SBI証券 代表取締役社長 髙村 正人 氏
――総合証券化に向けた取り組みの状況は…。
髙村 SBIグループの代表である北尾が2015年1月の決算発表の際に「もはやネット証券との戦いは終わった」と宣言し、本格的な総合証券化に取り組んで3年あまりが経つが、この間、ネット証券にはない金融法人向けの営業態勢の整備に注力してきた。香港に海外営業部隊を置き、アジアを中心とする機関投資家への接触も開始した。これと同時並行でホールセールでの債券引受機能の整備も進めており、債券引受業務の経験者の採用や発行体である地方公共団体・事業会社への営業行脚を実施してきた。こうした取り組みが奏功し、投資家と発行体の間をつなぐことができるような態勢がようやく出来上がりつつある。また、金融法人関連では、米ピムコ社との合弁で設立した「SBIボンド・インベストメント・マネジメント」というグループ内の資産運用会社と、当社がタイアップした地方金融機関向けの私募投信の販売が好調だ。累積販売額は1000億円の大台に迫っており、今年度に入っての加速度的な伸びを勘案するとすぐさま数千億円という単位に伸びていくだろう。さらに、地方の機関投資家向けに我々が内製した仕組み債を販売するなど、幅広い金融機関へのアプローチが可能な状況となってきた。
――IPOの主幹事本数では、すでに存在感を発揮してきている…。
髙村 IPOにも力を入れて取り組んできており、我々が主幹事を務めた新規上場件数はこれまでの合計で53社に達した。今年度はさらに10社程度の上乗せが出来ると想定しており、年間の主幹事件数は大手証券との比較でも良い勝負になるのではないか。また、新規上場のみならず、東証1部へのステップアップでもこれまで合計24社に関与した。実はこのうちの10社は新規上場時に他社が主幹事を務めていた案件だ。こうした主幹事の切り替えがなぜ起こっているのかと考えると、やはり個人投資家に対する我々のリーチが圧倒的に強いためではないか。東証1部への昇格に向けて株主数の充足が必要な際、一番頼りになるのはSBI証券だということに事業会社が気付いてきており、我々の持つインターネットチャネルがホールセール分野にもうまく作用しつつある。
――ホールセールのエクイティ・ファイナンスにも関与を深めている…。
髙村 IPOをテコにして、セカンダリーでのファイナンスの機会も積極的に捕えていきたいと考えている。例えば、新規上場後に時価総額が1000億円を超えたような企業には、大手証券や外資系証券の投資銀行部門が営業を仕掛けている。我々もこれにきちんと対抗できる部門を立ち上げるべきだということで、外部から人材を集めて投資銀行部を新たに設置した。現在は15人弱といった規模で、様々なプロダクトを組み合わせたファイナンスやM&Aを中心に提案している。ただ、最初から時価総額1000億円超の企業の全てを営業対象とすることは難しいので、まずは我々と何らかのご縁があったミドルクラスの企業を中心に取り組んでいる。新規上場後の成長過程にあるような企業もカバーできるような態勢が大分整ってきた。
――ネット証券としての新しい取り組みは…。
髙村 今年の4月からはSBIプライム証券のダークプール(証券会社内でのつけ合わせ)との連携を開始した。これまでは証券取引所とジャパンネクストPTSのどちらか有利な条件でマッチングする「SOR注文」という仕組みを提供してきたが、顧客にとってはさらにダークプールを含めた3つの選択肢から最良の価格を選ぶことができる。現時点では、ダークプールとの連携について対象となる顧客のうち20%強に承諾を頂いている。ダークプールについてはアルゴリズムをチューニングしている段階であり、約定比率はまだ10%弱にとどまっているが、今後はより有利な価格でマッチングができ、かつ手数料も安いというメリットを打ち出してさらに比率を上げていくことを狙っている。
――ダークプールを使い、手数料を下げることの影響については…。
