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外国人労働者は必ず定住

浜松市長  鈴木 康友 氏

――浜松市では早い段階から外国人労働者の受け入れを行っていた…。

鈴木 昨年12月に外国人の受入れを図ることを目的に入管法が改正されたが、外国人の受入れという観点から、それに匹敵する改正が1990年に行われた。それは、日本のバブル期で、労働力が不足しているという経済界からの要請を受けたものだった。特に、当時は国内生産していた自動車メーカーなどからの需要が多くあり、日系人の「定住者」という在留資格により来日が可能となったため、自動車産業のメッカである浜松市には大量の日系ブラジル人などが入ってきた。1988年に28人しかいなかったブラジル人は1990年を境に一気に増え、2008年には約2万人となった。そして現在は、浜松市の全体人口80万人のうち外国人が約2.4万人となっている。言葉も文化も生活習慣も違う中で小さなトラブルはもちろんのこと、社会保険未加入者や、いつの間にかいなくなっているような人たちもいた。最初の頃は、今のような住民基本台帳への記録もない中で市としての管理も出来ないでいた。国としては、最初はとにかく短期の出稼ぎをしてもらおうと考えていた訳だが、日系人で定住できる人たちはブラジルに帰ることもなく、結局数年後には家族を呼び寄せた。そうすると、子供の教育や色々な課題も山積してくる。それに我々は一つ一つ対処してきたという歴史があって、今の浜松市になっている。

――今後、全国の自治体も同じように外国人労働者を受け入れて、その対応を迫られることになると思うが、過去の歴史を振り返って、外国人の受け入れを成功させる秘訣とは…。

鈴木 これは行政だけでなく市全体で取り組んでいくべきことであり、その中で核となる組織は絶対的に必要だ。例えば、浜松市には「多文化共生センター」という日本の言葉も文化もわからない外国人がワンストップで利用できる窓口がある。そこでは各種相談に応じたり、色々な情報を提供したり、法律相談やメンタル面でのカウンセリングも行っている。また、日本語教育を行う「外国人学習センター」も欠かせない。浜松市はブラジル人の割合が多いため、外国人支援者にポルトガル語を学んでもらう講座も行っている。外国人学習支援センターは、浜松市が合併した時の旧町役場の庁舎を活用しており、施設の運営にはボランティアの方たちにご協力いただいている。外国人受け入れにおいて、何より大事で一番大変なのは、子供の教育だ。公立学校で言葉の分からない子供に対して特別に行うケアだったり、外国人学校への支援だったり、かなりきめ細かい支援を行っている。

――こういった活動への市の予算はどのくらいなのか…。

鈴木 多文化共生センターや外国人学習支援センターの施設運営だけでも約1億円の予算を使っている。このほか、教育をはじめ通訳の配置や様々なサポートの実施等に必要な財政措置をしている。2001年からは浜松市が提唱して毎年外国人集住都市会議を開催している。これは、豊田、豊橋、鈴鹿など浜松市と同じように急激に外国人が増え、同じような悩みを持つ自治体同士がお互いの情報を交換したり、国に対する政策提言を行う場だ。私は国会議員の経験もあるから言えるのだが、国会議員は現場の細かいことや具体的なことはよくわからないことがある。市長となって現場を抱えると色々なことがわかってくる。だからこそ自治体の長はその問題点をきちんと国会議員に伝えなければならない。実際にこういった取り組みを続けてきたことで、内閣府には定住外国人施策推進室が創設されたり、外国人を含めた住民基本台帳制度が出来たりと、一定の成果は上げていると思う。

――外国人受け入れで一番大事なのは、子供の教育…。

鈴木 日本人の子供は義務教育を受けさせなくてはならないという決まりがあるが、外国人の子供たちは、教育を受ける権利はあっても義務はない。そうなると、生活に窮している親は子供の教育が後回しになり、子供は公立学校にも外国人学校にも行かなくなる。子供の将来が非常に心配になる。そうならないように、浜松市では居住実態と学校にある名簿を突き合わせて調べ上げ、就学に結び付ける不就学をゼロにする取り組みを行っている。一方、外国人受け入れ約30年の歴史の中で第2世代、第3世代の人たちが育ってきているため、今まで支援される側にいた人達が、今度は自分たちの後輩のために支援する側に回っているというような好循環も見られる。言えることは、外国人労働者は必ず定住するということだ。そして、今回の政策が結局のところ移民受け入れになると考えるならば、社会統合政策が必要になる。生活していくうえで必要となるあらゆることをきちんと整えて受け入れをしなければ、大変な混乱を招くことになるだろう。

