある。中国には国防動員法がある。台湾有事や同時に起きる沖縄侵略時、いわゆる有事に、中国政府が日本企業の在中資産を接収できるとする法律だ。中国政府にすれば、日本企業の50兆円の在中資産をタダで中国のものにできるおいしい話だ。ロシアのサハリン2の例を見れば、中国の国防動員法発動リスクを過小評価するべきではない。

4/25掲載 「台湾有事の際の難民課題に」
石垣市長 中山 義隆 氏

――ロシアによるウクライナ侵攻に呼応し、新たな中国の動きはあるのか…。

 中山 尖閣に関しては、新たな動きは見られていない。ただ、ロシアのウクライナ侵攻に連動して台湾方面では動きが出てきたようだ。ロシアの要求通りにウクライナ情勢が解決するのを国際社会が認めてしまうと、次は中国が台湾に侵攻していくだろう。そして、台湾侵攻の際には、台湾を挟み撃ちにするため、尖閣諸島が利用されると考えられる。台湾は国土を大きな山が縦断しているので、尖閣諸島から山の東側を、大陸本土から西側を攻撃すると見ている。さらに、侵攻が実際に行われれば、台湾にいる2300万人をこえる人口の多くが漁船などを利用してでも避難民として日本の沖縄県、石垣市へ流れてくることは間違いない。人口5万人の島でそれだけの避難民をどう受け入れられるのか。また、パスポートがない方が入国した場合、中国の工作員が紛れ込んでいても区別がつけられない。石垣市では4年前、台風による光ファイバーケーブル断線により、大規模な通信障害が起きた。石垣島の海底ケーブルは沖縄本島から宮古島などを経由して周りの島々をループ状につないでおり、1本が断線しても別の1本で、最低限の通信はできるようになっているはずだった。ただ、そのときは通信できるはずのケーブルが与那国島の土木工事の事故で切られており、2本のケーブルが切れ、固定電話を含め一切の通信が取れなくなった。これは後からわかったことで、当時は状況がわからなかったので、台風を利用した工作員によるテロの可能性も考えた。結果的には不慮の事故だったが、これが台湾進攻の際に避難民に紛れ込んだ工作員により意図的に行われたら、島外との通信は一切取れなくなり、国家安全保障上の大きな脅威になる。

4/44掲載「輸入物価高が賃金や利潤抑制」
みずほリサーチ&テクノロジーズ理事長 前アジア開発銀行総裁 中尾 武彦 氏

――日本で円安が進んでいることについては…。

 中尾 日本製品を輸出する際に高く売れた方がよいし、外国のものを買うときに購買力が強いほうがよい。極端な円高も困るが、通貨がある程度高い水準にあることは決して悪いことではない。米国もドル安政策を志向したことはない。為替が安ければ海外の企業に日本企業は簡単に買収されてしまう。現在のようにエネルギー価格や資材価格が上昇している時に円安になれば輸入物価はさらに高くなり、いずれCPIに跳ね返ってくる。日銀が目指しているデフレ脱却モデルは、自国の生産の価格が高くなっていく、つまりGDPデフレーターが上がってCPIも上がっていくことを期待している。今は輸入物価が上がる過程でそれが転嫁できずに実質賃金や利潤を抑えるという流れになっており、その結果GDPデフレーターはマイナスの方向に動く。CPIは上がるが、実質的な経済活動には下押しの圧力が加わるので、金融政策のかじ取りは難しい。

3/22掲載 「CO2温暖化説はねつ造」
東京工業大学 地球生命研究所 主任研究者 丸山 茂徳 氏

――IPCCの試算は全くのデタラメだという…。

 丸山 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は大気中の温室効果ガスの増加が温暖化と異常気象を引き起こす原因であると断定しているが、それは誤りだ。IPCCは全球気候モデル(GCM)を使って気候変動を定量的に予測したと言っているが、これはでっちあげである。気候変動に関与する変数は極めて多く、全ての変数を定量化してモデルに組み込むことは不可能だ。そのためIPCCは、過去1300年間の樹木(中緯度だけ)の年輪幅(気温との相関関係)のデータだけを扱った。それらのデータは年代依存の規則性がないことから、彼らは、地球の平均気温は過去1300年間一定だったと見なした。一方、年輪幅以外の各種同位体や花粉学を駆使して、IPCCよりも遥かに精度良く再現してみせた古気候学の常識は、彼らからは明らかに無視されている。IPCCは、自分たちが導き出した、過去の気温は一定であるという話に一致するように、各種の変数を調整した。例えば、過去1300年間のCO₂、CH₄、N₂、H₂Oなどの温暖化ガス、あるいは雲量など寒冷化の要素を気温が一定になるように操作した。その上で、過去約130年間の要素のうち変化しているのはCO₂濃度だけだから、気温が0.8℃上昇したのはCO₂濃度が原因であると説明した。見かけは、たくさんの要素を入れた複雑な気候モデルに見えるが、中身はでたらめだ。これがGCMの実体だ。

