金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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手作りのM&Aで海外進出

UCCホールディングス  代表取締役副社長  志村 康昌 氏

証券学習協会主催の講演会より構成

――御社のM&Aが成功している秘訣は…。

志村 基本的には、マネージメントに良い人材がいる会社を割安に買うことと心得ている。出来れば規模は小さいよりも大きい方が良い。理由は、資源をたくさん送り込める余地があるからだ。もう一つ、私の秘訣だが、デューデリジェンスのチームは、私が以前働いていたGE時代から同じ弁護士・会計士チームに参加頂くこととしている。専門家の方と信頼関係を築いていれば、多様な創造的な意見が出てくるからだ。また、今まで扱った案件の中で、証券会社や銀行からの持ち込み案件はほとんどなく、基本的には自分たちで発掘して進めている。

――御社の海外展開については…。

志村 現在は欧州とアジアを中心に展開している。UCCでは2010年頃からそろそろ国内だけではなく海外を視野に入れようという話になり、私は米国か欧州をターゲットに考えていた。理由は、コーヒー市場の規模と安定性が高いからだ。また、海外展開の方法としては、一から投資をすることは全く考えておらず、最初から会社の買収を通じて進出することを方針としていた。特に2012年は、ユーロが100円~110円程度で歴史的に見てもかなり安い水準にあったので、欧州には非常に高い関心を持っていた。一方で、当時は、日本全体で東南アジア投資が大ブームで、社内的には東南アジアに行くべきだという声が大きかった。とはいえ、現実的には消費国としてみるとやはり先進国が中心で、しかも東南アジアには買収できるような対象会社は限られていた。

――最初に始めた活動は…。

志村 とりあえず情報の集積地であるシンガポールに出向き、現地で多数の人に面談し、提示された選択肢の中に欧州の案件があった。その話を聞いてすぐにロンドンに行き、直接相対で交渉する権利を獲得し、半年後に買収をする形になった。その会社はイギリス、オランダ、スペイン、フランス、スイスの5カ国に製造設備を持っていて、イギリスであれば「ハロッズ」「テスコ」、スペインであれば「メルカドーナ」といった有数の流通会社のプライベートブランドのコーヒーを製造している、ユナイテッドコーヒーという会社だった。欧州では日本とは異なりプライベートブランドのコーヒーが高級品に分類されており、この会社を買収することによって、当社の売上高に対する海外比率は約30%と飛躍的に伸びた。これはUCCにとって初の大型案件で、500億円を超える案件に投資することにかなり緊張したが、それでもお陰様で順調に推移している。今では上島グループCEOからは「更に海外比率を上昇させてください」と言われている。もちろん、そう容易なことではないので、じっくり取り組んでいくつもりだ。案件の発掘に足を運び、直接話をして、相手をよく見て、交渉事も基本的には自分たちで行う。一部専門家の手は借りるが、手作りでこういった活動をしているのが当社のM&Aの特徴といえよう。

――コーヒー業界の今後のポイントは…。

志村 コーヒーにおける粉、豆、カプセルの各カテゴリーの成長力を見てみると、グローバルでは粉と豆の成長率が横ばいか微減なのに比べて、カプセルは8%の成長率を示している。特に、北米、欧州では非常にこの傾向が強い。背景には、核家族が増え、みな仕事についているため、一度に何杯分も入れるよりも一人一杯入れる機会が多く、しかもおいしく経済的であるということ、また、CMでジョージ・クルーニーが出演する「ネスプレッソ」というネスレの商品が伸張したことで、カプセルの消費量が格段に増えたことがあげられる。ネスレは「ネスプレッソ」を世に出すまでに20年間開発を続け、ようやく大きくブレイクしたという歴史がある。それだけ開発に投資をした優れた商品だが、2013年にカプセルの特許が切れ、ネスレのマシンで使用可能なカプセルだけを販売する第三勢力が入り込んでいるという状況だ。

――その時、UCCは…。

志村 我々は2012年に先述した現UCCヨーロッパを買収し、その直後の2013年にスイスのルガーノにほど近いところにあるアリス・アリソン社という小さなカプセルのメーカーをみつけて買収し、そこで技術と人を得た。2年後、その人材を活用しフランスで大規模なカプセル工場を建設し、現在もそこで運営している。結果、年間約4億個のカプセルを販売し、欧州のPBのコーヒーの約1割のシェアを獲得した。当時、リスクをとっていなければ、減少傾向にある粉豆製品だけでは売り上げも減少していたことだろう。買収をする際には、買収後の戦略をいかに丹念に行うか、或いはローカルの人たちの意見をいかに吸い上げるかが重要だと思うが、実はこの買収にローカルの人々は全面的に賛同というわけではなかった。欧州の人は伝統的なものを好むという理由だったが、それを日本サイドとの戦略議論を通じて買収を決断した。そして今、毎年のように設備投資を行い、拡大している。

――アジアの展開については…。

志村 中長期的な観点では、アジアの成長力が著しいことは議論の余地がない。ただ、アジアにおいては飲み物のほとんどがカロリー入りのもので、コーヒーも、コーヒー豆に大豆を加えて炒ったものに練乳を混ぜて飲むのが8~9割のマーケットだ。洗練されたコーヒーの飲料シーンはまだほんの一握りの裕福な層に限られている。我々のブランドについても、フィリピンを除いて必ずしも浸透しているとは言えない。そこで、まずはアジアの主要都市にレギュラーコーヒーを浸透させるためのコンセプトショップを開店し検討している。とはいえ、実は広義で共有できるアジア戦略というものは今のところない。それは飲用習慣も好みも国によって違うし、嗜好品は個人による違いが大きいからだ。アジア戦略とひとくくりにして言えるのはごく一部で、基本的にはローカルの市場動向が非常に重要になっているため、それぞれ国別に分けて、戦略定義を進めている。そんな中でも、今、我々が特に注目しているのは、フィリピン、インドネシア、タイ、シンガポールだ。そこで極力高級なブランドイメージを確立すべく、M&Aを軸にした展開を考えているところだ。UCCにとって東南アジアのM&Aは人探しだと私は考えており、有力なパートナーを発掘して、その方々とジョイントベンチャーの形にして共存共栄を図っていきたい。ジョイントベンチャーでは、基本的に日本勢が管理と製造の部分を担い、販売は地元勢にお願いするという役割分担にし、M&Aの後のコスト管理や統合作業のインテグレーションについてもなるべくローカルの方々の意見をしっかり聞いて戦略確定をしていこうと考えている。

――そのほか、今後、トップダウンで行うべきことは…。

志村 東南アジアの生豆やコーヒーマシンの共同購買をシンガポールで行うことを考えている。今、インドネシアはインドネシア、タイはタイ、と各国それぞれに購買を行っているため、購買力を上手く発揮できていない。また、税制面を考えても購買拠点はシンガポールで一括するほうが合理的だ。その他、コーヒーマシンのメンテナンスという点において、東南アジアは未発達できちんとしたシステムがないので、シンガポールから始め、徐々に地域を増やして、サービスでの収益も得られるようにしていきたい。そうすることで、当社はコーヒー豆、マシンの販売、マシンのメンテナンス、リースという4つの利益源泉が出来ることになる。アジアは人口構成も若い人が多く、嗜好品としてもコーヒーの需要は増えている。経済成長していくと寝る時間が減り、コーヒーが飲みたくなるという見方もある(笑)。時間はかかるかもしれないが、これら4つの収益基盤を確実に確保しながら、社是である「Good Coffee Smile」を東南アジアで幅広く実現していきたい。(了)

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