光世証券
取締役社長
日本証券業協会
大阪地区協会 地区会長
巽大介 氏
――米(コメ)の先物市場など大阪にも金融資本市場が活性化する種が出てきている…。
巽 米の先物市場は大歓迎だ。万人が見ている公共の場で商品の値段が決まるのは重要な事だ。大阪はご承知の通り世界で初めて先物取引が開設されたと言われている地でもあるし、古くから日本の一大商業地でもあり、また今でも大阪証券取引所があり、日本銀行大阪支店、造幣局、近畿財務局など商業のインフラ設備が整っている。そうした意味では、大阪で金融資本市場を活性化していく素地はある。また、24年前にはソフトバンクの孫正義氏がここ大阪に日本版ナスダックを創設したこともある。あの構想がしっかりと実を結んでいれば、いまのナスダックの隆盛と果実を日本経済にも取り入れられた。たらればの話をしても仕方がないが、いわばそうした可能性のある地であることは衆目一致するところだろう。
――今進め始めている大阪国際金融市場構想については…。
巽 実は事務局絡みの仕事の依頼は大阪の証券業協会に方にきているが、構想を練る今の段階では話が来ておらず評価そのものが出来る状況ではない。大阪市民が金融市場を通じて大阪をどういう町にしていきたいと思うのかが大事だ。どうも大阪万博などと同様に、オール大阪と言うよりは政治絡みで進められているようであり、推進主体と推進の目的がつかみにくい。このため、成功することに期待はしたいが、今の段階では見通し難い。
――東京でも国際金融市場構想が10年以上前から進められているが、一向に実現しない。これはひとえに海外の市場と比べた税金の高さだ…。
巽 金融の場合、税金の問題は大きい。確かに海外の国際金融市場の所得税や法人税に比べ、日本の場合は概ね倍の税率だ。余程日本の市場の使い勝手が良い場合や儲かる市場にならないと、外国人プレーヤーは日本市場にやって来ないし、そうなると上場する海外企業にも限界がある。さらに、それになにより、日本人の金持ちが海外へ出て行くケースがある。また、今は日本人の投資家が外国市場に投資するケースが目立っていて、日本人が日本に投資をしていないという現実もある。国際化も良いが、先ずその辺の捻れも是正する必要があろう。
――多くの日本人には投資という文化や考え方が育っておらず、安全指向が強い…。
巽 その通りだろう。その原因は幾つかあると思うが、ひとつは金融不安の際の銀行預金の全面救済処置が良くなかった。金融不安を広げたくないという当局の考えはわかるが、預金を全面救済する事で己責任原則が培われないどころか、日本人のお金に対する安全指向がさらに強まってしまい、株式などリスク投資へのマインドが一層後退した。日本人の投資資金が安全なところにしか行かなければ、当然のことながら経済も高成長は出来ず、低成長を余儀なくされる。同様に金融庁などの行政機関が低リスク低リターンの安全運転の行政方針を取り続けており、証券より銀行重視の姿勢を変えていないことも証券市場が大きくならない要因と言える。
――いつまでも銀行性善説、証券性悪説では金融不安は起きないが、経済成長は期待薄だ…。
巽 過去30年余り、日本の証券市場はこれから大きくなると期待される度に金融界が不祥事を起こしてきた。金融不安とリーマンショックの時の激しい貸し渋り、手数料稼ぎの回転売買と仕組債販売、そして足元ではメガバンクによるインサイダー問題やファイアーウォール違反だ。そしてその度に証券市場や取引ルールが規制されて、活気のある証券市場がどんどんと縮小している感がある。その点、直間比率を見直すために導入された銀行の子会社による証券参入も直接金融市場の拡大には全く寄与しておらず、むしろ弊害が目立っている。
――同感だ。日本の場合、銀行が融資先企業に人を送っ安全経営を要請するため、経済成長出来ない大きな要因になっている…。
巽 証券行政について言えば、大手証券やネット系証券目線で考えている風がある。我々中堅中小の証券会社目線で行政を考えてくれとは言うつもりはないが、目線が向いていないことで中堅中小の自由度が削がれると言った指導や監督もあることを理解してほしい。例えば、顧客本位の営業方針などは個人投資家が主な顧客である中堅中小証券は当たり前のことであり、個人顧客と密接に関わっている我々がこれをしていなければとうの昔に潰れている。一方で、かつての四社時代の様に、大手証券が監督当局と証券市場を話し合うケースが極端に見られなくなっていることも問題であろう。そうした市場の発展に関するコミュケーションが当局と証券会社の間で無くなっているなかで、行政当局が証券市場を監督指導していることが市場の発展を遅らせている原因の一つではないか。
――株式のデリバティブ取引も外国人が主体だ…。
巽 大阪証券取引所が株式のデリバティブ取引を一手に行なっているが、日本人の参加はごく少数だ。外国人がほとんど取引の主体となっている現状で、これが果たして国際化と言えるのか甚だ疑問だ。本来ならば、日本人が主体でその何割かに外国人が参加しているという状況が国際化と言えるものであろう。つまり、日本人のリスク投資に対する考え方が育っておらず、日本人投資家層のレベルが海外に比べまだ極めて未熟だと言うことを株式のデリバティブ取引の現状が物語っている。同様に株式のデリバティブ・オプション取引も今参加しているのは証券会社では当社だけであり、デリバティブが活発な世界の市場から取り残されているという現状を日本人全体が認識した上で投資立国を推進すべきではないか。その点で、株式のデリバティブ取引に関する税制を見直すことも重要だと考えている。
――金融リテラシーの向上を目的に今年度から金融経済教育推進機構(J―FLEC)がスタートする…。
巽 大変に良いことだと思う。金融は実体経済を支えるものであり、資本主義経済の発展のためのコアな機能だ。「貯蓄から投資へ」といわれて久しい。投資には正しい金融知識を持つことが必要で、これまで証券界も証券教育に力を入れてきた。今回のJ―FLECは日本証券業協会も発起人となっている国の機関であり国の予算で運営される。官が行う教育であるから国民もよけいな投資勧誘を気にせず正しい金融の勉強ができるのではないか。我が国の個人金融資産のうち現預金は未だに50%以上を占めている。額でいうと1千兆円以上だ。国民が正しい金融の知識を身につけることが「資産運用立国」の土台となると思う。
――他方、御社自身の方針や社長としての抱負は…。
巽 当社は証券界のドンキホーテであることを自負していきたい(笑)。つまり、他者と全く違うことを恐れずに、自ら信じた道をひたすら邁進していきたいと思っている。すなわち自己売買であり、株式のデリバティブ・オプション取引であり、富裕層営業であり、システム開発だ。株式のデリバティブ・オプション取引は当初こそ数社が取引を行なっていたが、システム対応が容易でないことやコストに見合わないなどの理由で1社減り2社減りといった具合に今では当社しか取引をしておらず、世界の市場から見るとまるで日本市場はガラパゴスだ。また、取引システムは当社自らが開発したシステムを使っており、中堅証券会社としては他社に類を見ない。このシステムが他の大手のシステム会社との競合商品として検討して頂いており、既に数社が導入して頂いている。こうした他社に真似の出来ない商品やサービスを深掘りして日本では唯一無二の証券会社として、存続し続けたいと考えている。[B]