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世界的な不均衡で踏み込んだ議論

財務官  浅川 雅嗣 氏

――世界経済の見通しに減速感が見られる…。
浅川 IMFが4月に公表した最新の世界経済見通し(WEO)によると、19年の成長率予測は3・3%(前回予想3・5%)に引き下げられた。この背景には、特に米中間での貿易摩擦に対する懸念、米金利上昇による新興国からの資本流出、中国の景気減速、ブレグジット(英EU離脱)に代表される欧州の政治的不安定の4つが主に挙げられる。ただ、IMFの予測では、20年には3・6%と再び回復する見通しだ。米中貿易摩擦については、いずれ何らかの形で対応されるだろうという期待感がある。また、米金利については1月のFOMCで方向性が変わり、引き上げペースがかなり緩やかなものになると見られている。このFOMCで市場参加者による米国金融政策に対する見方が180度変わり、新興国には資本が再び流入している。その結果、新興国では金利の引き下げがしやすくなり、マクロ経済政策の余地ができたことになる。また、中国では、19年より2兆元規模の減税等拡張的な財政政策を実施している。中国の景気は中長期的には減速が免れないものの、当面急激な悪化は避けられるだろう。さらに、欧州の政治情勢に関してもブレグジットは局所的なイベントと見られ、直近では何かニュースが流れても市場の反応は乏しい状態だ。以上4つのリスクによる影響が表面化しない限りは、IMFの予測通り20年には回復が見込まれる。この結論は、4月にワシントンで行われたG20財務大臣・中央銀行総裁会議でも共有された。とはいえ、米中貿易摩擦のみならず、世界的な経常収支の不均衡(グローバルインバランス)による影響の先行きが不透明となると、やはり市場には下方リスクが残るだろう。

――グローバルインバランスの影響への対処は…。
浅川 グローバルインバランスへの対処に向け、以下の論点をG20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議で提起したいと考えている。まず、経常収支にはサービス収支、所得収支も含まれるという点だ。財の輸出入を表す貿易収支が議論になることが多いが、サービス貿易をより自由化すればグローバルインバランスが改善する余地がある。サービス貿易は米国に比較優位性があるほか、金融サービスに強みがあるイギリスにも強みがある。さらに、日本の経常収支黒字の大部分は、貿易収支でもサービス収支でもなく、所得収支からなる。所得収支は過去の投資による利益であるため、所得収支を決定する要因は貿易収支の決定要因とは全く違うものとなる。この点からも、貿易収支にのみ焦点を当てると正確な議論ができない。次に、為替レートを調整すればグローバルインバランスが調整されると単純に考えがちだが、リーマンショック後の円高局面では世界的な景気回復から日本の対米輸出はむしろ増加した。また、日銀黒田総裁による金融緩和策等の結果として円安が進んだ後は、対米輸出は一定となっている。この背景には、日本企業の生産拠点がより海外に移っていることや、価格が高くても売れるような製品に日本の輸出構造がシフトしていることがある。このように、日本だけ見ても、為替と輸出の動向が連関していない。為替の調整ではなく、各国の貯蓄や投資のバランスを変えないとグローバルインバランスは改善しないということだ。

――貯蓄と投資バランスの現状は…。
浅川 各国の経済構造を貯蓄と投資のバランスで見ると、貯蓄超過の国は経常収支が黒字になり、投資超過の国は赤字となるという恒等式が成り立つ。ただ、同じ貯蓄超過の状態でも、家計か企業かその主体によって議論が分かれる。このため、より緻密な議論が必要だ。家計の貯蓄率が高くなる要因の1つとして、高齢化の進行に伴う引退後の生活に備えた貯蓄が挙げられる。高齢化が成熟すれば高齢者による貯金取り崩しにより家計貯蓄率は逆に低下するが、成熟に至るまでの過程では貯蓄率が上がる。貯蓄率が上がれば経常収支の黒字要因となるが、これは家計にとって経済合理性がある行動ともいえ、政策的に止めようのないトレンドであろう。他方、家計ではなく企業の貯蓄率がプラスになるのは望ましくない。企業は本来、投資により経済活動をして利益をあげる主体である。日本ではこれまでも、法人税の減税やコーポレートガバナンスの強化などにより、投資に向かうよう促しているが、現実には日本の法人部門は貯蓄超過となっており、グローバルインバランスの観点からもここは是正すべきという議論になる。このように、グローバルインバランスを是正するためには、各国のマクロ経済構造まで踏み込んだ議論が必要となる。

