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中国、7000兆円の出口なし

日本国際問題研究所  客員研究員 現代中国研究家  津上 俊哉 氏

――中国の現状は…。

津上 今、中国では、特にAI(人工知能)分野に優秀な理工系人材が身を投じている。中国と米国間でAI最先端を走る人やファンドマネーが行き来し、そこだけは米中ボーダーレスになっている感じだ。その一方で、米国側が中国に技術を盗まれるのではないかという妄想を拡大させ、中国国籍の研究者を米国から締め出すような動きもあるが、これはやや危うい動きだと危惧している。実は、最近の米国ではFBIが目を光らせていて面倒くさい、自由に動けないといった思いを抱いている人は多く、中国で一流の研究者がサイニングのボーナスだけで10数万ドル貰えたり、研究費も潤沢にあるとなれば、米国の研究環境よりも中国へ渡ることを望む人が多くなっても不思議はない。米国の一番の強みは、世界中からタレントを集めることが出来るという所だったのに、自らそれをつぶしてしまうことになりはしないか。

――将来的には、中国が米国を追い抜いてしまうと…。

津上 AI分野に従事する中国理工系上層部が大変に優秀であることと、一党独裁の中国ではビッグデータを実社会や実経済に応用していくことが容易であることを考えればそうなるかもしれない。例えば、技術者が世の中の仕組みを変えることの出来る技術を開発し、それを利用しようとした時、欧米等ではプライバシーの問題があったり、すでに出来上がっている業界秩序を崩すことが難しく簡単には変えられないのだが、中国ではトップが「おもしろい。やってみよう」と言えば、いきなり世の中が変わってしまう。そういう意味ではビッグデータ等、情報に由来する新しい技術は、欧米日に比べて中国のほうが浸透は早いと思う。また、米国は中国に対して「技術を盗んでいる」と言うが、その前提になっている「自分たちの方が絶対に技術は上だ」というのは、実は上から目線の思い込みかもしれない。

――公害対策としてEV(電気自動車)購入に補助金をつける政策も行われている…。

津上 中国は、EV(電気自動車)について、購入補助金をつけて実値の半額程度で購入出来るようにしたり、上海や北京ではガソリン車にはナンバーが貰えなかったりと需要サイドをいじる産業政策を実行して成果を挙げた。既に世界のEV車の4割は中国で製造され、走っている。また、特許出願件数や科学技術論文で引用される技術者を見ても、本当に中国は多い。ノーベル賞受賞者だって、日本が1980年頃に力を得て、現在、毎年のように受賞者を輩出していることを考えると、今から20年後の中国には毎年何人かの受賞者がいて、日本は最後に受賞したのはいつだったか、という事になるかもしれない。

――一方で、国営企業に関しては不良債権が多い…。

津上 国営企業というよりも地方政府といったほうが正確かもしれない。国営企業には中央政府直轄と地方政府管轄があり、中央直轄はいわば独占企業のようなものだ。独占に胡坐をかきながら利益はかなり出している。一方、地方管轄は、上場していたり、社債を発行したり、企業と同じように行動しているが、所詮は地方政府の子会社だ。地方政府の実業に従事している鉄鋼などの国営企業もあるが、日本の道路公社、土地開発公社に似た第三セクター的な地方管轄国有企業がたくさんある。こういったところが年間7%成長、6.5%成長といった成長ノルマを達成するために年々多額のインフラ投資を重ねてきた。2009年のリーマンショックの後、地方政府だけでなく不動産業、製造業などすべての業界がもの凄い借金をし、この9年半の間に行った中国の固定資産投資は410兆元(7000兆円)だ。これだけ投資を行うと、優良案件はとうに底をつき、後は借金して投資したのに金利も払えないような低収益、不効率な投資しか残っていないという事になる。市場経済ならそこでブレーキがかかるが、成長ノルマを背負った地方政府は採算が取れないから止めるといった事が出来ない。

――党独裁で、市場経済が完全に働いている訳ではない中国においては、ブレーキを利かせることが難しいと…。

津上 地方政府が破産でもすればブレーキがかかるはずなのだが、地方政府は破産しない。全権を掌握していなければ気が済まない中央政府が、騒ぎが起きると「安定重視」で直ぐに救済するからだ。そうすると、地方政府は「中央が最後は何とかしてくれる」と甘えて無謀な投資に走る。先日も全人代の中で幹部級の人物が「自分の力で借金を返さなければいけないと思っている地方政府など一つもない」という発言をして大騒ぎになっていたが、まさにその通りで、最後はすべて中央政府の肩にかかってくるという構図だ。そんな投資案件の資金調達は危なくて、本来は手を出してはいけないのだが、国民もそういう党と政府のメンタリティにつけ込んで危ない金融商品に手を出す。地方政府や国有企業の借金は中央財政が連帯保証しているようなもので最後は必ず救済されるはずだと信じ切っている。そういう「(「お上」による)暗黙の保障」に対する「信仰」の存在が、働くべきブレーキを無効化して投資の暴走を生んでいる。今後も暫くそういう流れは続くだろう。

