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日本への投資に面倒くささ

THE YOZMA GROUP  Executive Vice President COO  廣瀬 光伸 氏

――イスラエルのファンドであるTHE YOZMA GROUPの日本での運用実績は…。

廣瀬 アジア圏では香港を中心とした東南アジア地域や中国、このほか独自に色々な欧州の会社にも出資しているが、実は日本だけ何も投資していない。この理由は単純で、日本は参入障壁が高いわりにコストパフォーマンスが合わないためだ。我々の考え方では、最大のコストは時間だ。お金は失っても取り返せばいいが、その取り返す時間が1年なのか10年なのかというところにコスパの問題がある。仮に長いタームで取り返せるとしても、投資から回収まではさまざまなプロセスがあり、日本はそのプロセス毎にクリアしなければならない法的な手続きなどにおいてかなり閉鎖的だ。他の株主との関係やその経営者の意識、質の良い投資が来ても色々な利害関係から選択できない場合があるといった問題もある。例えば、海外の有力な仮想通貨事業者が「こうした投資をするから、こういうことをやりましょう」と言っても、日本ではとりあえずブレーキがかかるといったようなことが起こる。やって初めて成果が出ることであって、海外の人間からすると、まずブレーキがかかるというのは非常に問題だ。日本人は、地政学的リスクのある新興国などの投資にはカントリーリスクがあると言うが、これは逆だ。むしろプロセスにコスト(=時間)がかかる日本にこそカントリーリスクがある。つまり、日本で投資をしていない理由を一言でまとめると、単純に「面倒くさいから」だ。

――日本は透明のように見えて、実際は不透明でわかりづらく、投資もしづらい…。

廣瀬 その通りだ。ただ物事にリスクは付きものであるため、例えばこのディールではこの部分は保護されるがこの部分は保護されない、といったような基準を明確にしたうえで、積極的にリスクを負わせていくべきだ。リスクがない投資はあり得ない。どういうリスクを負うかという部分をきちんと開示してガイドラインさえしっかりすればいい。日本のように些細なことにコストをかけ、プロセスに時間をかけるというのは非常にナンセンスだ。例えば上場審査では、3カ年の事業計画、ともすれば5カ年の事業計画、さらにKPIと審査するわけだが、そもそも3年後は今の1万円が1万円ではないかもしれず、このような審査はあまり意味のないことだ。確かに、さまざまな価値観の人が参加するマーケットである以上、一定のルールによる安定性は必要だ。とはいえ金融はダイナミックなところが重要であるため、リスクを与えてはいけないと発行体側を規制する視点だけではなく、「取らせるリスク」を定義したほうが、金商法などの運用はうまくいくのではないか。日本は非常に経済環境もマナーも整っており、保護している特許も多い。ただ内需が強すぎて、特に新産業分野については誰も世界と戦っていないという印象が強い。

――内需が強いため、企業は外に出て行かない…。

廣瀬 日本のコンビニがいくら店舗を増やしても、4万店舗になるわけではない。それなら今アップルが置かれているように、売上台数にこだわるのではなく、サービス収入をこれから増やしていく、どこかで体質転換をやるということが必要だ。アメリカの企業がわかりやすいのは、そういうリスクがあると表明し、だからこういう方針でやるのだということを明確に示すからだ。必ず、北に行くのか南に行くのかをはっきりさせる。明確にしないと、どこの基準に沿えばいいのかその都度わからなくなってしまう。日本で会社を経営している人たちは、そういった今後どう導いていくのかを説明するための大前提の経営指標や、経営方針の説明とコミットメントが弱く、数値とモデルだけにこだわる。日本は機関投資家好みしないマーケットになっていることを同じ日本人として悔しく思っており、だからこそその意識を破壊したい。スモールIPOを駆逐したいと考えているし、ミドルと言われる規模はせいぜい6000億円くらい、大型株のIPOはせめて3兆円以上からと、そういうマーケットに質を変えていかなければならない。そうしないといつまで経っても総時価総額600兆円を超えない。これは意識の問題だ。昔の日本人は理念をアウトプットしてそれを実行する強さがあったが、今の時代は知的教育に走りすぎて、秀才肌は多いものの、そういう理念を実行するほどの力がない。実行する前に妥協し、ともすれば諦めてしまう。こんなサービスを作ってこれだけユーザーを取ろう、という高次元の頭の良さでなく、低次元だからこそ高次元も凌駕し得る基幹技術やインフラになり得るサービスに投資をして、日本のそのすばらしい技術やサービスに海外も投資したくなるようなパイプラインを作りたいと考えている。

――日本の投資環境において、何か具体的な改善点は…。

廣瀬 リスクマネーはリスクマネーでしかない。例えば、アニメの製作会社が毎年100億円投資して、深夜の1クールアニメを50本作るとする。するとニッチなマーケットで何本かは当たる。当たったものが映画などになると、グッズやゲームなどアフターマーケットでブレイクし、1000億円くらいの収益になってくる。そこまでいけば、当たる確率が50分の1でも十分かつ長期的に回収できる。これがリスクマネーの使い方であり、他の事業も同じだ。マーケティングコストの名の下に広告宣伝費はかけるが、研究開発費は絞ってしまう。日本の市場は縮小傾向にあり、そのなかでマジョリティをとるというのは、先ほどのコンビニの総店舗数の話と同じで、日本の人口が3億人になることはないのだから、やはり世界で戦うしかない。世界で戦うからこそ日本が初めて正しく理解できる。その感覚を持った経営者をもっと市場に送り出さない限り日本に未来はない。私は経営者としては優秀ではないが、人の目利きをすることと、人のプラスの部分を組み合わせるのは得意だったため、それを活かすアレンジメントを行い、それなりに実績をあげることが出来た。

――たとえば日本の投資ファンドの税金を安くするといったことは…。

廣瀬 リスクマネーのコストはゼロにして当然だ。お金は社会の血液で、銀行がやっていることは血液の供給で、人間の臓器で言うと脾臓みたいなものだ。古くなった赤血球を破壊するといったような調整弁なわけだ。銀行は中央銀行に対して世の中への調整弁だと考えている。銀行は確かに自分で儲ける努力もしているが、中央銀行と異なりお金を作っているわけではない。しかしその調整弁たるライセンスと機能を果たしているから優位性はあるが、それにかまけてリスクを取らないということではいけない。とはいえ、彼らがリスクを取れるようにするには、やはり何か免罪符は必要だろう。それは例えば、リスクマネーを使うかわりにそれは全損で落ちるとか、かかる経費はすべて税金がかからないといったようなことだ。それだけすれば、富裕層も日本でどんどんエンジェル投資をしようとするのではないか。総時価総額1000兆円にしたいなら、とりあえず証券課税をゼロにするなり何かしらすべきだ。

――IPOにおいて、やりにくいポイントや目に付くところは…。

廣瀬 手順の多さだ。会計面とかコンプライアンス面とかの理論でプロセスの評価をするから、手順ばかりが増えていく。何かが起こるとまた理論でカバーしようとするから事件や事故が積み重なるほど、手順が増えていくだけだ。手順を増やしても担保できないということが、これだけ経験してもまだわからないというのは本当に浅はかだと感じる。責任のありかが明確であれば良いので、上場廃止基準は厳しくするべきだし、もっと退場するべきだ。100社上場させるなら100社退場したほうがいい。知り合いの中国人投資家は、投資してくれと言う日本の上場企業が一番怪しいと言うくらいだ。一生懸命良くない事実を隠すが、自分は日本で上場しているからというプライドが見える、と。上場をしていれば自分に価値があると思っているということ自体、ナンセンスと言わざるを得ない。

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