1/4掲載 「収入範囲内の予算で財政再建
大阪市長 日本維新の会代表 松井 一郎 氏

――財政再建を反映して大阪市債も府債も販売が順調だ。財政再建の秘訣は…。

 松井 当たり前のことだが、「収入の範囲内で予算を組む」ということだ。2008年に橋下徹氏が大阪府知事になった時、大阪府は11年連続赤字で、減債基金の借り入れという禁じ手とも言える財政手法まで行っていた。それまで「役所はつぶれないし、いつか誰かが何とかするだろう、今はどこも景気が悪いから自分の世代ではどうしようもない」というような意識が府庁内には蔓延しており、これを見直すために先ずは職員の意識改革を行った。そして、ドイツでは財政運営の法律があるが、それに倣って大阪では財政運営基本条例を作った。それが「収入の範囲内で予算を組む」という条例だ。

――衆議院の副議長となられて1年。今の国会の仕組みは…。

 海江田 国会議員が衆参各議院の議長と副議長を選ぶ際には、総理大臣を選ぶ首班指名との時と違い、無記名での投票になる。つまり投票した人の名前を記す必要がなく、そのため満票にならないこともある。しかし、私は満票で副議長の信任を得た。それだけに、国会を運営していくうえで偏った判断をしてはいけないと肝に銘じている。もちろん一議員として自分の意見はしっかりと持ち、表明もするが、何か揉め事があった時には、議長とともに公平な立場で判断していかなければならない。そのために、議長及び副議長は会派を抜けることになる。基本的に、国会はすべての物事が会派によって決められていく。例えば委員長のポストや、どの委員会に入るのかといった事も、すべて会派毎に決められていくのだが、議長と副議長には会派がないため、国会でも質問が出来ない。ただ、基本的な政治活動を行うために党籍は残してあるため、私の政党助成金は党へと入る仕組みになっている。

――この1年で難しい判断に迫られた事は…。

 海江田 今のところはないが、これからどうなるのかは誰にもわからない。この1年で残念だった事は、安倍晋三元総理大臣の国葬の件だ。本来ならば閣議前にでも報告や相談を議長や副議長に行うのが筋なのだが、その事前の相談が全くなかった。吉田茂元総理の時には、国会でその議論がきちんと行われていたからこそスムーズに国葬が執り行われたのだが、今回は事前の相談がなかったために我々としても十分な根回しが出来ず、結局、国会軽視、つまり国民の意思を蔑ろにしたと捉えられ、それが今の与党の支持率低下に繋がってしまった。しかも、閣議決定後の議長への連絡さえなかった。岸田総理が一言でも議長や私に相談してくれれば、葬儀までの流れが円滑にいくよう私としても力を尽くせたと思う。それがこの1年間で一番残念なことだ。

――国会の会期が短すぎる…。

 海江田 今国会の会期は12月10日までだったにも関わらず、11月15日時点でも正確な補正予算案が国会に提出されていなかった。それは参議院選挙直後に3日ほど臨時国会を開き、その後は国葬が終わるまで国会を開かなかったからだ。岸田総理としては国葬の問題がある中で国会を開き、色々な批判を受けるような事態を避けたかったのかもしれない。しかし、物価高や旧統一教会問題等、審議すべきことは山積している。それらを早く片付けて、早めに補正予算を組まなければ来年3月迄の執行期間には間に合わない。これは安倍元総理の時代から感じていた事だが、国会が閉幕している期間が長い。野党が臨時国会の開催を求めても、与党がストップをかけている。昔は与党が国会を開こうとすると、野党が躊躇していたものだが、今は逆になっている。

