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「もしトラを利し米から自立を」

情報戦略アナリスト
山岡鉄秀 氏

――「シン・鎖国論(方丈社出版)」を著された…。

 山岡 私は現在の岸田政権を第4の敗戦状態だと思っている。これまで日本は、1945年の第2次世界大戦での第1の敗戦、1951年のサンフランシスコ講和条約調印時に日米安保条約に調印したことで米国からの占領状態継続を認め、完全に独立できなかったという第2の敗戦、そして1990年代初頭のバブル崩壊後、半導体など日本経済をけん引してきた産業を米国から潰され経済が弱体化するという第3の敗戦を経験してきた。2度目の敗戦以降、日本は米国に追随し国連中心主義を唱え、諸外国との協調性を重んじながら経済成長を進めるという吉田ドクトリンを貫いていたのだが、次第に日本は米国を凌駕するほどの経済発展を遂げた。その結果、米国は冷戦終結とともに日本を潜在的敵性国家とみなすようになり、日本経済を徹底的に抑えつけ、バブル崩壊後の経済回復も叶わないほど日本経済を破壊した。そして安倍晋三元総理の暗殺後、自民党議員たちは米国の内政干渉に抗う事が出来なくなってしまっている。例えば、LGBT理解増進法の強引な可決や、米国自身が出来ないウクライナへの経済的支援を日本に強いるなど、もはや日本は完全に米国の属国扱いだ。それが誰の目にも明確になった今が第4の敗戦と認識している。先ずはそういった事を多くの日本人に覚醒してもらう為に「シン・鎖国論(方丈社)」を著した。

――この70年間、多くの日本人が平和で豊かな生活の中で「米国の属国でも良いのではないか」と思い込んでしまい、将来に対する問題意識や危機感が大きく後退している…。

 山岡 日本では戦後、GHQ(連合国軍総司令部)のもと、思想及び言論上での強い統制を受け、いわゆる洗脳教育をされてきた。実際にウォー・ギルト・インフォーメーション・プログラム(日本人に罪悪感を受け付けるプログラム)が存在していたことも明らかになり、日本人の中にも少しずつ、今の価値観は米国に植え付けられたものとの認識が増えてきている。しかし、根本的な問題は、吉田茂をはじめとする当時の指導者たちが米国の占領政策をもろ手をあげて受け入れ、自ら軍門に下り、いわゆる吉田ドクトリンという属国平和・繁栄主義の中で自分の身の安寧や利益を享受してきたという事実だ。吉田ドクトリン下の経済発展は属国の域を超えてはならないという現実を日本人は認識していなかった。そして、今の岸田政権はそれと非常によく似た構造にある。そこに日本人は気が付かなくてはならない。もちろん、これまでにも日本人の中に対米自立派はいたが、一朝一夕で日本が自立できる訳ではなく、むやみに反米的な態度をとっても力の大きさが違いすぎるため非生産的であるという判断が大勢を占めていた。

――安倍元総理はトランプ前米大統領やプーチン露大統領とも良好な関係を築いていたが…。

 山岡 安倍元総理は米国の属国とは思えないほど自立した外交活動を展開し、その意味では傑出した政治家だったが、結局、日本の自立度の向上は出来なかった。憲法改正も叶わず、出来たのは集団的自衛権の限定的行使の容認くらいだ。これも実は米軍がすでに展開していることを前提とした集団的自衛権の行使だった。トランプ前大統領に「シンゾー、日本は侍の国なのだから、自分の国は自分で守ったらどうだ」と水を向けられても、安倍元総理はその議論に応じなかったという。しかし、今や米国の社会崩壊が加速度的に進んでおり、それと反比例して日本の自立度を相対的に上げていく必要がある。日本がしっかりと地に足のついた独立国であることを望む米国を始めとする世界中の人たちと連携を取り合い、個人レベルで理解者を増やし、日本の自立度を徐々に高めて最終的に完全な独立を果たすという形にしていく戦略をとるべきだ。そのためには、明治時代に岩倉使節団に同行し、その外交能力を生かして、日本についてポジティブに外国の世論に語り掛け続けていた金子堅太郎のように、海外で仲間を増やす能力をもった日本人の存在が欠かせない。

――米国が東西冷戦の終結後に日本に対して取ったと同様の厳しい姿勢を中国に対して取り、これを反映して株式市場も中国株売り日本株買いという流れになっている。日本の自立も実現しやすい状況にあるのではないか…。

 山岡 残念ながら、日本の株価が上がっても個人消費の増大には繋がっておらず、日本の景気が良くなっている印象は持てない。また、外資による日本株の買い増しが続く中、日本の大企業も株主資本主義の理論に則って株主還元ばかりに気を使い、設備投資も基礎研究も従業員の賃上げも後回しになって自らがやせ細ってしまうのであれば、日本の株が買われていても日本経済が自立していく展開にはなりにくい。外資に吸い取られているだけだ。また、今の米国の民主党政権は、中国を敵に回すポーズをとりながらも、日本を完全に属国扱いし、それに歯向かおうものなら徹底的に叩き潰すような手法を取る政党だ。そして岸田政権は、それに唯々諾々と従っているように私には見える。確かに今は日本の自立度を高めるチャンスではあるが、相手が民主党政権では非常に困難な道のりだと思う。一方で、共和党政権はあくまで米国ファーストであり、日本に対してはある意味突き放すような傾向にあるため、そこにチャンスが生まれると私は考えている。そのチャンスをきちんと捉えて、これまでの様々なしがらみを解消し、日米地位協定や日米合同委員会の存在について解消の提案をしていく。そういったことを、しっかりとした気概をもって挑むべきだ。それこそが本来の「もしトラ」の意味でなくてはならない。

――日本が真の独立国となるために、具体的にどのような政治行動が必要なのか…。

 山岡 例えば、明治維新は日本人だけで成し遂げられたものではなく、その背後には英国の思惑があり、ロスチャイルドやジャーディン・マセソンといった商人の資金も動いていた。米国の南北戦争で余った兵器が売りさばかれて日本の内戦に使われるなど、外国に踊らされたという部分もある。もし、日本人だけの知恵で明治維新を成し遂げようと考えていたならば、あのような悲惨な戊辰戦争にはならなかったかもしれない。そういった過去を踏まえて、現在の日本の局面では、外国に踊らされることなく、日本人が自分たちの手で第二の維新を起こさなくてはならない。ただ、新しい政治勢力となる党を作るにしても小党乱立はあまり望ましい事ではない。自民党を二分するのも一つの考えだが、自民党内に本当に愛国者とよべる議員が何人いるのかは疑問であり、そこは大きな問題だ。特に安倍元首相の死後は自民党保守派の影響力がなくなるどころか手のひらを返した議員たちが沢山いた。そんな中で再統合再編成しようとしても困難なところがある。そこで私は、支持政党の垣根を超えて行動してくれる人たちを探して、その勢力を増やしていくべく、本を書いたり日本中を回って講演したりして、活動の場を広げながら努力をしているところだ。しかし、具体的な解決策として決め手に欠けているのも事実だ。日本が米国の属国から脱却するために私自身も模索している最中ではあるが、そのフレームワークを常に示しながら、今後も賛同者を増やす活動を続けていきたい。[B]

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