金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「短期市場の金利形成を柔軟に」

東京短資
代表取締役社長
後昌司 氏

――東京短資は創業115周年。これまでに一番大変だったことは…。

  東京短資はもともと「柳田ビル・ブローカー」というマネーブローカー業務から始まった。戦後に、他社との合併および、ブローカー業務を兼務していた証券会社から営業譲受し、1949年に東京短資と商号変更して新たなスタートを切った。長い歴史の中では困難な局面も少なくなかったが、近年で一番大変だったのはゼロ金利の時だ。当時はイールドカーブがフラット化し、短資会社の収益機会は極めて限定的なものとなった。その後マイナス金利政策の時代を迎えたが、この場合であれば、マイナス0.1%を起点にして、多少イールドカーブの傾きが出てくる。また、日本銀行の当座預金は3層の階層構造になり各金融機関のポジションによって裁定取引が行われるため、仲介をビジネスとする短資会社はマイナス金利下でも一定の収益を獲得することができた。

――今後、利上げの動きとなれば、ビジネスチャンスも広がっていくのではないか…。

  現時点は「普通の」金融政策に向けての途中段階であり、これを山登りに例えると1合目か2合目といった処だ。我々の本業であるコール市場をみると、マイナス金利の時の残高は大体20兆円前後だったが、むしろ今はその半分程度の残高に減ってしまった。3層構造がなくなったために裁定取引がほぼ皆無となり、出し手(貸し手)と取り手(借り手)が固定されてしまった事が主な理由だ。日銀の当座預金を保有する金融機関は基本的に0.1%で運用できるためコール市場に資金を放出する必要がなく、コール取引の中心を占めるオーバーナイト物の出し手は、日銀の当座預金を持っていないアセットマネジメント等に限られる。金利も、マイナス金利解除後は、オーバーナイト金利はほぼ固定化してしまっている。コール市場のサイズが3月の日銀会合以降は縮小した分、代わりに日銀の当座預金が増えている。尚且つ、日銀による国債の買い入れは従来と同じ月6兆円のペースを維持する事になっており、YCC(イールドカーブ・コントロール)は解除されたものの、QE(量的緩和)はまだ続いている。長期金利も一時期に比べれば動いているが、変動幅はさほどではない。我々のような短資会社からすると、それぞれのマーケットで自由な金利形成が出来て裁定が働いていくようになれば、もっとビジネスの量も増えてくる。

――日銀は緩やかに金利を上げていく構えだが、その間のビジネスは…。

  現在、我々が取り扱っている一番大きなマーケットは、債券レポ市場で、このマーケットの規模はマイナス金利の時も今もあまり変わらない。このほかオープン市場ではCP(コマーシャルペーパー)が、金利が上がっている為、一定のスプレッドを確保出来る機会は相応にある。このように、今はコール市場の収益機会が落ち込んでいる分をオープン市場でカバーしている形になっている。また、仲介ビジネス以外の分野では、当社のグループ会社であるジェイ・ボンド東短証券は債券の電子基盤取引を提供するPTS運営会社で、いわばプラットフォーム提供のビジネスである。プラットフォームのビジネスは競争が激しいが、お客様の使い勝手が良いように色々な機能を追加しながら続けていくつもりだ。当社は英TPICAPという英国のブローカーと資本提携をしており、密接に意見交換をしているが、海外のブローカーの収益構造は、仲介ビジネスに加え、プラットフォームとデータサービスも大きな柱だ。このうちデータサービスは市場参加者にとって非常に有益なサービスの提供となるものなのだが、日本では情報にお金を使うという文化があまりないため利益につなげるのはまだまだ難しい。しかし、そういった部分にも今後力を入れていきたいと考えている。