髙村 単純に東証との約定価格の手数料を下げるのではなく、SBIプライム証券のダークプールでは我々が東証のシステムを使用する際に支払っている場口銭を顧客に還元できるということだ。手数料を下げたとしても、それ以上に取引のボリュームを獲得することができればよいと考えている。我々がベストなレートを提示することができれば、個人投資家にとっても我々のサービスを利用するインセンティブとなる。今後はネット証券全体として手数料競争ではなく顧客の約定価格を競い合うステージに入っていくのではないか。
――インターネットを利用したサービスの発展可能性はどうか…。
髙村 我々のインターネットのプラットフォームは、意外なところで活用の余地が出て来ている。例えば、我々は地銀に対して機関投資家営業という形でアプローチしているが、一部の地銀ではリテール営業で投資信託のラインナップを十分に取り揃えることが出来ておらず、かつ品揃えを強化するとしても可能な限りコストを抑えたいというニーズがあることが分かった。そこで、証券仲介の形態で我々のところに顧客を送ってもらい、その顧客に関しては収益を分け合うというビジネスモデルを立ち上げたところ、サービス開始から1年半あまり経つが、この6月で提携先の地銀が30行にも達する見込みだ。また、我々のインターネットチャネルを提供するにとどまらず、証券子会社を持っていない地銀との間では対面の共同店舗の設置にも取り組んでいる。地銀が対面共同店舗に顧客を送り、我々はこの店舗に子会社であるSBIマネープラザの外務員を派遣するというわけだ。証券機能を持っていなかった地銀はこれまで大手証券の支店に顧客を取られていたが、この仕組みを使えば新規投資コストをかけることなく顧客を取り戻すことが可能になるというメリットがあるため、取り組みは順調に進んでいる。すでに清水銀行と共同店舗を設立したほか、今年度中にさらに10行程度の地銀と提携する予定だ。
――現在の社員数は…。
髙村 社員数はコールセンターなども含めて合計700人強といったところだ。ここ最近は、総合証券化に向けて法人部門の人材採用を強化しており、特に我々のビジネスに共感して頂くようなシニア・エグゼクティブが増加してきた。皆さんやる気があり、かつ昔からのネットワークや知見があるという点において大変助かっている。また、新卒でいったん大手金融機関に入社した若い人から我々に興味を持ってもらうことも増えた印象がある。新しいビジネスの立ち上げに直接関与出来る点が、若い人にとっては魅力に映っているのではないだろうか。
――FXや仮想通貨取引と、証券取引との相乗効果については…。
髙村 FXについては、グループ内の「SBIリクイディティ・マーケット」が流動性を供給しながらきちんとプライスを提示している。我々のグループにおけるFXの顧客層は100万人を超えるような水準となっており、トレードのボリュームも日本一の規模になっているはずだ。FXを手掛ける個人投資家は株式にも関心を持っていることが多く、顧客の親和性が高いためにグループ内の送客はうまくいっている。また、今後にグループ内で仮想通貨事業が立ち上がれば、顧客にとっては新たな取引の選択肢が生まれることになるため、ビジネスチャンスは大きい。仮想通貨の取引業者も徐々にしっかりとした基盤を持つ大手業者に絞られていくと見ており、金融商品取引業者としての常識を持ち合わせた我々が参加することで、仮想通貨ビジネスのステージはさらに変化していくだろう。
――経営上の今後の課題は…。
髙村 ネット経由のリテールの基盤はかなり拡充してきた。特にこの5年間では、NISAやiDeCoなど税制面の後押しを受け、真面目に資産形成に取り組む初心者層が大きく増えている。リテールについてはこうした流れに自然に乗ってビジネスを伸長させていきたい。また、香港を拠点としてアジアを中心とする海外機関投資家への営業を開始したが、欧州や米州などの投資家に対してもどのようにアクセスしていくかを考えていかねばならない。発行体にとってはホールセールで海外機関投資家を抜きにして考えることはできないので、我々が総合証券会社となるためにはかなりの時間を要してでも海外機関投資家を広くカバーしなければならない。課題はまだまだ山積している。