米ジョージタウン大学教授
日本人研究家
ケビン・M・ドーク 氏
――前大統領が告発されるような今の米国は、いよいよ曲がり角に来ているのか…。
ドーク 今までの米国の歴史の中では、今回のトランプ前大統領と同様の問題で告発されるようなことは無かった。現在、米国のメディアでは「トランプ前大統領にはモラルがない」という意見と、「罪のない段階で前大統領を告発する民主党側には道徳心が欠けている」という2つの正義が存在し、それらが真っ向から対立している。個人的には、この告発は不公平であり民主党側にモラルが無いと思う。このように米国内で道徳心がなくなってきている原因の一つは、1960年代に今の民主党のエリートたちのマインドが形成されてきたからだろう。戦後の自由主義の中で、自分の好きな事だけを求めて生きてきた人々は、他人の事をあまり考えなくなり、道徳心も薄くなってきた。つまり、自由と豊かさが、他人を思いやる気持ちを失わせていった。
――道徳心の希薄化を背景に、米国では麻薬や銃などの問題が山積している…。
ドーク 今の米国には麻薬が蔓延している。にもかかわらず、政府はこの問題に手を付けないばかりか、麻薬合法化という風潮が広まっている。それは、今の民主党の人たちが麻薬を使っているからだろう。かつて、ビル・クリントン元大統領が「麻薬を使っているのか」と質問された時に、「はい。しかし、深くは吸っていない」と答えたことがある。冗談交じりにでもそういう発言が咄嗟に出たのは、裏を返せば、政治家にとって麻薬を使用することはあたりまえの環境があったという事だ。バイデン大統領については定かではないが、バイデン大統領の息子ハンター・バイデン氏はコカインを使用していることで有名だ。実際、彼は麻薬を使用していた事を隠して銃を購入したことで起訴された。このため、今年7月にホワイトハウスでコカインが見つかった事件も、米国民からはそれほど驚くような事ではないように受け止められている。また、米国には中国からフェンタニルという薬物がメキシコ経由で密輸され、21世紀版のアヘン戦争とも言われているが、そのルートを妨げないようにメキシコとの国境を完全封鎖したくないという民主党の意図も感じられる。背景には、自分たち自身が麻薬を使いたい、或いはそこに何かしらの利権があるのかもしれない。
――一方で、外交や経済においては米国一強だ。ロシア対ウクライナ戦争によって武器や食糧、燃料などの輸出も好調に推移し、他国経済を大きく引き離している…。
ドーク 民主党の中にはロシア対ウクライナ戦争の終焉を望んでいない人もいるだろう。それくらい米国はこの戦争で利益を得ている。しかし同時に、米国国民の生活水準の低下は酷さを増している。麻薬による死者数が年間10万人を超えているのに、そういった事実をメディアは大きく取り上げず、政治家もそこに手を付けようとしない。そもそも、メディアは政権与党に悪い影響を及ぼすような報道をしない。特に麻薬の問題に関しては、政治家と同様にメディアで働く人達自身が麻薬を使いたい為なのかもしれない。問題を大きく取り上げて規制が強まるのは避けたいのだろう。しかし、薬物使用による治安の悪化は大きな問題になっている。さらに言えば、薬物を使用した際の暴力行為の罰則については、おかしな法律の適用が多く、刑罰が軽すぎる。
――米国では、麻薬を使用した際の罰則が軽すぎる…。
ドーク 米国の法律にはおかしなものが沢山ある。例えば、ある射殺事件において銃を扱った人物が麻薬中毒者や精神病者、或いは前科者や未成年者だった場合には、銃をその本人に販売した人の方が重罪になる場合がある。また、お店に強盗が入った際に店員が銃や刀を使って強盗犯に危害を与えれば、拘置所に収容されるのは、お店を襲った強盗ではなく、店員だ。法律を運用する側のモラルや社会規範がきちんとしていないから、このようなおかしな法的措置が下されることになる。このようなケースが相次いで起こっている米国は、もはや崩壊に向かっていると言わざるを得ない。そして、民主党はこういった現象に対する解決法を見いだせないどころか、むしろ米国の崩壊を加速させている。この米国崩壊の過程を遅らせる事が出来る方法があるとすれば、それはトランプ前大統領が次の選挙で再び大統領になることしかない。共和党は民主党に比べて国民の権利を大切にしているからだ。
――米国では中絶権問題やLGBT問題を巡っても意見が二分化している…。
ドーク 中絶権問題は、妊娠した女性の権利と同時に、体内にいる胎児の権利もあり、簡単に判断できる問題ではない。また、米国でLGBTは特権少数派と定義されているため不用意に発言すれば起訴されることもあり、LGBTを話題にするには十分に気を付けなくてはならない。一つ言えるのは、今の米国で人々が唱える自由とは、特定の団体のためのものであり、言論の自由も、特定の団体の為のものでしかないという事だ。各々の団体が叫ぶ自由を認めるか認めないか、それが民主党とトランプ前大統領の違いであり、民主党はそれを認め、トランプ前大統領は公共の利益を尊重して認めない。例えば、リベラル勢力による差別是正の流れで、今の米国では非キリスト教徒に配慮して「メリー・クリスマス」とも言えないような風潮にあるが、それを堂々と「メリー・クリスマス」と言おうと唱えたのがトランプ前大統領だ。そして、彼はこのように自由な発言をしたことで何度も告発されている。つまり、今の米国にはトランプ前大統領でさえ個人として政治的に自由に発言する権利が無いということだ。
――言論の自由がなくなれば、民主主義の基盤は壊れてしまう…。
ドーク 私が日本人研究家アメリカ人として一番言いたいのは、「日本はもはや米国を参考とせずに、自立すべき」という事だ。すでに立派に経済大国として名を馳せ、民主主義国家として一人前に今の国際社会を歩んでいる日本は、もっと自国に誇りを持つべきだろう。また、日本は道徳という社会モラルがしっかりしており、それが麻薬にも反映されている、このため、独自の力で未知の世界に挑んでほしい。それだけの力は備わっているはずだ。もはや崩壊に向かっている米国の真似をしていては駄目だと考えている。[B]