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「米中の融和に備え構造改革を」

対談
木村 三浩 氏×本紙 島田 一

 島田 安倍総理大臣(当時)の暗殺など日本にテロリズムが再び出現してきているのは、日本の民主主義が機能していないからだとみている。また、その原因は若者を中心に貧富の差が拡大している一方で、メディアが民衆の声をきちんと拾い上げて報道をしないところにある。

 木村 メディアが声を拾い上げなければ、自分で訴えるしかない。安倍元総理大臣銃撃事件の山上徹也被告も、明確な動機のもと、銃を手製するほどの意志を持ち、かなり前から綿密に計画を立てて犯行に及んでいる。行き場のない怒りと押さえきれない思いを抱えて、大胆で非道な犯罪に手を染める若者が目立ってきているのは、やはり政治に問題があるからだろう。最近頻発している強盗事件や窃盗犯罪も、政治がうまく機能していないひとつの事象だ。白昼、人通りの多い銀座での強盗など、その手法はどんどん大胆になっている。しかも、そういった犯罪が、暴力団のような組織ではなく、いわゆる半グレによって行われている。若者の多くがそれだけ追い詰められ、将来への展望もないという事なのだろう。或いは、そういう事をして、日本の政治への不信感を訴えているのかもしれない。

 島田 政治に関して言えば、与党や政権と大手メディアが癒着し、メディアが政治の問題を指摘するという役割を果たしていない。このため、国民は不満がたまる一方で、それがネットの発展と相まって新聞やテレビ離れにつながっている。また、野党もだらしなくて、与党の政策を批判する能力がないに等しい。多くの国民から見ればさほど重要ではないLTGBの問題に相当の時間を割いたり、首相官邸でのパーティー問題を鬼の首を取ったように批判している。このため、今のままでは立憲民主党や共産党は敗けるだろう。

 木村 日本の政治は100年先を見据えたプランニングが出来ておらず、また、大手メディアは政権の広報係になっているだけで、批判もしない。このままでは十数年で日本は地盤沈下してしまうだろう。政治が機能していない今の状況を抜本的に変えるためには、組織を変える必要がある。政権を交代してメディアとの馴れ合いをなくし、役人は民間からリクルートして新しい風を送り込むことだ。ただし、いきなりトップに民間人を置くと、風土や慣習の違いなどもあって、うまく機能しないこともあるため、各省の各局毎に、局長クラスや課長クラスをまとめて10名ほど民間人と入れ替えるといった形をとればよいのではないか。

 島田 行き場のない民意を抱えた人達をどうにかする政治システムがない一方で、今の日本は未だ全体的にみれば豊かであるため、若者や宗教二世などは別にして国民全体の問題意識は国防以外あまり盛り上がっていない。国防は北朝鮮による毎週のようなミサイル実射や中国の覇権主義に加え、ウクライナとロシアの戦争が決定打になり、国民の意識が一気に変わった。

 木村 今、日本の統一地方選挙では約3割が無投票当選となっており、まだ政治に無関心な国民が多い。選挙に行かない自由もあるが、世界には国民への投票を義務づけている国が約30カ国ある。日本も国政選挙に3回行かなかったら何らかの社会ボランティア活動をするといったような合意事項を作るべきではないか。一方で、米国ではバイデン大統領夫人が岸田総理大臣夫人をホワイトハウスへ招待して懇談会を開催するなど、「米国は岸田政権を支える」というメッセージを明確にしている。それも中国への対抗策なのだと思うが、そういった米国の戦略に乗せられて嬉々としているような日本では駄目だ。米国に頼らず自力できちんと立てるように、今のうちに構造改革をしておかなければならない。その体制が構築されないまま、例えばこの先、中国と米国が再び仲良く手を組むような日が来れば、日本は悲惨な状況になってしまう。そういった状況を招かないように政治家にしっかりと立て直してもらいたのだが、なかなか期待できる政治家がいないというのが実状だ。その結果として、「天誅」ということも起きかねない。1932年に起きた血盟団事件、そして同じく5.15事件の再来という可能性もないとは言い切れない。しっかりしないと駄目だ。それが今の日本だ。

 島田 今、日本の株式市場が好調なのは、米国の対中国戦略のために、米国が日本を重用しているからだ。逆に言えば、中国が米国に白旗を上げた時は、30年余り前にソ連が崩壊して日本経済の没落が始まった時のように、一気に転げ落ちていくだろう。つまり、地政学的リスクによる日本買いだ。同時にEUはウ・ロ戦争が長期化し経済が疲弊している。これも日本買いの一つの材料だ。

