金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

「グリーン国際金融市場を標榜」

金融庁
長官
中島 淳一 氏

――個人投資家の株式保有比率低下の原因と対策は…。

 中島 個人投資家の株式保有比率は低下しているが、保有残高自体が減っている訳ではなく、海外投資家や日銀のETF買いが増え、また個人投資家も投資信託経由での購入が増えており、結果として個人投資家の保有比率が低下している。こうした状況の中で、政府は資産所得倍増プランを策定し、NISAの恒久化および抜本的拡充を決定した。NISAの利用推進は、個人投資家の株式保有比率低下への対策にもなると考えている。

――金融経済教育を推進する組織も新設する…。

 中島 いざ投資しようというときにどうすればいいのかわからない、自身に相応しい投資商品がわからないといった状況では安定的に資産を増やしていくことは難しい。そうした課題へ対応するため、金融経済教育推進機構という法人をつくり、国として本格的に真正面から金融教育に取り組もうとしている。機構の運営の詳細は、まだ決定していない。ただ、我々としてはできるだけ民間のリソースを活用したいと考えている。法案の審議状況などを見ながら今後具体的な内容をよく考えていきたい。

――株式市場においても経済安全保障に対する警戒感が高まっている…。

 中島 日本市場のことを考えれば、海外投資家を含めて幅広く、多様な参加者がいて、厚みを持ち、厚みがあることによって市場の安定が図られるべきで、グローバルに開かれた市場としていく方向に変わりはない。ただ、経済安全保障の観点は重要だ。外為法において出資規制が強化され、海外投資家が日本株を買う場合で、問題となりそうな場合はこの法律で対応することが基本的となる。今後も法律という透明な形で対応すべきだと考えている。外為法の規制見直しにあたっては、経済安全保障と海外投資家にとって魅力ある市場の両立に向けて、金融関係者の意見も踏まえながら議論を行い、いまの仕組みがつくられている。金融庁も経済安全保障に対する問題意識は高い。一方で、我々に経済安保の知見が十分にあるとは言えないため、政府として専門家などが地政学的リスクを分析しており、そうした点について金融庁も政府の一員としてコミュニケーションをとりながら取り組んでいる。今後制度開始が予定されている経済安全保障推進法では、「金融」が重要インフラのひとつに挙げられており、例えば、有事の際に銀行の勘定系システムが停止してしまうと日本の金融システム全体に影響を与える恐れがある。このため、勘定系システムなどの基幹システムをつくる際に、経済安保の観点からチェックをするなどの対応が想定されている。

――台湾有事に伴う中国リスクを開示すべきではないか…。

 中島 有価証券報告書では会社が有しているリスクをきちんと開示することを求めており、すでに特定国で売上高または有形資産が全体の10%以上ある場合については開示を求めている。また10%未満だとしても投資家にとって必要であれば開示するよう促している。中国や台湾とビジネスをしなければ収益を逃すことにもなるため、ビジネスをしているがリスクをきちんと認識しており、有事が発生すれば対応できる旨を含めて開示することが、投資家にとって重要だと考えている。形式基準については未来永劫変わらないということはなく、常に投資家にとって必要なものを考え、どれを義務付け、どれを任意とするのか不断に見直していくに尽きる。現時点における海外に関する開示体制はそれなりに十分だと考えている。

――市場国際化の遅れの要因である所得税の高さを埋める手立ては…。

 中島 日本のように経済規模がある程度大きい国が、タックスヘイブンの国のように税率引き下げで投資を呼び込むというのは考え難い。このため、日本の場合は、市場としての魅力を高めることで投資を呼び込むことが重要であるという考えから、コーポレートガバナンス改革などに取り組んでいる。ややもすると日本企業は内部留保を貯めがちであるが、収益を上げるための投資を行うようになれば海外投資家の関心は高まる。またサステナブル・ファイナンスにおけるアジアのハブとする方策も考えられる。グリーンや脱炭素に向けた移行などにおいては多額の資金が必要となっており、つまり金融が必要とされる段階に入ってきている。また日本には地球環境に有用な技術がそれなりにあり、人材もいる。さらには資金もある。そうした要素を組み合わせれば、日本がグリーンの国際金融センターとなり、アジアにおけるプレゼンスを高めることも可能だ。例えば、昨年、日本取引所グループに設置されたESG債情報プラットフォームにおいて、単に日本の債券だけではなく、アジアの債券も閲覧できるようにするなど情報を拡充すれば、魅力的な家計金融資産というメリットもある日本に世界中から人や資金が集まることが期待される。

――社債市場が余り発展していない…。

 中島 金融庁が社債発行にブレーキをかけているということはまったくない。昨年の金融審議会でも社債市場の活性化に向けた議論を行った。制度的には法的な義務を負うことになる社債管理者をだれが担当するのかという、社債管理の担い手確保の問題があるだろう。ただ、日本でなぜ社債発行が活発化しないのか。企業にとってメリットがあれば社債を発行するだろうし、メリットがなければ銀行借り入れとするだろう。企業サイドから発行ニーズはあるが発行できないという声があれば対応しなければならないが、日本は歴史的に銀行の借入金利が低く、社債の方が手間・コストがかかると言われている。海外のように元から金利が乗っている世界とは異なることから社債発行のニーズが高まらない。しかし、いつまでたっても鶏と卵の話では仕方がない。企業の資金調達手段の多様化の観点からは株と銀行借り入れに社債発行を加えることができ、また投資家サイドにとっても国債以外のフィックストインカムの投資先となるため、社債市場に厚みを持たせる必要はある。投資家による社債の評価に必要な情報が開示されることも重要だ。社債権者となる投資家には、担保も含め銀行が発行会社に対する融資にどのような条件をつけているのかが見えない。その点、見える化によって投資判断にあたって不利にならないようにすることなどについて、金融審議会での議論などを通じて推し進めている。現状発行がないBB格については、金利が乗ればリスクを取れる投資家は出てくるだろう。しかし金利が乗らなければ投資家にメリットがなく、投資家がつかない。これも鶏と卵の話だが、投資家層を厚くし、リスクをとって高利回り社債を求める投資家の存在も必要である。

――欧米の金融不安に起因する見直しの必要性は…。

 中島 現時点で日本において変えようと考えている金融規制はない。やみくもに規制を変えるのではなく、いま何が起きているかをきちんと整理し、どのような原因で破綻なり、経営不安が起きたのかを見極めたうえで、必要であれば手直しをしていく。まずは現状の金融システム不安を沈め、その教訓をどう生かしていくかが重要だ。日本の地銀は全体感で言えば、資本が厚く、有価証券において海外金利上昇に伴う含み損はあるものの、株高による含み益がある。ただ個別行でまちまちでもあるため、個別に有価証券リスクの管理態勢の整備を求めている。日本の銀行が破綻するとは考えていない。しかし、リーマンショックのように、世界景気が大きく落ち込めば、日本の金融機関も影響を受ける。今後の世界の経済動向や金利動向に対する関心は高く、それらが金融機関にどのように影響を与えるかを注意深く見ていかなければならない。[B][X]

▲TOP