金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「協会統合で運用立国を推進」

日本投資顧問業協会
副会長・専務理事
岡田則之 氏

――日本投資顧問業協会と投資信託協会との統合に向けた取り組みが進められている…。

 岡田 投資信託協会は、証券投資信託の健全な発展を図るために、証券投資信託委託業務を兼営する証券4社で1957年に創設した長い歴史を持つ協会だ。一方で、投資顧問業協会は投資ジャーナル事件という一種の詐欺事件が起きたことをきっかけに、悪質な投資助言業者を取り締まるために作った「投資顧問業法」という法律に基づいて設立された協会で、その歴史は30数年と浅い。出自も毛色も違うこの2つの協会は、これまでにも2度、一緒にしたらどうかという話があった。1度目は1995年、金融・証券関係の規制撤廃が進んだことで、それまで兼業禁止とされていた投資信託委託業と投資一任業の兼営が可能となった時だ。しかし、当時の投資顧問業協会は「投資顧問業法」の中に記された協会であり、同様に投資信託協会も法律の中に名称が記された協会であったため、両協会を統合する為には法律を変える必要があり、そこで立ち消えとなった。2度目の機会は2007年、金融商品取引法が施行されたことで投資顧問業法が撤廃された時だ。これにより当協会は法律の中に記されていた名称の縛りがなくなった。同じく投資信託法改正によって投資信託協会という名称も法律に記されない事になり、その時に投資信託協会の方から両協会の統合を提案された。しかし、投資信託協会が公益社団法人を目指していた一方で、投資顧問業協会の業務内容では公益社団法人の要件を満たせないと内閣府から指摘を受けた。本来、公益法人は直接国民が被益することが必要なのだが、当協会は年金を通じての間接的な被益であり、また、会費の違いから投資助言業と投資運用業で議決権に差を設けている。そういった理由から当協会が公益法人として認められず、再び統合の話は破談となった。

――今度は3度目という事になる…。

 岡田 3度目の正直で、今回の統合話は昨年末、金融庁から両協会の会長に対して「これから日本が資産運用立国を目指すために、この際一緒になったらどうか」という声がかかった事に始まった。それをきっかけに両協会の会長が話し合いを行い、このプロジェクトを本格的に進める事になった。当協会会員の運用資産額は600兆円を超えており、投資信託協会会員の運用資産額と合わせると900兆円を超える。これは直近の銀行・信金貸出平均残高の623兆円を超え、同預金残高1,053兆円に迫りつつある。この資金規模は膨大であり、ある意味「資金運用立国」は、これだけ積みあがったお金をどう循環させ経済に活かしていくのかを、後追い的ながら真剣に考えようとしているとも言える。

――両協会が統合される事で、具体的にどのような相乗効果があると予想されるのか…。

 岡田 投資信託も投資一任契約も、入口が違うだけで背後の運用は同じだ。どのようなエンゲージメントにすればより良い運用になっていくのか、ESGに対してどのように取り組んでいくのか、世界の潮流をどう捉えていくのか等について、一緒になって取り組んだ方が効果的だ。一方で、資産運用業界は調査研究機能が弱いという課題がある。例えば様々な課題に対して資産運用業界として提言しようにも、その前提となる事実を調査・確認できなければどうしようもない。金融グループに属する資産運用会社は、グループ全体の研究所は持っていても、資産運用会社として独自の研究所は持っていない。中小独立系の資産運用会社に関してはそもそも研究所を持つ余裕はない。同様に当協会の職員約30名、投資信託協会職員約50名を併せても80名程度であり、調査研究機能を果たすことは難しい。さらに言えば、国際的な枠組みを持っている訳でもない。約400名の職員規模を持つ証券業協会と比較しても脆弱であり、外部から様々な協力を得るとしても、独自に新たな方策を考えていかなければならない。もちろん、当協会は会員企業の皆様の会費によって運営されているため、統合してやるべきこと、やった方がいい事、やりたい事、全ては会員の皆様がどれだけそれに理解を示してくださるか次第だ。こういった様々な事柄について、現在、理事の方々を含めて皆様との対話を進めている。

――日本を資産運用立国にするという話は以前からあった…。

 岡田 日本政府による「貯蓄から投資へ」という取り組みはずいぶん昔からあったが、それは直接個人投資家と接する販売会社について、例えば証券会社の顧客対応や銀行の窓口販売についての議論が中心だった。一方で、今回日本政府が進めている「資産運用立国」という話は、資産運用業界そのものを捉えた議論になっている。これまで日本は資産運用業界だけに着目して国を挙げて議論してきたことは無く、初めての取り組みだ。単に資産運用業を発達させるためや、国民の資産を増やすためだけではなく、より直接金融中心の世の中にしていくことで、国内のお金の流れを変える事にも繋がっていく。直接金融の流れになった時に企業はどう動くべきか。今、東証がもっと株価や資本コストを意識した経営をするように提言しているのも、資金の流れが銀行中心から市場中心に移っているからであろう。政府は、大きな資金の流れの中で足らざる部分にしっかりとお金を回していけるようなインベストメントチェーンの役割を、国としてしっかりと考えていくために、今回の資産運用立国の議論を行っている。そして、それに応えられるような業界団体・自主規制団体が登場してほしいという思いが金融庁にあるのだと理解している。

――金融庁は資産運用業のガバナンスを唱えている。統合して出来る新しい協会は、そのカウンターパートナーにもなり得るのか…。

 岡田 もともと当協会は政府と資産運用業界の懸け橋となっていた。当協会と金融庁の直接的な意見交換はもちろん、金融庁と資産運用業界が意見交換する場の仲介役となることもある。日本における資産運用会社の歴史は浅く、金融グループに属する子会社が多かったため、資産運用会社の社長が直接金融庁幹部と意見交換することは少なかった。また、日本では業界の個社が直接行政に物申すよりも、協会を通じて業界の意見を伝える方が便利だという考えが強い。これが米国であれば、同一業界の人たちが集まり業務について話し合うと談合予備行為になるおそれがあり、日本流の業界団体が育ちにくい。一方、日本の場合はそれほど法の縛りがきつくない為、業界内で話し合いやすい環境にあるとも言えよう。ただ、両協会が統合してどんなに頑張っても、業界が発展していくためには個々の資産運用会社の意識や行動が変わらなければどうしようもない。協会が新たな変化を遂げるとともに個々の会社も頑張って、この業界がどんどん伸びていってほしい。

――今後の日本は、金融が日本経済の牽引役となっていく…。

 岡田 金融の独り相撲ではなく、企業が変わっていく事が大前提だ。昔の企業は、資金繰りは銀行に頼み、分厚い持ち合い株で株主総会を乗り切っていけたが、これからの時代はそういう訳にはいかない。いわゆる「モノ言う株主」も、昔は短期的な利益を求めるだけと非難されたが、最近では中長期の成長を目指す株主提案もするようになってきた。同じように中長期の持続的成長を求める資産運用会社としても、考えが一致すればそうした株主提案に賛同する流れになってきている。安倍政権で策定されたコーポレートガバナンスコードは、そもそも成長戦略の一環として作られたものであり、株主と建設的な対話を進めながら、持続的な成長をしてくためにはどうするべきかを各企業に考えてもらいたいという政府の意図が背景にある。株式市場や株主総会を中心とした最近の変化を見ていると、それが今、ようやく花開いてきていると言えるのではないか。[B]

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