金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

「日本の歪な債券市場を変革」

ソフトバンクグループ
取締役専務執行役員
CFO兼CISO
後藤 芳光 氏

――ソフトバンクグループは日本の資金調達環境を前進させている。その考えや哲学をお伺いしたい…。

 後藤 日本の社債マーケットは、需要と供給が素直に反映されていない状態がずっと続いている。日本ではBBB格程度までしか恐らく起債が難しい一方、海外市場ではBB格、B格どころかC格の起債もある。こうした銘柄は当然利回りが高く、その分リスクも高くなるが、そのリスクを承知の上で買いたいという投資家は多い。これは海外市場だけの話ではなく、こうしたリスクを取ることができる投資家は日本にも潜在的に存在している。しかし、日本はそもそも市場をつくっていないため、参加する機会がない。日本国内の機関投資家マーケットはこうしたリスクを取れる投資家を受け入れない、歪なマーケット構造となっている。そこで、我々はリテール市場に目を向けた。リテール市場はより需給がストレートに反映されているためだ。2023年6月末時点で2,115兆円ある家計の金融資産のうち、半分近くがゼロ金利預金にとどめ置かれ眠っているが、その一部でも社債運用に回ればよい。例えば、我々が発行するシニア債の利回りは発行年限に応じて1~2%ある。私はもともと信託銀行出身で、若い頃は個人顧客の資金運用のために奔走していた。当時は、長期プライムレートが高かったこともあるが、例えば、貸付信託など6~7%の利回りで運用できる商品があった。そうした商品を運用していけば老後に資産運用の果実を得ることができていた。しかし、低金利に伴い運用商品がなくなってきた。そうした高金利商品がなくなってしまったならば我々で作ればいいという思いもあり、20年程度前に個人向け社債の発行を始めた。今では年間5000~8000億円程度の償還と、金融機関並みの大型発行が継続的にできるようになった。このように我々は社債発行について、国民の老後の資産運用に対する思いとともに、日本の歪な債券市場を変えたいという想いがある。

――機関投資家市場の歪さとは…。

 後藤 我々が海外市場で社債を発行すると、一度の起債で概ね数千億円規模の調達が可能だ。しかし、日本で調達しようとすると同様の金額は難しい。その差はどうして生まれるのか。これはファンドマネージャーがプロか会社員かの違いが大きいのではないか。日本のファンドマネージャーの評価は減点主義で、デフォルトなんてもっての他だ。そうすると利回りの50bp、100bpを追求するよりも、より安全な方を選択しがちだ。結果としてハイイールド債を買わずに投資適格債しか買わざるを得ない。これが大きな理由だと考えている。一方、海外でIRロードショーを行っていると、債券投資家やアナリストが、ハイイールド債とされているものの、そのなかで実際にはリスクが低い債券を探していることがよくわかる。なぜかというと、運用で儲けたいと考えているためだ。そのため投資家は非常に熱心に質問してくるし、その分析能力や判断力・決断力がより発揮できる環境にいることがよくわかる。日本では歴史的にハイイールド債市場が放置されてきた。発行体は売れないから出さない。投資家は商品がないから研究する必要がない。証券会社は金融庁に忖度して個人向け債やハイイールド債の発行に消極的にならざるを得ない。欧米並みのそれぞれのリスク・リターンに応じた債券が自由にトレードされる市場が作られるべきだと思うし、我々は市場拡大に貢献しているというささやかな自負を持っている。

――証券会社もリスクを取らない…。

 後藤 金融庁の指導により仕組債問題が証券業界を揺るがしているが、それでも証券会社は仕組債を売り続けた方が良いのではないかと思っている。今回の問題で「仕組み債を売らない」という判断をするのではなく、ルールに則って正しい方法で販売すればいい。投資家の門戸を閉ざしてしまうと機能不全に陥り、違うことを考える人が出て、より間違った方向に進む懸念がある。

――金融庁は投資家保護に傾斜しすぎている…。

 後藤 子供の教育と同じで、部屋の中に入れて鍵を閉めていたら、本当のリスクを理解しないまま大人になってしまう。外に出て、転んで、ケガをして泣くことも大事。投資は自己責任が原則。このままでは日本の個人投資家が育たないのではないか。

――社債市場で今後チャレンジしたいことは…。

 後藤 投資適格級が主流となっている日本の社債市場をどう変えることができるのか。例えば、ファンドマネージャーとして自身の力量をどれだけ世に知らしめることができるかという風に、ファンドマネージャーがポジティブになれる環境づくりを、発行体サイドとして考えていきたい。ただ、買う側のスタンスを我々がどう変えることができるのかについてはまだまだ悩みがある。例えば、我々は豊富な有価証券を有している。その保有有価証券だけに依拠した商品をこれまでにもいろいろ発行している。過去には保有するアリババ株式に依拠したものを含めさまざまな商品を出しているが、国内の投資家の対応には温度差がある。大手機関投資家のなかでもまだまだ議論があるようだ。しかし海外では多くの投資家が関心を持ってくれる。また証券会社においても引受に躊躇するところもある。我々は日本の会社としては、そうした商品において日本の証券会社をシェアアップしていくことが一番大事なのだろうとも考えている。発行体としてはコストが高い海外での調達に比べ、日本円のコストは非常に安いわけだが、残念ながら日本の投資家が海外投資家と同じようなスタンスではない。そういった課題において我々がなにをできるか改めて考えていきたい。

――発行体である一方でファンドを運用されている…。

 後藤 我々はソフトバンク・ビジョン・ファンドという十数兆円規模のファンドを運用している。良い時期も悪い時期もあり、そして勉強もしながら、グローバルに存在感を示すことができてきた。よく「ビジョンファンドはなぜ日本の会社に投資しないのか」と尋ねられることがある。我々としては、日本の会社に投資したくないわけがない。日本企業はもっと評価されるべきだ。しかし、残念ながら我々がフォーカスしているAI関連において、ある程度成熟している日本企業はまだまだ少ない。しかしながらここ2年間程度で4社程度投資を行うなど少しずつ増えている。[B][X]

▲TOP