金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「SBI新生銀のTOBは問題」

カドタ・アンド・カンパニー
代表取締役社長
門多 丈 氏

――SBIによる新生銀行のTOBでは少数株主が不利になっている…。

 門多 SBI新生銀行のTOBは、少数株主がTOBに応募しなくても成立する下限なしという非常に特殊なTOBで、その結果、少数株主はTOB価格2800円で強制買取されて閉め出される(「スクイーズアウト」)こととなる。社外取締役などで構成される新生銀行の特別委員会は、下限なしの前提としてTOB価格を3000円以上とすべきとしていたが、なぜか2800円で押し切られた。TOBに応じた株主もかなり少なかった。特別委員会の委員たちは2800円で受けた理由を何も説明していない。これは大問題であり、米国であれば善管注意義務違反として、特別委員会、つまり社外取締役が訴訟を受けると思う。

――真にコンプライアンスの問題だ。訴訟で価格を修正できるのか…。

 門多 日本における訴訟は、「買い取り不当」と叫ぶ米国とは異なり、ファミリーマートのケースで見られたように、裁判所で妥当なTOB価格を「決定」してもらう形となっている。このケースでは、TOB価格2300円に対し、裁判所は2600円と決定した。SBI新生銀行についても同様のケースが想定される。ただし、制度上訴訟に持ち込むには課題が多い。まず株主総会でTOBに反対し、反対票を確実に投じたことを議事録に記載してもらい、その上で裁判所に「決定申立」を貰うという煩雑な手続きが要る。ファミリーマートのケースでは、米国のフレンドリーアクティビストであるRMBキャピタルが「決定申立」をし、TOB価格より高い価格の決定を得た。米国の場合は代表訴訟として株主全員が対象となるが、日本の場合はTOB価格2300円で何も言わずにTOBに応募した人は2600円を貰えない。つまり日本の場合は言った人でなければもらえない。だけれども以前は、TOBに応じなかった少数株主がすべてTOB価格2300円で泣き寝入りだったことを考えれば、今は一応手を挙げれば2600円となり得るため進歩はしている。その点、今回のSBI新生銀行のTOB価格2800円はどうなっていくのか。もちろん裁判所もちゃんとしたプロに価格を算定してもらうはずだ。ブックバリュー(帳簿価格)では4500円を超えているだけに、問題は大きい。

――不服であれば投資家は手を挙げなければならない…。

 門多 今回TOBが成立しなくても下限がないため、スクイーズアウトで、TOBに応じなかった少数株主の株式は強制的に吸い上げられてしまう。公的資金についてはスクイーズアウトの対象としていない。これは公的資金が実質的にTOBの呼びかけ人に就いたからだが、少数株主からすれば公的資金(何年か後に高い株価での買戻しを希望している)と我々と株主の立場として何が違うのか大きな違和感があろう。

――公的資金の賛意が問われる…。

 門多 公的資金はSBI新生銀行の株価が7450円(公的資金完済に必要な株価)ありきとなっているはずだ。株式公開している段階でこの価格は絶対実現できないために、非公開として経営を効率化して7450円に引き上げる戦略と説明されている。まず非公開にしないでも7450円に引き上げられるかどうかを議論することが必要だろう。出なければ現経営陣の怠慢だ。あおぞら銀行とは異なり、新生銀行は借金を株に転換してしまったためにこうした問題が出てきた。背景にはファンド株主の圧力あり、同行は普通株にして頑張って価格を上げて借金を返すというシナリオを選択してしまった。一時期、新生銀行は新しい銀行として成長の期待感はあったが、ビジネスモデルが成功しなかった。今後、どのように7450円にするのか。公的資金もSBI新生銀行も未公開会社になっても説明責任があるが、現段階ではそれも不透明だ。できるだけ早く公的資金を返済したいと主張しているので、テクニカル的には利益剰余金や資本剰余金を活用することでの「返済」を狙うのではないか。ただしこれは禁じ手で、SBI新生銀行の本源的な株主であるSBIホールディングスの株主の利益を損なう(株主平等原則に反する)こととなる。そのために現段階では、安い値段で買い取るTOBを仕掛けたのではないか。このような異例のTOBであれば、会社を解散するとの同じと捉え、ブックバリュー(4500円)を少数株主に配るべきではないか。

