金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

「TOPインタビュー・ハイライト下」

2024年

9/2掲載 「社債の財務制限条項を定着へ」
日本証券業協会 専務理事 松尾元信 氏

――これによってハイイールド社債の市場が前進する…。

 松尾 今回チェンジオブコントロール(CoC条項。発行会社に組織再編、大株主の異動や非上場化などがあった場合に、社債権者に繰上償還の請求権を与える条項)とレポーティングコベナンツ(発行会社に投資判断に重要な事象が生じた場合に社債権者へ報告を行う義務を課した条項)を入れようとしているわけだが、ちょうど7月に日本エスコンがCoC条項をつけた社債を発行した。この銘柄は低格付ではなくA格だったが、そういうところでも、コベナンツをつけることによって信用の補完にもなる。支配の変更などは予定していない発行体でも、これをつけることで少しでも安心感を与え流通にプラスになり投資需要にもつながるのではないか。日証協のミッションは市場の公正と証券業の発展であり、会員である証券会社が金融機能の担い手として誇りを持って楽しく仕事をしていけるようにすることだと思う。日証協の良いところは会員の実情を理解しながら、インフラの整備や制度の提言ができるところ。最近だとバックオフィスやミドルオフィスの効率化にもチャレンジしている。日本の証券業、直接金融がより良くなるように少しでも役目を果たしていきたい。

9/17掲載 「日本もPEファンドの時代に」
アント・キャピタル・パートナーズ 代表取締役社長 飯沼良介 氏

――プライベート・エクイティ(PE)市場が本格化し始めた…。

 飯沼 PEは20年強前に日本で誕生し、企業再編の主役となるべく、政府が後押しし株式交換に関する法律が制定されて、持ち株会社ができるなど、M&Aをしやすい環境が整備された。しかし、しばらくの間は事業承継目的の小さな案件ばかりで市場発展のスピードは遅かったが、ここ数年でマーケットは完全に変わった。現在、おそらく日本が世界で一番活況なマーケットと言ってもいいくらい注目されている。マクロ的にもミクロ的にもすべてにおいて一番いい環境が揃っているためだ。世界的に見て日本の金利はまだまだ低く、レバレッジドローンを使いやすい。また地政学的リスクを背景に多くのファンドが中国投資から撤退した。さらに現在の円安で安く企業を買える。こうしたマクロ環境から「日本以外にどこに行く」という風潮となっている。

――内外環境が大きく変わった…。

 飯沼 そうした環境変化により、取り扱い案件がものすごく増えている。例えば、昨年は企業価値500億円以上の案件が10件以上となった。これは10年前と比べて5倍以上の規模だ。米国のM&Aに占めるPEの割合は16~18%程度だが、日本も同様の水準となってきており、つまり「PEを外してM&Aを考えられない」といった流れが形成されつつある。時間はかかったものの、いよいよPEがM&Aにおけるメインプレイヤーと呼ばれるようになってきたと言える。我々においても従来はほとんどが事業承継目的の案件がメインで、非公開化の案件の相談は年に1~2件程度しかなかったが、現在は週2件程度非公開化の案件の相談を受け、パイプラインの7割が非公開化案件となるまでに変貌した。今まさにパラダイムシフトが起きている。

10/7掲載 「資産運用立国で全政策を推進」
金融庁長官 井藤英樹 氏

――資産運用立国における最大のテーマは…。

 井藤 一番というものはない。すべてをやろうと思ってこれまでやってきた。新NISAの導入は目立つ政策ではあるものの、その過程では、より金融経済教育を推進するための教育機構の設立や、より顧客本位の業務運営を定着させるための横断的な義務の新設を行うなど、よりよい水準を目指すために業界の取り組みを一歩も二歩も進めるために取り組んできた。直近では資産運用立国を目指すうえでの新たな課題としてインベストメントチェーンの要となるアセットマネジメント、アセットオーナーの課題のほか、ベンチャー育成に向けた担保に依存しない融資の世界の確立に向けた事業成長担保権の導入、そして地域経済の課題など様々なことに取り組んでいる。そうした一つ一つの取り組みのどれが欠けてもいけないという思いを込めてやってきた。ここ2年間はできることでやるべきだと判断したものはなんでもやってきたし、今後もその方針に変わりはない。

