金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「自己投資で社会的課題を解決」

大和インベストメント・マネジメント 代表取締役社長
大和企業投資 取締役会長 大和PIパートナーズ 取締役会長
大和エナジー・インフラ 取締役会長
小林 昭広 氏

――大和証券グループの投資会社の会長・社長に就任された…。

 小林 われわれを取り巻くさまざまな課題に対して、それを解決する方法は何か、金融の力でできることは何かを考えている。例えば日本社会が直面している高齢化・人口減少問題は、企業の目から見ると事業承継問題として立ち現れる。また国内では、昔からある大企業の多くが成熟期に入り停滞しており、スピンオフ(企業が特定の部門を分離して新会社として独立させること)などによる潜在成長力の向上が課題になっている。世界に目を向けると気候変動問題や環境問題があり、国内外を問わず、さまざまな社会課題がある。そのなかでわれわれが金融の会社として何ができるか。1つは投資によって好影響を与えるということだ。証券会社としての本業である金融仲介業務も重要だが、自己資金の投資や、投資家からの出資によるファンド投資の形でエクイティを使いながら、社会課題の解決に貢献する企業や事業を成長軌道に乗せるというのが狙いだ。

――大和証券グループの投資の特徴は…。

 小林 大和証券グループの投資の1つの特徴は、投資対象のアセットの種類が多いことだ。当グループの投資部門は、大和企業投資、大和PIパートナーズ、大和エナジー・インフラの3社で、中間持株会社の大和インベストメント・マネジメントが3社を束ねるという組織になっている。1つ目に、大和企業投資は、40年以上にわたってベンチャーキャピタル(VC)としてやってきた会社だ。投資額は、40年間では2,300社を超える国内外のベンチャー企業に数千億円規模、現時点ではファンドも入れて約800億円だ。2つ目に、大和PIパートナーズは、国内において事業承継やスピンオフに課題を持つ企業にプライベートエクイティ投資をする会社だ。中堅規模で、成長が踊り場にある企業への投資を行う。人や数字の管理などに問題があるような会社が多いが、われわれがそこにお金だけでなく人やノウハウを投じることによっていっそう成長が可能だと見て投資する。特にわれわれが強いのは財務・資本政策関係のノウハウだ。現時点では、債権や不動産への投資を含め、総額約1400億円投資している。3つ目に、大和エナジー・インフラは、再生可能エネルギーに対する投資を行っている会社だ。太陽光発電、洋上・陸上風力発電、バイオマス発電などに投資している。まさに今、アセットとして右肩上がりの領域だ。その他、インフラ関連の投資では、配電・通信・高速道路等のコアインフラなどにも投資している。総額では約1500億円投資している。

――大和証券グループ本社の中田誠司社長は、証券業以外の事業領域を拡大していく方針だ…。

 小林 中田が「ハイブリッド戦略」と呼んでいるところで、まさに事業ポートフォリオの多様化が進んでいる。例えば、国内における「企業投資」という観点で言えば、大和企業投資と大和PIパートナーズはカニバリゼーション(自社の事業どうしなどで競合すること)しているように見えるかもしれないが、原則として両社において企業の成長ステージごとに投資対象が競合しないようにしており、VCとプライベートエクイティで求められる人材・ノウハウ・経験等も異なる。また、海外については、全世界を見つつもターゲットを絞っている。そのなかでも、いまだ潜在成長率が高い東南アジアのマーケットに注力し、ベンチャー・プライベートエクイティ投資を行っている。大和企業投資は、ベトナム、中国、台湾に独自の活動拠点を持ち、現地での知見とネットワークを持つパートナーと組んで現地の有望な成長企業に投資をしている。また、大和PIパートナーズは、昨年、シンガポールに拠点を設立し、より機動的な投資活動が行える体制を構築した。さらに、大和エナジー・インフラは、代表的な投資先である太陽光発電所の例でいえば、日本以外に欧米でも投資している。投資した再生可能エネルギーの発電所は全世界で34拠点、総発電出力は2098メガワットとなっている。欧米の太陽光発電所に投資するのは、現地の制度が日本より進んでおり、そのノウハウを日本で転用できるためだ。太陽光発電のコストは土地を借りて太陽光パネルを敷くという設備投資にかかり、発電に必要な燃料輸入はないため、電気を売る価格が分かればキャッシュ・フローを読みやすく、金融商品と考え方が近い。あとは運営上のリスクとリターンの問題で、リスクを専門家から学ぶことが重要になってくる。われわれが運営できるようになれば、いずれそれを金融商品にして投資家に売っていきやすくもなる。また、日本より先に価格が変動する仕組みに移行した欧米でのノウハウを知っていると、日本でのプライシングに役立つ。電気を売る価格は、コストの上ぶれを見込み、バッファーを取って設定するのだが、そのゆとりを小さく見積もるほど価格競争力が上がってくる。このように、われわれが資金を回すことによって事業が発展することになるのは、素晴らしく面白い。これから先、気候変動問題や環境問題の下、再生可能エネルギーの導入は日本も避けて通れない。いち早く動き、社会に貢献したい。