――ガバナンスの問題もある…。

 門多 ファミリーマートもSBI新生銀行もワンマン経営者によって特別委員会が押し切られたパターンだ。SBI新生銀行はSBI地銀ホールディングスの傘下で、SBI地銀ホールディングスの代表でもない北尾氏が関与していることはガバナンス上問題だ。また、今後はSBIの機関銀行化(少数事業会社と資本的人的に密接な相互関係を持ち、その企業へ融資を集中させる銀行)の可能性もあり、金融庁は注意すべきだ。これはあおぞら銀行にソフトバンクが参加する際にも議論された問題だ。過去に北尾氏が新生銀行に対し、「株主の立場」で同行とマネックス証券との投信業務提携の横車を押したとの情報もあり、要注意だ。非公開化されると、それが「ブラック・ボックス」となるリスクがある。そもそも決して小さくはない銀行を非公開にしておいて良いのかという金融システム上の問題もあり、これについての金融庁の意見も聞きたい。

――一方で、ガバナンス改革の次のテーマは…。

 門多 次のコーポレートガバナンス・コードの大きなテーマは、取締役会をモニタリングボード(社外取締役を過半数とし経営執行の監督に重点を置く)に移行することだ。米国では典型的なガバナンス形態で、経営執行陣はあくまでも契約で雇われているにすぎず、取締役と執行役は明確に別れている。取締役会にはCEO(最高経営責任者)とCFO(最高財務責任者)や戦略的に重要な執行役員しか出席しない。米国では経営執行陣の人事もモニタリングボードの役割の一つだ。モニタリングボードの下に、監査委員会や指名委員会、指名報酬委員会を置くこととなる。とくに指名委員会は大きな意義を持ち、社外取締役だけで構成し、取締役の指名と経営者の指名(2つのサクセッション・プラン)を行う。日本の場合、会社をよく知るCEOが指名委員会に入らなければ機能しないため入らざる得ない状態となっているが、それでも経営者は交代させられるリスクを常に考えていなければならなくなる。

――社外取締役の人材不足が課題だ…。

 門多 1人で5~6社を兼務している例も見受けられ、最近では特に女性の兼務が目立っている。そのため、いかに人材を育てていくかが重要となる。我々は企業向けの役員研修を実施しているが、社内取締役の研修も始めている。これは従業員から上がった人が、上から言われたことに頷くだけでは取締役として機能しないからだ。一方でそのために社外取締役がいるのだが、その機能が発揮するための人材、資質が重要だ。この点、日本の従来の構造的な問題として、経営委員会や常務会であらかじめ結論を出してしまい、取締役会で新しい議論ができないのが常態であったことが上げられる。経営委員会などで結論を出さずに幅を持たせて、社内取締役にも自由に討議させる場にしないと取締役会の役割は果たせない。結論ありきでは社外取締役も反対し難いためだ。社外取締役のウルトラCは、議題や提案を突き返すことにある。特に企業不正があった企業においてそういった例が見られている。取締役会で判断きる十分な材料やリスクの議論ができていないならば、突き返すのもガバナンス改革の次の課題の一つだ。

――プライム上場企業の女性役員比率を3割とする目標が掲げられた…。

 門多 多様性は女性だけではなく、外国人も入る。日本全体の女性の活性化の観点から、女性役員比率3割が良いと言う人もいるが、まずは執行役員や部長クラスの分母を増やさなければ3割達成は難しい。女性の社外取締役で「3割」を充足するようになると、社内の女性の活性化には直接は役立たない。政府の言うプライム上場企業の「役員」というのは明らかに取締役を指しているが、執行役員や監査役も含めて3割とするのはどうだろうか。まずは数字ありきではなく、実体を充実させていくことが重要だ。

――地域銀行に対するPBR1倍は十分な議論が必要だ…。

 門多 三菱商事がウォーレン・バフェット旋風もありPBR1倍を超えたという。産業セクターごとにPBRのセンター値は異なるのが実状だ。PBRだけではなく、配当利回りなども考える必要があり、投資家はTSR(株価上昇と配当を合わせた株主総利回り)で見ている。ROEや資本効率だけでは、米国でリーマンショック危機が生じたように、短期的な利益の追求を狙い経営者に過度のリスクを取らせる問題がある。ROEを狙うから自社株買いも起こる。それよりは研究開発や設備投資の方が将来の株価を上昇させる。ROE重視で重視で短期思考となったことで米国ではすでに批判されている。また、シリコンバレーバンクのように、ROEが高くても取り付けがくれば終わりだ。私はPBRよりも株主総利回り(TSR)のほうがまだマシだと考えている。特に銀行の場合は、PBRより「信頼、サステナビリティ」をすべてのステークホールダーが重視しているのではないか。企業価値経営においてどのような経営指標を重視するのか、投資家の期待も斟酌し経営者の判断するところであり、ガイドラインなどに惑わされず取締役会、経営者が主体的に決めるべきだ。[B][X]

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