――臨時国会の招集権は内閣にあるが…。

 海江田 通常国会は年1回、1月に招集することが憲法で定められている。会期は150日間だ。他に解決すべき問題が出てくれば臨時国会の招集を決定するが、招集は内閣が行う以外にも、憲法53条によって「いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その招集を決定しなければならない」と規定されている。しかし、ここには要求から召集までの期間期限が記載されておらず、これが非常に大きな問題になっている。昨年6月には野党が要求した臨時国会の召集を3カ月も引き延ばして9月に閣議決定し、結局10月4日に招集された臨時国会で、与党は衆議院解散と内閣総辞職を宣言し、第2次岸田内閣へとつなげるという事があった。安倍政権時代や菅政権時代にも同様に召集拒否が行われている。今年は特に、コロナ問題やウクライナ問題、物価高騰など世の中で対応しなくてはならないことが沢山ある中で、臨時国会がスムーズに開かれないという様な事はあってはならない。この辺りはきちんと変えなければならないと感じている。

――国会の予算委員会を見ていると、予算とは関係のない議論に時間が費やされている…。

 海江田 予算委員会ではあらゆることについて話をすることが出来る。どういった問題を取り上げるかは政党や個人の判断であり、そこで良識のある判断をしなければ、国民世論に繋がってくることは言うまでもない。また、行政が動くためには予算が必要であり、その予算を獲得するためには一見関係のなさそうな話でも、実は繋がっていることもある。とはいえ、確かに最近は議員の不祥事などを取りあげて、それだけで予算委員会の貴重な時間が無くなり、本当に議論すべき事が出来ていないというのも事実だ。本来、不祥事を起こした議員は自ら政治倫理審査会へ出向いてその経緯を説明し、説明責任が果たせなければ、相応の懲罰を受けなくてはならないのだが、そういった議員を見る事は少ない。だから予算委員会などで追及される事になるのだろうが、それで良いのかという国民の声があるのならば、各党は謙虚にその声に耳を傾けなくてはならない。

――国民の税金が無駄遣いされていないかどうか、国政調査権を使って徹底的に調べる時期に来ているのではないか…。

 海江田 例えば、緊急時に必要とされる予備費が、本来の目的以外に使用されるという事例があるが、この問題点は予算が先に確保され、資金使途については後から報告するだけでよいという形がとられているからだ。こういった点は改善していく必要があろう。衆議院には決算行政監視委員会、参議院には決算委員会があり、それぞれに税金の使い方に対する規律を審議する委員会があるが、特に参議院では、最終的な目標を大臣になることとする議員が多い中、決算機能を強めるような取り組みは手を付けづらいという実態もある。この解決策としては、参議院議員からは大臣を出さない代わりに強大な権限を持って任務にあたってもらう様な仕組みも必要かもしれない。或いは、スウェーデンで始まったオンブズマン制度のように、高い見識を備えた第三者が国会議員になり、財政を監視していくという仕組みも一つの方法としてあろう。また、日本には会計検査院というものがあるが、森友事件の時のように、政権に対する忖度が働くことは否めない。国が政策として考える財政規律や成長率予想には非常に恣意的な面があるからだ。そのため、会計検査院とは別に、もう少し総合的に政策の合理性を検証する独立機関があっても良いのではないか。これだけ財政の借金が積みあがってきている中では、中立的な立場からの視点が欠かせない。

――最後に、抱負を…。

 海江田 通常国会にしても臨時国会にしても、一日も多く国会が開かれて、与党と野党がしっかりと議論できる場が確保されることを願っている。過去には各委員会で自由討議の機会があり、それぞれの意見を述べる場もあったが、今は国会のスケジュールがタイト過ぎて、そういった時間も無くなってきている。十分な議論が出来ないような国会では意味がない。また、米議会ではよく公聴会を行うが、日本では法律を作る時や予算を審議する際に行う程度で、基本的に公聴会はあまり行われない。各政党が勉強会として専門家の意見を聞くことはあっても、それはもともと党の主張に沿った人を選んでいるため、見解の相違にぶつかることはなく、それ以上発展しない。だからこそ委員会として公聴会を開くことは重要だ。違う意見に遭遇した時に、どのように対応し、答弁していくのか。そこに政治家としての資質が現れてくると思う。日本にとって何が一番必要なのか、色々な議論を行うことでより良い形を探っていく、そういった開かれた国会を目指し、国会改革に務めていきたい。(了)

