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見せちゃれ広島の底力!

広島県知事  湯﨑 英彦 氏

――昨年7月の広島豪雨災害は大変な状況だった…。

湯﨑 7月豪雨災害では災害関連死を含む115人(平成31年1月15日現在)が亡くなり、5名が未だ行方不明、家屋被害も1万5千棟を超えるという状態だった。今回の集中豪雨は従来のように狭い範囲での災害と違い、広島県のほぼ全域で影響を受けており、被災範囲が広く家屋被害が多かったのが特徴だ。そのため、全壊状態の家屋に住む方はもちろん、半壊や一部損壊でも、綺麗に清掃が終わるまでは仮設住宅に入っていただいた。また、道路や鉄道が寸断されたことで物流が滞り、通学通勤が出来なかったということも今回の災害の特徴だった。一部の企業では従業員が通勤できずに工場の操業に支障が生じるといった状況が2カ月ほど続くなど、インパクトは相当なものだった。そういった間接被害に関しては、例えば、道路は比較的早く復旧して鉄道も一部を除き復旧しているが、一方で直接被害の復旧はまだまだこれからだ。応急的な工事は終わっているのだが、次に同じようなことが起こらないようにするための工事は、例えば、破堤した河川は6月まで、砂防施設の緊急整備は坂町小屋浦地区などの重点地区では12月まで、それ以外は来年3月までという期間を設けている。

――そういった物理的な復旧工事にかかる予算はどのくらいを見込んでいるのか…。

湯﨑 補正予算では7月豪雨災害分の公共事業費で総額1千5百億円程度を見込んでいる。もともと今年度当初予算の公共事業費が8百億円程度なので、その倍に近い額を復旧工事に投入していくことになる。測量設計の手配から色々なところに応援をお願いしているが、その後の土木工事も含めてやはり人手は大幅に足りない。それをなんとか工夫しながら進めている。具体的に2万数千ヶ所もの被災箇所があり、そのうち現在着手しているのは県工事については1~2割程度。復旧・復興に向けてはまだまだこれからだ。災害前に260億円程度あった緊急的な財政出動に備える財政調整基金は現在16億円程度まで減少している。国は国土強靭化のための緊急対策として3年間で3兆円を防災のための重要インフラ等の機能維持に投じることになっているが、今回、さらに災害に備えた投資ということで国から嵩上げしていただくなどの配慮があれば助かることは間違いない。

――「災害を契機により力を入れる」といった策は…。

湯﨑 「早急に日常の生活や経済活動を取り戻すこと」「単に元に戻すだけではなく、より高いレベルの軌道に乗せていくこと」これらを実行する上で「ピンチをチャンスに変えていくこと」という3つの基本方針で、昨年9月に広島県の復旧復興プランを策定した。「見せちゃれ広島の底力!」を合言葉に頑張っているところだ。具体的な中身については、「安心を共に支えあう暮らしの創生」「将来に向けた強靭なインフラの創生」「未来に挑戦する産業基盤の創生」「新たな防災対策を支える人の創生」という4つの「創生」を重点に頑張っている。企業の復旧・復興のための予算は国からの補助金を積極的に活用したり、県の融資枠も150億円程度設定するなどして、計約450億円用意している。災害以前よりも良いもの、生産性の高いものに作り替えていくという点で「創造的復興」を実現させていきたい。特に今はIoTなどデジタル技術の導入が大きな課題になっているため、そういったものを積極的に取り入れることも必要だと考えている。また、防災という点で今回改めて課題として浮かび上がったのは、避難勧告が出ても避難されない方が多かった。いろいろな要因があると思うのだが、その要因をきちんと分析して、本当に避難をしていただくためには何が必要なのか把握すべく、現在調査中だ。その結果に基づいて防災対策を立て直し、いざという時にしっかりと命を守る仕組みや人材を創り上げていく。

――昨年7月の豪雨災害前からの取組である地域金融機関との連携については…。

湯﨑 金融機関も含めて自治体が事業者の皆さんと連携していくことは重要な事だと考えている。もともとは平成26年の広島土砂災害をきっかけに、社会全体で被害を低減させるための取組として「『みんなで減災』県民総ぐるみ運動」を進めており、「知る」、「察知する」、「行動する」、「学ぶ」、「備える」といった側面で色々な事業者に関わっていただいている。例えば、どのくらいの雨量があるのか、どこに避難すべきなのかを知る方法を学んだり、命を守るための避難行動を実際に行ってみたり、避難袋や非常食の準備や、地震に備えた家具の固定方法を学んだり、自治体と事業者が連携して様々なキャンペーンを行っている。さらに、そういったことに関わる事業者の従業員教育といった部分でアドバイスなども行っている。

――瀬戸内全体で取り組むDMO (Destination Management Organization)について…。

湯﨑 広島県が「瀬戸内 海の道構想」を提唱し、瀬戸内という世界に誇れる資産を、広島県だけでなく中国地方、四国地方一丸となって世界中から評価を得られるような観光資源にしていきたいと考えて始めた取組だ。瀬戸内の美しさ、それらを挟む美しい山々を共有する、瀬戸内を囲む7県(広島県、岡山県、徳島県、香川県、愛媛県、山口県、兵庫県)が協力して、瀬戸内ブランドを確立し、地域経済の活性化や豊かな地域社会を実現することを目的に「(一般社団法人)せとうち観光推進機構」を作った。この組織は厳しい地域間競争を勝ち抜くために民間ノウハウを取り入れて戦略と方向性を決め、地域の魅力を統括してマーケティングとマネージメントを行っている。加えて、この取組に賛同した各県の地方銀行等が中心となり、「(株)瀬戸内ブランドコーポレーション」が設立された。この2つの組織が一体となってせとうちDMOを構成している。最大の特徴は(株)瀬戸内ブランドコーポレーションで100億円規模のファンドを作り、クルーズ船への投資や、古民家を改修して宿泊施設にするための投資など、観光プロダクトの充実を目指したエクイティファイナンスを行っていることだ。資金面と経営面で民間企業をサポートする仕組みがあれば、プロダクト開発もかなりやりやすくなり、開発されたプロダクトを(一社)せとうち観光推進機構がプロモーションすることができる。こういったファイナンス機能を持つDMOは世界でも珍しいと言えるだろう。この2つの組織が連携し,せとうちDMOとして,瀬戸内の活性化に取り組んでいる。

――広島県の魅力は…。

湯﨑 広島県は日本をそのまま小さくしたような県だと思う。所得や人口密度などもほぼ日本の平均と同じで、広島市という人口100万人を超える都市から車で30分も走れば、山があり、小川が流れ、田んぼがあるという日本らしい昔ながらの風景が広がる。また、新鮮な瀬戸内海の魚や現代和牛のルーツでもある広島和牛など、日本ならではの美味しい食材も豊富にある。さらに、広島県には嚴島神社や原爆ドームという世界遺産もある。そんな中で、現在、我々が一番力を入れているものの1つは食文化の推進だ。美味しい素材がたくさんあってもそれを調理する人材がいなくてはどうしようもない。すでにミシュランで星を獲得しているようなお店も広島にはあるのだが、さらに若手のシェフを育てるために、県が主催する「ひろしまシェフ・コンクール」の成績優秀者をフランスに派遣して研修機会を与え、数年後に広島に戻ってきてもらうような仕組みを作っている。実際にそういう中から全国の若手シェフコンクールでトップになるような人材も出てきており、そのような形で「広島に行けば美味しいものが食べられる」と認識してもらえるようになれば嬉しい。昨年の災害被害を乗り越え、2019年は創造的復興を成し遂げ、より良い広島県にしていきたい。(了)

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