金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「経営に自信ない日本のトップ」

ストラテジックキャピタル
代表取締役
丸木 強 氏

――法改正によって総会屋がいなくなり会社を批判できる者がいなくなった今、アクティビスト(物言う株主)は資本市場の健全化のために必要な存在だ…。

 丸木 我々は株主である以上、利潤を目的とする。株価の上昇と配当以外は何も得られない株主にとって、株主価値を上げるために必要な提言は当然の事だ。経営者は、有権者から選ばれた政治家と同様に、株主の利益のために働くということだ。「企業には色々な利害関係者がいて、給料や税金の支払い、社会貢献の問題もあり、株主だけに向くことは出来ない」という意見もあるが、それは間違っている。従業員への給料やボーナス支給、取引先への対価支払いや銀行融資への返済などは債権債務であり、それらを契約に基づいて支払う事は義務だ。しかし、株主は利益が出た時にしか配当が貰えず、損をすれば財産がなくなって終了という立場にある。そのリスクを全て背負っているからこそ、法律は株主に特別な権利を与えている。もちろん、利益を上げる手段として関係者を大切にすることは大事であり、我々は株主価値を上げるために従業員の給料を上げるよう提案をしたこともある。我々の提案をある程度受け入れてもらった結果、我々が投資して売却した会社の株価は、我々が売却した後の方が上がっているケースが殆どだ。それは我々の誇りとしているところだ。

――投資先の見つけ方は…。

 丸木 先ず、本業のキャッシュフローが安定している会社で、なおかつ、現金や有価証券、或いは本業と関係のない不動産などでアセットを持ちすぎている企業だ。そして、コーポレートガバナンスに改善の余地が多いところだ。例えば、天下りなど役員の選び方が不明瞭だったり、役員報酬の決め方が不明確だったり、いまだに買収防衛策があったりといった、改善点が多い会社を選んでいる。基本的に我々はビジネスのオペレーションには口を挟まないが、改善して欲しい事項はしっかりと会社に伝えている。100%その改善要望が通らなくても、ある程度採用してもらえれば、株価が上がってリターンが得られると考えているからだ。しかし、大抵の会社は株主が提案すると条件反射的に反対し、それが出来ない理由を考える。そして、株主の資産を使って助言会社や弁護士等のアドバイザーを雇い、「どうすればこのうるさい株主たちの言いなりにならずに済むのか」という相談をするのだが、大抵のアドバイザーは経営者に気を使ってか、耳の痛いことは言わずにオブラートに包んでしまう。それが、日本の企業統治の改善がなかなか進まない一因となっている。

――豊かな日本を長い間享受してきた人たちが、改革の必要性もその意識もないまま現場のトップから経営者となるケースが日本には多い…。

 丸木 現場では優秀でも、経営者として優秀であるとは限らない。一般的に日本人は勤勉で優秀な人が多いが、トップの人のレベルに関しては欧米や中国の方が高いと感じる。その理由は、日本ではトップとしての訓練がされていない人がトップになっているからだと思う。日本の会社に余剰資産が多い理由も、保有資産がないと何かがあった時に経営者が不安だからだ。経営に自信がないために余分な資産を持ち、資本効率性が悪くなり、そのためROEも低い。経営に自信がないのであれば、自信のある人に経営を変わってもらうべきだ。経営が失敗した時の為に資産を保有しておくのではなく、失敗しないように色々とリスクを考慮しながら経営していくのが本筋だ。株主もそれだけのリスクをとったうえで投資をしているため、経営者がきちんと考えて行動したうえでの失敗に対しては、甘受すべきだ。

――資産が株主にとってプラスになるような、例えば右肩上がりの会社の株式を持つ事については…。

 丸木 会社が保有する他社の株式のリターンで、投資家の期待に応えられる会社はまずない。必ず右肩上がりが続く株式を選別できる眼識を持っていれば別だが、素人では難しいし、仮に利益が出ても法人税が発生する。ROEは税引き後のリターンであり、それが8%以上であることを目標とするならば、日本の上場株式の平均リターンでは届くことはない。我々のような専門家でない限り、それだけのリターンを得る事はまず出来ないだろう。投資している会社が有価証券投資で利益を得ることを期待するよりも、投資家は別途自分で投資信託を買った方が良い。投資家は、その会社の本業で利益が出る事を期待して投資するものだ。企業というものは、本来の事業に必要な投資をして利益を出すことが重要だ。よく「日本の経営者はキャッシュの上に座っている」と言われるが、確かに日本の企業は安全弁を持ち過ぎている。日本は2度にわたる金融不安で、銀行が融資をしてくれないという経験からキャッシュを手放せないということかもしれないが、例えばリーマンショック後の米国で、米国企業が同じような行動をとっているかと言えば、取っていない。これは日本特有の企業行動だ。コロナ時に「日本企業はお金をため込んでいてよかった」という声が上がっていた時でも、私の知り合いの米国人は「そんな無駄なものをもっているからROIC(投下資本利益率)が上がらないのだ」と話していた。