――最近の不祥事を見るに銀証ファイアーウォール規制はむしろ厳格化が必要だと思うが…。

 井藤 銀証ファイアーウォール規制は何を守るためにあるのか。それは顧客の情報であり、優越的地位の濫用など不当な圧力を受けることを回避すること、利益相反の管理といったところにある。一方で金融サービスはより効率的に提供されるべきであることも事実だ。情報管理を形式的な管理から実質的にどのように管理してもらうかが大事で、形式なものではなく実質的に管理してできるのであれば緩和というのも十分検討に値するとの考えの下、緩和の議論を進めてきたが、点検するといろいろな問題が出てきて、実質的にできていないではないかという話になっている。金融審の議論においても厳しい声が顧客側からあがっている。経済界や消費者に加え、従前は緩和意向にあった学者からも実質的な管理を求める声があがっている。ファイアーウォールの緩和は、自由ではなく、より責任が重くなるということを念頭に置いてもらいたい。

10/15掲載 「国家公務員の在級年数廃止も」
人事院総裁 川本裕子 氏

――経験者採用が増えれば、年次に基づく昇進の仕組みも変わっていく…。

 川本 転職によるキャリアアップが普通のことになり、労働市場が様変わりしている今、制度もそれに合わせて変えていかないと人材が確保できない。民間企業や地方自治体からの経験者採用、一度国家公務員を辞めた人が再び公務に戻ってくるいわゆるアルムナイ採用も、中から上がってきた人と公平に昇進できる仕組みにする必要がある。給与表の上位の「級」に上がるために必要な期間である「在級年数」の仕組みは残っており、今年の勧告では在級年数の廃止に向けた検討を行うことを明言した。経験者採用・アルムナイ採用については、退職前の年数や民間経験も適切に評価されることになっており、入省時も含め能力の評価がますます重要になる。

――なぜ行動規範が大切なのか…。

 川本 国家公務員のなかでも世代により価値観や経験は全く違う。行動規範は組織の多様性が高まるほど重要になる。「国家公務員たるものどうあるべきか」ということを「暗黙の了解」としていてはいけないのだと思う。国民を第一に考えること、公正中立、インテグリティ、専門性などについてまとめ、さまざまな場面において判断の助けとしてもらう方針だ。まずは人事院が緩い枠組みを作る。各省庁で既にミッション、ビジョン、バリュー(MVV)を作っているところもあるが、それらがない省庁には作成を働きかけていく。MVVを既に作っている省庁にも時代に合っているかなど点検してもらいたい。行動規範は先の「やりがい」の課題とかかわる大切なテーマだ。現在の国家公務員法では「何々をしてはいけない」という禁止事項が中心で、国家公務員、特に若手は「自分は何のために働いているのか」という意識のなかで道に迷うこともあるようだ。自分のミッションが分かっていれば働くうえでやりがいを感じやすいのではないだろうか。そして仕事上で問題にぶつかった時、公正とは、中立とは、客観的であるとはどういうことか、を噛み締めると、客観的なデータに基づいて「これは間違っている。国民のためにならない」などと考える自由ができると思う。私は毎年、勧告の後に各省庁の次官・長官と意見交換を行っているが、人材不足への危機感はますます強まっており、その危機感をバネに色々な対策が打たれていて心強い。しかし、まだまだ課題は尽きない。

10/21掲載 「仁和寺は利他の心を大切に」
総本山仁和寺門跡 真言宗御室派管長 瀬川大秀 氏

――仁和寺の教えの特徴は…。

 瀬川 仁和寺の教えは弘法大師空海の真言密教であり、その教えは、「我々は大日如来の子であり、菩提心を持って生まれている」というものだ。仏から尊い命をいただいて生き、そのまま仏となる、という即身成仏が基本となっている。今の時代においては、普通の人が日常生活を送る中でそういった事を考える事は少ないかもしれない。しかし、経済が発達し、お金や資源を巡って争いが起こり、それが世界戦争を巻き起こしかねないというような世界情勢の中で、どこかに心の拠り所を探し求めている人も多いのではないだろうか。このような世界において、弘法大師空海の教えを広めていく事は大変に重要な役割だと考えている。

