金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「大阪は大学まで教育無償化へ」

大阪市長
横山 英幸 氏

――4月に大阪市長に就任されたが、市長としての抱負は…。

 横山 まずは2025年の大阪万博が第一で、150カ国を超える国々の英知が集結するイベントを成功させるために尽力していく。万博に向けて大阪の経済を底上げしつつ、それによって安定的な税収を得て、将来世代への投資に回していきたい。万博自体は半年間のイベントでしかないが、これに絡めて市内のまちづくりも進めている。何十年も議論が止まっていた淀川左岸線という高速道路の延伸では、ベイエリアと大阪市街地、京都や奈良に向かう道路と連携する。鉄道でもインバウンドや万博を見据えて、梅田になにわ筋線の新しい駅ができ、新大阪との接続が改善された。万博を主軸に、IR(統合型リゾート施設)も含めたハード面の整理を行っていくつもりだ。ソフト面では再生医療や健康医療など医療産業に力を入れていきたい。財政面では、過去の大型投資による負債の返済が近年は終わりを迎え、大阪市の財政はかなり体力を付けてきた。もちろんこれからも市政改革やコスト削減は行い、市有財産の売却などできることを続けていくつもりだが、成長投資を行う余力が十分にあると考えている。これからは将来世代への投資に舵を切るつもりだ。

――日本維新の会は今回の統一地方選挙でかなり勢力を拡大した…。

 横山 日本維新の会(以下、維新の会)の拠点である大阪では、改革の成果が目に見える形で表れていることが評価されていると思う。まずは精力的に進めていた行財政改革によって大阪市の借金がかなり減少したうえ、天下り団体の改革も進めてきた。また、街づくりへの投資も成果が目に見える形でお届けできていると思う。例えば、大阪市営の地下鉄については駅や車両が汚れているなど評判があまり良くなかったが、維新の会がてこ入れし、車両にディスプレイを付けたり、誰でも使っていただきやすいような綺麗なトイレの整備などを進めた。駅の売店も地下鉄の外郭団体による運営から大手コンビニチェーンに切り替え、売り上げや収入が増加した。

――教育にも投資を進めている…。

 横山 積極的に財政改革を行った分、教育分野への投資に振り向けており、小中学校給食の無償化を実現させた。そもそも大阪市の中学校には給食がなかったが、維新の会でこれをまず実現した後に、今は中学校給食の無償化を実現し、既に無償化できていた小学校とあわせて、義務教育での給食の無償化を達成した。これは子育て世帯には実感いただきやすいところだと思うし、維新の会のメンバーが市長を務める他の市でも順次無償化に向けて動いているところだ。大阪では、吉村大阪府知事と私の公約で掲げた教育の無償化に向けて取り組んでいて、大阪で生まれてから大阪で大学を卒業するまでのすべての教育を無償で受けることができる流れを作りたい。まずは、ゼロ歳から2歳までの保育料の無償化に着手することと、塾と習い事に毎月1万円のクーポンという形で助成することを考えている。大阪で所得の多寡にかかわらず無償で教育を受けられる仕組みを構築し、大阪から新しい教育モデルを日本全国に提案したい。

――大阪市政での課題は…。

 横山 人口問題や高齢化、子どもの貧困といった対策では課題がまだ多い状況にある。現状では大阪市の出生率は依然低下傾向にあり、これには難しさを感じているところで、教育の無償化を進めつつ、例えば働きやすさなど、両親が子供を預けて安心して働ける社会を構築する必要性を感じている。保育所の待機児童は既にゼロになっているが、保育の無償化を行ううえでは、保育士の確保が課題だ。また、児童虐待やヤングケアラー、子どもの貧困など子ども政策で、即座に根本的な解決策を提示することはどれも難しいが、重点的に取り組んでいきたい。一方、大阪市の健康寿命は他の自治体と比べて低く、がん検診の受診率も低い状況になってしまっている。大阪市は面積が狭く、ビルやイベント施設などが集中しているので、市民の運動の機会がなくなってしまっているのではないかと思う。そのため、定期健診の受診や健康寿命増進の取り組みなどを行っている。

――2025年に大阪万博を予定されているが、経済政策については…。

 横山 やはり目玉になっているのは大阪万博で、まずは万博に向けて大阪の経済界と連携し、産業振興につなげていきたい。加えて、大阪は歴史的に医療や製薬関連の産業に強みを持ち、現在は再生医療を主軸に置いていて、こうした医療関連産業の底上げを図っていきたい。再生医療ではこれまではもう治らないと考えられていた病気を治すことができるようになる可能性を秘めていて、大阪に来て病気を治して頂く医療ツーリズムのプランを作っていく。大阪市中心部の中之島には、最先端の未来医療の産業化を推進するために未来医療国際拠点が2024年にオープンする予定で、ここに医療機関と企業、スタートアップ、支援機関が集積する。京都大学のiPS細胞の研究所も入る予定で、大阪市としてもバックアップしていくつもりだ。この点、万博やIRを機にホテルや観光施設、リゾート、国際会議場などの施設ができるので、たくさんの人に大阪を訪れてもらい、先端医療に触れて帰ってもらうというストーリーを描いていきたい。このほか、全国的にインバウンド需要が伸びているなかで観光産業に力を入れていくつもりだ。大阪市の隣の堺市も歴史的な街並みや仁徳天皇両古墳など観光スポットが多く、大阪市から京都や奈良にも行きやすいので、これらが一体となって観光産業に力を入れていこうと考えている。

――金融面での政策は…。

 横山 大阪を第2の国際金融都市にする構想を描いている。わが国の国際的な金融都市は東京の1都市のみで、付随する機能も東京に一極集中してしまっている。他のアジア市場ではシンガポールや香港、韓国・ソウルなどの成長が著しく、中国・上海が何十年とかけて国際金融都市を確立させ、中国が北京、深センなどとあわせて複数の国際金融都市を保有していることと比べると対照的だと思う。大阪でも日本取引所グループ(8697)傘下の大阪取引所が頑張っており、大阪にはIPOセンターという新しいセンター機能を設立した。今後はまだ確定ではないが、大阪府と大阪市で協議して、地方自治体でできる範囲で税制面などでの優遇措置を考えていきたい。吉村知事もその意向を表明している。ただ、これは政策としてのバランスが難しい面もあり、なぜ金融業界だけ優遇するのかといった批判も当然想定されるので、まずは経済界の皆さんの理解を得たいと考えている。大阪は商いの町としての歴史が深く、金融面でも大阪で挑戦や商売がしやすいと言っていただけるようにしたい。[B][N]

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