金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

高すぎる外国人投資家の比重

ウィズ・パートナーズ  代表取締役CEO  安東 俊夫 氏

――日本証券業協会の会長を退職なさってから9年。今の会社は…。
 安東 株式会社ウィズ・パートナーズというプライベートエクイティを中心に投資している運用会社だ。野村證券時代はどちらかと言うとセルサイドで、引き受けやファイナンス、M&Aの提案等の顧客対応が主な業務だったが、野村アセットマネジメントの会長となり、機関投資家としてバイサイドの仕事をして面白いと感じた。リスクがあるからこそ、なのかもしれない。ファンド運用会社のビジネスは非常にシンプルで、収益は残高に対する管理報酬と成功報酬だ。運用で難しいのは投資選定と投資タイミングだが、基本的には7年償還で、2~3年で投資を完了させて5年程度で戦略的なイグジット(出口)を考える。これまでに6本のPEファンドを立ち上げて運用しているが、1号ファンドは3倍のリターンで投資家の皆様に償還することができた。今年償還予定の2号ファンドも2倍強のリターンを見込んでいる。

――会社の規模は…。
 安東 役職員は25名、香港の現地法人に6名いる。預かり資産残高は600億円程度で、主な投資先は時価総額50~200億円程度の上場会社だ。ヘルスケアのファンドやAI、IoTのファンドなど、これから成長する分野の中小型株に投資している。投資で一番大事なのは目利きだ。そのために、弊社の投資フロントは証券会社や金融機関の出身者ではなく、事業会社で実際に現場を知る人物が担っている。ヘルスケア部門には藤澤朋行という武田薬品で研究員を10年、M&Aや事業開発を10年行い、経産省の委員にもなっている人物を置いている。また、AIやIoT部門責任者は飯野智という日立製作所出身で前身のCSKベンチャーキャピタル時代からのトラックレコードを持ち、幅広い知識と見識を持つ人物だ。この二人のファンドマネージャーが会社のエンジンとなっている。

――ベンチャー企業などへの投資は…。
 安東 ベンチャー投資も多少は手掛けているが、弊社は上場している中小型株への「第三者割当による成長資金の提供」を特長としている。例えば、創薬の場合は完成するまでに時間と資金が物凄くかかる。未上場ベンチャー企業に対する資金供給はベンチャーキャピタルという存在があるが、日本のバイオベンチャーで上場後に公募増資を実施できる企業はまだ少ないのが現状であり、この点において弊社のファンドは産業をつくる金融エコシステムの一部としても必要な存在であると考えている。

――ファンドの仕事を9年続け、今の日本のマーケットについて思う事は…。
 安東 これは10年以上前から思っていたことだが、外国人のウェイトが高すぎるように感じている。GPIFなど資産残高が大きな機関投資家が日本にも増えてはいるが、結局、株が大きく動く時に活発な売買をしているのは外国人で、リスクをとる分リターンも得ている。日本の機関投資家がもっとアクティブになれれば良いのだろう。また、個人投資家が増えないのも残念なことだ。投資信託やファンドラップなどで間接的に参加しているのかもしれないが、それでもまだ少なく、個人投資家と言えばデイトレーダーなどを連想するような感じだ。貯蓄から投資への流れはまだまだ進んでいないと感じている。

――御社はプロ向けのプライベートエクイティファンドだが、最近の顧客動向は…。
 安東 最近目立っているのは地銀だ。地方は貸し出しが増えるわけでもなく、鞘を抜くわけにもいかないので、運用で何とかしなくてはいけないのだが、今の金利状況では普通に国債などに投資する運用では難しい。そういった資金が我々のようなファンドに向いてきている。地銀にとって今はある意味、金融不安時代なのだろう。黒田日銀総裁も、そういう声を聴きながらも、なかなか金利を上げられない難しい局面にあるのだと思う。そこで我々のような会社が良好なパフォーマンスを上げ、アピールする必要があると考えている。

――金融資本市場全体を見れば、銀行以外でも決済に参入することが出来るようになるなど、大きな変化が起きている…。
 安東 例えば、ブローカレッジに頼らざるを得ないような中小証券会社などの金融機関は、近い将来フィンテックに取って代わられる可能性があり、このままでは先行きは厳しいのではないか。勝ち残るためには、過去の成功体験にとらわれず、マーケットの流れについて行かなくてはならない。弊社が昨年設立し現在募集しているファンドは、AIとIoTなどの新しい技術を活用することで企業成長が加速化され、逆に活用できない企業は淘汰されていくという仮説を持って運用を行っている。どんな状況であれ何が将来の布石になっていくのか見通すのは非常に難しい時代だが、これまでのような自前主義ではなく新しい技術の活用やさまざまな異業種との連携など、オープンイノベーションが金融資本市場にも必要だと考えている。

――リーマンショックから10年、日本の金融不安から20年、大恐慌から90年。そろそろ世界中のマーケットで何かしらのショックが出てくるのではないかという見方がある…。
 安東 確率では12年のサイクルで何かが発生していて、そういう意味で言えば、去年から今年辺りはそれにあたる年と言えるだろう。ただ、これも過去の実績のようなもので、あまりデータを信頼しすぎてはいけない。もちろん、なんとなく不安な部分があるのは事実だ。特にユーロという集合体に関しては、イギリスの離脱、旗振り役のドイツの落ち込み、足を引っ張る国々などたくさんの問題があり、難しい情勢になっていると思う。米中の覇権争いもどうなるかわからないし、日本に対して色々な発言を求められても、その立場はさらに難しいものになるだろう。あまり明るい感じはしない情勢だが、悪い予想は当たってほしくないというのが正直なところだ。しかし、そうした局面を上手に乗り切って運用の成果を上げていくのが我々の仕事でもある。難しい局面だからこそ、力を発揮していきたいと考えている。(了)

▲TOP