金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「経済再生と財政健全化を両立」

財務大臣
加藤勝信 氏

――減税を実施して、下がり続けている国民の実質所得を上げるべきとの意見が増えている一方で、日本の財政の現状はそのような意見を反映することができる状況か…。

 加藤 まず、日本経済全体ではGDPが600兆円を超え、設備投資も100兆円を超えており、また、春闘の様子は、今のところ、去年を上回ると報道されている。一方、足元ではエネルギー・食料価格の国際的な高騰や国内の事情、さらには円安もあり物価上昇が続いており、国民の皆さんから見ると、特に日常の買い物において物価上昇を非常に強く感じる、あるいはエンゲル係数が上がっているようになかなか家計も厳しくなってきている、そういった物価上昇に伴う負担を強く感じておられることが、減税や所得向上を望む声の背景にあると考えている。政府においても、今回の税法改正により、まずは物価上昇に伴う控除の見直しを図っていく、また、物価上昇で一番影響を受ける所得の低い方々に対する支援を行う、さらに、地域ごとに事情があるので、各地方自治体がそれぞれで対応するための重点支援地方交付金を、令和6年度補正予算で、前年度に比べ1000億円増の6000億円として、さらに対応力を高めることを進めていく。その中でも、やはり一番大事なのは継続して所得が上がっていく状況をつくり、物価上昇を上回る賃上げを実現し、これを定着させていくことだ。そのための色々なはたらきかけもいま、政府として行っている。さらに賃上げが継続して行われるためには生産性の向上が重要であり、省力化・デジタル化あるいは成長分野への投資を促進することで、生産性と付加価値を高め、賃金・所得が安定的に増え続ける環境を整えていく。令和7年度の予算・税制改正においても、そうした内容を盛り込んだ。現下、厳しい財政状況にあるが、まずは経済あっての財政という考え方に立ち、いま生じてきた経済再生の流れを持続的なものにしていく。その中で財政健全化も図っていくことが重要だ。

――何故、財政の健全性が重要なのか…。

 加藤 現在、我が国では債務残高のGDP比が世界最悪の状態にある。その一方で、国債は安定的に消化されており、これは財政健全化の取り組みを続けてきていることへの市場の信認があるからこそだ。怖いのはこうした財政の持続可能性に対する市場の信認が失われてしまった場合で、金利が急上昇したり過度なインフレが生じたりする。そうなると国民生活に与える負の影響は大変なものになり、国債の償還、利払いの問題だけでなく国民生活そのものに大きな影響を与えかねない。最近では英国でトラス・ショックがあったが、一度、信認を失えば市場の厳しく鋭い反応が起こり得るという教訓だ。財政というのは国民の暮らし、いのち、そして経済を守るものであり、特にそうした対応が求められるのは危機の時だ。大災害とか有事、あるいはパンデミックの時にきちんと対応していくためには、財政的な余力を持っておくことが非常に大事だ。コロナ禍においては、国債発行により調達した資金によって当時最良のワクチンを購入することができ、国民の皆様に安心して接種を受けてもらうことができた。そのベースには財政余力というものがあったと言えるし、余力がなければ不測の事態に対応できないということだ。

――2025年度プライマリーバランス(PB)黒字化の達成が困難になったとされるが、今後の対応は…。

 加藤 内閣府から公表された中長期試算では25年度のPBは黒字化しない見込みが示されたが、一方でPB黒字化目標を掲げた01年度以降で、もっとも赤字幅が縮小する見通しであり、これまでの財政健全化を含めた経済財政運営がひとつの成果としてここに現れていると思う。26年度にはPBが黒字化する試算ともなっているため、早期のPB黒字化に向けて潜在成長率を引き上げ、歳出歳入の両面から改革を行っていくことが重要だ。

――経済重視か、財政重視か、という議論の中で、財政重視への批判の矢面に財務省が立たされている観があるが…。

 加藤 我が国の経済財政運営については毎年6月頃に骨太の方針を出しているが、24年の方針でも財政健全化の旗を降ろさずこれまでの目標に取り組むことや、財政健全化の取り組みを後戻りさせないとされている。しかし、同時に現行の目標年度を含めて財政健全化目標の達成のために、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならないことも明記されている。要するに経済再生と財政健全化の両立を図るということだ。

――日銀の国債買入減額が進む中、今後の国債の安定的な発行・消化をどう図っていくか…。

 加藤 昨年、日銀の国債買い入れ減額が決定されたが、国債の発行・消化を安定的にしていくためには、より幅広い投資家の方々に国債を購入・保有していただくことが必要になってくる。そうなると市場環境や新たな投資家のニーズに即した年限構成の見直しや新商品の開発が必要になると同時に、国内外の投資家に向けたIR実施などを行っていく必要がある。政府として、国債の円滑な発行・安定的な消化と中長期的な意味でのコストの抑制、この2つを基本的な目標として金利の動向と投資家のニーズを見極め、市場との対話を丁寧に行いながら適切な国債管理政策の運営に努めていきたい。

――昨年3月以降、日銀は利上げを続けているが、一連の金融政策への評価はいかがか。また、利上げの経済への影響について見解は…。

 加藤 まず、金融政策の具体的な手法は日銀に委ねるのが原則で、それについて政府としてはコメントを差し控えるが、政府と日銀で平成25年(2013年)1月に共同声明を公表している。そこではデフレからの脱却と同時に物価安定のもとでの持続的な成長が謳われている。そうしたことを共有しつつ、それぞれの役割の中で必要な政策を果たしてきた。結果としてデフレではない状況がつくられているし、マクロ経済の現在の状況、いわば成長と分配の好循環が動き始める状況が生み出されてきた。金利がどういう要因で動くかは市場に聞かなければわからないものであり、また市場で決まるべきものだ。日銀の金融政策の変更が金利、経済にどのように影響を与えているかは色々な局面があり難しいところであるが、一般論としては金利が上がれば個人の住宅ローンや企業の借り入れの金利の支払いは増えていく一方で、運用面では預金金利の引き上げを含めて金利収入は増えてくる。また、金利が動くことによって債券価格が動いてくるといった様々な影響があるので、政府として、そうした動向を注視しながら、現に生じている様子をよく観察することで、国民の暮らしを守るために必要な政策を打ち出していく必要があると思う。

――現在の為替水準に関して、「円の実力」とも言われる実質実効為替レートは、固定相場制であった1970年と比べても円安水準にあり、ピーク時の1995年から約63%減価している。この要因についてどうみておられるか。また、政府として今後どのように対応されていくのか…。

 加藤 なにで見るかという問題はあるが、ひとつの指標として実質実効為替レートというものがあり、95年比でおよそ63%減となっている。その理由として海外と比較して国内の物価上昇率が低く抑えられてきたということがあり、この間名目為替レートも円安方向に動いてきたことも挙げられる。さらに実質実効為替レートが相対的に下がる背景には輸出企業の生産性が他国企業に比して低いということもあるかもしれない。それらを踏まえ、投資をしっかりとして省力化・デジタル化を進め、生産性・付加価値を高めていくことが重要だと考えているし、石破政権でも、コストカット型の経済から、賃上げと投資が牽引する成長型経済への移行を確実に進める。国民の皆さんの努力、政府の政策、日銀の政策が相まってマクロ経済で見るとかなりいい流れになってきている。物価上昇が先行したが、賃上げがそれを継続して上回る環境の実現にしっかりと取り組んでいきたい。[B][HE]

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