――前職は…。

 平林 前職では国連児童基金(UNICEF)東アジア・太平洋地域事務所でオフィスのあるバンコクから、北朝鮮から先進国を除く太平洋諸国、西はミャンマーまで、アセアン全域を見ていた。また、インドネシア、ベトナム、タイ、アフガニスタン、インドなど、アジアの各地で暮らしてきた経験もある。そのなかで、アセアン諸国がいかに日本にとって大事かということが分かると同時に、日本にとってのアセアンの重要性の高まりに対して、現地での日本のプレゼンスが下がってきていることを感じた。プレゼンスの低下には、より他の選択肢が増えたことや、世界的に日本の影響力が落ちていることなど多くの原因があるだろうが、さまざまな人に話を聞き、日本のこの地域における潜在的な役割の大きさにも気づいた。アセアンは、中国と米国に引き裂かれて結束が揺らいでしまうことを防ぎ、統一性と中心性を保つための信頼できる媒介者としての役割を、日本に期待しているように思う。アセアンは各国がバラバラになると「弱い」かもしれないが、結束していれば「強い」。中国・米国といった大国の影響力は避けられないが、飲み込まれることは避けたいという意見は多い。そのような場面での立ち回りは日本が貢献できるところであろう。また、アセアンのパートナーとしては、日本人が自国の弱みと見ているところを、逆に強みとして生かすことができるのではないか。例えば、民主主義国家のなかでこれほど政治が安定している国もない。また、良く言えば主張を押しつけず、一度コミットすれば継続的に働きかける。そういう意味では、日本が果たせる役割は、大きいものがありそうだ。

――日本アセアンセンターの活動内容は…。

 平林 日本アセアンセンターの活動には投資・貿易・観光・人物交流の4つの柱がある。センターは2021年に設立40周年を迎え、さまざまな改革の提言に呼応して、2022年6月に「再考のための5つの目標、5つの戦略、5つの機会」を掲げた2025年までの中期戦略計画「AJC 5.0」を策定した。その際、4つの柱が何のためにあるのかをかみ砕く、いわゆるコーポレート・ナラティブ(組織戦略についての理解促進のための説明)を作った。まず貿易については、「日本とアセアン諸国との包摂的で強じん、かつ、持続可能な貿易」を進めていく。貿易にはある意味「勝ち負け」があるが、例えば貿易の恩恵を幅広い人々が享受できるように、農業分野などに目を向けていく。また、パンデミックでもサプライチェーンの問題が取り沙汰されたが、貿易自体の強じん化・安定化を目指していく。投資に関しては、利益を上げるだけではなく、社会課題に役に立つ投資を行う。何のために投資するかをより重要視し、人のためになる投資をより促進していく考えだ。また、観光においては、「持続可能かつ責任ある観光」をプロモーションしている。可能な限り地産地消、サービスを提供する業者やホテルも地元のものを利用し、また、環境に優しい施設を積極的に利用する、といった観光の仕方で、できるだけ将来のために観光資源を保護していく。昨今、関連産業も含めて観光産業はアセアン各国で非常に重要な産業だ。インフォーマルセクター(統計の数字上に表れない不安定な就業層)や女性も多く就業しており、幅広い層に恩恵をもたらす。人物交流に関しては、若い世代、特にZ世代を対象とした人物交流を考えている。さまざまな調査で見ると、日アセアンのどちらも、若い世代ほど互いに関心がないと出ている。2022年5月に公開された令和3年度の外務省の海外対日世論調査では、日本より中国を「今後の重要なパートナー」だと思っている人が増えたとある。この結果はおそらく、年々調査対象に新しく入ってくる若い世代に、中国の重要性を感じる人が多いためだと考える。日本とアセアンの若い世代には、さまざまな人同士が触れ合う機会を通して、互いのことを理解してもらいたい。単にお互いの国を訪問するだけでなく、日アセアンの若者の間で、同様の社会課題の解決を考察する機会の提供を考えている。

――日本のプレゼンスを回復する具体策は…。

 平林 やはりソフトパワーは重要だ。アセアンの若者もさまざまな国の製品に触れる機会がある。例えば携帯電話では、アセアンの若者には、iPhone(アイフォーン)よりAndroid(アンドロイド)、特に中国のHuawei(ファーウェイ)社の製品などを、安いうえにカメラなどの性能もかなり良いということで、利用する人が多い。車やバイクを買う層がどんどん減ってきている今、電子機器において中国製品は非常に浸透していて、中国への親和性が高くなることも理解できる。今後のソフトパワーの活用では、今まで通り日本製品を売るというよりは、日本が持つ隠されたソフトパワーを使っていく必要がある。例えば食文化やサッカーチームへの関心は高い。当センターでは日本のプレゼンスが低い理由を探るため、日アセアンの15歳から35歳までの若い世代を対象に調査を実施する予定だが、ポップカルチャーに関しても設問を設ける。調査を通じて全体像を把握し、どの分野により注力するかを考えることが重要だと思う。また、日本の若い世代にはぜひアセアンの力を借りてチャレンジしてもらいたい。アセアンの環境を自身のキャリアのステップアップに活用するという考え方だ。例えば、シンガポールは優秀な人を非常に求めており、ビジネス環境も良い。日本での起業が難しくてもシンガポールで起業し、それからまた日本に帰ってくるということもできる。先日、日本のZ世代と懇談したが、クリエイティブな人々が多い。身の丈に合った仕事をしたいという考え方を持っている人や、起業しても日本から出る考えはなく無理はしたくないという人もいるが、できたらその壁を自分で超えてほしい。壁は自分で作っている。日本の若者にはできるだけ大きく育っていってほしいと思っている。

