金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

技能実習生以上に権利が侵害

国士舘大学  文学部教授  鈴木 江理子 氏

――外国人労働者の受け入れ拡大における制度設計に問題がある…。

鈴木 昨年2月、政府はこの問題についてのタスクフォースを立ち上げ、6月の骨太の方針(2018年版)で閣議決定し、臨時国会で入管法が改定された。それはあまりにも急で、しかも「労働力不足に対して外国人労働者を受け入れることはしない」と言い続けてきた80年代後半からの政府基本方針を簡単に変更させるものだった。2016年版の骨太の方針で「真に必要な分野」という表現が出てきて、2018年版で「人手不足は深刻化」としたうえで、「単純労働」ではなく、あくまでも「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材」として外国人労働者の受け入れ拡大を表明するという流れだった。私は、安倍政権が労働市場の需要にきちんと向き合い、外国人労働者を受け入れたこと自体は良いことだと思っているが、技能実習制度がこれまで労働力供給の抜け道として使われてきたにもかかわらず、その制度が維持されたまま受け入れが拡大されることには懸念がある。技能実習制度は搾取やさまざまな人権侵害が発生しやすい構造になっているからだ。そもそも2016年に制定された技能実習法(17年施行)は不十分で、新法施行後も適正化はされていない。今回の改定法審議で、野党は技能実習制度の問題を厳しく追及したが、それならば、技能実習法の制定時に、制度の問題点をしっかり指摘し、もっと批判すべきだった。

――最大の問題点は…。

鈴木 技能実習制度の本来の目的は国際貢献で、今回の新たな受入れは労働力不足への対応だ。目的が異なっているのだから異なる制度設計が必要であるはずなのに、新たに受け入れる労働者の受入れスキームは、技能実習制度を土台にしたものだ。しかも、従来の専門的・技術的労働者は家族の帯同が認められ、在留期間の延長や定住・永住への道も開かれていたが、今回受け入れられる外国人は最長在留期間が設定され、なおかつ単身での来日が条件だ。さらに、民間組織である受入れ機関や登録支援機関が、支援の責任を持つことになっていることも問題だ。受入れ機関や登録支援機関による支援という構図は、技能実習制度における実習実施機関(企業単独型)や監理団体(団体監理型)による支援と同じだ。技能 実習制度には不完全ながら外国人技能実習機構による公的なチェックがあるが、新たな制度となる特定技能にはこういった第三者機関がないため、これまでの技能実習生以上に権利の侵害が起こる可能性もある。

――国に労働実態をチェックする機関がないと様々な問題が出てくる…。

鈴木 特定技能をもつ外国人に対しては、法務省に報酬の支払い状況を届け出ることになっており、また、他の労働者と同様に厚労省(労働基準監督署等)がチェックを行うことになっている。ただし、これまででさえ技能実習生約30万人に対して技能実習機構の職員300人強という少数で対応する大変な状態だったのに、そういった専門機関もないまま、労基署が一人一人のチェックを行うことなど到底難しい。日本人労働者でさえブラック企業・ブラックバイトなどといった問題を抱えている中で、言葉も労働法規も十分に身につけていない外国人労働者が日本人以上に搾取されるリスクはさらに高いだろう。そもそも声をあげてしまったら自分の雇用が脅かされてしまうという恐れや、より多くのお金を稼ぎたいと思う外国人がそういった環境の中で我慢を続け、権利が侵害され続けてしまう可能性は否めない。一方で、海外で働きたいと考えている労働者からすると、日本だけでなく台湾やシンガポール、韓国など色々な選択肢があるなかで、質の高い外国人労働者に来てもらうには日本が魅力的でなければいけないという事も忘れてはならない。優秀な人ほど多くの選択肢を持っており、そういった人たちに選ばれるためには、それにふさわしい環境を日本が備えていなければ、結局、日本にしか来られないという人達だけが集まることになってしまう。労働者の権利が保障され、家族を形成して子供を育てるという基本的な生活を送るための公的な支援が必要だ。NPOや研究者からも、例えば「移民庁」や「多文化共生庁」あるいは「外国人庁」などを作るべきだという声は早い段階からあがっている。しかし、残念ながら今回新設される出入国在留管理庁は「支援」よりも「管理」という機能が大きく、結局のところ、外国人を本当の意味で日本社会の一員として認めていないのではないか。

