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イスラエルへの直行便必要

日本イスラエル商工会議所  会頭   塚本 弘 氏

――日本イスラエル商工会議所について…。
塚本 日本イスラエル商工会議所はもともと三井物産の藤原宣夫氏が創設したのだが、彼がお亡くなりになり、その後任として私が就任した。私自身はJETROの副理事長を5年程勤めており、イスラエルにはこれまでに2回行ったことがある。日本企業による対イスラエル投資はこの4年間で120倍にまで増えていて、すでに日本企業約70社がイスラエルに拠点を持ち、医薬、製造、サイバー、エネルギー、半導体、農業など様々な分野で業務提携が進んでいる。国としてもイスラエルとのネットワークには力を入れており、経済産業省や日本商工会議所、JETRO、NEDOなどが協力して日本イスラエルイノベーションネットワークを築いている。イスラエルが強みを持っているのは半導体やサイバーセキュリティ―、フィンテックなどが定番だが、最近では製薬や医療機器、バーチャルリアリティー、脳科学、デジタルヘルス、ハイテク農業といった分野も注目されており、その関係強化のために世耕経産大臣は2度ほどイスラエルを訪問されている。イスラエル人には「フッパ(図々しさ)」という精神が根本に宿っている。これは、一度失敗してもまたチャレンジすればよい、リスクを取ってイノベーションを起こそうというイスラエル人がもつ精神であり、日本人が最も弱いとされる部分だ。もちろん、日本人もそういった精神はあるのかもしれないが、それ以上に「忖度する」という精神がありすぎて、自分自身をあまり表に出さない。もっと出せばいいのにとも思うが、例えば、イスラエル人は感情をむき出しにして対立することを恐れないが、日本人は感情を隠して対立を避ける。また、イスラエルはゼロから一を作り出すことが得意で、それ以上のものをシステマティックに根気強く作ることはあまり得意ではないが、日本は生産のメカニズムに乗せて、一から百を作り出すことを最も得意とするなど、真反対にある。こうしたイスラエル企業が日本の企業と手を組めば素晴らしい方向に進んでいくのではないか。お互いに得意分野が違う事を生かせば、きっと良きパートナーになりwin―winの関係を築けるものと信じている。

――独立の精神だけでは起業しても科学立国にはなれない。イスラエル国家の仕組みは…。
塚本 最近イスラエルでは「エコシステム」という言葉が良く使われている。企業を育てていく環境も「イノベーションエコシステム」として、投資家・起業家、大学・研究機関、政府、国防軍が手を組んで起業家精神を奨励する文化を作り上げ、多国籍企業に高度な技術や優秀な人材を輩出している。イスラエル国内で起業した新興企業は年間約6000社。そういった新興企業を育てていくベンチャーキャピタルファンドが約180。そしてインキュベーターと呼ばれる研究組織が22程度。さらに米国の有名企業などが保有する多国籍研究開発センターがイスラエル国内に350もある。その他、大学も医療関係も大きな役割を果たしながらイスラエルの新興企業のエコシステムが成り立っている。日本でも30年前ほどから産学連携やテクノポリスといった形でこのようなシステムを取り入れてはいるのだが、なかなか注目を浴びるほどの芽が出ていない。一方で、イスラエルでは着実に一定の発展を遂げている。

――イスラエルには男女ともに兵役制度があると聞く。そういったことも国家の強みと関係あるのか…。
塚本 兵役期間の違いはあるが男女ともに徴兵制度があり、それがイノベーションにも活かされているように感じる。例えば、徴兵されている間に安全保障に対する感覚も磨かれてくるし、非常に優秀な人物は国防軍のセキュリティ関連に配属されて、その環境で育った人たちが民間でのセキュリティイノベーションの担い手になっている。イスラエルはシオニズム運動によるユダヤ人国家であるため基本的にユダヤ人が多く、家庭では子供に対する教育を一番重視しているのが特徴だ。そのため、アインシュタインを始めノーベル賞を受賞するほどの非常に優秀な人物が多い。また、米国でロビー活動に一番力を入れているのも米国在住のユダヤ人だ。イスラエル国民は820万人と日本の人口の10分の1程度だが、その少ない人数で一生懸命頑張り、ハイテクノロジーという分野で世界から注目される存在になっている。

