金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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仮想通貨は時代の要請

日本仮想通貨事業者協会 会長  マネーパートナーズグループ 代表取締役社長  奥山 泰全 氏

――仮想通貨に、賭博以外の社会的な意義はあるのか…。

奥山 データやITの観点から説明すると、この20年間でインターネットが爆発的な普及を遂げ、今やスマートフォンを通じてインターネットに触れない日はないという状況となった。この20年間は一種の通信革命であり、従来の固定電話回線やネットワーク上の専用回線から、回線自体が地球全体に張り巡るような時代となり、どこの情報でも基本的にアクセスできるようになった。このうえで今、IT2.0と呼ばれる時代が訪れようとしている。これはインターネットがただの通信網ではなく、インターネット自体がデータを置いておける、いわゆるデータストレージ、ハードディスクの役割を、パブリックに担い始めるような時代になってくるということだ。つまり家のPCのなかにある家族の思い出の写真を、バックアップを取っていない状態で、PCが壊れてしまっても端末にデータを置かず、インターネット上にデータを上げておけばいい。企業においても高額なサーバーを持って二重化する、データをアーカイブするという行為に替わって、安全かついつでも取り出せ、無くならない状態でインターネット上にデータを置いておけるような公共のデータインフラが出来上がってくると、これからのデジタル化はより便利になってくる。ちなみにアップルやグーグルが提供しているクラウドサービスは個社として事業を展開しているのでプライベートクラウドと呼ぶ一方、誰かが管理している、または誰かが所有しているわけではないクラウドサービスをパブリッククラウドと呼んでいる。このパブリッククラウドにおいては、安全にカギをかけておくことができる、また1カ所ではなくコピーをとった形で分散して複数個所に置いておけるということがデータネットワークのなかで求められており、そのカギとなる技術がブロックチェーン技術だ。だがブロックチェーン技術は仮想通貨と表裏一体にあり、ブロックチェーン技術がデータネットワーク、ブロックチェーンネットワークとして成立したものが、ビットコインだったということだ。

――仮想通貨は新たな時代に必要な技術だと…。

奥山 デジタル化やIT化がイノベーションを起こそうとしている。産業革命では、エンジンが開発されたことで、奴隷制度がなくなり、人類は労働から解放されると評価されていた。それと同じでこれからはパブリッククラウドの時代だと評価され始めたのがビットコインの誕生だった。例えば、金融ファクシミリ新聞ビルは金融ファクシミリ新聞社の土地だが、土地自体に名前が書いてあるわけではなく、土地の所有権は法務局に登記されている登記証明を持って金融ファクシミリ新聞社の土地であることがわかる。しかし、もしもこの登記証明が書き換えられた、改ざんされたとすると土地の所有権が変わってしまうことになる。つまり、土地自体に名前が書いてあるのではなく、土地を所有している証明自体が土地の所有を示しているということは、近代社会においての財産は実はモノそのものではなく、データとしての証明で、つまりデータこそが財産であるという時代になりつつある。株式も預金残高も同じことだ。このデータがインターネット上に安心して安全に置いておける時代、これがパブリッククラウドの時代だ。

――たしかにデータ化の時代が訪れてきている…。

奥山 そしてインターネット上に財産を置いておけるということは分割することも可能となる。例えば、金融ファクシミリビルの価値が1000億円だったとする。金融ファクシミリビルの財産証明を1000億個に分割し、「1000億分の1金融ファクシミリビル」という取引できる単位を作り出すことができる。この点、「1000億分の1金融ファクシミリビル」は1円の価値に相当するが、例えばコーラやお茶を購入する場合、通常は法定通貨が必要になるが、今、手元に日本円はないけれども、所有している「1000億分の1金融ファクシミリビル」で購入できないかというとき、相手が取引に応じてくれるのであれば日本円に限らず、「1000億分の1金融ファクシミリビル」でもいいことになってくる。また、「1000億分の1金融ファクシミリビル」は永遠に「1000億分の1金融ファクシミリビル」のままなのかというと、土地の値段にペッグしているため、時とともにインフレが上昇して2000億円になったとする。そのとき「1000億分の1金融ファクシミリビル」は日本円に換算するといくらになるかと言われると2円になる。その時もジュースが100円で購入できるのであれば、「1000億分の50金融ファクシミリビル」でジュースが飲めることになる。この点、例えば日本政府の機能が崩壊し、法定通貨の日本円が崩壊したとしても、金融ファクシミリビルの所有・権利関係だけは崩れず、法定通貨をなくしてジュースを飲むことができる。