――岸田内閣はベンチャー育成に力を入れている…。

 小林 ベンチャー投資に対する日本政府の支援が強化されているのは当然だ。さまざまな問題を解決するのはイノベーションしかなく、イノベーションはベンチャー企業から生まれやすい。いかにベンチャー企業に投資によるリスクマネーを供給するかが重要だが、日本には資金だけでなく人、ノウハウが不足しているのが実情だ。ついこの間、大和企業投資も関わる日台のバイオベンチャーファンドの台湾での投資先を見学したが、医薬品の製造・販売の許可を出す役所である、日本でいう厚労省の施設と、ベンチャービジネスを作り上げるイノベーションセンターが同じ敷地内にあった。同じことを日本でやろうとしたら縦割り行政でそうはいかない。厚労省とベンチャー育成を担当する経産省とでまったく別の動きをするだろう。台湾のような一極集中の政策の強みは「当たれば大きい」ことだ。このため、まだまだ日本には制度などを見直す余地と伸びしろがあるとも考えられる。

――大和インベストメント・マネジメントが上場する選択肢は…。

 小林 ありえる話ではあるが、今は具体的には考えていない。大和証券グループの会社としてのメリットもある。われわれは、同業の独立系投資会社と比べて、決済の確実性と投資における意思決定のスピードを強みとして信頼を得ている。大和証券グループという看板の下で、間違いなく支払うということと、それほど大きな会社ではないため機動力があるということだ。その信頼性との見合いで、われわれに今より力が付いて看板が必要なくなったときは、どちらが良いかという選択肢が出てくるだろう。また、今、投資部門の3社の収益性はほぼ同じレベルだが、一期ごとの収益より長期的な見方が重要だ。その点、外部資金をファンドとして運用する大和企業投資は、管理報酬等により収益が安定している。40年間でそのようなビジネスモデルになったということだ。証券会社には自己資本比率規制があり、自己投資は相当「資本を食う」ためむやみにできない。そのため、ゆくゆくは残りの2社も、投資家から預かった資金をベースに、自分たちも同じ船に乗って投資するというスタイルに向かうのではないかと思う。ビジネスとして安定性が高まり投資額は増えるとすれば、いっそう投資の目利きとリターンを得る力が重要になってくるだろう。

――今後の抱負と課題は…。

 小林 やはり、1つは自己資本比率規制にどう対応するかという点で、キャピタルリサイクリング、つまり保有するアセットを金融商品化・ファンドに売却し、常に資本を回転させるということをいかにスムーズにやっていくかということだ。また、アセットの種類をどう増やしていくかということも大きな課題だ。たくさん種類がある分散されたポートフォリオほど安定するが、一方で成長との兼ね合いもあり、今は今後成長するであろう分野・領域に経営資源を注力している。リスクとリターンの関係を常に考えながら、ポートフォリオを着実に増やしていきたい。[B][L]

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