金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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700兆円を安全・効率管理

JTCホールディングス  取締役会長  田中 洋樹 氏

――JTCホールディングスについて…。

田中 当社は日本トラスティ・サービス信託銀行(JTSB)と資産管理サービス信託銀行(TCSB)を統合するために昨年10月1日に設立した金融持株会社だ。規模の利益を生かしながらサービスの品質を向上させ、日本の資産運用のマーケットのために貢献していくというコンセプトで発足した。グループ全体の預り資産は約700兆円。この額は日本最大で、世界でも8番目に大きい資産管理信託銀行だ。当社子会社のJTSBとTCSB、同業他社で三菱系の日本マスタートラスト信託銀行の預かり資産残高を合わせると、日本には現在約1,000兆円強のマーケットがあるが、その7割近くを当社グループが占めていることを勘案すると、JTSBとTCSBも民間の株式会社ではあるが、私どもが担う有価証券の保管・決済の業務は社会インフラ的な側面が大きい。本店とシステムセンターを含む従業員数は2,000人を超える。バックアップのセンターやシステムなど、被災時の対応にも万全な態勢を整えていかなければならない。

――700兆円の内訳は…。

田中 JTSBはもともと住友信託銀行、三井信託銀行、中央信託銀行、りそな銀行という4つの銀行が行っている信託ビジネスの資産管理部門だったため、信託財産のウェイトが約9割と非常に高い。一方、TCSBはもともとは安田信託銀行の資産管理部門を出発点としており、信託財産のウェイトは約4割弱とJTSBに比べて小さいが、生命保険会社からの包括的な事務のアウトソーシング業務や地銀等からの常任代理人業務のウェイトが大きく、2社それぞれの強みを生かすことができ、相互補完関係はとても良い。バブル崩壊後の90年代初め、信託銀行の経営が悪化し始めた頃、私は日本銀行の営業局で信託担当だったのだが、その頃から「このビジネスは統合した方が良いのではないか」ということを言っていた。当時はまだそのような雰囲気ではなかったが、ようやく2000年の大手行再編の中で資産管理分野の合弁事業化も始まり、当社と両子会社が統合されると、資産管理専門の邦銀の大手信託銀行は、統合後の新銀行と日本マスタートラスト信託銀行との2行のみになる。

――フィンテックとの関わり方については…。

田中 当社が担う資産管理ビジネスは銀行や生命保険会社等が顧客であり、いわばBtoBビジネスだ。一方でフィンテックは、主に個人顧客を主体としたBtoCビジネスで活用されている。現時点でフィンテックの技術が我々のビジネスの在り方に直接大きな影響を及ぼすことはないと思っている。もちろん日進月歩で技術が進んでいく現在、有価証券取引の情報の流れがどのように変わってくのか見通すのは難しい。常に新しい技術の動向には関心を持ち、インターナショナルな世の中の流れには遅れをとらないよう努めている。証券決済のプロセスの中にブロックチェーンを取り入れるなどトライアル的な取り組みも行われているようだが、私は、それらはまだ実務に耐えられるような確固としたものにはなっていないと思っている。そもそもビットコインプロトコルとビットコインコアを作ったサトシ・ナカモトは「信頼できる第三者が存在しない世界で通貨を使うことが出来るシステムを作りたい」とその出発点を語っていたが、証券決済には証券という権利の実体があり、それを誰かがしっかりと管理している。信頼できる第三者の存在を前提とした我々の業務とはスタート地点から違っており、わざわざブロックチェーンを取り入れる必要性は今のところ感じていない。ビットコインは価値が流通している訳ではなく、ビットコインというネットワークに存在するある種の情報に人々が価値を認めているだけだ。ビットコインは誰も認めなければ何の意味も無い記号のやり取りの世界と言えるが、我々が行っているビジネスは国債や債券という実際の権利を持つ価値物をどうオペレーションするかという事であり、やっていることが全く違う。

――今後、注力していくことは…。

田中 JTCホールディングスには現在JTSBとTCSBの2つの会社がぶら下がっている。最終形はこの持株会社と2つの子会社の全てを一緒にすることだが、そこにたどり着くまでにはいくつかのマイルストーンがある。先ずは器を一つに(銀行統合)して、その中に二つの違う事務・システムが存在する状況を作る。今がまさにそれを目指して作業している段階だ。その後これら2つの会社の業務を完全に統合した時に、いかに効率的で競争力のある形に仕上げていくか、それを現在議論しているところだ。銀行統合の時期は2021年頃を目標に掲げているが、先述のようにこの会社は社会的公器という側面もあり、安全・確実にプロセスを進めていく必要がある。一方で時間をかけ過ぎてしまっては折角のビジネスチャンスを逃すことにもなりかねないため、安全・確実を第一に、無駄なくスピード感を持って進めていくつもりだ。

――日本最大の預かり資産を持つ御社にとって、ライバルはいなさそうだが…。

田中 日本国内で言えば営業的な意味での競争はないが、国外に目を向ければ、Bank of New York MellonやState Streetなど、我々よりも一桁多い預かり資産を持つカストディアンが複数ある。当社グループは資産管理業務を専門としており、海外のカストディアンとはビジネスモデルが異なるが、国際的な競争力をつけておく必要がある。JTSBもTCSBも設立当初の親会社が信託銀行であり、そこの資産管理部門が切り離されて出来た会社だ。だからこそこの分野の専門性の高さには自負はあり、事務品質や効率性の面でも決してグローバルベースで負けていないと思っている。日本の資産運用事業が発展していくためには、我々が担う資産管理ビジネスの国際競争力を高めていく必要があるし、ビジネスモデルが違っても効率性を高める努力を続けなければ競争には勝てない。特にコスト競争力をつけることが肝要と考えている。

――御社の目指すところは…。

田中 会社を設立する時に、わが社の理念として「我が国No.1の資産管理専門信託グループとして、資産運用事業の発展と国民の資産形成の一翼を担い、経済・社会の健全な発展に貢献する」ということを掲げた。社是や経営理念というものは大体お題目で体に浸透していかないものだが、当社の場合はこの経営理念を本当に共有できるかどうかが統合の肝だと思っている。この会社が社会的公器であるという性格を持っている以上、その価値観にどれだけ多くの人がコミットしてくれるのか、そこがブレてくると様々な個別の利害が顕在化し、グループとしての統一的な行動が出来なくなってしまう。この経営理念は、まだまだグループ内に浸透しきれていないため、事ある毎にこれを声高に唱えていくつもりだ。将来的なことはこれからだが、証券市場に関連するミドルバック業務をさらに取り込むことが出来れば、当社のためだけでなく社会全体への貢献に繋がると考えている。様々な金融取引をする際にフロント部分は一生懸命になるのだが、その後のミドルバックは個別に行うとお金も人もかかってしまう。先ずは2つの会社の経営統合を成し遂げ、コスト競争力を高めることで、より多くのお客様へ高度なサービスを提供できるチャンスが広がるものと考えている。(了)

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