――日本企業の中国からアセアンへのシフトが本格化してきたという印象も受ける…。

 平林 既にアセアン諸国に日本の投資がシフトしていること自体は間違いない。実際、日本の対外直接投資先は、アメリカは群を抜いて割合が大きいが、今やアセアン域内への投資が2番目になっている(日本貿易振興機構(JETRO)対外直接投資統計)。他方、アセアン地域ではビジネスに絡むルールが必ずしも統一されておらず、投資環境に凹凸があるため、10カ国のうち環境のより良い国に投資先が偏っている。投資状況は国ごとで分かれて三極化しているイメージだ。ミャンマーやブルネイは投資がなかなか増えない。ベトナム、カンボジアは、元々強じんに投資環境を作っていて政策的にも日本企業とのシナジーがあったため、パンデミック期にも増えはしないものの減らなかった。他6カ国、特にシンガポール、ベトナム、マレーシアへの投資は増えている。シンガポールに偏りすぎているので、どのようにしてバランス良く域内の国々に投資するかが今後の課題だ。また、アセアン側から見ると、外国からの投資が急速に増え、日本のプレゼンスが下がってきているという状況だ。アセアン諸国はさまざまな国からの投資を増やしている。トップ10カ国の割合でいえば昔は9割を占めていたところが、今は7割に圧縮されている。世界中の投資家がアセアン諸国を見ていて、投資供与国が多様になっている。アセアン諸国から見ればリスクを分散できるという良さがあるだろう。

――日本のプレゼンスが低下している状況に、日本政府はどのような対策をしたら良いと思うか…。

 平林 今、外務省・経済産業省がそれぞれ専門家委員会や有識者会議を立ち上げており、来年の日本アセアン友好協力50周年に向けて新しい政策提言の方向性を検討している。日本アセアンセンターは間接的・直接的に参加しているが、視点は「アセアンに選ばれる日本になる」ということと考える。アセアンのニーズを踏まえ、日本の強みを良く理解し、どうしたら選んでもらい、互いの利益も追求できるかという視点も重要だ。その関係性は日本の思想・経験が優れている、というような10年前、20年前のあり方とはかなり違うため、さまざまなレベルのアプローチが重要だ。「オールジャパン」で、というのは「オンリージャパン」になりやすく、国外のより広い、かつ多層的な戦略的なパートナーシップを構築する、という視点が見えなくなる。アセアンの意見を聞いたり、他の地域とミドルパワーとして互いに協力したりすることで、アセアンに不可欠なパートナーだと位置づけられるのが望ましい。今、日本は実態としてはアメリカの意向に沿った外交をしているとも指摘されがちだが、アメリカの代理人にはなっていない。アメリカと安全保障では一緒に行動しながら、オーストラリア、韓国、インドなどのアジア・太平洋地域内の競争相手にうまく対処してくれるパートナーだと認識されれば非常に有利だ。また、アセアンのさまざまな課題の解決は、実は日本の課題解決にもなる。対等なパートナーシップというのが非常に大事なキーワードだと考える。対等というのは、お互いに持ちつ持たれつな関係だ。例えば今、日本だけでなく、アセアンの一部の国もだんだんと高齢化している。アセアンの高齢者市場への参入や、日本の高齢化政策をアセアン諸国で導入するなど、お互いの知識を活用することで、さまざまにシナジーがあると考える。私は、今後日本とアセアンが対等であり続けることが、日本がアセアンにとって良いパートナーとして選ばれ、アセアンと日本がともに発展することにつながると信じている。(了)

