金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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社債市場の更なる発展に寄与

S&P グローバル・レーティング・ジャパン  代表取締役社長  山本 武成 氏

――現在の東京での格付け業務は…。

山本 格付け部門は、事業会社や金融機関、地方自治体などストレートボンドの発行体と、ストラクチャードファイナンスの2つのグループに分かれ、フルラインアップで信用格付けを提供している。我々のような外資系格付機関は、日本の発行体が海外でクロスボーダーの債券を発行する際に利用されることが多く、クロスボーダー債が増えるという昨今の市場トレンドを反映して、投資家から当社の格付けを利用してもらう機会は順調に増えている。日本の発行体は増々海外に収益源を求めるようになっており、海外M&Aを行う際は、海外の投資家を対象とした資金調達をされることも多い。大規模なM&Aでは、外貨を比較的有利な金利で、継続的に安定調達していく必要もあるため、海外のCP市場や社債市場を外貨資金調達の選択肢として考えるのは自然な流れだろう。

――ハイイールド(投機的水準の格付け)の市場についてはどうか…。

山本 外資系格付機関にとってのハイイールド発行体と国内格付機関にとってのハイイールド発行体の目線は必ずしも同じではない。外資系格付機関にとってはハイイールド発行体でも、国内の格付機関からは投資適格水準の格付けを取得していることがあるため、海外投資家向けにハイイールド債を発行している発行体が、国内投資家向けには投資適格社債を発行しているということもある。日本国内市場ではまだ、「BB」や「B」などのハイイールド債の発行は増えていない。当社のデフォルト・スタディでも明らかだが、ハイイールド発行体の累積デフォルト率は投資適格水準に比べて著しく高く、当社のアナリストも信用力の変化を一層注意深く見守る必要があり、投資家にとってもハイイールド投資は、本当の意味での「クレジット」投資と言える。実際、グローバルの格付け分布では、投資適格水準の格付カテゴリーよりも「BB」や「B」の格付け先数の方が多い。今年の前半に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国内外のハイイールド債にも投資できるように運用ガイドラインを改訂したことを踏まえると、日本においてもハイイールド債投資が始まる素地が固まりつつあるのではないかと感じている。

――日本で低格付け債が少ない背景は…。

山本 我々日本国民自身の余資運用先が銀行預金に大きく偏っていることがこの根底にあるのかもしれない。本来は、我々自身が老後に備え、年金に頼り過ぎることなく、自ら資産を増やすべく積極的に資産運用をする必要があるが、投資リスクを過度に恐れ、政府が年金制度を無尽蔵に支えてくれるだろうとの期待が背景にあるのか、金利をほとんど生まない預金による運用に甘んじているようである。債券投資家への支払いは株式投資家への支払いに優先しており、本来、債券投資は株式投資よりは安全な投資であるはずだが、信用力が高くない企業の株式投資は個人でも一般的に行われている。ハイイールド銘柄の株は買っても、ハイイールドの債券はリスクが高いから買うべきではない、というような合理的には説明できない感覚を漠然と持っている人達も多いのではないか。我々のような会社が、市場が低格付け(ハイイールド)債についての正しい理解を促進できるような活動を行うことで、社債市場の更なる発展に寄与できればいいと考えている。

――環境債やハイブリッド(劣後)債など商品の多様化で、格付け手法も多様化している…。

山本 ESG関連に関していえば、デットのマーケットで最初に出てきたのがグリーンボンド だが、「グリーンボンドだから格付け(信用力)が高い」ということではなく、格付け自体は発行体の信用力に基づくのであり、格付け分析上は普通社債と何も変わらず、特別な信用力分析手法があるわけではない。ただグリーンボンド自体には、格付けのような信用力評価とは異なる、環境への影響軽減という信用力とは別の要素が考慮されている。国連責任投資に準じた投資活動は世界的な流れで、グリーンボンドへの投資家の注目度は極めて高い。その一方で、グリーンボンドのグリーン性の評価については、市場はまだ評価手法を模索している段階ではないかと思う。グリーンボンドのガイドライン等の外形的なチェック項目だけを確認するにとどまる投資家もあれば、実際、どれくらい環境にプラスの効果があるのかというところまで踏み込んで分析しようとする投資家もいるだろう。S&Pグローバル・レーティングは、投資家が自身でグリーン性を判断する際の助けとなる「グリーン・エバリュエーション」というサービスの提供を近年開始した。 「グリーンエバリュエーション」はグリーンボンド発行による資金調達で行われる事業が、実際どれだけ環境に良い影響をあたえるのか、たとえば二酸化炭素をどれだけ削減できるか等、についてまで踏み込んだ評価をするサービスだ。グリーンエバリュエーションはS&Pの日本法人が提供するものではなく、日本での評価実績はまだないが、グローバルでは広がりを見せている。

