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「反中・反財務省派に暗い日本」

嘉悦大学教授
数量政策学者
高橋洋一 氏

――実質賃金が20カ月下落し続けているにも関わらず、岸田政権はたった4万円の定額減税を打ち出した…。

 高橋 岸田総理大臣は、総理就任後2年程は財務省の話によく耳を傾けていたが、最近は自我が芽生えてきたようだ。所得税減税についても、最初の頃は岸田総理自身はあまり考えていなかったようだが、安倍派の萩生田氏や世耕氏からのプレッシャーもあって口走ってしまったという様な感じだ。ただ、そこで財務省の顔を立てるかのように旧大蔵省出身で岸田総理のいとこでもある宮澤洋一議員を減税対策の担当に置いた。しかし、減税の実施時期が2024年6月にずれ込んだところを見ると、岸田総理は宮澤氏からもはしごを外されてしまったのではないか。というのも、今回の減税策は先の臨時国会で「今年度の税収の上振れを使って還元する」という形で昨年の年末調整までに間に合わせれば、それなりに良い政策だった。しかも、その方法は補正予算案提出の際に税法改正すればよいだけという、比較的簡単なものだった。しかし、宮澤氏や周囲からはそのような説明をするアドバイスがなかったのだろう。結果として、それが24年の通常国会へと先送りになり、減税の実施時期が遅れてしまった。これは、減税に反対する財務省の嫌がらせだとしか思えない。

――財務省は常に「財政健全化」が第一だ。しかし、現実はGDPが伸びず、実質賃金は下がり、借金だけが増えている…。

 高橋 経済成長を促すアベノミクスは、実際のところ効き過ぎといえる程の結果を残し、税収は増加した。その路線を継続している岸田政権の経済政策は、ある意味、成功している方だと言えよう。今年度の名目GDPも4.4%と伸びている。実質賃金については後からついてくるものであり、そのうちに上がっていくだろう。ただ、岸田総理に少し自我が芽生えて減税を唱えだした時に、財務省を制御できずに、減税が24年度へと繰り越してしまったことは、経済政策として失敗だった。あの時に財務省と対峙してでも年末調整に減税を組み込むことが出来れば、もしかしたら岸田政権の今後は違う展開になっていたかもしれない。年末から速やかに減税政策が実施されるのと、その半年後から遅れて実施される減税では、その効果は全く違う。岸田総理としてはいとこである宮澤氏に何とかして欲しかったのだろうが、そこまで甘くない。慌てて安倍派外しで盛り返しを図ろうとしたが、もはや財務省に見限られた岸田政権は長くは続かない。すでに予算管理内閣になっている岸田政権は、年始の能登半島地震が起きたことで、地震・予算管理内閣となり、他の新規政策など全く出来ないだろう。

――岸田政権が長くは続かないとなると、次の内閣は一体誰が率いていくのか…。

 高橋 財務省としては大宏池会、つまり岸田派と麻生派、そして茂木氏の中で回したいという意図があると思う。その中でも総理大臣を狙える可能性が一番高いのは、財務省の言う事をよく聞く鈴木俊一現財務大臣か加藤勝信氏ではないか。鈴木俊一氏は、現在、岸田派から麻生派に移っており、大宏池会のメンバーの中では打ってつけだ。ちなみに父親の鈴木善幸氏も宏池会出身の総理大臣経験者だ。もちろん、これは財務省の考えであり、政治の中ではまた違う動きになる可能性は大いにある。鈴木俊一氏では選挙の顔にならないという人がいたり、自民党から反対する声が出てくるかもしれない。ただ、今は野党勢力が弱いため、選挙の顔にならなくても多少は大丈夫なのではないか。

――いつになれば政府が財務省を従えて、健全な経済政策が出来るようになるのか…。

 高橋 安倍元総理のような人物が出てこない限り難しいだろう。ただ、安倍元総理が長く舵を取っていた分、今度は財務省が大きな顔をする番だという流れもあるのかもしれない。そして、また、それではいけないという声が大きくなった時に、再び安倍元総理のような人物が出てくる。そういった事の繰り返しではないか。安倍氏の遺志を継ぎたいと立ち上げた日本保守党や、高市早苗氏を担ぐような動きもあるようだが、日本保守党に至っては、立ち上げて間もなく国会議員が一人もいない現状では、大樹に育つにはまだ時間がかかる。参議院選ならまだしも小選挙区の衆議院選挙では最初の数人すら当選させるのは大変な事だ。高市氏については、総裁選に出る事は出来ても自民党の過半数を取ることは難しいだろう。今、総裁選を行えば国会議員だけの票集めになる。そうすると、やはり大きな派閥で票数を持っている人が勝つことになる。安倍派が分裂する可能性がない中で、無派閥の高市氏が総理大臣になるのは簡単な事ではない。ただし、政治資金問題は、無派閥・クリーン・女性の高市氏に有利に働く可能性もある。

――岸田総理は中国寄りで、それが支持率にも影響を及ぼしていると言われているが、今後の対中政策は…。

 高橋 松野元官房長官の後を継いだ林芳正現官房長官は、日中友好議員連盟の会長を務めていた人物だ。外務大臣就任時に米国からの懸念を受けて議員連盟の会長を辞任したものの、当然、中国との友好関係は重要視している。さらに今後、麻生派と岸田派が手を組み次の政権を動かしていくとなると、媚中外交が引き続き行われていく事は間違いないだろう。ここで、台湾有事が起きてくるとどうなるか。恐らく中国は日本の事など何も考えることなく行動し、台湾有事は日本有事になるだろう。その時に、媚中として振舞っていた日本を、米国が助けてくれる事はない。米国は、今、イスラエルに注力しているため、ウクライナからも手を引き、台湾有事にも手を貸すことは無いと思われる。その分、台湾は日本に頼ってくるはずだ。ここで唯一の対抗軸は安倍派だったのだが、その勢力も名声も朽ち果てている。もちろん、安倍派がこのまま黙っているとは思わないが、安倍元総理の自民党時代のように中国にも財務省にも強いような政治勢力は今後1~2年は出てこないだろう。安倍派の解体は対中政策にとっても財務省対策においても痛い話だが、それを岸田総理はやろうとしている。そして、野党の中にも有望株は見当たらない。維新の会は万博の対応に追われ、公明党も自民党を批判し始め、池田大作氏が死去したらすぐに中国に支持を仰ぎに行ったような政党だ。つまり、反中・反財務省派の考えの人たちにとって、今の日本にはどこにも希望がなく、日本の見通しは暗い。しかし、これもアベノミクスの反動と捉える事が出来るだろう。捲土重来し、数年後には新しい政権による、反中・反財務省の考えを持った新しい日本が作られると期待している。[B]

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