金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「意識変革で持続可能な成長に」

SMBC日興証券
取締役社長CEO
吉岡秀二 氏

――SMBC日興証券として初の理系出身の社長だ…。

 吉岡 88年に慶應義塾大学理工学部から旧日興證券に入社した。私が卒業する3年前、85年卒のころから、数字に強みを持つ理系の学生が金融機関や商社、コンサルティングファームに就職する流れが徐々にでき始めていた。かつ、当時は理系で学んだというだけの20歳過ぎの人間だったが、経済に貢献する仕事がしたいという漠然とした思いがあった。そのうえで、とりわけ証券会社のダイナミズムを感じたいと考えていたことが入社の動機だった。今では理系の学生が金融資本市場で就職することも珍しくなくなった。

――収益の動向は…。

 吉岡 ホールセールビジネスの話をさせていただくと、われわれには一定の競争力があると思っている。21年に発覚した不祥事案ではお客さまにご迷惑をおかけし、22年度は法人関係でお取り引きが減少し、収益がかなり落ち込んだ。市況の影響もあるが、その反動で23年度はホールセール部門の収益が増加した。お客さまに戻ってきていただいたこともあり、ニーズに応えられることが増えてきたと実感している。特に、非公開化なども含めM&A案件でサポートすることができた。今、国内においてM&Aは過去最高水準のニーズがあり、件数が伸びている。昨年から日本の株式市場が世界的に注目を浴び、企業業績が良くなっていることに加え、企業が事業ポートフォリオや還元策の見直しを積極的に行っているためと見受けられる。同年にSMBCグループは米ジェフリーズと資本業務提携を強化し、23年度の米ジェフリーズと連携してのグループ全体の協働案件数は約100件まで増加した。グローバルビジネスの拡大に向けて、今後も海外の案件へのアクセスがカギとなるだろう。

――SMBCグループとの連携の成果と課題は…。

 吉岡 09年秋にSMBCグループの一員となり、今年で15年目となる。限られたリソースのなかでお客さまに最大限のサービスをするためには、グループ内の連携体制が大変重要だ。近年はグループの戦略として「銀信証連携」を進めており、会計上で連結するということを超えて、グループ全体で当社がどのように証券のファンクションを担っていくかに軸足を置いている。例えば現在、当社から88人の営業社員が三井住友銀行の証券営業部に出向している。相続やローンだけでなくさまざまなな悩みを抱えていらっしゃる銀行のお客さまに対して、資産運用面に強みを持つ担当者がサポートを行うことが理想的だという考えだ。グループ内での役割のすみ分けなどすり合わせが高度化し、連携がうまく回り始めていることが、成果にもつながっていると思う。とはいえ、まだまだやるべきことはたくさんあり、グループの成長に中核証券会社としてどれだけ貢献できるか挑戦していきたい。まずは営業部門においてグループ全体での協働を推し進めたい。国内だけでなく、海外での成長のペースを速めていくためにもグループ連携は不可欠だ。

――リテール分野で新たな取り組みを行っている…。

 吉岡 とりわけ注力したいと考えているのはリテールだ。リテールでは「資産管理型」営業への移行という大きな流れがある。世界的なインフレなどにより将来への不透明感が増すなか、資産運用で最も重要なのはやはり投資時期とアセットの分散だ。移行の一環として一昨年から収益予算を取り払ったほか、社員評価やお客さま対応などの手法を見直している。そして、試行錯誤のなかで、信頼性の高いツールをもってお客さまと向き合う必要があると考え、6月10日にリリースしたのが「Nikko PRM Prime」だ。当社は17年から一定の預かり資産のある富裕層のお客さま向けにリスク分析エンジン「Aladdin」を活用したツール「Nikko Portfolio Risk Management(Nikko PRM)」を提供してきた。これまでのツールはプロ向けという感が強く、ある程度の知識や経験が前提となっていたが、新たなツールでは幅広いお客さまがより体感的にポートフォリオ管理を行うことができるようになった。シナリオの設定やベンチマークの比較、リスクの算出などがこれまでより容易にできる。8月上旬までに営業社員はツール活用についての対面研修を完了する予定だ。「資産管理型」営業に移行したばかりということもあり、営業部門の収益が伸び悩む局面もあるが、お客さまの含み益はかなり増えている状況にあるなど成果も出てきている。