――G20福岡会議では、低所得国の債務透明性の向上も論点となる…。
浅川 特に低所得国で債務が累増しており、その持続可能性に赤信号が点っている。最近の傾向では、中国やブラジル、インドなどこれまでと異なる新興国が国際援助のドナーとなる傾向が強まっている。伝統的なドナーは合意されたマルチのルールを通じて援助するが、新興国では必ずしも既存のルールを遵守しているわけではない。このためG20では、主に3点の対応をする。第1に、債務国の債務関係のデータの透明性や信頼性を高めることだ。そもそも総体としてどの程度の債務があるか必ずしも把握していない債務国もある。債務データがある場合であっても、偶発債務の計上が漏れていたり、担保付きの債務がオフバランスになっていたりする。第2に、公的債権者側に対し、債務の持続可能性に向けたG20のガイドラインの遵守状況を自己評価し、公表することを提案している。日本は既に提出したが、まだ提出していないG20のメンバー国もある。第3に、民間債権者のエクスポージャーに対する対応だ。国際金融協会(IIF)は民間債権者が自発的に守る原則を策定している。このなかに債務の持続可能性という項目を取り込むよう進めている。これら3つのアプローチにより、債務の持続可能性向上に寄与するようにしたい。

――国際租税における課題は…。
浅川 どの国からも課税を免れている「二重非課税」企業への対応が課題となっている。外国企業が日本で経済活動をして利益を上げれば、当然日本で法人税を支払う必要があるが、外国企業に課税するためには工場や支店など物理的な拠点が日本にある必要がある。この物理的拠点をPE(パーマネント・エスタブリッシュメント、恒久的施設)といい、PEが日本になければ法人税を課すことができない。ところが、電子商取引では、電子書籍などコンテンツが日本で販売されてもPEがないということが起こりうる。また、ネット広告も同様だが、日本で利益を上げているという現実には変わりがない。そこで法人税を課税する根拠として、PEに替わり収益の源泉は何かということを考える必要が出てくる。もう一つの問題は、これらの外国企業は本社がある本国でも適正に納税せず、いわゆるタックスヘイブンに利益を留保することにより、租税回避を図っているケースがあるということだ。こうしたデジタル課税に関する議論は、私がOECDの租税委員会で議長を務めていた時に始めたが、G20では20年までに対応策で結論を得る予定だ。前者の論点、すなわち何が収益の源泉であるかついては、これまでにイギリス提案と米国提案が出ている。イギリス提案では、消費者(ユーザー)の参加という行為によって利益が生まれると考え、参加行為に着目して法人税を課そうという考えだ。例えば、個人が気に入ったコンテンツをクリックすれば、消費者が自らの消費選好に関するデータを無償で提供することになるが、これが企業にとって大きな付加価値になっていると考える。他方、米国提案は財が売れる根拠として、日本語でいうのれんにあたる考え方をとる。すなわち、ブランド力などの無形財産があるから物が売れると考え、これに着目して法人税を課す。いずれにしろ、共通しているのはこれまで納税が行われてこなかったが、実際に経済活動が行われて利益が上がっている市場国での課税を行うということだ。他方、後者の論点はタックスヘイブンへの対応だ。これにはドイツ・フランス共同による提案が出ている。国である限り課税すべき最低法人実効税率をG20で合意し、タックスヘイブンのようなそれよりも低い税率の地域には、G20で協調して合算課税していこうという提案だ。これまでのOECDでの議論では、税率は国家主権の問題でありそこまで踏み込んだ議論は控えてきたが、デジタル課税をめぐる議論を契機として、初めて実効税率そのものを議論しようという流れとなっている。

――金融規制の枠組みは…。
浅川 金融規制では、リーマンショック後に検討を始めたバーゼル規制の枠組みが最終化した。従って、今後さらなる新しい規制が導入されるわけではないが、足元では各国間で規制の解釈や施行のタイミングにずれが生じている点が問題となっている。このずれにより、海外展開している金融機関が市場の分断で困惑している状態だ。どこまで具体的な政策提言を行えるかは未定だが、グローバル金融機関による経済活動を阻害しないような議論を進めたい。

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