全国信用協同組合連合会
理事長
北村信 氏
――昨年6月に全国信用協同組合連合会(全信組連)理事長に就任した…。
北村 23年は3カ年の「経営の中期的戦略」(中計)の最後の年で、着任から半年間、新たな中計(24~26年度)の作成にあたった。当初は、信用組合(信組)業界の全体像のイメージがつかめず、信組のニーズも分からない状態だった。そのため、年3回行う地区別懇談会の秋の回で、あらかじめ信組から募った意見について対話することを試みたところ、約450件と非常に多くの意見が集まった。いただいた意見を基に、前回の中計を振り返りながら、次の3年間で何をやっていかなければいけないのかということを考えた。前回の中計の基本的コンセプトは「全国信用組合中央協会(全信中協)との一体的運営のさらなる緊密化」だった。このコンセプトについて振り返ると、経営資源の効率的な運用が可能になったことなどメリットもあったが、中央組織の改革に注力する一方で信組の意見を十分に吸い上げられていないという課題があることも分かった。それを踏まえてまとめた新しい中計では、原点に返り、目指すべき姿を「すべての信用組合に万全なサポートを提供できる中央組織」と示した。施策としては、「信用組合へのサポート強化」「DX推進・ITガバナンス強化」「全信組連の収益力強化」の三本柱を進めていく。加えて、それを実現するための組織のあり方として、「強じんな組織づくりと職員一人ひとりの成長」を促していくことにした。
――「信用組合へのサポート強化」の具体的な取り組みは…。
北村 まず、有価証券運用のサポートを強化する。信組の預貸率は6割程度で、残りの4割は預け金か運用資金だ。これまでは運用の相談先が証券会社に限られ、本当に信組にとって妥当な助言が得られるか分からないという課題があった。そこで、全信組連が第三者機関として、リスクとリターンが見合っているか、流動性が確保されているかなどを確かめ、信組にとってより良い選択をアドバイスしていく取り組みを強化することにした。実は、有価証券運用のサポートは以前よりアドホックに実施していたが、サポートの存在を知らず利用しない信組が多数あった。このため、窓口として昨年12月に信用組合部内に「信用組合サポート本部事務局」を作り、専務理事を責任者に置くことで実効性を高めた。さらに、この7月には同組織を部相当に格上げし、預金貸出や企業の伴走支援などの本業へのサポートも併せて行っていくこととした。全信組連自身は預金貸出や伴走支援に長けてはいないので、業界のなかで知見や情報を流通させる仕組みを作っていきたい。本業で成功している信組はたくさんあるが、規模が大きい信組や、先進的な取り組みに熱心な理事長がいる信組に限られる傾向にあり、成功例を共有できれば後続の取り組みにつながるだろう。ゆくゆくはデータベースを整備し、信組の役職員が直接見ることができる形を目指したい。
――「DX推進・ITガバナンス強化」とは…。
北村 私の前職は全国信用金庫協会の専務理事だった。信金業界と信組業界を比べると、信組は規模が小さくDXが遅れている。信組の約98%は、システム共同センターである信組情報サービスのシステムを利用している。共同センターでどういうシステムを構築・開発するかが信組業界のITのあり方を決めるということだ。これはある意味でやりやすい面もあるが、信組の規模・態様によってシステムに求める水準が異なるため、コンセンサスを得ることが難しいという課題がある。規模の大きい信組ほど高度なシステムを求める一方で、小さい信組は費用負担の少ない必要最低限のシステムで良いという希望を出す。また、信組業界では地域以外の職域・業域によってシステムに求めることが異なることもある。しかし、信組業界がDXの流れに追い付いていくためには、数百万円の費用負担が難しいような規模の小さい信組も含めて引っ張っていかなければいけない。新しい中計では、システムインフラ構築・運営に要する費用の一部を全信組連が負担することでDXを後押しする方針を盛り込んだ。そして、「システム業務部」を「IT・DX推進部」に再編したほか、総合企画部には組織内のデジタル化のニーズをまとめ、IT・DX推進部と議論するグループを新設した。また、全信組連、全信中協、信組情報サービスで構成する「IT・DX戦略委員会」を作り、そこで業界としての方針を策定することにした。それぞれの意見の最大公約数を探すことは非常に大変だが、われわれも各信組も、早くDXにキャッチアップしなければならないという意識は強い。
――「全信組連の収益力強化」にも取り組む…。
北村 3カ年の目標として、最終年度である26年度の単年度利益100億円という水準を設定し、金利上昇に耐えられるポートフォリオづくりを進めている。全信組連の22年度単年度利益は約75億円だったが、23年度単年度利益は約15億円まで減少している。米利上げや日銀の金融政策正常化にともなう金利上昇が予想されたことから、昨年度後半よりポートフォリオの見直しに着手し、超低金利の時代に買った超長期国債は損失を計上してでも売却した方が得策と判断した。足元では、投資信託等の非金利商品の含み益がポートフォリオの下支えとなっている。J―REITは安定して3~4%の利回りが得られるが、いまは金利上昇局面で軟調な展開が予想されることから、一部を売却し国内株ETFに乗り換えた。われわれは外貨では運用しない方針だが、株式から非金利収入を得ていくことについては考えていかなければいけないと思う。今後の運用について言えば、金利リスクを考えると直ちに長期国債を買うことは躊躇する。しばらくは5年以下の事業債などで運用していき、金利の先行きが見えれば長期債にだんだんと乗り換えていく方針だ。
――理事長として抱負は…。
北村 先ほど申し上げたように、私は縁あって信金業界から信組業界に移ってきた身だが、信金・信組とも協同組織金融の担い手としては同じ方向を向いているはずであり、業態を超えて学んだり、同じ地域で連携したりする際の架け橋になれればと思う。また、就任してからは「中央組織が意見を聞いてくれない」という批判をよく耳にしてきた。できるだけ信組との距離を縮めようと思い、全国行脚と称して個別信組訪問を重ねている。この1年間では約50信組を回ることができた。実感しているのは、やはり信組業界のビジネスモデルの幅広さだ。例えば、全信組連の山本会長が理事長を務める広島市信用組合は本業の預貸業務に特化している一方、長野県信用組合は事業性融資に加え有価証券運用に長けており、ともに高水準の利益を上げている。他方、大阪の複数の信用組合は旺盛な需要を背景に不動産融資に積極的に取り組むことで業容を拡大させているが、バブル崩壊時に苦労された銀行出身者が在籍する信組もあり、リスク管理にも大変気を遣っている。地方に行けば、地方創生を強く意識して、自治体と連携して事業を行っている信組もある。まさに「狭域高密度」で、とにかくそれぞれの地域などに密着した、非常に幅の広いビジネスモデルがある。地方の信組の理事長さんと話すと、地域と「運命共同体」であるという認識が骨の髄までしみ込んでいるのだと感じる。地元の中小企業、小規模事業者にどのような支援ができるか、一生懸命に考えている姿を見ていると、全信組連の理事長としてできる限りこれを支えていきたいと感じる。その一環で、幅広くわれわれの活動を評価するためのKPIとして、今回の中計の3年間は、毎年「満足度調査」を実施する。昨年の秋から現在までのように、信組の皆さんから意見を集め、それを踏まえて対話し、われわれの役割を再考するという1年間のサイクルを繰り返すつもりだ。信組の皆さんに満足してもらえるように頑張っていきたい。[B][L]