金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「次の100年へ第一次産業を支援」

農林中央金庫
代表理事理事長
奥和登 氏

――御庫は昨年12月に100周年を迎えられたが、次の100年は…。

  当金庫は根拠法の「農林中央金庫法」で定められた、「第一次産業の発展に資する」、「協同組織として運営する」、「金融機関」という3つの要素からは離れることができない。この3つがわれわれを規定しているアンカーとなり、これを基本に運営方針を考えることになる。当金庫の設立は1923年12月、関東大震災の年にスタートした。設立当初は、まさに日本の農家が農業を営むための資金提供が中心であったが、農業の発展や高度経済成長、JA貯金の増加により、当金庫はJAや信農連からお預かりした資金を他産業に貸し出したり、運用したりして利益を還元する役割が大きくなった。グローバルな投資運用が本格化した約20年前は、「あぜ道からウォールストリートへ」という言葉もあった。次の100年でもこうした役割がなくなることはないが、一方で、ウクライナ情勢などを受けた、わが国の食料安全保障を見据えると、当金庫を設立した100年前と同じように、わが国の第一次産業やそれに従事する人を改めて支援する必要が出てきている。さらに、わが国の人口減少が避けられないなか、国内だけではなく、例えばアジア全体も意識しながら食料生産を考えなければならないと思う。

――JA離れが進んでいるが、御庫の立ち位置は…。

  指摘されているJA離れがどれだけ正確なものかは定かではないが、JAの組合員が高齢化によって農業を離れるなか、農業の集団化や法人化を担う方がコアなプレーヤーになってきており、生産体制の変化が生じてきているのが現状だと思う。当金庫は法律上、農林水産業者の協同組織をサポートすることで最終的には農林水産業を支える仕組みを取っているが、日本の農業全体の発展を考えると、JA経由のサポートはもちろんのこと、場合によっては農業法人を直接サポートしていくことも必要だと考えている。

――一方で、資金の運用面では、長く日本の低金利が続いた…。

  当金庫は投資家・銀行の両面がある。投資家としては、低金利局面においては保有している債券を中心に資産価格が上がるため追い風となるが、金利上昇局面においては、一旦金利が上がり切ってしまえば銀行としては追い風の局面が訪れるものの、金利が急激に上がる足元の局面をどう乗り切るかが一番難しい。長らく、国内では金利が低く投資機会がなかったため、外国債券など多様な資産に国際分散投資を進めているため、足元の金利上昇局面においては運用が難しくなっている部分はある。一方、当金庫だけの課題ではないが、国内外の銀行規制が相当厳しくなっているため、自らのバランスシートを使う運用には拡大余地が少なくなっている。近年は会員から預金を受け入れて投資で運用するだけでなく、資産運用会社などを含めた預り資産としての受け入れ・運用も重要になってきている。このため、投資信託やファンドで受け入れた資産をいかに運用していくかが課題となっている。

――組織のガバナンスは…。

  メンバーシップ型の組織は閉鎖的になりがちな面がある。いかに外部の意見を入れるかが、ガバナンスでは大切だ。このため、経営管理委員会の構成は可能な限り外の意見も入るように、かつ出資者の意見も反映されるようにしている。上場企業の株主は流動性があるため新しい風が入るが、当金庫の出資者は固定されており、いかに世の中の潮流を取り入れていくかが非常に難しい所だと思う。

――SDGsに向けた取り組みは…。

  当金庫におけるコアな価値は農林水産業だが、昨今の異常気象を見れば明らかなように、気候変動対策に取り組まないと農林水産業自体が成り立たなくなってしまう。一方、現状では環境に負荷を与える農法もあるため、当金庫が環境負荷の少ない農業を推進していくなど、自らの課題として気候変動対策に取り組む必要がある。具体的なプロジェクトとして、例えば農業における温室効果ガスの排出量の見える化などを進めている。その一方で、これまでも日本の農林水産業が持っている環境的価値をどう捉えていくかは課題だったが、今はそれが本格的に必要になってきていると感じる。森林を例に挙げれば、材価が安く林業は産業として厳しい状況にあるが、山を手入れすることによって治水の価値が生まれる。こうした経済価値だけでは表せない価値をいかに守っていくかを考える時期が来ている。

――今後の抱負を…。

  当金庫が100周年を迎えられたのは、会員はもちろんのこと、ステークホルダーの皆様のご理解やご支援の賜物であり、改めて御礼申し上げたい。この100年を振り返ると、当金庫は常に変革に挑戦しており、組織の進化の歴史だと感じている。その伝統を守って飽くなき変革への挑戦を続けるということだ。役職員一人一人が自分たちの大切にしたいものを描き、それに対して新たに挑戦していくことが求められている。組織の文化を作っているのは一人一人の役職員で、それぞれがやりがいを持って働いていけるようにすることは永遠の課題だと思う。第一次産業は国の「基(もとい)」だ。当金庫は第一次産業に携わっている人を支える、非常にエッセンシャルで意義ある存在だ。一人一人の役職員には誇り高く仕事をしてほしいし、自分自身もそうありたい。[B][N]

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