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「アフリカ進出で自由社会維持」

立命館大学
国際関係学部教授
白戸圭一 氏

――近年、アフリカ諸国、またアフリカを含む「グローバルサウス」に光が当たっている…。

 白戸 アフリカとの関係強化が重要視されるようになった背景として、2点指摘できる。1つめに、アフリカ市場の可能性の大きさだ。日本が初めてアフリカとの結びつきの重要性を認識したのは冷戦の終結後の1990年ごろだが、国連での票田としての期待が主たる動機で、あくまでも外交的なレベルにとどまった。2度目のアフリカブームは2010~2015年ごろで、この時に日本の最先端のビジネス界、経団連や経済同友会でアフリカビジネスの重要性が非常に強く認識された。丸の内・大手町に本社を置くような大手企業の社長・会長方が、安倍晋三元首相とともにケニアのナイロビを大挙して訪問したのが2016年だ。アフリカでは人口増加が世界一のスピードで進んでおり、2050年には25億人に達し、世界人口の4分の1を占めるという予測もある。少子高齢化に伴い日本市場が縮小する一方であることを考えた時、新しい市場としてアフリカは無視できないと経済界のトップの方々は気づいたようだ。以降、さまざまな分野で投資が進み、大手企業では業種を問わずアフリカ市場についてまったく考えていない会社はない。

――経済的な将来性が高い…。

 白戸 グローバルサウスをとらえ直そうという気運は、経済とは違う文脈で高まっている。2つめには、国際秩序の維持が挙げられる。欧米や日本が培ってきた自由主義的国際秩序には、権威主義国家である中国やロシアの台頭によって動揺が走っている。政治体制の問題としては、アフリカなどの新興国において中ロの影響力が強まっている状況は見過ごせない。これらの理由から世界的にアフリカに注目が集まるなか、経済面では日本だけが出遅れている状況だ。実は、中国がアフリカでプレゼンスを発揮するようになったのはこの20年ほどのことだ。かつて宗主国だった英国・フランスや、超大国である米国の方が進出は早い。「失われた30年」にあった日本は経済自体に元気がなく、第2次安倍政権が対アフリカ外交に取り組み、経団連企業に対してアフリカ進出を奨励したこともあったが、企業が付いてこなかった。日本企業がアフリカ進出しやすいような仕組みはとっくに全部できあがっているが、日本のエリートのなかでもアフリカへの認識のレベルが二極化しており、投資という形に具現化しないという状況が続いてきた。

――政府が推進したにもかかわらず、日本企業のアフリカ進出は進まなかった…。

 白戸 日本企業の進出の遅れの理由について研究がなされている。まず、日本企業が提供する製品やサービスが今のアフリカでのニーズにマッチしていなかったという問題があった。例えば、安倍政権は質の高いインフラの輸出に取り組んだが、質が高いということは価格も高く、アフリカの各国政府からすれば、中国やトルコの安いプロジェクトの方が少し質が劣るとしてもありがたい。インフラに限らず、日本企業が持っていく製品は現地の人から見ると日常生活で使うにはオーバースペックだ。ウォッシュレット付きトイレより先に衛生的なトイレが必要とされる土地で競争力のある日本の製品やサービスとは何かという問題がある。また、対アフリカビジネスに限った話ではないが、日本の経営者は良く言えば慎重、悪ければ臆病で「石橋をたたいて渡らない」。内部留保をため込み、投資も最低限しかしない姿勢だ。トラブルに巻き込まれることを過剰に恐れる日本人の国民性もある。アフリカ投資を真剣にやっている企業が少ない背景には、文化的に変え難い点も含めていろいろな理由があった。各社が投資を検討しても、なかなか実現しなかったというところだろう。アフリカ進出への遅れについて考えていると、アフリカという鏡に日本の姿が映し出されていると感じる。

――日本企業が保守的でアフリカ進出に踏み出さないことへの対策は…。

 白戸 1つは、アフリカに既にあるネットワークを活用することだ。効率の面で言えば、日本人をアフリカに送り込むより、現地企業をM&Aで買収し、資金投下だけして意思決定を任せる方がスムーズだ。日本人は「オールジャパン」という言葉が好きだが、「オールジャパン」でやった方が良いこととやらない方が良いことがあるということだ。もう1つは、アフリカでのスタートアップを支援することだ。最近、アフリカで起業する日本人の若者が増えている。今の大企業がかつてスタートアップとして生まれ上の世代を凌駕してきたように、世代交代の時なのかもしれない。個社の判断もあるので、既存の企業を無理に引っ張り出すよりは、新しい企業を育成する方が良いという考え方もあるだろう。JICAや経済同友会によるスタートアップ支援の仕組みもある。それから、アフリカについて正しい認識を持つビジネスパーソンの裾野を広げていくことだ。アフリカに深くかかわり、アフリカの状況について分かりやすく話ができる日本人はそれなりの数がいるので、子どもたちに学校で話をしたり、SNSを活用して情報を広めたりしていくようなインフルエンサーが増えると良いと思う。できるだけ私も裾野を広げる役目を果たせるように努力したい。