――コロナ対応で行った緊急支援の成果は…。

  われわれへの期待や資金需要に十分に応えられたと思っている。コロナの影響を受けた日本企業の海外事業を引き続き支援するための「新型コロナ危機対応緊急ウインドウ」は、2020年4月30日に設置してから21年の12月末までに件数は326件に上り、金額は2兆1601億円とかなりの規模になった。JBICは、20、21年度における2年間でも案件はそれぞれ200件を超えて、2兆円を超える承諾を行った。コロナ禍で需要が無くなったり、サプライチェーンが寸断されたりするなどにより、外貨での資金需要が多かったためだ。一方で、「新型コロナ危機対応緊急ウインドウ」には危機対応的なものがあり、民業圧迫の問題もあるため、政府系金融機関による支援が経済に良い影響を与えるのか、1つ1つ見ていく必要がある。海外への融資については、日本の企業・金融機関によるドルなどの外貨の長期にわたる調達には限界があり、日本企業の海外進出先での国際競争力を維持する観点から、民業圧迫の問題はないと考えている。出張先では現地の工場などを見学させていただくが、お話を伺ってみると、海外に進出した企業は国内でもますます元気になっている。地域経済の振興という観点からも、海外進出のための資金調達を支えるべきだ。

――コロナ禍が終わり、企業の資金需要はこれから落ち着くのか…。

  コロナが終わると、資金需要が落ち着くとも考えていたが、依然として我々への資金需要が強いままだ。その背景には、ウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機や食糧危機、本年のヨーロッパの渇水やカリフォルニアで相次ぐ大規模火災などの気候変動問題、日米の金融政策の違いによる円安ドル高などがある。特に、M&Aなど数百億ドル規模の巨大資金に対する需要はあると考えている。過去の大型案件としては、例えばオーストラリアのガス田開発案件や、セブン&アイ・ホールディングス(3382)による米国のSpeedway買収、武田薬品工業(4502)によるアイルランドのShire Plc買収などがあった。これまでは、自分たちで債券発行を行ったり日本の民間金融機関から資金調達したりすることができたが、民間金融機関の調達するドルのスプレッドが拡大し、金利の先行き不透明感から債券への需要も軟調であることから、JBICに対する資金需要がより高まるだろう。

――日本企業のアセアン進出件数が10月に過去最高となった。中国からアセアンの流れが本格化しているのか…。

  以前からアセアンへの投資は中国の人件費向上により活発であったが、中国リスクの高まりも相まって今後も増えていくだろう。中国は、中国共産党の経済政策の問題だけでなく、ロックダウンや停電など物理的な障害や、米中のデカップリングといった地政学的問題もある。より費用がかかってもベトナムなど別の国や地域においてサプライチェーンを整備する、二重に構築する必要が出てきた。ただ、アセアンは未だに人件費が安いが、インフラがまだ未成熟で、現地の規制も複雑な場合がある。そうした中で、住友商事が扱っているベトナムの工場団地はどんどん拡大しており、一つのサプライチェーンの形成をおこなっている。さらに、屋根置きの太陽光パネルなどでサステナビリティを意識しつつ、日本企業の進出に優しい環境づくりが行われている。

――どのような企業が海外進出しているのか…。

  従来はトヨタなど自動車産業のサプライヤーで海外進出する企業が多かったが、最近は医薬品・食料品など、海外進出する業種が広がり、単体で進出する企業が出てきている。件数では半分が自動車関連、電機関連だが、岩手県の焼肉・冷麺店がバンコクに店を開くなど幅広い。特に、インドネシアでリサイクルアスファルト事業を行っている土木・水道施設工事を営む菅原工業(宮城県気仙沼市)は面白い。インドネシアから日本に技能実習生がたくさん来ていたが、帰国後インドネシアで活躍できる場を見つけることが課題だった。また、インドネシアでは、アスファルトを輸入し、高価か品質が低かった。リサイクルアスファルトの技術は日本では標準的だが、途上国では一般的ではない。そのため、インドネシアに投資することで、地球環境にも優しいし、インドネシアからきている実習生の帰国後の働き場所を提供することにも役立ち、かつ、気仙沼の町おこしにも役立つという面白い取り組みだ。

