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「海洋法改正で資源安保を推進」

衆議院議員
自由民主党
黄川田仁志 氏

――海洋基本法改正案を作られた。その狙いは…。

 黄川田 昨年、第4期海洋基本計画が策定された。今は、それに基づいて省庁横断で海洋開発重点戦略を作ろうとしている。それは具体的に、①管轄海域の保全のための国境離島の状況把握、②特定離島である南鳥島とその周辺海域の開発の推進、③海洋状況把握及び情報の利活用の推進、④AUV(深海用自律型潜水調査機器)の開発及び利用の推進、⑤洋上風力発電のEEZ(排他的経済水域)展開に向けた制度整備の推進、⑥北極政策における国際連携の推進等といった事だ。これらをしっかりと法的に位置づける事が、今回の海洋基本計画改正案の目的だ。早ければ、今国会での改正を目指している。ただ、政治状況が難しい局面にある中で思うようには進んでいないというのが事実だ。遅くとも、今年中には何とかしたいと考えている。

――海洋開発重点戦略の6つについて、具体的にはどのようなことを行うのか…。

 黄川田 海洋開発重点戦略については、今年度に前述の6つのミッションを取り上げた。今後、ミッションについては、海洋政策や科学技術の進展により更に追加することもあるし、或いはミッションが終われば戦略終了となるものもある。今の段階では、例えば国境離島の状況把握については、離島振興法でも取り組みを進めているため、そこで足りないものを補うためにおさらいをしていくといった感覚だ。また、洋上風力発電については今国会で我が国EEZ内での浮体式洋上風力発電の形成が可能となる見通しであり、それに則って必要な制度整備を推進していく。浮体式の洋上風力発電は設置場所を決めるのにも、台風の問題や送電の問題などをひとつひとつクリアにしていかなくてはならない。いずれにしてもまだメニュー出しの段階で、それぞれの重点戦略の内容については2024年度に行うことになっている。今回の海洋開発が、日本が歴史的、文化的に強みとしてきた漁業に影響せず、環境問題にも十分配慮した上で共存させていくために、関係各所としっかり協力体制を敷きながら慎重に進めていく。

――中国の活発な海洋進出を考えると、一刻も早くミッションの実現が必要だ…。

 黄川田 確かにそうだ。よって省庁横断的な海洋開発重点戦略をつくって、それぞれのミッションを力強く前に進めようとしている。しかし不測の事態も起こってしまった。新型コロナウイルスのパンデミックにより、技術者や研究者が国内外を自由に往来できなかったり、ロシアによるウクライナ侵攻により海外に発注していた部品や機材の生産が遅れ、調達が思うようにいかなかったりしたこともあった。そのような困難を乗り越えて、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)で進めているレアアース泥の開発については、来年の2025年には、海底6,000m下からの揚泥試験をすることができる見込みだ。いよいよ日本が世界で初めて海底レアアース泥を連続的に揚泥する技術を開発することになる。今から楽しみだ。この日本産レアアースの連続生産に成功した後に、産業化に向けてやらなければならないことがまだまだ沢山ある。それを海洋開発重点戦略のミッション「特定離島である南鳥島とその周辺海域の開発の推進」で行うことになる。例えば南鳥島沖で採り上げたレアアースを全て本土に輸送するには距離がある。南鳥島にレアアースの精製濃縮プラントをつくって、その製品になったレアアースを空輸することも検討する必要もあるかもしれない。また、環境問題にも十分配慮して開発を進めていかなくてはならない。そういった部分で、省庁横断での対応が欠かせない重要なプロジェクトだ。現在、南鳥島に一般人の往来はなく、住人は気象庁と国土交通省と自衛隊の併せて70名程度しかいない。滑走路は約1,400メートルしかなく、大型のジェット機の離発着は難しい。私は自衛隊のプロペラ機で南鳥島に行った。採掘したレアアースをどのように運び出すのか等、具体的なことはこれからの課題だ。一方で、南鳥島は完全に日本管轄のEEZ内である。よって南鳥島周辺のEEZの海洋開発に際して中国からクレームを受ける心配はない。しかし、技術開発に関する中国への情報漏洩がないよう情報管理については非常に注意をしている。