――なるほど…。

奥山 インターネット上にあり、かつスプリットできる形でやりとりされる状況になってくると、それ自体が流通通貨としての価値を持ち始める可能性がある。同様の話でいうと、近場にコインパーキングがあり、このパーキングに駐車したい人は多いとする。このパーキングに駐車する場合は専用のチケットが必要だが、1カ月に駐車できる人数は限られているため1000枚しか発行していない。このときその1000枚は値上がりしてもおかしくはない。逆に言うと人気のないパーキングのチケットは値下がりする。前述の不動産に紐づいたようなトークンというのはセキュリティトークンまたはアセットトークンと言われるようなジャンルの仮想通貨で、後述のコインパーキングのような実用のものと交換する権利が付帯している仮想通貨をユーティリティトークンと呼ぶ。要は仮想通貨というのは何かと言えば、インターネット上で共有されているグループやコミュニティの財産管理簿のなかで行き来できる性質のものであり、そのため値段の上げ下げはある。しかし、それ以前に何のための仮想通貨であるのかが語られなければならない。

――通貨同士の交換はできるのか…。

奥山 交換はできるがそれは交換業者の役割になる。例えば、ビットコインとイーサリアムとリップルはそもそも違うネットワークであることを前提に成り立っているものであり、その価値自体を媒介するのが交換業者の役割ということだ。そもそもビットコインを持っていないとビットコインのネットワークが利用できない、イーサリアムを持っていなければイーサリアムのネットワークを利用することはできない。例えば、カラオケで1曲歌うに付き支払われる著作権コインがあってもいい。頻繁に歌われる曲は高くなり、カラオケに行く人が少なくなってきたら著作権コインの価値は低くなってもいいなど、様々な分野にわたってデータ管理や財産管理、あるいは円滑な流通をするための小さなコミュニティの通貨が乱立していくような状況になってくると思われる。その通貨間の交換を可能にするのが交換業者だ。

――とはいえ投機的な商品だという認識は強い…。

奥山 今年1月までの仮想通貨が値上がりしたためどうしてもそこが目立ってしまう。仮想通貨の値上がりにはどういう現象が起きたのかと言えば、エンジンが発明された、これからは石炭の時代だということになり、一般的に自動車が普及したわけでもないのに、石炭を買い集めに走ったということだ。さらにデジタルネットワークであるため、ビットコインのほかにもイーサリアムがある、いやいやそれ以外にもこういった仮想通貨がある、または石炭がこれほど値上がりしたのだからガソリンや次世代エネルギーも値上がりするだろうと、投機が投機を呼ぶ展開となり、ハイパーインフレーションを起こしかねないような状況となったなかで、業者の不祥事が発覚し、それ見たことか、あんなものは金融商品ではない、マネーゲーム、博打みたいなものだという話になり、信頼が傷つきつつある状況となっている。

――投機的な商品という側面だけではなく社会的な意義をどうやって見いだしていくのか…。

奥山 私自身は、仮想通貨がただのマネーゲームであるならば社会的な存在意義はなく、社会的な存在意義がないのであれば辞めてしまえと思っている。しかし、インターネットの次の未来や人類史におけるデジタル化の次のイノベーションとしてブロックチェーンネットワーク、データネットワークが必要であり、それを円滑に動かすためにはそれぞれの小さなコミュニティが動くための燃料代、エンジンが必要だ。その点が仮想通貨の裏表ともいうことができる。マネーゲームのためではなく、皆がやりとりできるような状況に進んでいくなかで、仮想通貨と法定通貨をやり取りさせる仮想通貨交換業者の役割はこれからのデジタル社会を推進し、発展させるもので、とても責任があり、かつ夢のある仕事だと考えている。人様のお金を与かり、人様のお金で売買する業種であるため、私共としては金融機関、証券会社、FX会社に近いような感覚で、しっかりとお客様にやりとりができるようなサービス体制のなかで、業としてしっかり安心して取引して頂けるような状況を作っていかなければならない。これが、我々がデジタル社会において果たすべき社会的な役割だと認識している。

