金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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仮想通貨は技術革新の中心

マネックスグループ  代表執行役社長 CEO  松本 大 氏

――フィンテックの台頭で日本の証券業界が変わろうとしている…。

松本 フィンテックの台頭は既存証券会社にとってピンチと考える人もいるが、私は「ピンチはチャンスだ」と捉えている。むしろ何も動きがないことのほうが困る。ただ、フィンテックもいいが、日本の証券業界にとってより大きな問題はエクイティカルチャーの育成にあると考えている。我々は米国において日本と同規模の証券会社を運営しているが、米国に比べると日本の個人投資家のエクイティカルチャーが全然育っていないという印象を受ける。大胆なリストラクチャリングやM&A、コーポレートガバナンスなど様々なことが起きていることで上場企業の性能は良くなってきており、機関投資家もモノを言うようになるなど、プロの世界におけるエクイティカルチャーは前進しているように見える。しかし、個人投資家は全然盛り上がっていない。本来ならば株価の上昇とともに、もっとバブル時の前半の頃のような期待感があってしかるべきだと思うが、そういった声が全然聞こえてこない。これにはいろいろな理由があると思う。コーポレートガバナンス改革やスチュワードシップコードなどで発行企業や機関投資家は進歩した一方で、コンプライアンスなどレギュレーションは昔より厳しくなっている。「羹に懲りて膾を吹く」というように、バブル期の証券会社のやりすぎを基準に、いろいろな規制を敷いたため、結果として株価が上昇しても投資の元気がでない環境になってしまった。例えば、個人投資家が読むあるいは見る、雑誌や本、テレビCMでは必ず最後に長いディスクレーマーが用意されている。これを読むと「何かあるのではないか」と疑いたくなる気持ちにもなる。そういったところがエクイティカルチャーの育成を阻害している。ただ、そうした状況を打破するためにフィンテックを利用し、昔のエクイティカルチャーに戻すという考えは時代錯誤だ。今風の盛り上がりをどうやって創っていくかが大切なことだと考えている。

――どうやって今風の盛り上がりを創造していくのか…。

松本 米国では例えば、子供の誕生日にディズニーやマクドナルドの株券を贈れる仕組みがあり、それを受け取った子供は「これは何だろう」と思うものの会社名は知っているので喜ぶ。それが毎年貯まっていけば、大人になってから株式を管理してみよう、証券口座を開設してみようという流れができる。そういったカルチャーを絶やさないための文化が米国にはある。他方では、サッチャーは首相時代に、資本主義は英国が発祥だが、努力して耕していかなければ忘れ去られてしまうとして、BT(ブリティシュ・テレコム)の民営化の際に、国民のほぼ全員が受け取るであろう電話料金の請求書にBT株式を購入する券を添付して配り、購入意欲を駆り立てた。我が国においては資本主義国家として、政府や業界、メディアにおいても、資本主義が忘れ去られないようにしっかりとケアしていかなければならないという認識が少し足りないと感じられる。資本主義発祥の国の英国ですらそういった策を講じている。いわんや社会主義的な色彩の強い我が国においては積極的にそういった活動が求められるが、自分自身も含めて少し努力が足りなかったとの認識もある。

――デリバティブ取引や高速取引などプロがやりやすいマーケットとなった一方、現物を売買する個人投資家が劣後する環境がある…。

松本 デリバティブ取引や高速取引などについては、米国は日本とまったく同じ環境だと認識しているが、全般的なエクイティカルチャーははるかに米国のほうが上回っている。米国と日本との違いは、日本人のほうが個別株投資の割合が高い一方、米国は投資信託が主体であるほか、IFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)の発展も背景にあり、米国では個人が直接ネット経由で個別株を買う人は少ない。この点にカルチャーの相違が出ているのではないだろうか。また、それ以上に大きな問題があるように思える。例えば、税制においても、損益通算期間が日本は短いという欠点はある。日本は3年、次いでドイツが15年、ほとんどの国が永久となっている。その点だけは日本が極端に遅れているが、税率などその他の部分では海外と大きな違いはない。よって、配当の損金算入を実現すべきだと考えている。配当の損金算入が可能となり、上場企業が多く配当を払えば、当然株価は上昇する。また、日本国内に300万社あるといわれる有限会社や株式会社のほとんどの会社の決算が、損もしくはブレークイーブンにあり、中小企業において税金を払っている企業は少ない。皆、経費で落としているためだ。配当の損金算入ありとすれば、源泉分離課税20%はかかるものの、配当が自由に使えるお金になり、配当にしようと思う経営者も出てくる。株価が上昇すればキャピタルゲイン課税が取れる一方で、今は節税・脱税が行われ、ほとんど法人税が取れない現状であるのだから、今よりは税収が増えると思う。こういった改革を実行し、起業してみよう、株投資は楽しいといった雰囲気に変えるような施策をやってもらいたい。

――仮想通貨に将来性はあるのか…。

松本 日本国内では仮想通貨の売買益は雑所得に分類され、最大で50%程度課税される。そういう状況であれば、遊び資金や投機的な資金しかマーケットに入ってこない。欧州では税率を0%に引き下げている国があり、フランスも19%まで引き下げている。金融資産の一部として育てようという意図が見える。そういう税制に変われば、例えば金の替わりにビットコインを保有してみようという動きも出てくるなど、健全な発展につながっていくと考えている。また、仮想通貨で使われている技術、例えばブロックチェーンを使い、公的年金の記録をブロックチェーン化すれば、年金情報が無くなるという事故や、転勤した際に転記されていないという問題も防ぐことができる。社会としての管理コストも極端に下がるだろう。ブロックチェーン技術を使って、さまざまな社会インフラを、より安全で、より便利に、より安くすることが可能だ。その技術に携わる人々が集積している場所が仮想通貨だと考えている。私が1980年代に米投資銀行でデリバティブを始めた当時と、今はよく似ている。グリーディー(貪欲な)なトレーダーと、リスクを取れる投資家と、ロケットサイエンティスト(数学とコンピュータを学んだ金融専門家)、レギュレーター、会計士、法律家など様々な人がデリバティブに群がり、そのなかで会計基準にヘッジ会計が加わり、規制が変更されるなどの過程を経て、デリバティブが成長していった。デリバティブ以外にも、契約書の在り方やコンピュータを使ったシミュレーションの理論など周辺でいろいろな分野でイノベーションが起った。その時の状況と仮想通貨が置かれた状況は大変良く似ていると思う。新しいマーケットが成長するメリットを享受するためには、その中心にいなければならない。コインチェック社のグループ入りは、新しい技術を使って新たな時代に対応する良いチャンスと考えている。

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