金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

アジア株とソリューションに注力

藍澤証券  取締役社長  藍澤 基彌 氏

――日本アジア証券を買収された狙いは…。

藍澤 日本アジア証券は、もともと同社の山下哲生社長が香港で日本アジアグループの母体となる証券会社を起業されたときから出資していた。その後に同社が日本進出を果たし、日本の証券会社5社を買収するなど拡大していく過程においても、当社の社員を出向させるなどの支援を行い、かなり親密度が高い間柄だった。その日本アジアグループが空間情報コンサルティング事業をベースとした気候変動等への取り組みを経営の根幹に据えるため、証券業務を手放したいとの話が最初に当社に来たというのが今回の経緯だ。同社は出自が香港だったこともあり、同社が買収した証券会社は国内商品専業だったが、体質改善によって海外業務に強い証券会社になった。現在も収益全体の半分近くを米国株が占めている。同時にさまざまな証券会社を買収したことから全国にしっかりとした支店網が持っており、地元に強い営業員を抱えている。今回、日本アジア証券を買収したことで当社の総店舗数は67カ店になる。それまでも当社では八幡証券を買収し、中国地方まで支店網は広がっていたが、日本アジア証券は九州にも支店があり、関東にも非常に強いほか、丸宏大華証券を買収していたことから関西にも強みがあるなど、我々の支店網拡大にとって非常に力強いものとなった。

――ベトナムの証券会社の株式を追加取得し子会社化された…。

藍澤 子会社化したベトナムの証券会社は、もともとは当社と日本アジア証券と台湾の投資家である邱永漢氏の3者で設立したもので、当時は規制があったために49.0%の出資に留まっていた。ところがここにきて規制緩和があって、100%外国証券会社が認められた。ただ、日本アジアグループは証券業から離れ、邱永漢氏はお亡くなりになられたこともあって当社に任せて頂けることになった。現地法人はまだまだ小さく、連結にも入っていないし、従業員数も全社員で17名と少ない。ただ、全社員が現地人で、かつフロント部門は全員日本語を話すことができる。例えば、日本からベトナム株投資をするうえでは、とてもではないが現地語が理解できなければ、日本人投資家は歯が立たない。それが日本語で取引が可能となる点は強みだ。日本からベトナム株に投資できる証券会社はあることにはあるが、ほとんどで言葉の問題があるほか、特定の時間帯にしか注文を出せないなど取引条件において不利になる。一方、顧客利便性の観点から子会社化し、利便性を改善できる当社は有利な位置にある。ベトナムは10年以上前から高い成長率を維持してきたが、一時、証券市場は調整していた時期がある。これは社会主義の国ならではの規制があったことやアジア通貨危機などに引っ張られたためだ。しかし、もともとの成長性は大きなものを持っているし、もう一つ大きいものは良い会社が国有企業だということだ。これの民営化を進めていることが株式市場の活性化にとって大きな力となっている。

――今後、成長が見込まれる国・地域は…。

藍澤 やはりアジア全般にいいと思っている。先に成長する国、後からついてくる国などいろいろあると思うが、昔のようにこの国は絶対だめだという印象はもうない。各国共に国力をつけてきて、外資に頼った経済成長をしていないためだ。また、かつての日本のように追い付け追い越せの気持ちを持っていることや、真面目に物事に取り組んでいる人たちだ。また、教育が改善されていることも大きい。昔は学校にいけない子供も多かったが、今はどんどん海外留学をしている人たちも増えている。

――アジア株は日本の証券会社で取り扱っているところが少ない…。

藍澤 大手証券のように大量に仕入れた商品を顧客に販売する形で海外業務をするのは、欧米のような大きな市場でなければ成立しない。ところが本来、我々リテール証券というのはまとめて仕入れるというような仕事のやり方ではなく、また我々にとっても得意なことではない。我々は日本株と同じように委託取引で売買していただけるようにしている。大量に仕入れるいわゆる仕切り取引と我々のような委託取引を比べると、お客様にとって我々の手法は、非常に透明性は高いと言える。当面の目標としては、委託全体の3割程度を海外株に持っていきたい。日本アジア証券では平均50%が海外株だったが、我々はまだそこまでいっていない。両社が一緒になることで30%程度を維持していけるだろう。

――今後のM&Aの計画は…。

藍澤 我々は買収先企業を積極的に探すようなM&Aをしていたというわけではなく、ご縁があって相手方からお話をいただいてのことだ。平岡証券、八幡証券、日本アジア証券のいずれもそうだった。積極的に狙いをつけて買収しようとは考えていない。ご縁があれば精査したうえ、体質が合うと判断した場合、協力していくことは考えている。

――ネット化については…。

藍澤 個人の株式取引の多くがネットで行われているなか、当社としても低コストと利便性が高いネット取引を捨てるわけにはいかない。ただ、ある程度高額でかつリスク商品の取り扱いという観点において、ネット取引がお客様に対して十分なサービスを提供できているかと言えばそうは思えない。十分なリテラシーが備わっていないお客様に対し、急激な価格変動などがあった際に説明してさしあげることが必要となる。同じ証券を取り扱っている業者であるが、ネット専業証券と当社とではサービス内容や体質的に大きな違いがあると思っているし、ゆえに共存が可能であるとも考えている。

――その他、力を入れている事業は…。

藍澤 アジア株に注力しているのと同時に、ソリューションについても同じく注力している。お客様の個人的なお悩み事や商店主の方々のお仕事をお手伝いすることをソリューションとして行っている。そのなかで最も大きいのが相続となっており、営業員全員が相続診断士の資格を取得している。また、地方の小規模事業者のM&A案件を大手企業にマッチングしたり、技術援助によって事業を継続していただくなどしている。他方、最近では経済産業省が創設したサービス品質を見える化する規格認証制であるおもてなし認証の取得支援を行っている。インバウンド需要を取り込むためのものだが、これまでに当社の支援で数百社が取得に成功している。また、産学連携にも力を入れている。大学の持っているノウハウを世に出していくため、中小企業とマッチングして新しい商売を創出する。これまでに静岡大学、徳山大学、近畿大学と連携した。最近の事例では、町の自転車屋と近畿大学のマッチングにおいては、オリジナルブランドの自転車を作っている。それから、学生時代にどういった会社に就職したらいいかということを理解してもらうため、産学共同でインターンシップに取り組んでいる。こういった地域人材育成と地域企業支援の取り組みはとても喜ばれ、昨年は内閣官房まち・ひと・しごと創生本部から金融機関による地方創生のための「特徴的な取組事例」に証券会社として唯一選定され、内閣府特命担当大臣(地方創生担当)より表彰された。こういったソリューションは、お客様から非常に好評で、地方金融機関の皆様からもソリューション提供に関してお声がけいただいている。

▲TOP