――米中デカップリングの日本に対する影響をどう見るか…。

  米中露の地政学的争いの影響を受け、厳しい状況下であるのは日本だけでなく、ヨーロッパなども同様であることを念頭に置きたい。ドイツなどはロシア産の燃料に依存しながら東ヨーロッパの安い人件費を使って中国に輸出していたが、ロシアのウクライナ侵攻により、そのビジネスモデルは崩れた。同様に韓国も中国との取引があるし、米国も米中貿易摩擦を抱えながら米国企業と中国企業との取引が大きい。このような状況でも米中間の軋轢は減ることはなく、増える一方だ。米国は半導体規制など、自国の産業の利害や自国における雇用は重視する。しかし、保護主義的な政策は問題であり、米国が主導するアジア太平洋経済協力(APEC)や日米豪印のクアッド(QUAD)といった枠組みを活用する必要がある。友好国を含めてどうやってサプライチェーンを作っていくか、サプライチェーン全体を見てどこがより重要か、同盟国で協力して対応していくべきだ。日本の民間企業の対応としては、中国に最終需要がある場合には、中国と取引を続けなければいけない。一方で、米国は機微な技術の中国への流出を制限しているため、日本企業も中国からある程度手を引かなくてはいけないケースもある。そのような中で、米国を含めたサプライチェーンの構築を考えて、日本がその中で重要な役割を果たすことがより重要であり、JBICとしてこれを支援していく。

――日本のサプライチェーンの強化方法については…。

  得意分野を磨いて、グローバルサプライチェーンで日本が不可欠な立場を維持することが重要だ。半導体分野で最も高度な技術を求められるチップ(集積回路)については、日本企業の競争力が高くはないが、それ以外のパワー半導体やセンサーなど日本企業が得意な所はある。半導体の製造工程においても、日本企業はいくつかのところで圧倒的なシェアがある。日本は経済力、技術力の観点から、今も無視できない存在だと思うが、今後も競争力を維持していくことが重要だ。残念ながら、日本企業全体を見ると、うまく行っていない業界も多い。拡張的な財政・金融政策によって民間の競争が働いていないところがあり、市場機能を働かせて、いくつかの優れた企業を強化して、競争力をつけなくてはいけない。

――今年の6月の「株式会社国際協力銀行法施行令の一部を改正する政令」の改正で輸出金融と投資金融の対象を拡大した成果は…。

  政策的に意義がある案件をほとんど取り上げられるようになった。法令上扱いを先進国・途上国に分けており、先進国向けは、一定の政策的意義があって融資を行う分野を政令で指定しているが、6月の改正で、半導体や燃料アンモニアなどのほか、新しい技術・ビジネスに対して幅広く対応できるようになった。先進国で事業を行いたい企業が増えているため、対象を拡大する必要があった。その背景には、洋上風力や海底送電線など再生可能エネルギーの導入が進んでいるヨーロッパでのプロジェクトへの投資がある。米国経済は拡大を続けているため、米国への投資は常に一定の需要がある。最近は米FRBが成長よりも、インフレ抑制を重要視しているため、景気減速の懸念はあるが、それでも米国には投資意欲が強い。特に、8月に成立したインフレーション抑制法で、EVや水素などで補助金や税控除など優遇措置が盛り込まれたことは大きい。また、オーストラリアも今までは石油・ガス・鉄鉱石の資源国だったが、クリティカルメタルやインフラ、水素エネルギーなどへの関心がどんどん増えてきている。この政令改正を通じて先進国における投融資を増やしていく。

――SDGsや経済安保などが話題だ…。

  経済安保関連の案件は既に多くあり、ぜひ相談していただければ嬉しい。SDGsでも、われわれJBICは気候変動、海洋プラスティック問題、その他にも社会的な価値のある課題にどんどん挑戦していきたい。われわれがよく言及しているのは、山形にあるSpiber(スパイバー)株式会社だ。そこでは、微生物発酵を利用したタンパク質素材で糸を作り、それを利用して衣服を生産することで、アニマルフリーかつ化石燃料を使わない取り組みをしている。Spiberが米国に進出する際、JBICは設備投資に関する融資を行った。JBICは、気候変動以外のSDGsの諸課題にも取り組んでおり、これをより多くの企業にPRしていきたい。

――JBICの今後の方針は…。

  今後も、地球環境保全への貢献とサプライチェーンの強靱化、質の高いインフラや海外市場の創出を支援する「グローバル投資強化ファシリティ」で日本企業を支援していく。特に、サプライチェーンを重視する背景には、日本企業の中国リスクに対する意識の強まりがある。トランプ政権時における米中対立は米国がリスク要因だったが、現在は中国の動向が警戒されている。中国は自国内ですべてを賄い、自給自足であろうとしている一方で、習近平主席は、グローバルなサプライチェーンの中国への依存度を高めようとしている。もちろん、日用品など中国が最終消費地である企業は今後も中国で稼ぐ必要があるが、サプライチェーンの途中が中国にあるところは中国だけに頼ることはできない。そこで、アセアンや消費地に近い米国、相対的に物価が安くなった日本など色々なところにサプライチェーンを構築する必要がある。われわれJBICは日本企業のサプライチェーン構築を全面的にバックアップしていく。この点、JBICというと資源や石油化学プラントなど大型案件のイメージが強いが、数千億円規模の大型案件も引き続き行いながら、中堅・中小企業の海外案件も地銀などと協働し推進していきたい。(了)