――日本企業がアフリカ進出の足掛かりとするのに適した地域はどこか…。

 白戸 アフリカは、日本の約80倍の広さの土地に54の国があり、5地域に分けられる。そのうち、多くの日本企業が拠点を置く場所は2地域に絞られる。1つが南アフリカ共和国で、アフリカ大陸全体に居住する日本人約8000人のうち、1000~1500人が住んでいる。私もかつて毎日新聞社の特派員として駐在したが、拠点としてインフラの点でも言語の点でも進出先の定石だ。もう1つは東アフリカだ。なかでもケニアのナイロビが発展しており、小説『沈まぬ太陽』(山崎豊子著)の時代は企業の左遷の地だったが、今は各社が優秀な人材を送り込みビジネスを開拓する窓口になっている。周辺のウガンダ、タンザニア、エチオピアも爆発的な経済発展を遂げており、タンザニアの交通渋滞やエチオピアの高層ビル群には目を見張るものがある。

――アフリカで特に市場の拡大が見込まれる業種は何か…。

 白戸 難しい質問だが、人口構成に注目することはできると思う。アフリカ大陸全体では人口の70%が35歳以下、60%が25歳以下と、昭和23~27年ごろの日本の人口構成と似ている。単に市場が大きいということで言えば自動車などももちろん売れるが、特に若者が消費するような加工食品や衣料品は間違いなく需要があるだろう。例を挙げると、味の素はナイジェリアを中心に長年アフリカビジネスを続けており、ふりかけて使ううま味調味料が売れてきた。また、カネカの女性用ウイッグの販売も成功している。高度経済成長期の日本で求められていたものを思い浮かべながら、時代に合わせて健康や環境にも配慮して、現地の人々が買えるものや欲しいものをどう作るか、現地の人々の生活を豊かにすることにどう力になれるかを考えていくと、お互いに幸せなのではないか。

――新興国の場合、事務所設立などあらゆる認可の場面で賄賂が要求されるといった問題もある…。

 白戸 国によって状況は異なるが、汚職や政治腐敗はアフリカで全大陸的に深刻な問題で、各社が苦労している。対策の1つは進出する地域を選ぶことで、南アフリカなどでは比較的賄賂を払わずに済む。裏金を積まないと事が進まない地域もあるが、残念ながらそのような地域は発展から取り残される傾向にあり、あえてそこに進出する必要はないと考える。もう1つは、直で政府とやり取りすると政治家が介入するが、現地の民間企業と組むことで問題が軽減できる。加えて、欧米諸国やインドの企業との連携も重要だ。汚職をどのように回避するかということに悩んできたのは日本だけではない。JETROの提唱してきた「第三国連携」はこの文脈で、他国のネットワークと知恵を使って汚職をできるだけ回避していこうとしている。一方、中国企業などは日本企業と比べると賄賂を払っているという話は聞く。

――政府に期待する今後の取り組みは…。

 白戸 日本での留学・研修経験のあるアフリカの方々とのつながりを維持することだ。第2次安倍政権の時、「ABEイニシアティブ」という制度の下、アフリカから延べ1600人の優秀な若者を日本の大学院や企業に招いて勉強・研修してもらった。素晴らしい取り組みだったと思うが、彼ら彼女らの帰国後、そのまま関係が途切れてしまっているケースもある。日本のことを愛してくれる人たちは日本にとって財産だ。日本とベトナム、インドネシアの例のように、日本の大使館や日本企業で働いてもらったり、日本企業進出の際の水先案内人になってもらったりするような仕組み、きめ細かいフォローアップが必要だ。そのような取り組みを通じて、アフリカが人口増加に伴って経済成長をしていくその勢いを、何とかして人口減で衰えていく日本を再建する力に活用できたら良いと思う。また、繰り返しになるが、自由な社会に住みたい、世界のなかに自由主義的な価値観を理解してくれる仲間を増やしたいということを考えた時にも、アフリカとの付き合いは中長期的にわれわれ自身の利益になる。目先の経済的な利益だけでなく、自由な社会の維持という観点からも一生懸命に関係を続けていくことが重要だと考える。[B][L]

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