金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「地熱等様々な資源で安定供給」

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
理事長
高原一郎 氏

――日本は米国、インドネシアに次ぐ世界3位の地熱資源量があると言われているが、その開発は進んでいない…。

 高原 地熱エネルギーは天候に左右されることのない安定的で優れた再生エネルギー源だ。しかも、農業や養殖等への副次的な利用方法もある。他方で、地熱エネルギー資源の利用を発展させるためには、温泉事業者を始めとする地域住民の方々の理解を得る必要がある。これは地熱発電に限ったことではなく、原子力発電の開発と同様に、非常に難しい事だ。そのため、地熱開発事業者と地域住民や温泉事業者の方々は、地元の協議会等を通じて、しっかりとコミュニケーションを図りながら進めている。中でも地域住民や温泉事業者が注視しているのはモニタリングだ。水位が下がっていないか、温度が下がっていないかという事について地熱開発事業者は最大の注意を払い、そういったデータを逐次提供している。また、それに伴う地熱発電用の損害賠償保険も発売されている。これは地熱開発に伴う周辺温泉への影響等のリスクを担保するための保険だ。

――地熱開発におけるJOGMECの役割は…。

 高原 我々は各開発ステージにおいて、調査のための助成金や、探査をするための出資、また、発電所の開発や建設資金に関する債務保証等の支援を行っている。また、JOGMEC独自の調査として、昨年度と一昨年度は、特に地熱資源ポテンシャルが高い自然公園内について地質調査を行った。また、今年9月には大分県由布市で地熱シンポジウムを開催した。大分県は日本一の源泉総数と温泉湧出量を誇る温泉地だ。そこに「ハゲタカ」や「マグマ」といったドラマで有名な小説家の真山仁氏を招き、ご挨拶いただいた。地熱利活用の事例や地熱の持つポテンシャルについて各分野で活躍する関係者が議論し、同時にこれからの日本を担う子ども達にも、地熱をより身近に感じてもらうための学びの場も提供した。今年度の地熱資源量調査及び理解促進のための予算は100億円、技術開発予算10億円、国内出資予算が5億円となっている。

――地熱資源は原発22基分の潜在エネルギーがあるとも言われているが…。

 高原 地熱資源ポテンシャルについては、単純計算で原子力の約20基分に相当するポテンシャルがあると言われている。ただ、地熱発電は火力発電や原子力発電と違って、特定の地域に存在し、それを地域住民の方々の理解を得るとともに、共に利用するというものだ。性格自体が違う為、その比較は出来ず、地熱資源ポテンシャルが多く存在するからと言って、安易に開発を進めれば良いという訳にはいかない。先述したが、開発するためには地元の方々の理解が欠かせず、物事を丁寧に進めていく必要がある。さらに、地熱発電所を建設したとして、その1基から出力される発電量は、例えば日本最大の大分八丁原発電所で11万キロワット程度と、原子力発電所の約130万キロワットや火力発電所の約50万キロワットに比べてはるかに少ない。地産地消のエネルギーではあると思うが、1基当たりの発電量が少なく、規模性は大きくない。

――太陽光発電においては、森林を切り崩して自然を破壊し土石流の危険を生み、そのうえ発電量は都会に取られてしまうということで、地元住民の反対が高まっている…。

 高原 そもそも完璧なエネルギー資源というものは存在しない。そのため、太陽光発電と地熱発電のどちらが優れているか、劣っているかという単純な比較や整理は出来ない。太陽光発電は2009年にFIT(固定価格買取制度)に入ったことで爆発的に伸びたが、それは地熱発電には当てはまらない。買取期間が15年と短すぎるからだ。ただ一つ言えるのは、地熱発電は石炭や石油などの化石燃料を使う発電方法に比べるとCO2排出が少ないクリーンエネルギーだ。そのため、環境省もかなり前向きに地熱発電の促進を進めている。同時に調査構想も広げたいところだが、日本のエネルギー事情を鑑みると、原子力発電と同様に将来的にいくつかの不安要素があることも否めない。地熱の良さをとらえながら着実に進めていく事が肝要だ。

――日本で期待される地熱発電所の建設地は…。

 高原 先ずは火山のある場所として、北海道や東北は地熱発電所の建設に適地といえるだろう。或いは九州も良いかもしれない。ただ、JOGMECは基本的に申請されてきたものを受ける側であり、開発地や建設地を決めるのは事業者だ。我々としては、支援面でのメニューを絶やすことなく、これまで溜めたノウハウを反映させながら、一歩一歩、確実に進めていく事が大事だと考えている。地熱開発事業者については、自治体のみならず電力会社や石油開発会社など、様々な事業者があって良いと思う。予算については、地熱理解促進活動などのソフト面についても注力していくつもりだ。発電量については、現在の約60万キロワットの設備容量を2030年までに約150万キロワットまで上げていく事を政府目標に掲げている。そのために、海外の地熱大国から、国内で不足する技術・技能を獲得し、国内の地熱開発に還流させることも重要となってくる。

――JOGMECが今特に注目している資源と、その取り組みについて…。

 高原 エネルギーの安定供給の観点から述べるのであれば、全ての資源の確保は重要だ。一方で、2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、JOGMECはエネルギーの安定供給だけではなく、脱炭素に向けた取り組みも求められている。昨年5月にはJOGMEC法の改正により、水素・アンモニア、CCS(二酸化炭素回収・貯留)の出資・債務保証業務、洋上風力の調査業務の機能が追加され、JOGMECがカーボンニュートラルに貢献していくことが明確に示された。石油・天然ガス、石炭といった化石エネルギーも、エネルギートランジションの中では引き続き重要な資源であり、CCS等の脱炭素技術との組み合わせによりネットゼロに組み込まれていくべきものと考えている。最近では、カーボンニュートラル社会実現に欠かせない電気自動車向けバッテリーメタルに必要なコバルトやニッケル、リチウムなどの重要鉱物に対する関心が高まっている。昨年には、JOGMECのリスクマネー支援機能を強化したほか、JOGMEC法改正で国内の選鉱・製錬事業への支援が可能となった。また、重要鉱物に関する助成金事業も開始している。

――今後の抱負は…。

 高原 我々が扱っているのは地熱だけではなく、他の再生エネルギー資源や金属もある。そういったものを組み合わせて、資源の安定供給の確保に努めていく。特に、グリーン市場は新しい環境制度として注目されている。カーボンニュートラルとエネルギーの安定供給をどのようにバランスを取っていくかについて、欧州型や米国型等、考え方は様々あるが、しっかりと整ったモデルはまだない。現在、ロシア・ウクライナ戦争による石油危機が世界中で起きている中で、安くて効率的な供給をどのように組み合わせる事がベストなのかをしっかりと考え、着実に今後の日本の資源供給に反映させていきたい。[B]

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