――今、国で議論していることは浜松市で既に通ってきた道…。

鈴木 今まで外国人労働者の受け入れは特定地域の問題として国では対応していなかったが、今度は国として受け入れを宣言した。新設される在留資格「特定技能」は1号と2号に区別しているが、結局1号だけで済むはずはない。1号認定で入国して5年働き、せっかく仕事を覚えて戦力になった人材を企業は手放すだろうか。企業は使える人材であればもっといてほしいと願い、外国人労働者はそこで2号に変更して家族も呼び寄せ、定住する。実際に浜松市には約2万4千人の外国人がいて、その8割が長期滞在可能な在留資格を持っている。つまりそれは移民であり、日本はすでに移民国家になっている。今回、法務省の管轄下で出入国在留管理庁が創設されてそこで社会統合も受け持つことになっているが、やはり内閣府に「外国人庁」のような省庁横断的な組織を作るべきだというのが私の昔からの考えだ。いずれにしても日本は外国人を受け入れざるを得ない。今後、海外との障壁を排除して経済活動を一体化していくとなると人も動くことになるからだ。そして、そこで必要となるのは、国と自治体の役割を明確化することだ。国は制度を整備して財源措置を行い、自治体はその支援を受けて現場で取り組む。浜松市くらいの規模ならば色々なことが出来るが、例えば人口1万人以下の自治体で同じように手厚いことを行うのは難しい。そういう意味で言えば、県の役割も大事だと思う。教育にしても、浜松市は政令指定都市であるため教職員の配置や給与負担も市が行っているが、政令指定都市でない場合は外国人のための支援方法なども殆ど県が決定権を持っているからだ。そういったことを考えると外国人労働者の受け入れは小さな市町村では非常に難しいだろう。

――海外では自治体における外国人の割合が10%を超えてくると色々な問題が起こってくるというが、人口比率でみて何%くらいが適当だと思うか…。

鈴木 浜松市は現在3%くらいだが、あまり人口比率は関係なく、一気に外国人が入ってくることが問題だと思う。その点、日本の場合は島国であるため大量に移民が流入してきて治安が乱れることはない。計画的に入ってくれば大きな問題はないと思う。浜松市も市町村が合併する前は人口60万人に対して外国人約2万5千人と4%を超えることもあったが、犯罪発生率は政令都市の中で最低レベルとなっている。外国人がいると治安が乱れるというようなことはない。その点、要望の成果でブラジル総領事館が新設されたことも寄与しているのかもしれない。

――浜松市が魅力的な場所だったからこそ外国人も集まってきた…。

鈴木 2016年、私はフランスで毎年開催される世界民主主義フォーラムで、浜松市の多文化共生の取り組みについての講演を行い、それをきっかけに浜松市は欧州評議会が管轄するインターカルチュラル・シティのネットワークにアジアで初めて加盟した。インターカルチュラル・シティとは、外国人や移民を脅威と捉えるのではなく、そういった人たちの持つ能力や多様性を都市の発展や創造、活力に役立てるという非常にポジティブな都市政策だ。欧州評議会がこのネットワークを作り、現在130以上の都市が参加している。今後さらに外国からの人材を積極的に活用していくためにはこのような取り組みが欠かせない。浜松市にはすでに第二世代、第三世代の非常に優秀な子供がたくさん育ってきており、その子らは脅威でも何でもない。米国もIT産業を支えているのはすべて移民の子供たちであり、彼らがいなかったら米国産業はどうなっていたかわからない。日本も優秀な外国人材を入れていかないことには先が見えなくなるだろう。そういった意味では、外国人労働者を正面から受け入れることになる入管法改正は画期的であり大変評価している。あとは、受け入れた後の社会統合の部分を国がしっかりと整備していかなくてはならない。(了)

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