金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「新NISAの開始時期は最悪」

さわかみホールディングス
代表取締役
澤上篤人 氏

――株価の暴落について警鐘されている…。

 澤上 株価が史上最高値を更新するなど、足元ではバブルの様相を呈しているが、近い将来に株価だけではなく日本や世界の金融マーケット全般が暴落を迎えると予想する。今後、世界的なインフレ圧力と金利上昇がカネ膨れした張りぼての経済に刃(やいば)として突き刺さるため、企業収益は大幅に悪化し、マーケット価格の暴落につながるだろう。今の株価は実体経済を反映しておらず、異常なる資金供給に踊らされている面が大きい。今回のバブルの要因は日本のかつてのバブルと同様に「過剰流動性」だ。歴史的に遡ると、金とドルの兌換性を廃止し変動相場制に移行した1971年のニクソンショックや1973年から始まる石油ショックを受けて世界中で資金の大量バラマキが開始された。以降、西暦2000年問題、2001年の同時多発テロ、2008年のリーマンショックによる世界同時不況懸念、足元では新型コロナなどを経て、世界経済はバラマキが当たり前に感じるようになってしまった。以前は、過剰流動性がインフレを引き起こすから危険だと言われていたが、もはや今では誰も言及していない。また、年金マネーの急増も影響している。1980年に入ってから各国の年金が世界最大の運用マネーに成長し、次々と株式市場に流入してきた。さらには、米国のサブプライム問題とリーマンショックを発端とするゼロ金利と空前の資金供給が実行されたが、その根幹にはミルトン・フリードマンらのマネタリズムの考えが背景にある。金利を低位に抑えて金をばらまけば経済は成長すると信じてしまった結果、金融マーケットが異常なまでに成長して富は集中した。その一方、貧困層は増える二極化の様相を強めている。

――これに対し、さわかみファンドの運用方針は…。

 澤上 さわかみファンドは実体経済をベースに投資運用しているので、バブルが崩壊したとしても、その影響は大してない。足元では日経平均株価に大きな影響を及ぼす銘柄は上がっているが、それ以外の銘柄はそれほど上がっていない。ファンドを通しての企業の売買が中心となっているソフトバンクグループ(9984)などは買わないし、米株ではGAFA(Google、Amazon、Facebook[現在はMeta]、Apple)なども買っていない。ITなどマーケットで大騒ぎしている業種からは距離を置いている。われわれが行っているのは投資運用(インベストメント・マネジメント)だが、世界の大半の機関投資家が行っているのは資金運用(マネー・マネジメント)に過ぎず、短期の値幅取りだ。

――機関投資家は日経平均の上昇を無視できない状態になっている…。

 澤上 足元の株高で一番問題なのは、機関投資家の買いが株価をしぶとく上昇させている点だ。機関投資家は独自の売り判断で上昇相場を離れることができない。下手に売って、運用しているポートフォリオがインデックスからカイ離してしまったら、そのマネージャーは首になってしまうので、マーケットから離れられない。もし機関投資家がまともな投資判断をしていれば、一部は売りに転じるだろうし、それが広がっていけば株価上昇は落ち着く。つまり、日本のバブルの時と同じように、「赤信号、皆で渡れば怖くない」状態になっていて、マーケットから離れることがリスクとなってしまっている。その点、新NISA制度はタイミングが悪過ぎる。新NISAを利用する個人投資家の9割以上はS&P500やオールカントリーに投資しているが、いずれ株価は暴落するだろう。新NISAは良い制度だと思うが、投資初心者が今の環境で高値掴みをさせられることになるため、国の政策としては大失敗の懸念がある。新NISAでは税控除枠が拡大されたが、儲からないと意味がない。また、日経平均が34年ぶりの高値と言っても、これは34年間株価が低迷していたことの裏返しでしかない。流行のオールカントリーにしても、長期間株価が低迷することになった場合、個人投資家が果して耐えられるかどうか。