――最近注目されている分野にハイテク農業もあると聞くが、そもそもイスラエルには農業に適した土地があるのか…。
塚本 慢性的な水不足とともに生活してきたイスラエルは、現在、少量の水で農作物が育つような技術を開発している。確かに国土は乾燥しているが、井戸を掘り、そこから水をくみ上げて利用するなど、イスラエルのキブツ(集産主義的共同組合)が先頭に立って農業も行っている。私は一年半前の当会議所企画のツアーで酪農の技術を見に行ったのだが、水が少ない中でも血統の良い優秀な牛をきちんと管理し、非常に効率よく育てている。荒れた土地だからこそイノベーションが必要で、そこに新しさが生まれるということだ。

――これからのイスラエル企業の一押し分野は…。
塚本 現在、日本では超高齢化社会を迎えているが、高齢になると健康が大事になる。出来るだけコストをかけずに健康を維持していくという点で、ジェネリック医薬品や、事前予防に役立つデジタルヘルス分野などには大きなニーズがあるのではないか。また、ハイテク分野でセンサーを使いながらAIやロボットを駆使していくといった事に関しては、日本の強みとイスラエルの強みをうまくマッチさせることが出来ると思う。さらにサイバーセキュリティも欠かせない。金融もまさにそうだ。こういった分野でイスラエルの技術を使っていくことはこれから非常に大事だと考えている。

――イスラエルのスタートアップ企業に投資するには具体的にどうしたらよいのか…。
塚本 先ずは現地に行くことだろう。日本人はイスラエルに対して二つの先入観を持っていると思う。一つはアラブと敵対しているためイスラエルとあまり仲良くしては自分の会社がアラブから切られてしまうという「アラブボイコット」。実際には今、こういったことはほぼ解消しているのだが、まだそういう意識が日本人の中にあってイスラエルとの付き合いを慎重に考える人もいる。もう一つは、テロが多発している危険な国だという意識だ。確かにテロが全くないとは言わないが、それは極々限られた地域で起こっていることであり、イスラエルの最大の商業都市であるテルアビブは海岸沿いで気候も良く快適だ。そういったことも実際に行ってみればわかる。また、最近では東京ビッグサイトや幕張などで行われる展示会やイベントにイスラエルの会社がたくさん来ていて、そこで企業のプレゼンテーションなどを行っているため、イスラエルに行かなくても割と新しいベンチャー企業のプレゼンを見ることが出来る。そこで気に入った企業があればアプローチしてマッチングしていけばよい。イノベーションには初期段階のイノベーションと、ある程度成果を出してさらに上を目指すためのイノベーションがあるが、初期段階での投資は一緒に開発してくというスタンスなので、日本側がお金だけではなく技術も提供できるというプレゼンの仕方でなければイスラエル側の興味を引くことは出来ないと思う。実際には、日本の場合はある程度成果が明確になった状態で企業を買収することが多い。その分金額も高くなるため、もう少し早い段階で色々と手をつけておくと後々の密な協力関係につながると思うのだが、失敗する可能性などを考えるとその辺りの見極めは難しいようだ。

――イスラエルの人々と上手に付き合っていく秘訣のようなものはあるのか…。
塚本 イスラエルの人に限ったことではないが、外国の人と付き合う上で一番大事なのは、人間としてお互いに心を開き正直に話すという事だ。また、どこかに共感を持つということも大事だと思う。私の場合は映画が好きなので、そういったところで話が盛り上がったり、ヨーロッパではオペラの話などでも共感できると思う。その人の人間性がビジネスにもつながっていく、そういう形で私は今まで外国の人たちと付き合ってきた。先日はイスラエル建国70周年記念として、東京初台のオペラシティで、イスラエルの歌姫らRITAさんと日本のEXILEのATSUSHIさんが一緒に音楽のコラボレーションをしていた。そういった文化交流などもあり、日本とイスラエルの往来も昔に比べてずいぶん増えてきているのだが、残念なことに日本からテルアビブへの直行便はない。一旦ヨーロッパに入ってからイスラエルに向かったり、或いは、韓国にはイスラエルへの直行便があるため、韓国仁川で乗り換えるなどしてイスラエルに行っている状態だ。こういった仕事に携わる私としては、日本からイスラエルへの直行便が出来ることを切に願っている。(了)

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