金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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日本企業はISAMEAに進出を

AsiaWise Legal代表  弁護士  久保 光太郎 氏

――新しい法律事務所を立ち上げられた…。

久保 2018年1月、新事務所を立ち上げた。事務所開設の初日の元旦からシンガポール出張が入り、先週は1週間インドのデリー・グルガオンを回っていたり、東京で社内セミナーの講師をしたりと、かなり忙しくしている。守備範囲はアジア全般、特にインド及び東南アジアだ。将来的には、インドやシンガポールの現地弁護士なども巻き込んで、ワンチームとなれるようなアジアの事務所を作っていきたい。本部は日本ではなく、シンガポールに置くつもりだ。理由は、日本に本部を置く限り、どうしても日本の組織になってしまうからだ。現在、アジアの大きな経済圏である日本、中国、インドといったビッグパワーを、第三国として中立的立場から見渡すには、やはりシンガポールがベストだろう。特定の国に軸足を置かないアジアのクロスボーダーローファームというカテゴリーで勝負したいと思っている。

――事務所の人材面の方向性は…。

久保 積極的に若い弁護士を採用して、どんどん海外に送り出していきたい。例えば、今、若い弁護士がアフリカ、中東を回っている。彼はタンザニア、ケニア、エチオピアからオマーンを通り、最終的にUAEからインドに入る予定だ。これはちょうどインド人の西のネットワークに対応している日系企業の中には、インドをヘッドクオータとして南アジア、中東、アフリカを統括する企業も出てきている。このINDIA、SOUTH ASIA、MIDDLE EAST、AFRICAの頭文字をとった「ISAMEA(イサメア)」は日本企業がまだ攻めきれていない地域だ。アフリカや中東に日本企業が直接進出するのは確かに難しいかもしれない。ところが、インド企業やインド人とタッグを組み、そういった人たちの中東やアフリカにおけるネットワークをうまく活用すれば、日本企業もこういった地域に進出できる。日本の弁護士は、最近ようやく、中国、シンガポールといった比較的近いアジアの国に出て行くようになったが、次の世代には是非その先の世界に羽ばたいてもらいたい。当事務所は次世代のクロスボーダーロイヤーのインキュベータとなるつもりだ。

――インドなどは慣習や法律の違いがあり、企業の進出も大変だと聞くが…。

久保 一番大きな問題は、日本企業の海外子会社におけるガバナンス体制が厳しい現地環境の中でうまく運用されていないことだ。日本企業がアジア各地に進出し、現地に子会社を作り、現地企業を買収するまではできても、それを効果的、効率的に運営するまでに至っていない。その結果として、現地の従業員が不正を行ったり、現地のパートナーとの間で上手くいかないといったことが起きる。不正とは、例えば調達担当の現地従業員が自分の親族の会社に契約を横流ししたり、非効率なパートナーシップであるにもかかわらず現地の代理店との契約を終えることができなかったりといったことだ。そういったドロドロしたしがらみに日本企業が足を引っ張られている。このような問題を解決するために、日本人のプロフェッショナルが現地のプロフェショナルと一緒になって、現地子会社に対するガバナンスをしっかり効かせていく。そうすれば、アジアに進出している日本企業の事業はもっとうまくいくようになるだろう。

――日本の弁護士と現地の弁護士がタッグを組む…。

久保 アジアの法律事務所はその多くが各国に閉じた形で活動してきたが、それではうまくいかない部分もある。日本人やインド人、シンガポール人などが一緒になり、クロスボーダー案件に特化することで、多くの問題が解決できると考えている。さらにその先には、弁護士以外のプロフェッショナルが集まるクロスボーダープロフェッショナルファームといったビジョンも見据えている。企業の現地でのニーズから出発して、どのような体制であればベストのサービスを提供できるかということを考えた場合、従来型の硬い組織としての法律事務所ではなく、もっと柔軟にプロフェッショナル同士がチームを組める柔らかい組織の方がよいのではないかと考え始めている。そのような新しい組織を可能にするようなテクノロジーの基盤もできつつある。

――アジアで特に注目している国は…。

久保 やはり注目はインドと中国だ。インドのポテンシャルはまだまだ生かされていない。日本企業の進出は、自動車、電機産業等に偏っており、バンガロールなどで発展するITスタートアップなどにはリーチできていない。また、中国もインド同様に新しいテクノロジー分野がどんどん発展している。例えば中国のシリコンバレーと呼ばれる北京・中関村には、北京大学や精華大学のキャンパスがあり、新しい研究やイノベーションが進んでいる。南の深センにはドローンで有名なDJIや携帯電話のHuaweiの本拠があり、ここでもイノベーションが起こっている。アジアは加速度的に変化しているが、日本にいるだけではそういった実態がなかなか伝わってこない。これらの国が今どういう政治状況にあって、何が問題で、どういう論点が存在するのかといった実態を適切に把握し、下した判断が適正だったかどうかをチェックするためにも、クロスボーダーで現地の専門家と日本の専門家がしっかり協力していくことが重要だ。

――最後に…。

久保 私は若い人たちをもっとアジアに送り出したいと思っている。日本は最近、将来に対してあまり楽観的になりにくい雰囲気がある。これは弁護士などプロフェッショナルな世界でも同じだ。しかしアジアにはたくさんのチャンスがある。若い弁護士たち、また、弁護士だけでなく他のプロフェッショナルに、もっとアジアで活躍できる場を提供していきたい。そのような考えから、2月8日には一橋大学で「クロスボーダーロイヤーのキャリアパス」と題したオープンセミナーを開催したり、その次の週には法律や会計を勉強している学生を対象としたインドへのインターンプログラムなども企画している。われこそはという次世代のクロスボーダーロイヤーの卵たちに是非参加してもらいたいと思っている。(了)

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