金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「天然水素が世界を大変革へ」

東京工業大学地球生命研究所
特命教授 地質学者
丸山茂徳 氏

――地球には人類が使う1万年分の水素資源が埋まっている…。

 丸山 2024年、科学誌「サイエンス」の母体であるAAAS(アメリカ科学振興協会)の石油学会の学術講演会で水素埋蔵量についての講演があり、米国を中心に巨大な水素リザバーの発掘調査が活発になるとともに、水素燃料の活用への期待が高まっている。その学術講演では、地中に埋蔵されている水素量は約5兆トンに達し、現在の全世界における1年あたりの水素消費量1億トンが5倍になったとしても、次の1万年に亘って水素供給は安泰だと述べている。もともと、水素ガスは地球の「コア」と呼ばれる地下約3000キロ以深の深層部分からマントル全域にも大量に存在していると考えられており、その他にも石灰岩や岩塩など大陸地殻の岩の中にも含まれている事がわかっている。それらは現在の技術発展の下、弾性波探査の技術によって何処にどれだけの量の水素が存在しているのかもすぐに分かるようになってきている。例えば、埋蔵石油や天然ガスはメキシコ湾の地下の地殻内部にも存在しているのだが、米国は海底から5㎞深部までの化石燃料採掘技術を独占して持っている。この技術を応用すれば水素埋蔵場所まで掘削できる。そのことが米国のアドバンテージとなっている。

――地球の深層部分に大量にある水素資源を取り出すには、高度の技術が必要になる…。

 丸山 水素が地表で噴出する場所は樹木が生息しづらい場所にある。実際にブラジルやアフリカに点在するそういった場所で掘削調査を行うと、本当に水素が発生している。日本にも長野県白馬地域などで水素が発生しているが、その発生量は少なく、それくらいの量では価格もわずかにしかならない。一方で、地球の深層部分のマントルには巨大水素リザバーがあると考えられている。マントルは橄欖(かんらん)岩で出来ている。さらに、橄欖岩の60%は橄欖石で出来ているのだが、実はその橄欖石という鉱物が水と接触することによって水素を発生させることが出来る。しかも、橄欖岩はマントルだけでなく、大陸地殻にもたくさん含まれ一部は地上にも露出している。水素生成方法としては、普通に橄欖石に水を加えるだけでは生成に長い時間がかかったり、酸素や二酸化炭素が豊富に含まれる水では難しいため特殊な水に限られるといった制約はあるのだが、そういった問題をクリアして、この度、私は共同研究者と一緒に水素生成装置の試作機一号を完成させた。現在、特許申請中だ。

――水素生成装置が普及すれば、世界のエネルギー事情は大きく変貌する…。

 丸山 橄欖石から水素を作り出す装置についての詳細は企業秘密だが、基本的に我々が発明した水素生産装置に使われている橄欖石は半永久的に利用可能であり、私はこの装置が将来的に「1家に1台」という状態になることを望んでいる。この水素生産装置が家庭に1台あれば、家庭で使用される電気と熱はほぼすべて賄うことが出来るだろう。また、水素と大気中にある窒素や酸素が結合して出来るアンモニアを使えば、地球上のあらゆる化学製品に加えて、食糧も自給出来るようになる。そうなると、すべてが地産地消で済み、電気のインフラも不要で、輸送のパイプラインも必要なくなるだろう。太平洋やインド洋、大西洋を越えて物資を移送する必要が無くなる。また、燃料や化学工業の原料として利用されるメタン、エタン、プロパン、ブタンにもすべて水素(H)が使われており、例えば重油に水素を足せばガソリンになる。化石燃料の寿命を延ばせる。自動車も水素を利用すれば、電気自動車(EV)を新たに買い替える必要もなく、暫くは今の自動車を乗り続けることが出来る。そもそもEVはエネルギー効率が非常に悪く、EVを製造するためには大量の化石燃料が必要だ。そのようなEVを政府は補助金という国民の税金を使って富裕層に買わせようとしている。これでは税金が国民に平等に行き渡っているとは言えない。政府は既存のハードをそのまま使えるようなエネルギーの利用をもっときちんと考えるべきだ。自動車にしても今の車をそのまま使うことが出来るような燃料でなければ、貧富の差は時間とともにもっともっと酷くなっていくだろう。

――水素を利用することで、地球の経済や技術が一変すると…。

 丸山 例えば、ロケットを発射させるためには爆発的なエネルギーを発する水素が使われているが、将来的には、ロケット同様に新幹線や飛行機の燃料も全て水素エンジンに変われば良いと思うし、そうなるべきだ。新幹線のパンタグラフもリニアモーターの超電導も水素エンジンに変えれば必要なくなる。そして、水素を利用することによって、今は東京一点集中の日本も、ドイツのように各都市がそれぞれに自立して特色のある国になるだろう。水素は地方創生にうってつけだ。世界中の国も同様に、地産地消となり、規模を小さくして数を多くしたほうが、戦争もなくなっていくのではないか。今の世界は人口の増加(毎年1億人が増加、現在80億人だが2050年には百億人を突破)とともに食糧不足が懸念され、それが人間の遺伝子に組み込まれた弱肉強食という生存競争によって土地や食糧の奪い合いが起きている。人類史7百万年以来、最大の悪夢のような時代の入り口に入ってきている。しかし、先に述べたように水素があれば、食料もそれぞれの土地で作りだすことが可能になり、必要なもの(衣食住)はその地域で賄えるようになる。そうすれば、巨大資源を求めて土地を奪い合う事もなくなり、各地で絶え間なく続いている紛争もなくなっていく筈だ。

――世界中の人口増加にも対応できる力が、水素にあると…。

 丸山 科学技術の発達によって人間は増加し、今や地球上の生物圏の90%以上を人間圏が支配している。そういった在り方に一部の環境保護団体は反対し、「生物多様性がなくなり、結果人類も滅亡する」と訴えている。しかし、事態は逆である。人間が人工的に作った生物の品種は200万種を超えている。過去200年に渡って、生物学者が記載してきた種の数が約200万種なのである。それらの品種は人間の手に留ることなく自然と交配しながら、さらに新しい種を生み出している。人間が生物多様性を消滅させるどころか、色々な生物や植物の品種の激増は、人間が人工的に作ったことがきっかけとなって、更に急増中である。養殖事業、ペットの品種改良、観賞植物など対象は際限なく広がっている。そういった全てを客観的に見ながら、今後の世界をどうしていきたいのか、どうしていくべきか、みんなで考えていくべきだと思う。議論が進めば、現在人口爆発が起こっている国や地域も、自然と落ち着く流れになっていくだろう。良質な教育の普及が鍵である。

――水素生成に欠かせない橄欖石は日本にも存在するのか…。

 丸山 橄欖石は日本にもたくさんある。強大な岩体だけでも、岩手県の早池峰、北海道日高山脈の幌満、四国別子地域、高知県円行寺、徳島県神山、京都府舞鶴、和歌山紀の川下流域、三重県伊勢、静岡県三河など、北から南まで豊富に存在している。私は、現在取り組んでいる水素生成装置について、耐熱性や安全性などしっかりと実験を重ねながら最速で実現化を目指していきたいと思う一方で、将来的には、橄欖岩の粉末がコンビニなどで売られるようになり、その粉末を水に溶かして水素を製造して、電気と熱を利用する生活が出来るようになれば良いと考えている。そして、世界の貧困地域にも水素の供給拠点を作り、巨大資本がすべてを支配するような世界にくさびを打つためのきっかけになれば良いと願っている。[B]

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