――SB市場や国債レポ以外の債券取引への参加意向や、新しい金融商品への参入予定は…。

  我々が取り扱うのは基本的には短期のプロダクツだ。社債はCP以外扱っておらず、長い年限の債券で扱っているのは国債くらいだ。レポ取引に関しても、マッチングの取引がほとんどでリスクを限定するようにしている。短期の金融商品を取り扱うのが短資会社の基本であり長期の商品は難しいというのが実情だ。新しい金融商品としては暗号資産なども一つの考えとしてあるが、実際にはどのような形でアクセスするか等、考える点も多い。そもそも、我々が取扱うBtoBの市場としての規模やイメージが明確にみえてきているものではない。当社は既にデジタルガレージ(4819)と一緒にブロックチェーンを活用した金融サービスビジネスを手がけているが、これも市場が大きくなってから取り組むのでは手遅れになるという問題意識から先手先手に展開しているという段階だ。また、日銀は中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する取り組みを進めている。注視はしているが、金融機関間の最終的な資金取引においては、資金の過不足は必ず発生し、そこには仲介業者の存在が必要であることには変わりはない。CBDCがどのような構造のものになるかという論点はあるにしても、民間の短期資金仲介業の存在意義が大きく変化するようなことは無いのではないか。

――現在の短資市場の問題点や課題は…。

  マーケットの金利形成をもう少し柔軟に出来るようになれば良い。主要国でマイナス金利を解除した国の中でもスイスのように階層構造を残して裁定取引を働かせる仕組みを作った国もある。日本で階層構造の復活はすぐには難しいかもしれないが、コール市場での裁定取引を促すような工夫はしてもらいたい。また、次の利上げで例えば25ベーシスポイント上げるとして、超過準備のすべてに付利する現行の方式では、日銀当座預金が560兆円にも上るだけに相当な利払いが発生する。銀行側としては無リスクで0.25%の運用ができるということなので、貸出しよりも日銀に預けたままの方が良いという心理が働き、当預残高はなかなか減少しないのではないか。日銀収益への影響をみればその時は国債金利も上がり、日銀の利息収入も増加するので、付利金利を引き上げても良いと言えば良いのだろうが、利息支払いの片道だけを見ると巨額なものになりいかがなものか。超過準備への付利の仕方は今後もっと工夫を考える余地があると思う。いずれにせよコール市場で裁定が働くようなやり方が出来れば、市場機能も向上していくのではないか。別の観点を付け加えると、マイナス金利解除後、金利がほとんど動いていない為、リスクフリーの指標金利であるTONA(無担保コール翌日物金利)の機能の役割も果たせていない。そういう意味でも、一定程度金利を動かせる形にした方が良いと思う。また、今後課題となる日銀当座預金の圧縮については、そもそも付利すれば銀行は日銀に預けた方が得になるため当座預金の圧縮には足かせとなりうる。国債買い入れ額を減額、そうはいっても日本は政府債務の国債発行残高が大く急激に金利を上げる事も出来ないので、実際には少しずつでも減らしながらということではないか。また国債ほどではないが、37兆円にまで膨らんだETFも圧縮して、日銀のバランスシートを整えていく必要があろう。

――今後期待している部分、そして、抱負は…。

  東短グループの中で、政策変更を受けいち早く収益機会が訪れているのは金利スワップなどのデリバティブ商品を扱っている東短ICAPだろう。ここは金融政策の更なる変更への思惑が交錯していることなどに伴って取引も引き続き活発である。また、東短自体もコール取引の仲介は前述のように失速気味であるが、オープン商品の取扱いでこれを挽回するほか、色々な事業展開をしていく。基本的には仲介業者として金融商品とそのマーケットが出来るところで仲介ビジネスを単体で展開していくのだが、必要であればジョイントもして、そこに進出していくつもりだ。前述の暗号資産にしても、デジタルガレージとの合弁会社を設立しており、これなどもその一つの例である。新たな市場が大きくなってから取り組みをスタートさせたのでは遅れを取る。そうならないように、しっかりと前広に行動を起こすとともに、既存のマーケット商品でも工夫を凝らして収益機会を探っていきたい。[B]

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