――メタンハイドレードの実用化については…。

 黄川田 今回の海洋開発重点戦略のミッションには、メタンハイドレードに関連するものは含まれていない。メタンハイドレードについては既に資源エネルギー庁主導で取り組みが行われている。こちらも当初の予定より遅れているので、色々な国会議員の先生方から苦言やお叱りの声をいただいている。私も資源エネルギー庁から話を聞くたびに計画が変更されているので心配をしている。志摩半島沖合で2013年と2017年に産出試験をした時は、ガスを吸い上げる際に泥や砂で装置が目詰まりを起こす現象等が発生して、連続生産を予定の期間行うことができなかった。現在、JOGMECがアラスカで砂層型メタンハイドレートの長期陸上産出試験を行っている。アラスカやシベリア等の凍土にもメタンハイドレードが存在しているので、コストや技術面も考えて場所を海底から陸上に移した。この陸上産出試験の知見をもって、近い将来、日本の太平洋沖で再び海底産出試験を行う予定だ。しかし様々な課題がまだ残っている。自然を相手にしているので、予想と現実が違う事は多々ある。

――海洋開発重点戦略を法制化する理由は…。

 黄川田 内閣総理大臣を本部長、海洋政策担当大臣を副本部長とする総合海洋政策本部に海洋開発重点戦略の作成を義務付け、本部機能を強化することで、海洋政策を強力に推進する仕組みを新たに設ける。海洋基本法は2007年に議員立法によって作られた経緯から、今回の改正も議員立法で行う。2007年制定以来、初めての改正となる。総合海洋政策本部を補佐する立場にある内閣府総合海洋政策推進事務局(以下、海洋事務局)の機能も強化する必要がある。具体的には、内閣府設置法を改正し、海洋事務局の所掌事務の範囲を広げる。海洋事務局に独自の予算をもてるようにする。今まで海洋事務局は総合調整しかできなかった。言い換えると、海洋事務局は関係省庁にお願いベースでしか仕事を頼むことしかできなかった。内閣府設置法を改正して、海洋事務局の所掌事務に「海洋開発等重点施策に関すること」等の分担事務を追加することができれば、各省庁に予算をもってして仕事を振り分けることが可能になり、海洋開発の推進力を強めることが出来るようになる。今通常国会で法改正を実現し、25年度の予算計上を目途に、手続きを進めているところだ。

――海洋政策を推進する難しさとは…。

 黄川田 海と比較されるのは宇宙だ。宇宙はそれほど省庁に跨って物事を進める必要はなく、今はJAXA(宇宙航空研究開発機構)がその宇宙開発の実行部隊を担い、政府はJAXAに何をやらせるかを決めて指示すればよい。一方で、海については、海洋研究分野を担うJAMSTEC(海洋研究開発機構)や開発分野を担うJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)があるが、その他、水産業に関連する農水省、海上保安庁をもつ国土交通省、経済産業省のエネルギー資源庁など、多岐に亘る組織が関わっている。そのため一箇所に仕事を任せれば事足りるということにならない。そこで内閣府の海洋事務局が重要な役割を果たすことになる。前述の内閣府設置法を改正し、海洋事務局の機能を充実させることが重要だ。それが上手くいけば、もっと色々な事がやれる筈だ。

――日本の海洋開発において注目すべき点は…。

 黄川田 日本の海洋開発には様々な可能性を見出すことができる。その中でも日本のEEZ内に多く存在するレアアース泥の開発を加速化したい。これにより日本の資源安全保障に大きく貢献できる。レアアースは環境技術や先端技術に欠かせない資源だ。ネオジムは永久磁石に欠かせない元素であり、ハイブリッド車のモーターに使われている。日本の基幹産業である自動車産業等に必須の金属だ。南鳥島EEZ内に分布している豊富な高品質のレアアース泥を活用できるように環境を整えていく。また、南鳥島の我が国EEZ内にある第5拓洋海山には、電池材料として不可欠な資源を含むコバルトリッチクラストが豊富に存在していることが分かっている。この第5拓洋海山は、テーブル状の巨大海山だ。そのテーブルの面積は東京都ほどの面積を有し、海底から5,500mもの高さがあり、巨大さに驚く。そして、富士山と同じ玄武岩でできている。この玄武岩がとてもよく二酸化炭素を吸収することがポイントだ。今後SIPでCO2の海上輸送方法や大規模なCCS(二酸化炭素回収・貯留)に使えないか調査・研究する。すでにアイスランドで実証実験も進んでおり、第5拓洋海山でCCSが出来るようになれば、日本の進めている2050年カーボンニュートラルに向けて大きく前進する。日本の海洋は多くの可能性を秘めている。日本の海を守り、開発し、利用することによって、日本国民をより豊かにすることができると信じている。[B]

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