 木村 そう考えると、中国はほどほどに強権国家として頑張ってくれていた方が、日本としては良いという事か。そうはいっても、例えば、中国が米国に白旗を上げて崩壊したとして、昔の三国時代のように分裂して各々で国を引っ張っていくような体制になれば、それはそれで近隣の日本としては付き合いやすくなるのかもしれない。これは米国にも共通して言える事だと思う。また、人口比率と購買力を考慮して現在のG7とBRICSのGDPを比較してみると、もちろん、まだG7の方が優勢ではあるものの、BRICSも随分と近づいてきている。若さという成長力を考えると、今後BRICSがG7に取って代わることも十分考えられるのではないか。

 島田 とはいえ、軍事的にも経済的にもまだ米国一強であることには間違いない。特に今はウ・ロ戦争で米国は潤っている。シェールオイル、穀物、半導体、武器が絶好調で、このため、消費者物価もなかなか下がらない。一方、欧州ではロシアの石油資源が輸入できないため、スタグフレーションとなり、物価が上昇し、景気がなかなか上向かない。中国に至ってはバブルが崩壊し、見通しは暗い。

 木村 ただ、ロシアの原油は、今、インドや中国、バングラデシュ、パキスタンなどが購入しており、国際社会の制裁は殆ど効いていない。さらに言えば、この経済制裁は米国が決めたものであり、国連が決めたわけではないため、実際に経済制裁を行っているのは日本や米国や欧州の15カ国ぐらいで、残りの国々はロシアと自由貿易を行っている。つまり今のロシアは、かつてソ連が崩壊した時のように資源がなくなり生活が困窮するという可能性はなく、この戦争もあと10年は続きそうだ。兵器が不足している事や、兵士の士気が低下していることで、そろそろ戦争も終焉とみる向きもあるが、西側報道は疑ってみるべきだ。

 島田 クリミア半島は、米国の支持を受けて1910年に日本が朝鮮半島を領有したのと同様に、今度はロシアがウ・ロ戦争の敗戦の末に世界中のブーイングを受けて返還することになるのではないか。また、民間軍事会社ワグネルのプリゴジン氏がプーチン政権に反旗を翻し、それを恐れたプーチン大統領が軍部を盾にプリゴジン氏をベラルーシに追放した。このことは、ロシア政権の内部が一枚岩ではなくなっており、プーチン大統領の独裁制が弱くなってきている表れではないか。

 木村 ただ、米国の中でもキッシンジャー元国務長官や一部の保守派の人たちは、「地政学的にクリミアはソ連時代のロシアの位置にありカフカス人やタタール人と一緒に暮らしていた。東部2州も元はノボロシアという現在のロシアにあった。そこに戻ればよいのではないか」という発言をしている。私も実際にクリミアに行き、その街の雰囲気を見たことがあるが、当時はロシア人が6割、ウクライナ人が2割、その他タタール人が1.5割といった割合で、町の人たちに話を聞くと、「ウクライナの政権下にあった時は、国自体が貧しく、インフラもきちんとしていなかったが、ロシア政権下になってからは町が発展した」という声が多かった。

 島田 プーチン大統領は、ウ・ロ戦争で劣勢が明確になった場合に、戦術核を使うのではないか。責任が転嫁できてプーチン大統領の身の安全性が確保できれば、核使用まではいかないと思うが、ウ・ロ戦争敗戦と内部分裂の結果として政権崩壊の同時リスクが高まれば、戦術核が選択される可能性は十分にある。

 木村 ロシアは明確に核使用ドクトリンを決めている。核攻撃の挑発的行動がロシアに仕掛けられれば、プーチン大統領は戦術核を使う可能性は十分にあるだろう。ただ、それはもちろん、戦闘が続き、例えばロシアがこの戦争に敗北して首都のモスクワ辺りまでウクライナに侵攻されたら、といった仮定の話だ。そもそも、この戦争はウクライナがミンスク合意を反故にしようとしたことから始まっている。それが米国の術中にはまり、今のような状況を作り出している。こういった公正性のなさに一矢報いようとするプーチン大統領は私は立派だと思うし、指導的にも正しい側面があると思う。ゼレンスキー大統領もミンスク合意の形に戻って、かつてのような兄弟国として仲良くしていけばよいと思う。一つ確かなことは、ロシアとウクライナ間では米国の介入による一悶着があり、そこで米国は大儲けしているという事だ。次にアジアで同じようなことが起こった時には、再び米国の金もうけが始まるだろう。[B]

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