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『スーパーシティ構想』で岩盤規制改革を

内閣府特命担当大臣  参議院議員  片山 さつき 氏

――国家戦略となる「スーパーシティ構想」について…。
 片山 この構想は昨年10月頃に始まり、今年2月14日の国家戦略特区諮問会議で方向性を了承され、4月17日の同諮問会議で法案の骨子が諮問会議決定となり、6月7日に令和初の「閣法」として閣議決定、国会に提出された。すでにこの法案を見ながら色々な都市が準備に入っている。例えば、免許を返納した後期高齢者が急増しているA市では、高齢者の通院の足として、廉価なボランティア・ドライバーを活用しつつ、配車データと健康データ、病院予約データを連動させ、医療・介護のIT化を図ることで、遠隔医療を含む包括ケアサービスを提供するとともに、それらの決済に地域共通ボランティアポイントを使用し社会保険費の抑制を図るといったアイデアがある。また、人口減少・過疎化に直面するB市では、市民合意による市民からの提供データ、行政データ、民間事業者データを積極的に収集し、将来的にマイナンバーカードと連携させたり、地域共通キャッシュレスサービスとの連携を実現させる等、市民サービスのデジタル化を図ることで行政の効率化を目指す。これまでにも再生可能エネルギーの効率利用を目的とした「スマートシティ」や持続可能な街づくりを目指す「コンパクトシティ」など、各自治体による取り組みはあったが、クリアすべき規制に一つ一つ対応していくことは大変で、なかなかスピーディに事が運ばなかった。今回の「スーパーシティ」構想はいわば「丸ごと未来予測型まちづくり」だ。すでに約30の自治体から相談があった。

――実際に「スーパーシティ」を主導していくのは自治体なのか、民間企業なのか…。
 片山 この構想の実現にはある程度の費用が掛かるし、民間企業の協力もなければ実現しない。行政としては、初期費用は掛かるものの効率化による行政経費の削減も期待されるため、データ連携基盤が適切だと認められれば、補助金をつけることも考えている。個人データの保護や、外国からの侵入防御、サーバーやデータのローカライゼーション等、万が一に備えたルール形成は、日本がこの法律・構想によってリードし、国際的なルール形成に貢献したい。また、このような動きは金融システムにも直結してくる。例えば、キャッシュレス決済のために地域通貨のようなものを作る際には、地銀の協力が欠かせない。消費増税対策としてのポイント還元も、このようなシステムが整備されていれば簡単に還元できるだろう。システムのプログラムについては、会津若松のケースではアクセンチュアが請け負っているが、NEC、NTTデータ、富士通、日立製作所、パナソニック等要素技術を持っている日本企業は沢山ある。しかし、日本では規制緩和が進まないためスマートシティの実現は無理だろうとこの数年思われてきた風潮があり、これらの企業も海外のスマートシティを目指す都市で受注している動きもあり、それだけでは非常に限界があると感じている。システムは実際に動かして初めて、サイバー攻撃やウィルスの侵入に遭遇したり、或いは急な停電によるシステムの不具合に直面して、その補修を行いながらよりしっかりしたものになっていく。他の国で試しても国情が違うし、日本での積み重ねがなければデータ連携基盤が適正なのかどうかの判断もつかない。

――この構想を実現させるためにも、強力な岩盤規制改革を進めなくてはならない…。
 片山 この取り組みが日本の一つの地域で成功すれば、全国に広がっていくだろう。先例の取り組みとして、さいたま市が保育認定をAIで行ったところ、職員の手作業で約数十時間かかっていた認定作業がわずか数秒で済み、しかもAIで私情を挟まず平等に選別されたということで、認定されなかった人たちからの苦情も少なかったという。また、東京日本橋の歩道に取り付けられているAI付きカメラセンサーは、警備員による物々しい雰囲気を出すこともなく、例えばお年寄りが途中で気分が悪くなり座り込んだ時や、何か怪しそうな動きをしている人物などをすぐに発見し、警察や関係各所に連携することに成功している。必要なのはデータ連携基盤をオープンソースにして繋げることだ。例えば、医療データにしても、今は各大学病院や各地域がすべて違うシステムを使っているため繋げることに苦労しているが、オープンなデータ連携基盤を整備することで医療や福祉も、マイナンバーカードで統合管理出来るようになる。これが「ありたき未来の姿」だ。

――データを活用した未来都市がすぐそこまできている…。
 片山 2040年には世帯主が75歳以上となる世帯が全体の4分の1になると言われている。高齢で足が不自由になった時に、外出もままならず通院も出来ないといった状態では人間らしい幸せな生活とは言えない。とはいえ、病院や出張所をいくらでも増やせるわけはないため、そういった部分をシステムと公共交通でつなぐことが必要だと考えている。すでにこのような問題に直面している高齢者の方にとっても、買い替えや後付けが難しい自動運転車両を自分で保有するよりも、廉価な公共交通網があったほうが便利なはずだ。自動運転車両でも時速20キロ程度で住宅地内を回る小型カートやミニバスのような、安全が確保されていている乗り物であれば良いかもしれない。

――金融が果たすべき役割は…。
 片山 みずほ銀行のスマホ決済サービス「J-Coin Pay」には50行強の地方銀行が参加予定だ。アリババ傘下の「アリペイ」と提携することで中国人観光客による利用者拡大も見込まれている。このように、金融機関も早く自治体と協力して自行の決済守備範囲を積極的に広げていくべきだ。アクセンチュアやKPMGが行っているようなシステム設計を金融機関もやれば良いのではないか。我々としても、地方金融機関が果たしている役割を重要視しており、規制改革推進会議の中では「地銀が地域活性化事業や中小企業の事業承継を支援する場合には5%を超えた出資を認める」という検討も進めている。また、実際に地方自治体がスーパーシティの実現に向けた取り組みを行う際には、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)やPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)も絡めていくことになるだろう。地方の「小規模で住民合意がとりやすい」という面と「危機的状況にあるためにやらざるを得ない」という面を上手く生かして、積極的に「スーパーシティ」構想に参加してほしい。

――地方創生、規制改革、男女共同参画担当大臣として、その他大きな課題は…。
 片山 企業版ふるさと納税や拠点強化税制がまだまだ深堀出来ていない。移転が無理であればデュアルライフを可能にするような仕組みや、広い意味での「関係人口」の増加策を整えていくことも必要だと考えている。この点、軽井沢や那須塩原、小山、宇都宮などはそういったライフスタイルに対応した取り組みを進めているようだが、日本は新幹線など公共交通費が高いのが一つの難点だ。また、女性活躍推進かつ規制緩和の両面から、金融界から「生命保険募集人」における旧姓使用を認めてほしいとの声もあり、この取り組みも進めている。職場などでの旧姓使用は、確実に広がっている。これまで何らかの届け出が必要だったものに関しては全て、女性が望めば自由に選べるように規制改革を進めていきたい。その他、学歴職歴を持ち、子育てが一段落して時間的に余裕のある女性たちが再び働きたいと思った時に、すぐにマッチングできるような「アラフィフ・アラ還活躍大作戦」も考えている。ハローワークに出向くことなく、ネットを利用して簡単にマッチングしてくれるシステムをつくれば、人手不足の会社にも好都合だろう。企業側には、そういった女性たちのニーズに即した勤務時間や働き方の多様化努力を促したい。これからの時代に即したシステムをスピーディに作り上げる事に力を尽くしたい。(了)

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