――7000兆円近い投資はそう簡単には返せない…。

津上 中国経済がやってしまった大変なエラーだ。習近平政権もこの状態を維持できるものではないという認識は最初からもっていて、なんとか方向を変えたいと思っている。今、元が安くなっているのは米中貿易戦争が起きたために当局が元安誘導しているという人もいるが、それは俗説であり、むしろ当局は元安の歯止めが効かなくなることを非常に恐れている。それは中国人のカネが海外に出たがるニーズが潜在的に極めて強いからだ。7000兆円も投資したら、中国国内にはまともな投資機会はもはや残っていない。不動産投資も、日本であれば利回り3.5%くらいあると思うが、中国はその半分も届かず、そのため、日本に遊びに来た中国人が日本の不動産利回りを知ると、カネを海外に持ち出す方法さえあれば、中国で保有しているマンションを売って日本の不動産に投資したいと考える。現在は資本流出を防ぐために中国当局が至るところでバルブを絞めているが、潜在的に資産の持ち出しを望む圧力は強く、ダムに例えれば、その水位はどんどん上がっている。そういう中でなんとか元の暴落をコントロールしなければならないというのが今の中国政府の立ち位置だ。

――バブルが崩壊する恐れがある…。

津上 資本移動を完全に自由化すれば、中国の不動産バブルは崩壊するだろう。そうなれば中国共産党も終わる。中央政府は、バルブを開けたらどうなるか、考えただけでも恐ろしいと思っている。これは共産党が市場メカニズムを信用せずに任せなかったからだ。98年のアジア危機の時に、中国は人民元を切り下げないと強く宣言して世界中から称賛されたが、バルブを閉めている間にたいへんな量のカネが国内に溜まってしまった。今、バルブを開ければ、途方もない資本流出と人民元暴落が起きて世界中が経済危機に陥り、中国は戦犯だと言われるだろう。実は、2015年の元安騒ぎの時にも中国では資本流出が起きたと言われているが、当時は、中国企業が保有する1兆ドル超の負債残高の数千億ドルが繰り上げ償還されたり、華僑など海外居住者が保有する元建て預金が解約されたりと、この二つで資本流出の3分の2程度を占めたと言われている。つまり、大量に元を売ったのは海外投資家ではなく中国語を話す人々だ。そこが20年前のアジア危機とは全く違う。ところで、それから3年が経ち、中国企業の短期外債と人民元預金の残高は元に戻った。つまり、何かあったときに元売りに回る「弾薬」の備蓄はかなり進んでいるということだ。他方、2015年に3兆6~7千億元程度あった外貨準備高(市場介入のための原資)の方は元安騒動時の市場介入で使って3兆元程度に減って、それからほとんど回復していない。次に元安が起きたときの為替防衛は簡単ではない。そういう時に輸出産業のために当局が元安誘導をするはずもない。

――フィリピンのカジノには、中国人がマネーロンダリングのために来ていると聞く。元を替えて外に持ち出したいという気持ちが強いのだろう…。

津上 庶民も含めて皆そう思っている。今、中国の銀行の窓口では一人年間5万元まで外貨に両替することが出来るのだが、その枠を使わない人から借りてまで外貨に替える人もいる。そうして、海外旅行や子供の海外留学のための贈与等、一般国民による外貨取引は収支という名目で年間2000億ドル超、つまり年間何十兆円という規模で起きている。その裏側には資本逃避やマネロンが隠れていると言われている。

――ハイテク産業が伸びてくる一方で、7000兆円もの借金を抱えている中国は、今後どのようになっていくのか…。

津上 2014から2015年にかけて行ったニューノーマル(新常態)の構造改革も最初はうまくいったが、2016年に国務院や地方政府の既得権益側から反乱が起き、再び公共投資の大アクセルが踏み込まれた。「権力集中」が言われる習近平でも、それを止めることが出来なかったのだから、中国はこと経済政策においては言われるほど権力集中型ではないのだとも思える。今は米中貿易戦争が起きてしまった。トランプは「中国経済は問題も抱えているので、習近平は長く抵抗することはできないはず」と楽観的に考えているように見えるが、「経済の問題を抱えて苦しい」のは事実でも、そのことだけで中国が米国に頭を下げる事はありえない。それは、中国における愛国主義、外国の圧力に屈しない精神の強さは歴史を紐解けばわかる。宋の時代に遊牧民族に圧迫されながらも、国内では常に徹底抗戦派が優勢で、「宥和派は国賊」という価値観が生まれて以来900年。知日派で「日本と戦うべからず」という対日政策をとっていた汪兆銘は、日本との戦争後、墓まで暴かれた。習近平だって、「米国の恫喝に屈した」と見られれば国賊といわれてしまう。しかし、トランプ大統領や現米政権内には、そんな中国の歴史を知る者は一人も居ない。もう一押し、二押しすれば折れてくるとタカをくくっているのだと思う。

――中国と米国が泥沼にはまってしまうと、世界経済は…。

津上 米国が利上げをしてドルの流動性が収縮し始めたせいで、新興国経済はヨタヨタし始めている。今後中国経済が減速し始め、最後は米中の貿易戦争とマイナス要因が重なると世界の金融マーケットに何か起きやしないかと不安だ。日本は米中貿易戦争を「対岸の火事」のように思っているかもしれないが、中国の膨大な対米貿易黒字の裏側には日韓台の部品・素材・工作機械などの輸出が隠れている。米国の制裁規模が2000億ドル、4000億ドルと積み増しされれば、日韓台の経済も無事では済まないだろう。貿易戦争による経済悪化を重く見た中国は、またデレバレッジを先送りして財政出動など経済刺激策のアクセルを踏むと言い出した。が、中国のマーケットではこれを「毒を飲んで渇きを止める」と評している。中国は今、いよいよ出口がなくなって、かなりつらい状態だ。とはいえ、資本輸出国が中央財政に負担を負わせるかたちで財政を酷使するのなら、そう簡単に潰れるものではない。その最たる例が我が日本だ。中国経済もそう簡単には潰れないが、皆、この先に明るい未来があるという思いはどんどん減っている昨今だと言える。(了)

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