――先ずやるべきことは…。

鈴木 送出し側、受入れ側にさまざまな利権が構造的に組み込まれてしまっている技能実習制度を廃止することだ。現在の制度では外国人を受け入れる際に仲介業者が不可欠で、そこに利益を見いだす人がいる。労働者と企業とのマッチングにはコストがかかり、結局そこで発生する金銭的負担が労働者本人にのしかかってくる。それをGtoG(政府対政府) という形にして、技能実習制度と切り離すような措置が必要だと思う。また、今回受け入れる特定技能労働者はこれまでの専門的・技術的労働者とは異なる受入れになっているため、外国人労働者の中に階層を作ってしまう事は望ましくない。従来の専門的・技術的労働者と同じように家族の帯同や在留期間の延長を認める制度設計にする必要がある。実際に自分が労働者として外国に行く立場だったとして、5年間家族と離れ離れになるという条件で海外に行こうと思うだろうか。子どもたちの教育にしてもきちんとした受入れ体制ができているのであれば安心して家族と一緒にその国へ行こうと思えるだろう。単身限定の受入れ体制にしてコストを抑えるよりも、社会的コストをかけてでも、外国人が能力を発揮できるような環境を整え、この国を支えてもらう方が、将来的によいと私は思う。

――日本の中に外国人だけの居住地域が出来ることを懸念する声もあるが…。

鈴木 外国人コミュニティができるのは仕方のないことだ。海外に行ってもリトル東京など日本人のコミュニティはある。それをいかに開いた形にするかはホスト社会である日本側の働きかけ次第だ。受け入れて放ったらかしにするのではなく、その後の風通しを良くして日本社会との交流を持つ仕組みを整えれば、住民間の分断や衝突もなくなるはずだ。特に、子どもがいれば学校を通じた交流等でお互いを知る場も増え、文化の違いや誤解を乗り超える手助けにもなるだろう。それが日本社会に新たな文化をもたらし、良い流れになっていくと思う。

――欧米では移民労働者が様々なトラブルを起こしているというニュースもよく耳にするが、日本で就労を続けた外国人労働者が永住権を取得することについては…。

鈴木 欧州の失敗は窓口を広げてケアをしなかったことであり、その反省に基づいて、現在、社会統合を行っている。日本は外国人労働者の受入れに関しては後進国であるため、欧州がなぜ失敗したのかを学ぶことができる。また、今、日本に暮らしているニューカマー外国人の3割弱は永住権をもっており、特別永住者(オールドタイマー)を加えると4割超の外国人が永住権を持っている。ニューカマーの場合、一定期間日本に暮らして永住を申請し、審査を経て永住権を得ることができる。当然ながら審査に通らない人は永住権をもらえない。在留資格の延長や在留資格の変更も同じで、所属機関や入管法上の届出義務の履行など、それぞれの在留資格が定める要件を満たさなければ、期間の延長や変更は認められない。つまり、定住・永住への道をきちんと用意したうえで、その途中の扉を開けてその道を進めるかどうかは本人の努力次第ということだ。そういった開かれた道を目指して来てくれた人たちが、日本社会で生きていく力をつけてもらえば、将来、第二世代、第三世代の子どもたちが母国と日本をつなぐ架け橋となってくれるに違いない。反対に、「労働力」のみをつまみ食いしていると、やがて供給源が枯渇していくだろう。

――外国から呼び寄せて雇用する以上、それなりの覚悟が必要だ。今の政府にその覚悟は…。

鈴木 政府は入り口の法律を変え、日本語教育、生活サービスや多言語化などたくさんの項目を総合的対応策で示しているが、予算措置での本気度はあまり見られない。実際には地域に丸投げして、国の役割は地域での取組みの支援にとどまっている。積極的に取り組んでいる地域に地方創生推進交付金を支給するといったような支援だ。受け入れ企業としても、やがて母国に帰ってしまうような制度ではなく、後継者として事業を継いでくれるなど、地域の産業が活性化するような受入れ方のほうが良いはずなのだが、今回の法改定は、そういった企業の思いに十分に応えるものではない。労働力不足を訴える経済界からの要請に、とりあえず応えたに過ぎず、外国人を日本社会の一員として受け入れる覚悟も法整備も今後の課題だ。(了)

(c)2018 株式会社金融ファクシミリ新聞社
▲TOP