金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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総合取引所で世界と競争力

日本取引所グループ  取締役兼代表執行役CEO  清田 瞭 氏

――新年はJPXの変革が期待されている。先ずは総合取引所の話について…。

清田 総合取引所の実現は10年来の懸案事項だ。まだ東京証券取引所グループと大阪証券取引所が統合する前の東証時代、株式が中心となっている日本の金融商品取引所はコモディティに進出しなければグローバルな競争には勝てないという考えから始まった。日本株や欧州株、米国株など株式はそれぞれに国籍がある一方で、金や銀、原油や天然ガスといったコモディティ商品およびそれらに関わるデリバティブ商品は無国籍だ。そういった商品を扱う魅力的な市場を提供すればグローバルな投資家を惹きつけることが出来ると考えた。また、この総合取引所の実現については、11年前に第一次安倍内閣で閣議決定までされ、その後も幾度となく「国家戦略」としての位置づけで議論が重ねられ、関連法規制の改正も行われてきたのだが、長らく具体的な話が進んでこなかった。それが動き出したのは、電力自由化に伴う電力先物市場の整備にあたり政府の規制改革推進会議において、現状の商品取引所の経営・市場に対する多くの指摘が寄せられたからだ。

――実際のTOCOM(東京商品取引所)の状況は…。

清田 3年連続最終赤字という状態で、TOCOMの経営体力の限界に不安を感じるグローバルな投資家はTOCOMを利用しづらいという。また、太田弘子さんを議長とする規制改革推進会議では、現状のTOCOMに電力先物市場を任せることは難しいといった厳しい声も出ている。その他にも第一次安倍内閣時に法整備に尽力された遠藤氏が現在の金融庁長官になられ総合取引所創設を積極的にサポートしていただいており、経済産業省においても「本来求めるべき市場のためならば総合取引所に必ずしも反対ではない」という声があるように聞いている。経済産業省が必要としているのは総合エネルギー市場であり、原油や天然ガス、電力などが総合的に取引できる市場の創設を期待している。そんな中で、金融庁と経済産業省の間のコミュニケーションも円滑に進んでいると聞く。何よりTOCOMの濱田社長としても、総合取引所の実現によって真の意味でコモディティマーケットの機能を果たせるようになるのであれば、それは必要なことなのだという意識をお持ちだと思う。

――例えばTOCOMが統合された場合、どこの市場に組み込まれるのか…。

清田 私としては、同じシステムを使っていて、デリバティブに特化している大阪取引所との親和性が高いと考えている。一元的でシンプルになった規制環境のもとで総合取引所を実現することで、JPXグループが有する多様で良質な顧客チャネルを生かして、利用者のニーズに叶う市場運営・サービス拡充を推し進め、アジアにおける我が国コモディティマーケットの存在感向上につなげたい。

――現在JPX内にある市場を統合する話は…。

清田 東証と大証が統合した直後に、東証一部・二部と大証一部・二部、マザーズとジャスダックを統合した方が良いのではないかという話があった。市場第一部・市場第二部は銘柄の性質も類似しておりスムースに統合できたのだが、マザーズとジャスダックについては、歴史的背景や銘柄の性質が異なることから、上場会社や投資家の混乱を避けるため無理に統合するということにはならず、現在の4市場になった。それから丸5年が経ち、2つの新興市場の類似性と相違性をどう説明していくか、あるいは、市場第一部に求められているイメージと実態が乖離しているのではないか、などの課題が見えてきていることも事実だ。市場第一部に関しては、市場第二部やマザーズからであれば時価総額40億円で市場変更できるなど、現在の基準が今の時代にそぐわないハードルの低いものになっているかもしれない。こうした様々な課題を検討していくために、今回、有識者会議を設置することにした。検討の過程では、パブリック・コメント形式で意見募集も行い、来年の春頃までにある程度の青写真を固められれば良いと思っている。もちろん、変更後の姿が上場会社や投資家に大きな影響を与えるものとなった場合は、実現までに相当の時間をかける必要があると思うが、このままでは今の市場がどんどん歪な形になってしまう可能性もあるので、しっかり議論してあるべき市場の姿を描いておく必要がある。

――TOKYO PRO Market、そして取引所全体の課題について…。

清田 TOKYO PRO Marketの認知度が徐々に高まりつつあり、現在の上場銘柄数は30銘柄近くまで増えてきた。近年ではこの市場を足掛かりにJASDAQなどの一般市場に移行するような企業や、知名度や信用力の向上を上場の主目的としている上場会社が多いTOKYO PRO Marketにおいて、上場時に資金調達を行う企業も出てきた。J-Adviserと言われる人たちが証券会社以外から参入してきていることも証券市場を支えていただく仕組みとしては非常に有難いものだ。ここが将来、マザーズなどの一般市場への上場を目指す企業の第1歩目の市場として機能していくような流れができればよいと思う。今はアジアの中でも香港やシンガポールといった都市国家が競争力をつけている一方で、日本は巨大な国内経済力を資本市場の発展に活かしきれていない。株式市場でこそ上場企業の時価総額で世界3番目のサイズを持っているものの、デリバティブは世界で16~17番目だ。インドや韓国、さらには資本市場が自由化されていない中国にも負けている。日本が国力に見合ったマーケットにしようと思ったら現物とデリバティブの相乗効果に加えて、コモディティ市場の拡大が必要だ。

――株のボラティリティが激しいため、昨年、登録制度にしたHFT(超高速取引)などをさらに規制するべきではないかと言う声がある…。

清田 2月や10月にボラティリティが上がった時期があったが、全体としてみれば、例えば米国が2日間で1000ドル下げても日本株は100円ほどしか下げない等、今の日本株の値動きは比較的落ち着いている。HFTはその多くがマーケットメイクを行っており、彼らが流動性を作っているともいえる。彼らがいなかったら個人が不利な価格で売買することになってしまう可能性もあるだろう。マーケットメイカーにより市場の流動性が高くなるメリットは大きい。HFTの登録制が導入された背景の一つには15年夏に起きたチャイナショックに伴う相場の下落にHFTが大きく関与していたのではないかという疑念があった。感情的なHFT悪玉論ではなく本当にHFTがマーケットの動きを破壊しているのかを調べるためにも登録制度が導入された。これによって実際に彼らの売買がマーケットを壊しているのかどうか事後的にすべてチェックされるため、これからのマーケットに対する不安はかなり減っていると思う。登録制導入によって日本株のマーケットから撤退している投資家もいない。

――コーポレートガバナンスについて…。

清田 コーポレートガバナンス・コードを導入して丸3年が経ち、東証の上場企業全体としてのガバナンスは相当良くなっていると思う。とはいえ、企業の中には、色々なしがらみもあり、ガバナンス強化の方向に舵を切ろうとしても、急に組織や体制を変えることができないという面も実態としてあるのだと思う。また、昨今の企業不祥事をみて、「コーポレートガバナンス・コードを入れたことでかえって不正が増えている」と言う人もいるが、むしろ、コーポレートガバナンス・コードの導入によって、今まで隠してきた不正が明るみに出た企業もあれば、ギリギリでガバナンスの改善が間に合って不正を防げた企業もあるだろう。ガバナンス先進国と呼ばれる英国や米国でも、マックスウェル事件やエンロン・ワールドコム事件などの企業スキャンダルをきっかけに内部統制やガバナンス制度の見直しが行われたが、そのような欧州、米国においても今でも不祥事は起きている。日本でも時間はかかるだろうが、着実かつ確実にガバナンスの改善を続けていくことが大切だ。(了)

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