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「トランプ関税の終着点を読む」

特別記者座談会

――「トランプ王」が日々、世界を揺るがせている…。

  野球に例えると、危険球に近い球を投げて打者を思い切り仰け反らした後に、豪速球でストライクを取ると言った感じだ。世界中それにびっくりしたり呆れたりして振り回されているが、最後はトランプの意に沿ったそこそこ常識的な決着となるのではないか。中国との関税交渉が良い例だ。周知の通り対中関税は145%に引き上げた後、一気に30%に引き下げた一方で、中国の対米関税は10%と対中関税よりかなり低い。
  そうした駆け引きと米国民のトランプ大統領への期待感が分からない日本のオールドメディアは、相変わらずトランプ批判を繰り返している。しかし、大胆な不法移民対策の実施や薬価の大幅な引き下げなど着実に国民の期待に応えている。日本の政治家にトランプの爪の垢を飲ませたいくらいだ(笑)。 
  その意見に賛成。胆力のない二世、三世議員や役人あがりの政治家ばかりだから大胆なことは出来ない。昔の田中角栄や中曽根康弘、石原慎太郎クラスの政治家が登場してこないと、日本は危ない。とはいえ、国民民主党など新しい政党も台頭しつつあり、参議院選後はようやく日本の政治も変わっていくのではないか。自民党は、消費税減税を掲げずかつ、トランプ関税で成果を残さなければ大敗しよう。
  しかし、米国民でも反トランプは沢山いるし、不法移民対策ではスピード勝負で実績を上げており誰彼構わずビザを取り上げているため、留学生などから訴訟が山ほど起こされている。それに不法移民が入ってこなくなったら、賃金が高止まりする恐れもあり、関税を引き上げても製造業の復活は妨げられる。また、一時に比べだいぶ戻ったものの株価も下落しているため、トランプ大統領は経済面からも国民の人気を落としており、関税交渉が長引けは中間選挙への影響は免れない。

対米関税交渉では自由貿易の考え捨てよ

  トランプ関税を担当している赤沢大臣の発言で気になるのは、「ウイン、ウインの内容としたい」と言っていたことだ。トランプ大統領は兎にも角にも自国の利益を優先する姿勢なので、その様な甘い考えは通用しない。米国が自国の利益を優先するなら、自分達も同じように自国の利益を優先するという中国の様な姿勢を取らないと、日本の利益を守れずにズルズルと後退しよう。米国は既に自由貿易の考えを捨てて保護貿易にシフトしており、その中で日本だけ自由貿易を守ると言っても無駄に終わるだけだ。
  TTPを拡大したりして、東南アジアやアフリカなどに対して自由貿易圏構想を進めていくのは大いに賛成だし無駄では無いと思う。しかし、もはや米国や中国に自由貿易の主張は通じない。米中ともに始めは「日本企業よいらっしゃい」と言って大歓迎した後で、一転して自国の利益を振りかざして日本企業を叩いたり、日本の技術を盗むパターンをこれまで目の当たりにしてきた。大国だから出来る傲慢な振る舞いを我が国がどのようにかわして続けるのか、そして今後、どの様な戦略を取るのか正に岐路に立たされている。

叩かれてもしぶとく儲け続ける日本

  80年代に日本による巨額な貿易赤字を米国が叩いた時に、日本は外国に工場を移転しそこから米国に輸出することで、日本自体の貿易黒字を減らし国際収支立国に変身して生き残った。また、最近では日本の技術を盗む姿勢を鮮明にした中国から静かに去って、東南アジアなどにシフトし、米国などへの輸出を続けた。さらに、そうした日本を真似して米国の批判をかわそうとした中国を叩くために、トランプ関税では東南アジアにまで高い関税を要求して中国の巨額な対米貿易黒字を叩きに来ている。
  やはり日本は凄い国だ。アジアやアフリカの多くの国々とは異なり欧米の植民地にならなかったばかりか、明治維新からたった40年で世界の軍事大国の仲間入りをして、戦後は焼け野原の中から僅か40年で世界一の貿易立国となり、さらにその後の40年で世界に誇る資産立国となった。これは他国では真似の出来ないことだ。しかし、それだけに米国や中国は日本を警戒している。多くの米国人はライバル意識はあっても日本を守る考えは無いし、中国は反日教育を怠らない。このため、あまり敵視されて打撃を受けないように、したたかに次の大きな戦略を進める時だ。

日鉄はUSS買収を諦めよ

  その試金石は日鉄のUSスチール買収と言えよう。米国人の多くは日鉄の買収を84年前の日本軍による真珠湾攻撃と同じと敵対視しており、ましてや自動車産業を日本に取られたラストベルトでは嫌悪感が強い。このため、新旧大統領ともに買収にストップをかけたわけだ。それが急転直下、日鉄による買収をトランプ大統領が容認するとすれば、将来、日鉄からUSSに最新の技術移転が進んだ後に、安全保障の観点から再び米国の会社にしろとの大統領命令が下されないとは言い切れない。つまり、そうした米国人の日本への感情や保護主義化を勘案すると、日鉄はさっさと買収を諦めた方が無難であり、日本のためにもなる。
  トランプ関税は、関税引き上げによる税収の増加と交易条件の改善による貿易赤字の削減と製造業などの復活を企図している。実際に関税収入は増えており、トランプの大規模減税の財源の一部になろう。しかし、関税を引き上げだからといって、高賃金の米国で製造業が復活するのは難しい。このため、関税交渉の次はドル安誘導であろう。例えば、関税を10~30%引き上げて、ドルを10~20%引き下げれば、合計で交易条件は20~50%改善する。その点、直ぐには米国で生産出来ない自動車部品などは当面、関税を低くするともトランプ大統領は言っている。

