金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「米以上の電子政府の防御構築」

衆議院議員
牧島 かれん 氏

――行政のデジタル化の遅れの原因は…。

 牧島 原因は2つあると思っている。まずは、わが国のテクノロジーが進んでいるがゆえに各自治体で独自のシステムを使ってしまい、全国的に統一化・標準化したものができなかったことだ。これだけの技術大国だからこそレガシーシステムが多く存在するので、新しいものを1つ作るという決断ができなかった。それがコロナ禍によって、使用しているシステムの違いから自治体間の調整に時間が掛かるといった課題が顕在化した。これからはガバメントクラウドを中心に自治体のシステム標準化を行うと決めたが、そこには大きな政治的リーダーシップが求められた。しかし、これは地方自治とは全く別の話だ。これまで通り地方創生の創意工夫は各自治体で進めていただくが、システムは別々である必要はないということだ。もう1つは、わが国でデジタル化を進めたり電子政府に移行したりすることへの国民の意識が薄かったことがある。例えば政府の電子化が進んでいるウクライナやエストニア、北欧各国、アジアでは韓国や台湾に比べて、日本は地政学リスクがそれほどないと考えられてきたので、政府を電子化しなければならないという大きな危機感がなかった。ただ、今後わが国が大きな紛争に巻き込まれないという保証はなく、同時に多くの自然災害リスクを持っているので、危機対応として電子政府を用意しておくことは非常に重要だ。

――行政のデジタル化でエストニアのように小さな政府が実現できるのか…。

 牧島 デジタル化によって行政の人員を減らすということを第一の目的にはしていない。これまで多くの自治体の職員や首長とコミュニケーションを図ってきたが、どの自治体においても、デジタル化で削減した人材をどの部門・業務に配置したいのかということを考えるようになっている。さらに、小さな自治体であればあるほど、新規採用職員の募集に困っているという話を聞くようになった。私の地元にある人口1万人程度の町では成人の人数が100人に満たない年があり、若い労働力の不足が顕著だと感じることが多くなった。自治体の採用には色々なパターンがあるし、他の自治体に住む人材を採用しても良いのだが、職員の採用は簡単ではなくなっているという現実問題がある。一方、日本は世界に冠たる高齢社会で、いくらデジタル化が進んでもスマホでは行政手続きが完結できない高齢者も多いと思う。これまでだったら役所に来て何時間も待たされていたところを、デジタル化によって待ち時間を減らすことができるし、一人一人に対応する時間を長く取ることができる。将来的にはコンパクト化が進むかもしれないが、まずは本当に人が向き合うべき場所や人を増やしたいと思っている部署にデジタル化で浮いた人材を配置するといった運用を行いたい。

――マイナンバー制度をめぐって情報漏えいへの国民の不安が高まっている…。

 牧島 個人情報の取り扱いについては、自治体の職員の皆さんを含めてかなり厳しい規律で運用されていると思っている。もちろんマイナンバー制度やマイナ保険証について、ひも付け誤りなど問題があり、国民の皆さんに不安があるということは認識している。しかし、マイナ保険証に関して言えば、ひも付け誤りが発生した現場は保険を提供している保険者であるから、民間企業でも個人情報の取り扱いについて意識してもらう必要が益々高まっている。さらに、マイナポータルで自分の情報が正しいか確認するなど、国民一人一人が責任を持って自分自身の個人情報を管理するという意識も大事だ。また、デジタル庁に対しても改善すべき点があるという指摘を受けているが、デジタル庁のなかでは民間人が3分の1を占めるということもあり、全省庁のなかで最も厳しいコンプライアンスルールを敷いているところだ。

――マイナ保険証のひも付け誤り問題の責任はどこにあるのか…。

 牧島 保険者が行うひも付け業務について、現場の1人1人がどういう仕事をしていたかについて、厚生労働省が総点検を行った。ひも付けの際の個人情報の特定に当たって、マイナンバーと4つの情報(氏名、住所、生年月日、性別)で確認をするという期待していた運用ができていたのが約6割、期待していた運用ができなかったのが3~4割との結果が出た。この3~4割については改善の必要があるし、厚生労働省は対応しなければならない。既に中間報告が出ているし、総点検のフォローアップが行われるだろう。

――マイナンバー制度自体をより国民に周知・啓発する必要がある…。

 牧島 もちろんそうした広報活動を進めていくことは大切だが、既に若い世代を中心にマイナポータルを使いこなしている人は増えてきていると認識している。デジタルネイティブ世代は子育てワンストップサービスをかなり活用し始めているし、会場に行かず確定申告ができるなど納税にも使われ始め、かなり普及が進んできたと思う。日々マイナポータルを使っていれば、自分自身の情報の管理もスムーズにできているだろう。

――その一方で、サイバーセキュリティについては、憲法21条における「通信の秘密」がネックとなっているのではないか…。

 牧島 まず、わが国で導入を進めている電子政府と憲法21条で規定される「通信の秘密」は全く別の話と考えている。導入を進めているガバメントクラウドではマルチクラウドシステムを採用することで、米国でも行っていないようなハイレベルなセキュリティ・レベルが提供される。一方、サイバーセキュリティ対策についてはそれを平時のものとして取り扱うのか、安全保障や防衛という視点で取り扱うのか、様々な論点から議論が重ねられてきた。サイバー攻撃のアクターは国なのか、国にスポンサーされている行為者なのか、テロリストなのか、対象者のアクションは何なのか、どのように無力化させるのか、それぞれ細かく議論しなければならない。これらについては拡大NICS(内閣サイバーセキュリティセンター)と呼ばれる組織を編成するなかでも議論が進められるだろう。

――わが国のサイバーセキュリティを強化するには…。

 牧島 例えば平時で言えば、基本的な考え方として重要インフラ事業者の防御が大きなテーマになる。サイバー攻撃を受けた事案の一つである医療機関の中には初歩的な対策で防御が可能になるものであっても、その対応すらできていないケースがまだ存在している。重要インフラ事業者といっても規模感や想定されるリスクに幅があり、それぞれの事業者ごとに適切な対策を取ってもらうことが大切だ。中小企業のサイバーセキュリティ対策も強化していきたい。また、国際連携や官民連携の強化をしなければならないということも強調しておきたい。サイバー空間には国境があるわけではないし、平時と有事の境目も曖昧だ。このような特徴を踏まえたうえで、民間の人材を活用していく必要があるし、グローバル企業にはその知見を提供してもらいたい。

――これからの課題は…。

 牧島 2025年には大阪・関西万博があるが、開催にあたってサイバー攻撃を受ける可能性があることを意識しなければならない。サイバー防衛では2021年の東京オリンピック・パラリンピックの時の知見が生かされると思う。東京大会はロンドン大会の倍のサイバー攻撃を受けたものの守り切ることができたというのは1つのレガシー・経験として残っており、それに甘んじることなく努力は続けなければならないが、参考にすべき点は多くあるだろう。[B][N]

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