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「米国にも中国にも過度に忖度」

衆議院議員
松原仁 氏

――中華民国(台湾)総統選は民主進歩党の頼清徳氏が当選した。今後の中国と台湾は…。

 松原 次期総統当選者となった頼清徳氏は、蔡英文現総統のもとで副総統を務めていた人物であり、総統就任後もその路線を継承するとしている。しかし、後ろ盾となるべき米国が「台湾の独立を認めない」と言い切っている中で、頼氏は政治家としてこれまでの発言を否定することはないとしても、実際には現実的対応を考えていかざるを得ないだろう。米国の支援を台湾の人々の意向と沿う形にすべく、物事を慎重に進めていく必要がある。他方で、中国の香港に対する人権弾圧は台湾の中でも知れ渡っており、且つ台湾に対しても今回の総統選では中国側から凄まじい妨害や圧力が行われる中で、それでも頼氏が当選したのは、「金ではなく自由が欲しい」という台湾国民の強い願いがあったからだ。中国も台湾との統一を本気で考えているのであれば、香港に対して無理やり中国の支配下に置くのではなく、これまでの一国二制度を遵守し続けるべきだった。そうすれば、台湾も安心して中国との良い関係を築きあげることができたであろう。

――今の中国は「戦狼外交」という攻撃的な外交姿勢を継続している…。

 松原 中国の「戦狼外交」には、習近平国家主席のパーソナリティや思考が反映されている。習首席は秦の始皇帝や毛沢東を理想として見習いたいという気持ちが強いと見受けられる。中国経済をどのようにしていくかということよりも、政治を第一とし、1944年の整風運動をも繰り返したいと考えているのではないか。胡錦涛政権時代も経済より政治を優先させていた観はあったが、それでも発言の自由はあった。しかし、その自由は、今はほぼ無いに等しく、政治批判をしようものなら刑事罰を受け、さらし者にされてしまう。「習近平現国家主席がいなくなれば、中国は再び胡錦涛時代の自由を取り戻すだろう」と考えている人もいるようだが、私はそうはならないと思う。今の中国は高度なテクノロジー社会となり、あらゆる場所に監視カメラが設置されている。誰も見ていないような田舎の八百屋でさえ、万引きなどしようものならその瞬間に顔写真が撮られ、キャッシュカードもパスポートも使用禁止になってしまう。それほど徹底した監視体制を敷き、あらゆる情報を手中にしている中国の権力者たちが、習近平現国家主席一人がいなくなったとして、元の世界に戻ろうなどと考える筈がない。

――中国では外国人に対しても容赦ない監視で取り締まりを強化している。反スパイ法が今後の中国に与える影響について…。

 松原 反スパイ法では、もはや何が中国に対して反旗の意思とみなされるのかさえ分からない。米国企業にまで捜索が入っているような状況だ。このような体制は、仮に習近平国家主席がいなくなったところで変わらないだろう。例えばヒトラーがいなくなってもゲシュタポが残り、その権力の上に胡坐をかいている者がいたように、一度確立された共産党政権の独裁体制は反革命が起こらない限り元に戻らない。しかし、こうした自由のない社会では経済も発展しないだろう。中国は毛沢東時代、文化大革命で多数の粛清者を出し、時代に逆行するようなことを行った。そのために経済的な大国に成りえず、代わりに日本が経済大国になった。そして、今再び、習近平氏が毛沢東時代の歴史を繰り返そうとしているのならば、今後の中国経済界は、再び中国共産党の締め付けによって発展もしなくなるだろう。それが日本にとってはメリットとなり、再び日本が米国に次ぐGDP2位の地位を取り戻せるかもしれない。そう思える程、今の中国経済は失速している。それは習近平中国国家主席がそのような路線に向かって走っているからだ。それが今の日本の株高にも繋がっているとも考えられる。

――中国でスパイを疑われて懲役6年となった日本人もいるが、外務省の対応は…。

 松原 その日本人の証言では、当時、外務省は何もやってくれなかったという。外務省にはもう少し頑張ってほしいものだ。何がきっかけとなり、いつ拘束されるかわからないような中国は、もはや渡航の危険情報レベルを1にすべきではないか。また、日本でマグニツキー法(人権侵害制裁法)や人権デューデリジェンスといった法律の制定が進まないのも、ウイグル人などの強制労働という実態がある中国の経済活動を否定することになるとして、日本政府が中国に気兼ねをしているからではないか。結局、日本の政治は中国企業の雇用問題に口を出すことができない。つまり、今の日本は、米国だけでなく、中国に対しても言いなりで、過度に忖度しているということだ。だからこそ、東シナ海の日中中間線を超えて設置されたブイすらも撤去できない嘆かわしい現状がある。

――中国の秘密警察署の存在について思う事は…。

 松原 中国では2010年に「国防動員法」が施行されたが、秘密警察はその一環のようなものだ。どこにいても中国の批判をすれば捕まるというこの中国の法律によって、実際に最近でも日本に留学している23歳の香港の女性が、日本留学中に香港独立に関する投稿をしたということで逮捕された。日本には表現の自由があるにも関わらず、だ。今日の中国は、テクノロジーの発達によって、かつてよりも監視や統制が容易になっている。キャッシュレスが進んだことで、行動範囲や活動内容もすべて明らかになってしまうため、例えばデモが行われた時間と場所にそこにいたという事実だけで、実際にはデモに参加していなくても捕まってしまう可能性さえある。中国の国民はDXの発達によって雁字搦め状態だ。

――日本は今後、どのようにして中国と付き合っていくべきか…。

 松原 日本は中国を地政学上の隣国として、協調すべき点と、譲ることのできない点をきちんと分けて付き合っていかなければならない。協調すべき部分は気候変動や原発に関する問題だ。一方で、譲ることの出来ない部分として排他的経済水域(EEZ)に関する問題がある。この点、岸田文雄首相が小笠原諸島のEEZ外にある海域を繋げて、大陸棚として広げると明らかにしたことを大変評価している。これによって日本の主権的権利が認められる大陸棚が広がった。この辺りの海底にはレアアースや、天然ガス国内消費量の30~140年分とも言われるメタンハイドレートが存在している。これは50年程前から言われていた事だが、これまでは米国の大手石油会社への遠慮もあって、政府が本気で政策投資することはなかった。そのため、なかなかこの海底に眠る資源の掘削が進まなかった。しかし、日本は海洋大国として国家が集中的に資金を投下することで、この地域に眠る資源をきちんと探査し、掘削する必要がある。そのための技術は、すでに日本は持っている。

――排他的経済水域に関しては、中国との間で東シナ海のガス田問題もある…。

 松原 東シナ海ガス田は中国と日本の中間線上に存在し、中国ではすでに中間線より中国側の海域でガス田開発を行っている。一方で、日本では政府の本格的な資本投下がないため着手出来ていない。そして、それをよいことに中国は中間線を越えた日本海域側にブイを置いている。そのブイをそのままにしておけば、中国は日本側の排他的経済水域にどんどん攻め入ってくるだろう。そういった事に関して、日本は毅然と自国の主張をしなくてはならないのだが、政府はいつも「外交ルートを通じて抗議する」というばかりだ。中国はフィリピンとの南シナ海領有問題でも、国際司法で下された判断を「ただの紙きれには左右されない」と言い放つような国だ。そういった国から日本は自国の利益を守ることができるのか。今のままの弱腰の外交姿勢では日本は守れない。[B]

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