――経済安全保障推進法が5月に成立、8月から段階的に施行されている。政府・自民党としての現在の取り組みは…。

 甘利 現在は、日本の経済活動・市民生活にとって欠かせない品目を選定し、それぞれのサプライチェーンの脆弱性を克服し、いかなる経済安全保障上のリスクに対しても供給不安が起きないようにする作業を行っている。基幹インフラの電気・放送通信・金融・陸海空などの事業運営者に対しても、経済安全保障上のリスクの点検をさせて、扱っている機器が安全保障リスクや緊張関係のある国からの供給ではないか、業務委託先が緊張関係のある国と関与していないかなど、あらゆるリスクを回避することを国から指示している。また、日本にとってのチョークポイントを克服すると同時に、世界にとって日本に依存せざるを得ない品目を探し、技術の構築にも取り組む。日本にしかない技術を持っているということが他国に対する抑止力になる。そのために、JST(科学技術振興機構)とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に補正予算で2500億円を積み増し総額5000億円とした。とはいえ、経済安全保障推進法は常にアップデートしなければならない。経済安全保障と言う言葉自身が10年前にはなかったもので、当時、私が問題提起をしたときは誰からも理解されなかったが、最近ようやく時代が追いついてきた。

――日本はサイバー防衛でも後れを取っている…。

 甘利 サイバーリスクへの対処は、日本が最も苦手にしているところだ。サイバーセキュリティの世界では、攻撃相手を特定するアトリビューションを行うが、サイバー空間で特定するためには相手側のシステムに入り込まなければならない。そもそも日本では、この行為が不正アクセス防止法違反になる。すぐにでも例外規定を作り、サイバーリスクに対処することが違法にならないようにすることが必要だ。また、各国では、サイバー攻撃を通じて対象国の世論を攻撃国に屈服するように誘導するインフルエンスオペレーションが行われている。しかし、日本国民はサイバー戦争の尖兵として乗せられてしまっていることへの意識も弱く、分かっていても反発する道もない。サイバーの世界は平時と有事の区別がなく、常時有事状態だ。日本も常に他国の攻撃を受けているし、サイバーの世界は物理的な世界とは違い、国境もない。現実世界と同じ専守防衛の概念では全く安全でなく、アクティブディフェンス(攻撃的防御)によって先手を打ち相手の攻撃を止めさせる力が早急に必要だ。

――日本はスパイ防止法がなければ、憲法で通信の傍受も禁止されている。既に憲法9条が形骸化されているといっても無視はできない…。

 甘利 憲法は法律を規定する最高法規だが、時代の変遷に伴って想定しない事態が出てきている。憲法作成時にはサイバーセキュリティという概念はなかった。国際的には、法律が時代を捉えてアップデートしていくのは当たり前のことで、憲法を変えないことを崇める極めて特異な意識が日本を覆い、憲法9条があるから日本は平和だという非科学的な、根拠もないことを言う人がいる。米国でも中国でも日本の通信の傍受をしているのに、日本だけ傍受をしてはいけないというのは、世界の実情が何も分かっていない。世界中の先進国で憲法改正をしていない国は日本だけで、国民もこの点には目を向けたがらないきらいがある。

――その意味でもセキュリティクリアランスも重要となってきた…。

 甘利 セキュリティクリアランスとは、重要な技術開発や重要情報に関係する人を事前に審査し、参加資格を付与する制度だ。もし巨額の投資をして最新技術を開発しようとしても、開発段階で他国に情報が漏れてしまったら、官民の投資が全く徒労に終わってしまう。現在は特定秘密保護法によって、政府の特定秘密に関係する公務員と関連する民間人は制約を受けるが、国際共同研究でもセキュリティクリアランスが求められ、その場合、制度のない日本人は参加することができない。欧米では民間人に対するセキュリティクリアランスが法制度に準拠した仕組みとなっているが、一部のマスコミが個人情報の保護などと煽っており、未だに世界的な常識のレベルに追いついてない。