もう一つの投資商品の多様化の流れとして、特に事業会社から、債務と資本の両方の性格を持つハイブリッド証券が多く発行されてきている。金融機関でも、銀行のTLAC債などが、資本増強政策として非常に多く発行されている。ハイブリッド証券は、たとえば一定の場合に発行額の50%を資本としてカウントできるなど、普通社債とくらべ複雑な仕組みが組み込まれており、債券の分析と適切なプライシングは非常に難しく、当社の評価規準も相当な分量となっている。

――S&Pの格付けの特徴は…。

山本 他社の分析手法を研究することはないので詳しくはわからないが、国内の格付機関と我々外資系では格付けの水準が若干異なることがあるとは一般的に言われていると思う。外資系の格付機関間での分析手法の違いについては、こちらも他社の手法を研究することがないためよくわからない。相手の格付手法を見て、自社の格付手法を変えるようなビジネスモデルであってはいけないからだ。ただ、表面的に見えているところで大きな違いといえば、我々のほうが格付け規準がより詳細であるとは言えるだろう。各評価項目毎にその詳細な評価手法が公表されており、格付け導出までの手順とそれぞれの評価手法が明確で、透明性が高いという面が、他社に比較して特徴的であろう。

――リーマン・ショックから10年。当時はCDOで大騒ぎになったが、今後のリスクはどうか…。

山本 危機というのは、同じところから起きるのではなく、思いもよらぬところから起きるから大きな危機になるものと考えられる。かつてCDOの大幅な格下げは大きな問題になったが、その分析規準も当然見直されていて、今では過去のストレス事象を反映して、より厳格なものになっている。もちろんそのセクターも想定したストレスレベルを超えたときには格下げになったり、デフォルトする、ということはあるだろうが、過去の経験からすでに多くのことを学んだセクターにばかり注目していては、本当に大きなリスクの予兆に気づくことができない。日本の場合は、圧倒的に一番大きな発行体が政府であり、政府部門が負債を積み上げる一方、民間部門は投資に消極的でキャッシュフローで負債を減らすという状況になっている。投資家が海外から日本を見たときに気になるリスクファクターは何かといえば、政府負債の持続可能性なのではないか。高齢化や人口減少もこれに関係する長期的なリスクであろう。

――これから力を入れていきたいところや方向性についてはどうか…。

山本 S&Pグローバルが全社的に力を入れているエリアとしては、ESG関連とAI関連がある。ESG関連に関して言えば、企業の社会貢献というとかつては企業にとって対外的なイメージアップ戦略に利用されていたような側面もあったが、最近は、ESGを考慮した長期的に持続可能な社会や企業の実現を目指した「サステナビリティ」の必要性が切実になってきていると感じる。ESGの意識が高い企業でないと投資や取引ができないという投資家や企業が増えつつあり、ESGを無視していては会社として長期的に生存していけないような風向きにすでに変わったのではないか。そういう意味でもESG評価のあり方の研究はより重要となってきており、今後当社グループがESG関連のサービスをどのようにマーケットに提供していくかというのは大きなテーマである。AI関連に関しては、当グループも企業として、AIを活用してどう業務を効率化できるかという観点である。米国のグループ親会社は社内の長期的な生産性の向上を狙って、今年の前半にKensho TechnologiesというAIや機械学習の専門会社を約5.5億ドルで買収した。グループとしてビジネスを今後とも一層大きくしていく所存だが、人員の増加に頼らず、テクノロジーを利用して、既存の業務の効率性をどこまで上げられるかを今後追求していくことになるだろう。また、格付け以外のビジネスとして、S&Pグローバルのグループ内に、S&P500等の投資インデックスを提供する部門、Capital IQなど企業情報・分析ツールを提供する部門、石油等のコモディティ価格のベンチマークを提供する部門があり、常に市場に新しい付加価値を提供すべく模索している。当社のグループとしては、グループ会社間でのシナジーを有効に活用しながら、グループ全体の事業をどのように伸ばしていけるかという点が、今後の課題であり、方向性でもある。

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