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紛争解決手段の整備で信頼向上

証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)  特別顧問  滝本 豊水 氏

――証券・金融商品あっせん相談センターの特別顧問に就任された…。

滝本 7月から新たに特別顧問となり、法的な側面から助言をしている。証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC、フィンマック)は裁判外で紛争を解決するADRのうち、金融分野を事業とする団体だ。公正中立な立場で弁護士が紛争の解決にあたっている。以前は日証協の内部でこの業務を行っていたが、さらに中立性を確保するよう、09年8月に特定非営利活動法人(NPO)として設立された。組織は25名の職員に加え、現在38名の弁護士があっせん委員(紛争解決委員)として所属している。あっせん委員はフィンマック専属の弁護士ではないものの、証券の専門知識や実務経験を持ち、外部の有識者によるあっせん委員候補者推薦委員会で客観的な視点から選ばれる。このように、公平中立の立場を維持するための工夫がされているのが特徴だ。

――個人投資家にとって、利用メリットは多い…。

滝本 ADRは裁判と比べ、証拠調べや証人喚問に要する時間がないため、迅速な解決を図ることができる。証券会社など金融機関と申立てをした顧客の間に入り、公正中立の立場からトラブルの解決を目指す。裁判では結論を必ず出す形となるが、ADRでは双方の主張を聞き、和解案の提示などにより解決を促している。私自身もあっせん委員を長年務めており、これまで65件程度の案件を手がけた。このうち50%超の案件が和解に至っている。また、あっせん申立てにかかる費用は2000円から5万円までと、裁判と比較してかなりの安価で利用できる。原則公開で行われる裁判と異なり、非公開で行われる点も特徴だ。加えて金融機関は、フィンマックであっせん申立てを受けた場合は必ず応じなくてはならない。あっせん委員は紛争解決にあたり、資料の提出などを求めることができる。

――あっせん申立ての傾向は…。

滝本 17年度のあっせん申立て件数は129件と、16年度(152件)対比では減少した。相場が堅調な時は損失も少なく申立て件数が減少する傾向にある。逆に相場が下降局面に入れば当然紛争は増える傾向にあるが、直近では個人投資家が証券会社に取引を一任するケースや、証券会社が無断で売買するケースはかなり減ってきている印象である。一方では金融商品が非常に複雑化しているうえ、利回りも低水準で運用の成果が出にくい。このように投資環境が良くないなかでは、個人投資家がハイリスク・ハイリターンの商品に手を出しやすい。その結果、ハイリスク・ハイリターンの商品により損失を被り、申立てにつながるケースが出ている。ところが、一般の個人投資家の間でフィンマックの存在は広く知られていると言えないのが実情だ。このため、個人投資家の方々には、もっと知っていただきたいと考えている。

――金融商品の複雑化も背景にある…。

滝本 1つの例では、野村証券が7月、顧客から金融商品の販売時に商品性やリスクの説明が不十分だったと申し出を受けたとして「心よりお詫び申し上げる」とコメントを発表した。この金融商品は、米国株式市場の将来の変動見込みを反映した指数(VIX先物指数)と反対の値動きをする上場ETN信託受益権で、2月に早期償還が決定した。同社は「お客様本位の業務運営を実現するための方針」で掲げている、重要な情報の分かりやすい提供の点で不足があったとしている。金融庁が金融機関に取り組みを促している、顧客本位の業務運営に関する原則(フィデューシャリー・デューティー)が背景にあるが、このような発表を金融機関が出す事例はこれまではなかったと思う。同社によると、あっせん等の案内も含め解決に向けた提案をしているとされ、フィンマックにも案件が寄せられている。難しい仕組みの商品であっても、購入する個人投資家はそれなりにいて、複雑な金融商品では値上がり期待も大きいものとなるが、損失を被るリスクも高い。このように複雑な商品に関してあっせんが申し立てられる場合もあり、証券市場の健全な発展に向けては、あっせんのような紛争解決手段が整備されていることが重要だ。

――複雑な金融商品は個人投資家への販売を制限すべきか…。

滝本 複雑な商品であっても、顧客が十分理解し、ニーズに合っているなら制限する理由がない。投資家が商品の特性をよく理解して投資したうえで、損失を被るというのは相場としてやむを得ないだろう。先程例に挙げた金融商品でも、機関投資家が有効なヘッジ手段としてリスクヘッジといったニーズに即したケースはいいと思う。しかし、一般の個人投資家に対してこのような複雑な商品を販売するのは慎重な配慮が求められるのではないか。

――高齢者や、特に認知症の投資家に対する販売は…。

滝本 高齢者や認知症の(疑いのある)投資家に対する販売を背景とした紛争は多い。まず顧客の知識や財産の状況などに照らし、不当な勧誘をしてはならないという適合性原則が問われ、さらに理解できるように説明義務が果たされているかが焦点となることもある。金融機関では、社内規則等で複数の社員で訪問する、家族同席を求めるなど高齢者向けの勧誘には慎重な手続きを取るようにしているが、面談について、最近の事例で、面談不要との同意書があるとして面談をしないケース、社員一人での訪問であるにもかかわらず複数での訪問として社内報告したケースなどが見られる。判断力がない顧客に販売するのは当然望ましくなく、金融機関に過失がある場合も見られる。ただ、顧客の特性も様々なことから、年齢で区切って一律に販売を禁止するなどという対応は本来は望ましくないかもしれない。

――ネット取引の進展は…。

滝本 金融商品のネット取引は、勧誘や推奨が行われる場面は少ない。個人投資家が自ら商品を選んで投資銘柄を決定するため、自己責任の色彩が強い。ただ、金融商品への投資にはプロによるコンサルティングが合う面もある。プロの意見を聞いたうえで、自ら判断し投資する利点が高いため、ネット取引だけになるとは考えられない。最近ではフィンテックにより金融機関の仕事が減少するといわれるが、金融商品のコンサルティング業務は今後もなくならないと思う。

――フィンマックの重要性が増している…。

滝本 かつて証券会社による損失補てん事件が起きたが、有価証券売買取引等について裁判やあっせんなどの手続きを経ずに顧客と和解することは金融商品取引法上禁止されている。透明な証券市場の発展が日本経済にとって重要な要素になっており、このように紛争解決について客観的な手続きが求められているなかで、証券市場への信頼を高めていく観点からフィンマックの意義も高いと考えている。

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