――一方で、経済安保の観点から考えると、例えば黄金株などを持つなど対策を考えておく必要があるのではないか…。

 丸木 例えば、トヨタが持ち合い株を大量に保有しているのは、中国企業からの買収を防ぐためとの説明を聞いたことがある。しかし、「電気通信会社の株式について20%以上は外国人が保有してはならない」という規制があるように、外資から守るべき企業は外為法だけではなく、業種特有の法令で規定するのが王道であり、日本特有の株式持ち合いは止めるべきだ。政策保有の目的は、「株を持っていると取引ができる」ということらしいが、そこには、製品やサービスの質を上げようとするインセンティブが失われる危険性が潜んでいる。また、政策保有株式を持つ相手企業は安定株主だ。その意味するところは「会社の資産を使って取引先の経営者の保身に協力する」ということであり、それが果たして、株式会社の資産の使い方として正しくないのではないかという問題がある。そもそも株を持っているから取引できるというのは「取引という利益を与えている」という点で、会社法120条に違反しているのではないかという考え方もある。さらに、政策保有株式を持つ安定株主は、株式発行会社の総会議案には常に賛成するものだ。そうすると、自社株式を保有する経営者や安定株主を合わせて5%を超えるようなケースでは、議決権行使という面から考えて「共同保有者の大量保有報告制度」を出すべきだと思う。そしてなにより、政策保有株式を持っていると、その株の時価評価で財務状況が変化する。例えば、2000年代の初めは、本業では利益が出ていても政策保有株式が評価損で減益となったり、赤字となるケースもあった。また、株式の含み益は自己資本に入るため、マーケットが強い時は自己資本が膨らみ、マーケットが弱い時には自己資本が縮む。そんな自己資本でROEの目標設定が果たしてできるのかという問題がある。そういった様々な理由から、我々は、政策保有株式は持つべきではないと考えている。

――最近、盛んにSDGsが唱えられているが、株主にとってその位置づけは…。

 丸木 SDGsは、近年は投資家にとってはESGのEとSのことと理解している。ESGは、投資のトレンドとして無視できるものではなくなった。米国では、エネルギー産業そのものの否定に繋がるとの考え方や、例えば、CO2を相殺するのに多額の費用が掛かるとなれば、それは株主にとってはマイナスだという考え方がある。しかし、世界の大勢ではESGの優れた会社に投資しようという動きが強く、ESGに優れた会社に投資しようとする投資家が増えれば、その会社の資本コストは下がり、結果として株価が上がることになる。賛同できないのは、社会貢献と称した「建前だけの寄付」だ。株主としては、本業と関係ないところでの環境・社会貢献は必要ないと思っている。ESGの振りをするためだけに寄付するのは止めるべきだ。寄付したいと考える経営者が個人で寄付すればよい訳であり、株主のお金を使って寄付すべきではない。我々にお金を預けている投資家は米国人が多く、3年程前から「ストラテジックキャピタルのESGポリシーはどうなっているのか」ということを気にし始めている。我々としても具体的に投資先企業に働きかけ、投資家の声に対応するようにしている。例えば、石炭火力発電所への部品供給ビジネスをおこなっている商社にそのビジネスからの撤退を求めたり、パチンコ等のギャンブル業界から手を引くよう提言したり、建設会社には労災事故について調べて再発防止策を徹底するよう求めている。法令違反のみならず社会正義に反すると思われることについても、会社として社会的規範を順守してもらうように働きかけている。ESGのGであるカバナンスの問題も同様だ。それによって我々が投資する会社の企業価値が高まり、株主価値が上がれば良いと考えている。

――御社自身の顧客(投資家)構成について…。

 丸木 8割超が外国人投資家だ。当社は上場企業の経営者に敵対的になる可能性が高く、例えば、日証金の歴代社長に日本銀行出身者が就任し続けていることを問題視して声を上げている。そんなところに金融機関やその運用会社が投資することは簡単ではないかもしれない。また、日本の事業会社の年金基金担当者にグループ企業の株は買わないように相談されても、そういった約束は出来ない。そういった理由から、当社の顧客(投資家)の構成は必然的に海外の投資家が多くなっている。もちろん、日本の機関投資家でも入っていただいているが、それはごく一部だ。裏を返せば、だから生き残っていけているのだと思う。他の日系機関投資家も我々のように企業に対して株主としてはっきりとモノを言うようになったら、我々の存在価値はなくなり、この程度の規模では生き残っていくことが出来なくなる(笑)。

――今後の抱負は…。

 丸木 もちろん、ファンドの規模を大きくし、日本経済がもっと活性化するようなお手伝いが出来るようになりたいという思いはある。ただ、一方で、弊社の投資家の意向として、ファンドのサイズを大きくしてほしくないという要望もある。過去の投資運用会社は、小さいうちは運用成績が良くても規模が大きくなると成績が下がっていくというケースが多かったかららしい。そういった事から、当面はあまり大きくないサイズでパフォーマンスを上げ、ゆくゆくは投資家のご了解を得たうえで徐々に規模を拡大していければ良いと思っている。[B]

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