――世界では宗教の違いによる争いが後を絶たないが、仏教は世界平和を求めている…。

 瀬川 仏教は和を尊ぶものだ。宇多天皇も、出家されて法皇となり、仁和寺の中に最初に建立されたお堂は人々の幸せと世の平和を願う八角円堂であり、願文の最後の部分には「我、仏子となり、善を修し、利他を行ず」と記されているように、宇多法皇が開山して最も重んじられたのは、「人々の幸せ」と「世界が平和である事」だった。さらに先の帝の供養と国家安泰、人々の幸せを祈るために仁和寺は建立されたのであり、それは今でも脈々と受け継がれている。仁和寺を訪れて境内を歩く人々が、なんとなく落ち着くなぁ、なんとなく優しいなぁ、と感じてくださる事があれば、それは平安時代から約1000年続くこの環境が生み出す雰囲気が、自然と伝わっているのだと思う。同時に、この環境を次の世代へしっかりと繋いでいくために、私はこれからも「利他」の心を大切していきたい。

11/5掲載 「来るべく金融危機に備え全力」
預金保険機構 理事長 三井秀範 氏

――金融機能強化法で、金融機関はより盤石になったのか…。

 三井 昨年春、米国シリコンバレー銀行が破綻したことで、金融機関の本質的脆弱性が再認識された面がある。すなわち、預金は要求があればいつでも払戻しに応じなくてはならない一方で、貸出には返済期限があり、銀行の資産と負債の間には期間のミスマッチ、満期のミスマッチが本質的に存在する。信用リスクのミスマッチも加え、3つのミスマッチと呼ばれることがあるが、預金保険制度はこのような3つのミスマッチが作る銀行システムの構造的な脆弱性に対応し、預金の取り付けを阻止し、金融システムの安定を確保するための仕組みとなっている。海外では一連の騒動を受けて、預金保険・破綻処理制度とその運用をめぐって活発な議論が行われているが、日本では90年代の危機とそれに対する対応の積み重ねもあり、今は世界的にみても非常に良いバランスになっていると思う。

――政府や当局への要望は…。

 三井 金融面に限らず我が国では平和な状況が続いているが、これからの時代は危機時への備えを金融界も政府も一緒になって取り組んでいく必要があろう。繰り返しになるが、金融機関のビジネスは大きく変容しており、コンピューター産業化している側面もある。また、海外では昨今の様々な経験を踏まえた制度や運用の改善改革が急ピッチで進められている。そうした内外の変化の進展に的確に対応できるような破綻処理の枠組みになっているかどうか、法制度面も含めて点検をしてみることの必要性を感じている。また、当機構は海外の預金保険当局とは異なり、金融機関の業務全体への監督権限や検査権限がないため、リアルタイムでの情報が不足している点もあるため、金融機関との関係をさらに密なものとし、日頃から意思の疎通を図り、当局や金融機関と一緒になって議論ができるような時間を多く持ちたいと考えている。こうしたことを通じて、日々進化する金融システムの状況に遅れを取ることなく、将来の金融危機に備えていきたい。

11/25掲載 「政府調達と減税で経済を復活」
れいわ新選組代表 参議院議員 山本太郎 氏

――今回の衆議院選挙でれいわ新選組の議席は3倍に増えた。勝因は…。

 山本 「れいわ新選組」を旗揚げして5年。我々の政策が一定の方々に浸透してきているという事だとみている。マスコミでは景気が良くなっているという報道もしているようだが、足元では全くそういった事はなく、景気は悪すぎる。帝国データバンクの調査でも、中小企業の倒産の8割が不況型倒産であり、貧困も拡大している。一方で資本を保有している人達は右肩上がりだ。この超絶格差の拡大は、決して自己責任とされるものではなく、構造上の問題だ。つまり、政治の失敗によって国民の首が絞められている。そういう我々の話に国民の皆さまが共鳴して下さったことが、議席増に繋がったのだと思う。