――AI技術をどのように取り込んでいくか…。

 吉岡 AIを含むデジタル技術の活用は既に当たり前のこととなっているので、とにかく導入できるところにAIを導入するということが重要だろう。経営としてウエイトを置きたいのは、究極的には同じフロアにビジネスを考える社員とITを取り仕切る社員が肩を並べ、互いの方法論を理解し、どういう設計が可能かということを日常的に話し合える体制をつくることだ。仮に、「Nikko PRM Prime」を「Nikko PRM 2.0」と呼ぶとして、今後数年の展望として、「今日Nikko PRM 2.15になりました」「明日2.17になります」というように、同ツールが環境の変化やお客さまのフィードバックを常に吸収して更新されていく体制をつくりたいと思っている。これは社内の体制を整えなければ実現できないことだ。私はトレーディングシステムの内製化に関する経験もあるので、強いリーダーシップを持って体制づくりを進めていきたい。一方で、お客さまが重要な決断をするときに当社に求めているのは、運用や相続などについてのさまざまな疑問などをキャッチボールできる能力だと認識しており、社員一人一人の対応には大きな付加価値があり続けると思う。

――新NISAの影響は…。

 吉岡 新NISAは投資家のすそ野を広げたという点で話題になっているが、当社のお客さまの中心となっている富裕層に関して言えば、成長投資枠がかなり活用されている。特に日本の個別株を買われる傾向があり、日本株の強い潮目の一因になっていると思われる。そういう意味では日本市場にとっても、富裕層のお客さまにとっても、当社にとっても、新NISAが追い風の要素の1つになっている。一方、この10年の間は、やはり米国株において世界の成長のアルファを取っていく銘柄が多かったため、それに基づいてお客さまにご提案することが多かった。

――社長として抱負は…。

 吉岡 一番の抱負は、近藤雄一郎前社長がつけた再建への道筋の完遂だ。この2、3年間、いろいろな仕組みを総点検し、業務改善のためたくさんの施策を打ってきた。しかし、21年に発覚した不祥事案の件にとどまらず、大小の問題が起きてきた真因を本当に解消しようと思うと、取り組みを継続することが重要だ。世の中の変化に対して自律的に対応するような経営を目指すうえで、最後に大切なのは企業文化だ。企業文化は一朝一夕に改革できるものではないため、どのようにつくりあげていくか懸命に考えてきた。まず行ったのは、ロールモデルとなる行動事例「Good Action」のリストを経営理念に基づいて作成することだ。次に、「Good Action」を体現できる社員を増やすためには評価や登用の指標が大事になってくる。評価に関して言えば、昨年、社員の賞与算定基準を利益連動だけでなく中長期的なKPIをより重視するよう変更し、初の支給がこの6月だ。これにより、社員が経営を自分ごととして実感できるようになり、意識が変わるのではないかと期待している。これからは、皆が縦・横・斜めのコミュニケーションで常に「Good Action」を取ることができるような関係性をつくっていかなければいけない。SMBC日興の社員一人一人に対し、世間の人が「信頼できる人ですよね」と思ってくださったり、社員の家族が「この会社で働いていてよかったね」と思ってくださるようにするのが、このタイミングで社長を引き継いだ私の責務だと思う。そのためには、まず私自身が一番のロールモデルにならなければならない。今は、自分が入社して以来で最も資本市場に注目が集まっている時だ。追い風の今こそ、「サステナブルな成長」を目指し、地に足をつけた取り組みを続けていきたい。[B][L]

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