ドル基軸通貨は徐々に後退

  そうは言ってもパソコン、携帯、航空機など米国の最先端製品の多くは国際分業により生産されている。このため、関税を引き上げれば製造業が米国に戻ると言った単純な生産構造では無い。ある程度は米国に生産が戻るだろうが、関税引き上げにより世界のストレスが増す分、世界は米国抜きで貿易や生産を進める展開になるだろう。トランプ関税は100年前の第29代ハーティング大統領の政策を模倣していると言われるが、100年前とは違いアジア各国の経済発展が著しく、世界はアジアを中心に米国無しの世界を作り得る。
  第二次大戦後の世界の経済は、ドルを基軸通貨として経済発展をしてきた。米国は貿易と財政の双子の赤字を垂れ流しても、基軸通貨だから幾らでもお札を刷ったり国債を発行しても財政は保った。むしろ、米国がドルを世界に垂れ流すことで世界経済が順調に拡大してきた。もちろん、プラザ合意のような調整もして段々とドルの価値は下がっており、ドルに万が一のことがあるリスクを勘案して金や暗号資産の価値が上がっているが、人民元を含めまだドルに代わる基軸通貨は見当たらない。

格下げでドル安誘導は一層難しく

  米国はドルの基軸通貨の座を明け渡すことは考えてない。それは、やはり基軸通貨である限り、ドル紙幣をいくらでも刷れるし国債も大量に発行できるからだ。とはいえ、今回のトランプ関税により世界からの信用をかなり下げている。トランプ関税は米国の製造業をある程度復活させることが出来、貿易赤字も減らせるだろうが、世界の信用を失うことで基軸通貨の座を危うくする。決済手段も多様化している中で、一つの国によらない新たな基軸通貨を模索する動きが出てくるのではないか。
  それに、この前トランプ関税でドル債が売られてドルの信任が低下した上に、今度はムーディーズによるAA格への格下げだ。こんな状況の中でドル安誘導したら、ドル暴落と米国債の暴落が同時に来る。また、そうなると株も売られてトリプル安にもなりかねない。このため、トランプ大統領は関税交渉の後にドル安誘導という作戦はもう採れないのでは無いか。足元では余りにもドル債暴落のリスクが高くなっている。
  米国がもしドル安誘導作戦が採れないとしたら、関税引き上げにバイアスがかかるため、日本からの自動車輸出への25%関税は交渉が難航するだろう。日本政府はせめて他の輸出品と合わせ一律10%関税にしたいところだろうが、そうなると防衛費の大幅拡大など他に何かお土産が必要となるのではないか。

日本は大規模な内需策を

  世界が保護主義に奔りつつある中で、日本政府は先ずは大規模な内需拡大策が必要だ。それには先ず日銀利上げと消費税の引き下げを実施する一方で、デフレ下で膨らんだ財政コストを大幅に削減して小さな政府を作ることが大事だ。トランプ大統領を見習って、薬価基準の大幅な引き下げなどを行えば、減税財源はいくらでも出てくる。また、利上げが出来なければ、その分、日銀の保有国債を大量に売却して長期金利を正常化すれば、国債の利子が市中に大量に流れ込み民間需要が拡大する。
  内需拡大は必要だろう。3年連続で実質賃金が減り続けて国民に不満が高まっている中で、これ以上不景気になれば国民の不満が爆発して犯罪がさらに増えたりテロが頻発したり、財務省解体熱がさらに高まったりするだろう。100年前のように軍拡や海外侵略に走ることはないが、その分、永田町や霞ヶ関のリスクは高くなるし、その不満を利用する輩も出てくるだろう。とはいえ、衆議院選に負けても抜本的な米の値上がり対策を取らなかったように、与党や霞ヶ関は国民の声を聞く能力を失っているし、漸く気が付いてもおっとり刀で国民を失望させているから、与党の政策は期待できないが。

れいわ新撰組に注目

  参議院選挙では国民民主が大きく伸びようが、れいわ新撰組も相当な議席を獲得しよう。れいわは他党に先駆けて消費税減税を主張してきたし、それに加えてトランプ大統領と同様に、巨額な国費を使って産業の国内回帰策を主張している。産業の国内回帰策はこれまでの日本の産業政策とは全く異なるが、コロナ時にマスクなどの生産を独占した中国から戻した実績がある。世界の保護主義化ではある程度必要な政策だ。
  中国は米国との経済戦争を念頭に、食糧およひエネルギーの自給化と輸出先の多角化を進めてきた。これに対し日本は、食料、エネルギーとも自給率は相当低く、米国とまともに喧嘩出来る状況にはない。とはいえ、米中が経済戦争をしているため、全く勝算が無いとは言えない。また、難しいが世界に誇る対外資産を上手に使えばある程度の効果は見込めよう。しかし、その勝算を導く鍵は保護主義時代に入ったという歴史認識と、それに対応する大胆な政策変更だろう。
  米国の産業空洞化は、自由貿易とドルの基軸通貨と資本の効率優先主義の結果だ。すなわち、いくらでもドルが刷れるから外国から大量の輸入したことで自国産業の競争力を奪い、米国の先端企業も効率優先で自国の労働者を捨てて海外生産の仕組みを構築した。そのため、ウクライナ戦争以降の米国経済が一人勝ちしていても産業の空洞化は進み、社会の分断に拍車をかけトランプ再選に至っている。それを勘案すると、悪戯な資本効率主義を捨てなければ、日本も社会の分断がおこるだろう。米国やトランプの姿は明日の日本だ。[B]

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