――株価が暴落する材料は…。

 澤上 下落要因は何でも良く、些細なきっかけで下落に転じる可能性がある。最もわかりやすく納得感があるのは、世界中で債務の借り換えが失敗するケースだ。国際金融協会(IIF)が集計している23年の世界の総債務はGDP対比で約330%に上っている。10年前と比べ、およそ世界経済一個分の債務が増えた。増加分の債務はゼロ金利をベースに契約されているのだ。欧米ではこれだけ金利上昇しており、借り換え時には必ず問題が生じる。これはリーマンショック以上のインパクトがある。大量資金供給によってリーマンショックは止められたが、先進各国は巨額の財政赤字を抱え込んでいて、厳格な財政政策を行うドイツでさえも財政赤字に陥っている、その上に、金利は上がってきていて簡単に国債を発行できない。中央銀行の財政規模は通常その国のGDPに対し10%程度だが、米FRBは40%弱、日銀は130%と異常に膨れ上がっている。つまり、どの国も中央銀行も手の打ちようがない状況なのだ。そんな現状を勘案すると極端かもしれないが、大恐慌並みの不況に陥る可能性もある。もちろん、なにが起ころうと実体経済はなくなりっこない。実体経済をベースにした株式市場は存在し続けるし、新興企業も成長していくだろう。われわれはそこに投資をしている。現に、大恐慌のなかで、ゼネラルモーターズは大成長を遂げた。

――日銀の金融政策については…。

 澤上 日銀は事実上の財政ファイナンスを行ってしまっている。国債を600兆円近く買い入れ、民間銀行に当座預金として日銀に積ませている。これがマイナス金利だから良いものの、金利が1%になれば6兆円の利払い負担が生じる。日銀の純資産は5兆円程度なので、1%となった瞬間に日銀は債務超過に陥る。また、日銀関係者で問題なのは、金融政策についてはプロかもしれないが、数字の動きしか見ておらず、実体経済についての常識がなく、金利ゼロで経済が動くはずもないといったことが分からないことだ。

――東証のROE向上など資本効率化については…。

 澤上 ROEの向上などは東証が口を出すテーマではない。企業の経営陣としても、「先行投資をしているためROEは落ち込んでいるが、利益回収期に入ればROEは上がっていく」と主張すれば良いのに、何故かそれができない。日本では長らく低金利が続いたことで、まともな企業もだらしなくなり、マイナス金利しかしらない若い経営者はそれに頼りきっている。投資家としては、ROEが下がっている企業でも、先行投資の内容を精査して、今後の業績改善や株価上昇を見込んで買うのが株式投資だ。本来ならばROEが高い企業は売らなければならない。実は、ROE8%を掲げた経済産業省の伊藤レポートに自分も委員として参加したが、唯一ROEがすべて主義に反対の立場を取っていた。学者や機関投資家などは座長の伊藤先生や経済産業省と同じ方向を向いていたが、企業経営者の一部は自分の意見にうなずいていた。

――暴落後の対応については…。

 澤上 バブル崩壊時に日本は銀行や企業救済に巨額の資金を使ったが、今回もそれを繰り返すであろう。銀行や企業の破たん後の処理は自己責任が基本で、資産などを売り払った後は経営責任を取り、最終的には株主責任になるのが常識だ。銀行についても、旧勘定は部長以上に責任を持たせて、業務は課長以下に新勘定で運営させれば、決済や資金繰りなどの銀行業務はストップしない。潰れるものは潰すべきだ。日本はバブル崩壊後の30年間に景気対策で投入した600兆円と、金利を下げて家計から奪った利子所得600兆円の合計1200兆円を投入して、ようやくデフレを終わらせた。だが、潰れる企業や銀行は潰して前向きに資金を使えば、現在の状況は変わっていたはずだ。日本のこれまでの経済政策の一番反省すべき点はここにある。民間ビジネスでは、経営責任や株主責任が問われるのが当たり前だが、金融緩和によって延命したことで、ゾンビ企業が大量に生まれてしまった。600兆円のお金を前向きに使えば景色は変わっていたはずだ。[B][N]

※澤上氏は、1月31日、『暴落ドミノ 今すぐ資産はこう守れ!』(明日香出版社)を上梓されました。

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