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「うさぎ年には株価が跳ねる」

景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉 氏

――今年1~3月期の実質GDP成長率、第一次速報値は前期比で0.4%のプラスに転じた…。

 宅森 第一次速報時点では2四半期連続のプラスではなかった。(1~3月第二次速報値は7%のプラスに上方修正され、10~12月期もプラスに戻ったため、2四半期連続のプラスになった)。このように今は非常にエコノミスト泣かせの状態だ。昨年10~12月期の実質GDP成長率が、これまでプラスだったにもかかわらず、1~3月期の第一次速報時点では結局マイナスとなった様に、最近の実質GDPは季節調整をかけ直すと細かいところも変わってくる。コロナ禍前の2019年度のピークさえ、4~6月期か7~9月期か、これまでかなり入れ替わった。エコノミストとしては数年遡って考えたうえで総合的に判断することが求められている。コロナ禍での季節調整は難しく、突然の自粛要請やその解除が続き、その波が影響して統計も安定しないというのが実情だ。ただ、日銀が消費者物価指数(コアCPI)の目標を2%と定めて金融政策を行っていることで、マーケットはその他の細かいデータについてはあまり重要視する必要はないとみている感が強い。本当は様々な重要経済指標を過去の修正分も含めて丹念に追うべきだと思うが。

――ロシアとウクライナ戦争の影響は…。

 宅森 ロシアとウクライナ戦争によって原油価格が高騰し、穀物価格などが跳ね上がり、CPIが押し上げられたが、これは供給サイドの問題であり、需要が強くてCPIが上昇している訳ではないため、金融政策が効きにくい。さらに、エネルギー価格については政府対策が実施されることで、上がっているはずの価格が下がる様なこともあり、反動などを含めて予測などが難しい。コロナ禍対策として多額の予算が費やされたが、それらは海外医薬品を購入するために使われるなどしたため、国内の成長にはなかなか寄与していない。国内企業で医薬品を開発製造するというかたちなら違っていたのだろうが、財政支出をしている割にGDPや雇用などが伸びないのはそういった理由がある。

――今後の見通しは…。

  インバウンドが輸出の伸びに繋がっている。外国からの旅行客も、買い物がしやすいという事もあって、引き続き期待できるだろう。加えて、今は円安なので旅行は海外より国内を選ぶ人が多い。また、モノの面をみると、4月の実質輸出入動向は、輸出が1~3月期に比べて3.3%プラス、輸入も2.0%プラスで、モノの外需の寄与度もプラスだ。サービス消費は底堅いだろう。政府の全国旅行支援が終了したとしても、コロナ禍によって自粛を強いられていた人達が外に出ていきたいというマインドは強い。景気ウォッチャー調査の現状水準判断DI3月50.0、4月50.5で17年11、12月以来の2カ月連続で景気判断の分岐点50以上になった。景気が良いと考えている人の方が多く、景気ウォッチャー調査で新型コロナウィルスに関するDIを作成してみると現状判断・先行き判断とも60台という高い数値が続いている。コロナ禍の反動でリベンジ消費などが強く現れると見る人が多くなっているということだ。そうした事から、今年4-6月期のGDPは個人消費回復などが続きプラスになると考えてよいだろう。外需もプラス寄与になりそうだ。7-9月期についてはその反動がどのように出てくるのか、或いは天候要因もあってまだ不明確だが、恐らくは順調に推移するのではないか。

――世界経済を心配する声も多いが…。

  確かに、一番の心配事は世界経済だ。日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査でも、21年9月から昨年まではコロナが一番の腰折れ理由だったが、今では「米国の景気悪化」が一番の懸念事項で、次いで「国際金融危機」となっている。すでに金融面での副作用も出てきている。しかし、それはリーマン・ショックの時とは少し違う。リーマン・ショックの時は金融商品を組成している一部がデフォルトし、その商品の価値が全てなくなってしまったが、今回はその商品の価値が下がっただけで、換金すると損が出るものの、例えば大手銀行に組み込まれてしまえば、その商品は資産の一部として残る。日本の金融機関はリスクに対するチェックであるストレステストをきちんと行っているため比較的健全で、そういう面で日本の経済は強いと言えよう。また、最近の米国経済統計では底堅い数値も出ており、アトランタ地区連銀のGDPNOWでも次期四半期で2%程度の経済成長率を予測するなど、米国景気はそこまで悪くない。また、消費者物価指数の昨年5、6月の前月比は、昨年4月の低めの伸び率と違ってかなり高めだったので、今年の5、6月の前年同月比は鈍化しよう。金利についても、ここからさらに1%上げるというのであれば大変だが、あってもあと一回程度であればそれほど急激に景気が失速することもないのではないか。部品不足の影響などを受けていた日本の鉱工業生産指数は、昨年8月をピークに下落基調だったが、1月を底に2月と3月で上昇してきており、今のところ心配することはないだろう。

――7~9月期のポイントは…。

 宅森 海外で悪材料が出ないかどうかがポイントだ。部品不足で落ち込んでいた生産指数が徐々に盛り返し始め、製造業でも戻りの兆しを見せている。9月短観では完全に切り返すだろう。クイック短観で見ても5月の製造業DIは切り上げてきており、非製造業はリベンジ消費もあって強い。そう考えると、海外は不透明ながら国内消費は堅調に上向き始め、7~9月期もプラスとなっていくことが見込まれる。いずれにしても、生産性を上げるためにもDXなどの設備投資は必要だろう。一方で、物価高については色々な価格対策もあり、そろそろ落ち着いてきたという感じだ。景気ウォッチャー調査で「価格or物価」関連現状判断DIの数値を見ても、50を分岐点として昨年12月と今年1月は連続30台という悪い数値だったが、4月は49.9という限りなく50に近くなっている。こうなると、小麦価格の値上げ幅を本来の13.1%から5.8%にする政策はもったいなかったように思われる。特例としてあと千億円程度を出して値上げゼロにしていれば、小麦を使った商品価格も上がることは無く、国内の雰囲気もまた違っていただろう。価格改定による食品の値上げは昨年10月をピークに先々は落ち着いていく事がわかっている。また、円ベースの入着原油価格は遂に4月にマイナスとなり、今後もマイナスが続くことが見込まれている。エネルギー価格が低下すれば半年後の電気料金は下がるだろう。9月に政府の電気価格対策が終了しても、電気代は10月以降も大きくは上がらないということだ。こういう事がわかってくれば、安心感が出てくるのではないか。実質賃金も、エネルギー価格が反映されるようになれば、かなり落ち着きをみせ、むしろプラスになることも考えられよう。

――日本の株式市場は上昇している。国民のマインドにもプラスの影響を及ぼすだろう…。

 宅森 映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は公開3週間続けて興行収入1位となり、歴代の興行収入ランキングでも81位にまで昇ってきた。この映画は、何度失敗しても諦めない心をテーマにしたものだ。そこに、コロナ禍でも諦めずにここまで耐えてきた日本人皆が共感しているのだろう。また、今年4月のプロレスのIWGP世界ヘビー級戦でチャンピオンになったSANADAは、その後のインタビューで「諦めない心を見せることが出来たと思う」と語っていた。野球のWBCで日本が14年ぶりに優勝したのも、諦めずに頑張ってきた結果だ。特にその立役者となった大谷翔平選手は、昨年や一昨年にも増して存在感を強めており、彼の活躍が今の日本人の大きな関心事になっている。彼のホームランと日経平均の動きも連動しているように見えて面白い。「うさぎ年には株価が跳ねる」というジンクスもある。今年はその通りになってきているのではないか。[B]
※インタビューは2023年5月19日時点の内容です

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