――れいわ新選組では消費税減税を強く主張している…。

 山本 先日の選挙前のテレビ討論会で、私が海外の例を説明しながら「すぐに減税すべきだ」と唱えると、立憲民主党の野田佳彦さんが「日本は税に関するルールが他国とは違う為、税制改正が必要となり、短期間に減税は出来ない」という発言をされた。しかし、ドイツでは2週間で税制改正を行い、その2週間後に減税が始まったという例もある。選挙前の国会で私が「消費税減税をするために、どの程度の時間が必要なのか試算したのか」と問うても、試算さえしていないと政府答弁する。全くやる気が無いという事だ。さらに言えば、消費税が上がるたびに法人税は下げてきた。これはある意味、組織票と企業献金とのバーター取引だ。国を元気にするためには屋台骨を、中小企業を元気にする必要がある。消費税をゼロにすれば、かなり景気は良くなる。

12/2掲載 「供給網の多様化で中立金利は」
財務省 財務官 三村淳 氏

――台湾海峡で何かあれば、同様に日本の物価上昇の要因になる…。

 三村 物価に対する影響もそうだし、より広い物の流れに対する影響もあり、サプライチェーンの多様化が今、改めてキーワードになっている。ジャストインタイムからジャストインケース(不測の事態に備える戦略)へという話を国際会議の現場ではよく耳にするが、そうなるとかつてのような最も効率良く単線的なサプライチェーンよりも構造的にコストが高くなる。この変化によって潜在的な物価上昇率が今までより高くなっているのかどうか、それを考えたら名目の物価上昇率、平均的な物価上昇率を乗せたときの名目としての中立金利がいくらくらいなのかという点が世界各国で議論になっている。日本でも植田総裁がその分析はこれからだといった趣旨の発言をしており、パウエル議長もまだはっきりとわからないと言っているが、地政学的リスクは物価の実際の状況にも関わってくるし、それを見極めて中銀の金融政策が最終的にどのあたりの着地点を目指していくのかにも非常に影響してくる。

――経済安保はかなりのコストを注ぎ込んでいかなければならない状況に来ている…。

 三村 財務省は全国の税関のネットワークを通じて日々、どこの国との間でどんな物が、いつ、どれだけ流れているかという国境を越えての物の流れに関する情報を絶えず収集しており、また、お金の流れも外為法で100以上のいろいろな取引を届け出や報告で得ているので、そこには非常に豊富な一次情報がある。業務インフラと人員を整えてこれをしっかり分析できる体制を整えれば、役立つ情報が得られるはずなのだが残念ながら、今までは宝の持ち腐れにしていた。多少、時間がかかる話だが、そういうことをしっかりやっていくのが大事だ。また、経済制裁はアメリカ1カ国でやるより、考え方を同じくする国々との連携、役割分担の下でやる方が効果的であり、そういう体制をみんなで組んでいくのも、国際局の仕事として大きくなっている。更に、10月のG7でまとまったロシアの凍結資産の話もそうだが、ウクライナを支援するにしてもコスト負担や制度作りの上で各国間での調整が不可避になっている。

12/9掲載 「農業の効率化政策で国滅ぶ」
東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授
鈴木宣宏 氏

――日本の農業政策の根本的な問題とは…。

 鈴木 戦後の日本は、米国から圧力を受け、食料を国内で賄うのではなく輸入に頼る方向へ政策をシフトしてきた歴史がある。米国としては、日本が自給自足できるようになると支配できなくなるため、日本の農業を制限することは占領政策の一つの柱だった。米国は余剰生産物を日本に送り込み、日本政府もそれに従う形で農産物の関税撤廃などを推進した。そして、日本政府は、貿易自由化の下では購買力があれば必要な食料をいつでも十分に輸入できるという考えに立ち、農業への投資を控え工業など輸出産業の成長を優先させてきた。また、食料を輸入に依存する体制の原因は、日本人の食生活が米国の農業政策ありきで変えられてきたことにもある。戦後にGHQが学校給食を作ったことをはじめとして、さまざまな取り組みが行われてきた。厚生省が設立した日本食生活協会による「食生活改善運動」(1956~1961年)は、キッチンカーを全国に走らせて小麦や肉をとる欧コメ型の食生活を広めるキャンペーンを行ったが、やはり米国からの資金援助があった。また、1958年には慶應大学医学部教授による「コメを食べるとバカになる」と主張する本が出版され話題となったが、これも米国から資金援助が行われ執筆されたと言われている。敗戦後の日本では自国の文化を卑下し欧米の文化に憧れる風潮が強かったため、日本人は積極的に食生活の変化を受け入れた。このようにして、日本の食料自給率は約38%(2023年)と世界的に低い水準となってしまった。

