金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「アベノミクスの犯罪的失敗
   黒田バズーカが失敗を延命」

緊急記者座談会

――黒田氏が日銀総裁を退任した。黒田氏が行った大規模緩和、いわゆる黒田バズーカについて改めて評価をしたい…。

 A 黒田バズーカは、いわゆるアベノミクス、安倍元首相が押し進めた経済政策の一つだ。このため、アベノミクスの評価の中で論じられるべきだろう。そのアベノミクスは一言で言えば、太平洋戦争並みの犯罪的とも言える大失敗だ。理由は、国の借金が約2倍の1200兆円に増えたものの、GDPは500兆円台のまま変わらず、また実質賃金は減少してしまった。会社経営に例えれば、会社の負債が2倍に増えたものの、売上は余り変わらず、賃金はむしろ減ってしまったという状況で、経営陣が3回ぐらい総退陣しなければいけない赤字会社の末期症状だ。

――何故そうなったのか…。

3本の矢とも失敗

 B 多くの人が指摘しているのは、アベノミクスが掲げた規制緩和、財政出動、大規模緩和の3本の矢のうち、規制緩和と財政出動は余り行われずに、いわゆる大規模緩和の一本足打法になってしまったというわけだ。しかもその大規模緩和も続け過ぎて、効果よりも副作用が大きくなってしまい、景気促進効果を失ってしまったということだろう。

 C 規制緩和は初めのうちは色々言われていたが、しばらくすると何も言われなくなった。そこは規制緩和により権力が奪われるのを嫌った霞ヶ関の役人の勝利だろう。一方の財政出動の方は、確かに予算規模は膨らんだものの、税収も大幅に増加しており、また、国債費(国債の利子)は大規模緩和により少なく抑えられたままで民間から国へと富が移転する構造が続いている。そしてこれがデフレの要因の一つにもなっている。

 A 税収の増加は、もちろん消費税の引き上げが大きく、これに加えて上場企業のROE推進によるスリム化経営で法人税や配当課税が増加したことも見逃せない。スリム化経営によって、外国人投資家も喜ばせた半面、賃金と設備投資と下請け企業への支払いなどが抑制され、これも消費増税とともにデフレ圧力となった。つまり、財政出動による景気刺激策は実質的には行われていないと言って良い。

大規模緩和の継続で無駄の山

――規制緩和はともかく、財政出動が行われず大規模緩和も緩和効果が無くなっていれば、デフレは治らんわな…。

 B 大規模緩和も初めのうちは効果があったと思うが、続けているうちに副作用ばかり目立って効果が無くなった。副作用の最たるものは、Cが指摘したマイナス金利や長期金利抑制により国債費が抑制された結果、富が国民や企業や金融機関から国へとシフトしたことが一つ。大規模緩和の継続によりいわゆるゾンビ企業が生き残ったことや、財政支出が容易にできることにより財政の無駄使いが巨額となって、官民ともに日本経済を無駄の多い成長できにくい体質にしてしまった。

 C デフレの要因としては、税収の増加やマイナス金利の他に、企業の海外進出やDX化、少子化も挙げられる。海外進出は米国に巨額な貿易黒字を糾弾された結果の対策だが、それにより貿易立国から経常黒字立国に変身したものの、経常黒字による円高と極めて安い輸入製品や海外賃金によるデフレ圧力に晒されることとなった。その意味では円安効果を生むマイナス金利政策は、リーマンショックの後もそうだが、安い製品輸入によるデフレ効果を緩和する一定の役割は果たしたと思う。

完成度低い国際収支立国

 A 問題は、マイナス金利政策やYCC(イールドカーブコントロール)が大幅な経常黒字によるデフレ効果を緩和している間に日本経済を次のステージに引き上げられずに、ズルズルと大規模緩和を続けてしまったことだ。円高をうまく利用した政策、例えば外国人労働者の期間雇用の大規模な解禁や国際金融の抜本的強化策の導入など規制緩和や抜本策が打ち出せずに、それまでの円安・輸出立国政策を変えられなかった。このため、今でも円安により外国人観光客を増やそうなどと言っている。政策立案の発想が40年くらい古い。最もそれには輸出中心の経団連企業の体質に依るところも大きかろう。

――デフレのそもそもの原因は、バブル崩壊後の日銀の金融引き締めの長期化と、バブルと金融不安の再来を恐れ銀行を規制した金融庁の金融監督指針の問題だった…。

 B 日銀の金融引き締めは白川総裁から黒田総裁に変わった時点で緩和に転換し、金融監督指針も既に変わっていて、その2つはさすがにデフレ要因では無くなっている。しかし、黒田バズーカによる大規模緩和は国の膨大な借金作りや経済の非効率化を促進させた。また、金融監督指針が変わったと言っても金融機関が融資体制を変えるには10年タームで時間がかかるし、マイナス金利により体力が衰えている現状では新たな投資も難しい。結局、メガ三行の海外融資や地銀の海外投資を除けば、国内ではDX化などによるコスト削減が中心になる。つまりそれはデフレ経営だ。

減税が出来ないことも問題

 C 日本の財政政策が財政支出ばかりで減税をしないこともデフレ要因の一つだ。財務省は利下げを嫌ったかつての日銀と同様に、減税は「負け」という信念を持っている。それはそれだけなら確かにその通りだが、減税の代わりに財政支出するとなると話は別だ。というのは、日本の場合は一度財政支出を増やすと中央官庁の省利省益から二度と減らすことは出来ず、それが経済の非効率化を促進しかつ財政が非健全化し国民の富をも奪うためだ。また、国民の自由な経済選択が反映される減税と異なり、財政支出は需要を反映しにくく無駄が多いことは経済の教科書にも出ている。コロナ予算はなんと140兆円の規模に膨らみ、かつその半分以上が取ってつけた支出や無駄な支出だと指摘されていることが良い例だ。

――財務省にも問題ありと…。

 A 信念から減税が出来ないだけでなく、予算を査定する主計局の機能ももうボロボロでどんぶり勘定を容認している状況だ。このままでは遠からず円安・国債安のインフレになり、その先は国債の紙屑化だ。このため、主計局の査定能力の抜本強化や会計検査院の大増強、国会の決算機能の野党化などが急務と言えよう。その手前に、一刻も早く国債発行を容易にできる今の大規模緩和を止めさせて、国債金利を正常化することで国債発行に歯止めを掛けさせないと日本国の持続性は危うい。日銀はSDGs債を買うより先にやることがある。

市場と対話できず国債介入残高が増加

 B それと日銀が市場との対話能力をつけることも急務だ。黒田バズーカの最も悪いところは市場との対話を怠り、国債買い入れという力ずくで金利を抑制してきたことだ。その結果、金利が市場機能を失って経済の非効率化に拍車をかけるとともに、500兆円もの国債買い入れ残高を作ってしまった。昨年からの円安とエネルギー価格の高騰によるGDP停滞も、日銀と市場との対話を前提として金利を自由化していればそれほどの円安にはならず、よってGDPのマイナスは防げたであろう。もっとも、円安対応で後手を踏んだのは、日銀の物価見通しが下手くそだということも問題だが。

――まぁ、まだ色々と問題はあるが、とにかく、まずは市場原理を大切にした効率の良い経済に戻し、財政規律を正常化することだな。そうしなければやはり国債は紙屑だ…。[B]

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