――業者の濃淡が出ている点やルールの未整備が問題だと考えるが…。

奥山 実際にその通りだと考えている。業者が安全に顧客の資金を預かって取引できるようにするためには、システムのキャパシティなどを含めてしっかりと整備を進めなければならない。某社の2回目の記者会見で昨年12月の口座開設数が40万口座にのぼったと発表された。いわゆるFXや有価証券の規模ではない顧客の流入が発生したために、会社のキャパシティがあふれる状況になったのは事実だ。ただ、そのなかで適切な本人確認や口座開設の受け入れ停止などキャパシティプランニングを設定して対応すればよかったのではないのか、なぜ全部受け入れたと言われれば業者の責任にあるが、当時、それだけの需要があったということも事実であったといえる。つまり、ただのマネーゲームではない、仮想通貨に対する一般の人の期待があったということだと言え、その期待に応えていくためにも業界の整備が必要だと認識している。昨年4月1日に施行された改正資金決済法(通称:仮想通貨法)において認定自主規制団体を設置が要請されているが、我々は遅くとも年内の体制整備を目標として進めており、今月ないし来月中にも進捗状況を公表する予定だ。それでも自主規制機能をワークさせていくには当然のことながら業者だけでも、金融庁だけでも難しく、関係者の理解をすり合わせながら自主規制機能を持たせなければならない。その法律のなかでカバーできていない部分は、昨今の事情をよく知る業者が協議し、問題点を共有し、対応策を見つけていく必要がある。そのため、全部が全部を当局や法令任せにするのではなく、しっかりと業界としての自浄作用が働くような認定自主規制団体を設置することが早急に求められていると認識している。

――金融当局の検査については…。

奥山 無論、事件が起きたことから金融庁による各社の管理体制のチェックが入り、多くの処分が発出されたが、私はこれはいいことだと考えている。事業を開始してから2~3年足らず、登録してから1年足らずと若い会社および事業であるため、某企業の事件が発覚するまでは、当局から証券や銀行レベルの体制は求められていなかった。フィンテックは次なるイノベーションだからということで、長い目で育んでいこうと、大目に見られていたこともあるだろう。証券においても設立したての証券会社に1回目の臨店検査が入って時には、設立したばかりなのでもちろん問題は多いが、通常はアドバイスをいただくものの、処分が書面にでることはまずない。しかし、2年後、3年後に処分が出されるまで、緩い状態で見逃されていた状態で事件が再発し、信頼が失墜してしまうよりも、法律施行後1年足らずで当局が全面点検したことで、業界の立て直しが早期に図られることとなったと理解している。

――大手参入で業界の体質は変わっていくのか…。

奥山 そうなると考えている。一方、処分に対応しない業者については退場を迫られるだろう。少なくともこのルールの中でビジネスをがんばっていこうと思うのであれば当局の目線にかなうだけの体制整備が求められる。処分がでていることは一般利用者にとってはありがたいことだ。これを超え、早期にクリーンな体制になることができれば、より早いスピードで市場の健全化が達成され、信頼を構築することができる。今、多くのけちをつけられることはいいことだが、これからはこの先がより重要であり、この土砂降りのなかを通り抜ける事が出来れば仮想通貨の未来は明るい。ここまで点検してしっかりとやっている仮想通貨交換業者は世界に類を見ない。日本の仮想通貨法はある意味先進的だと思う。生き残れる仮想通貨交換業者は必ず将来高い評価を受けるだろう。この際に業界の膿を出し、IT系の楽観的な思考やマネーゲーム的な感覚を取り除き、リセットした方がいい。それを超えていけばデジタルマネーの世界、仮想通貨の世界は実用のニーズがついてくる。マネーゲーム程の加速度的な普及度合いは見られないかもしれないが、それでも着実に普及させていきたい。博打の胴元になるのが我々のミッションではない。世の中に役立つ仲介人になることが金融機関の使命だと考えている。

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