――これからの食料安保はどうあるべきか…。

 鈴木 世界情勢が悪化するなか、食料を輸入に依存し、購買力を維持することが食料安全保障だというこれまでのあり方は通用しなくなっている。貿易自由化論の大きな欠陥は、他国に貿易を止められたらどのように命を守るのかというコストが一切勘定に入っていないことであり、日本は特に認識が甘い。例えば、中国は有事に備えて14億人が1年半食べられるだけのコメの備蓄を行っている。一方、日本のコメの備蓄は約100万トンで、国民が1.5か月で消費してしまう分量だ。国内の農業が弱っているなか、これだけの備蓄でどれだけの命が守れるというのか。現在、コメは減反により年700万トンの生産にとどまっているが、年1300万トン生産できるポテンシャルはある。旧型の米国製巡航ミサイル「トマホーク」を買う43兆円があるならば、コメの増産を進め備蓄を1年分程度に増やすことこそが、まず安全保障としてやるべきことではないか。この点、今回のコメ価高騰の背景として、備蓄米を米国からの要請で秘密裏にウクライナ支援に回していたために、備蓄米放出による価格調整ができなかったという事実もあることを忘れてはならない。こうした食料安保の議論が十分にできていないのが日本の危うさだ。今、踏みとどまって日本の地域農業を守る政策をとらなければいけない。

12/16掲載 「M&Aで新成長産業の創出を」
中村法律事務所 弁護士 中村直人 氏

――M&Aの際のファイナンスについて思う事は…。

 中村 買収する側の状況によってファイナンスのやり方は様々だが、私が気になっているのはベンチャーキャピタルだ。彼らは広く薄く資金提供しており、競合企業に投資しているケースもあるため、色々な情報が筒抜けになっている。日本では一度の失敗も許されないという風潮がいまだ強いために、リスクヘッジとして広く薄く投資せざるを得ないのかもしれないが、優秀なユニコーン企業になり得る会社には現在の規制を取り払ってでも一極集中して資金提供できるようにする等、もう少しシリコンバレー的なやり方を取り入れても良いのではないか。とはいえ、日本のベンチャーキャピタル投資担当者の給料は欧米に比べてはるかに低いため、リスクを取る事に対する意識は先ずは報酬制度から変えていく必要があるのかもしれない。

――海外から日本の企業が買収される事もある。経済安保についての考えは…。

 中村 実際に中国や韓国の企業に買収された日本の中小企業はかなりの数ある。小さな部品メーカーがキーポイントになっているが、中小企業ではグローバリズムや経済安保についてあまり詳しくない会社も多い。例えば中国の企業に買われそうになった時の対策としては、許容される出資比率範囲を明確にしておくことだろう。今は外資規制リストがあり、リストに載っていない会社も公表している。また、大きな案件では最近のRapidusやTSMC等、政府が関与しているケースが殆どで、エネルギーや電力ネットワーク等も国のコントロールが必要ということで政府資金が投入されている。世界中がブロック経済化しつつある中で、我が国が何とか生き残るための戦略物資として政府がバックアップしている今の状況は、計画経済になっているような感じもするが、官民が連携して資金的に難しい案件に挑戦し、世界の競争を勝ち抜いていかなければならないという状況にあるという事なのだろう。そう考えると、例えばロシアや中国やイスラム圏等と取引する事はリスクが高いなど、地政学リスクがわかる部署も必要な時代になっており、そういう意味でも政府や外国企業との連携は欠かせないものになっている。

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