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「地政学的リスクの拡大に対応」

石垣市長
中山 義隆 氏

――3月中旬には石垣島に陸上自衛隊の駐屯地が開設される…。

 中山 石垣島の駐屯地には、地対艦・地対空誘導弾を装備した部隊と、それを警備する部隊を併せて約570名、車両が約200台配備される予定だ。政府が南西諸島へ自衛隊の配備を決めてから10年近くが経ち、奄美大島と宮古島、与那国島には配備が進み、石垣島が最後になった。今回の石垣島への配備によって、当初計画していた南西諸島の防衛体制は整った。

――香港およびウクライナと、刻々と地政学的な緊張が高まっている…。

 中山 以前から中国の台湾侵攻を予想する話は出ていたが、中国の香港への圧力強化やロシアのウクライナ侵攻によって現実味が増してきた。中国が直接石垣市に手を出してくることはそれほど考えられないが、中国が台湾に何らかの動きをしてきたとき、台湾から南西諸島に自主的に避難する人が増えると想定している。それが外交上公式なルートでやってくるのであれば市で管理できるが、漁船や民間の船舶などで押し寄せてくると手に負えない状況になってしまう。台湾と与那国島の距離は100キロメートルほど、石垣島や西表島は200キロメートルほどなので、台湾から南西諸島へは民間の船でも航行できる。公式なルートでパスポートを持って入国手続きを済ませれば問題はないが、不法に島中の海岸線に上陸して、いつどこで入ってきたか分からない外国人が大量に上陸すると収拾が付かず、治安悪化につながってしまう。中国のスパイが紛れ込む可能性もある。ウクライナやシリアの避難民の例を見れば明らかだが、石垣島の人口は約5万人であることから、台湾全体の約2300万人を勘案すると、石垣島の人口を遥かに上回る避難民が押し寄せる可能性が十分にある。

――台湾有事の際の対応は…。

 中山 石垣市としてはそのような懸念があることを既に国に伝えていて、南西諸島・石垣島が直接攻められた場合も含めて議論をしている。まずは前段階として、石垣島に台湾からの避難民が押し寄せてきた場合のシミュレーションをして欲しいと政府にお願いしている。台湾から避難民が訪れたときに最も懸念されるのは、避難民に偽装して石垣市に来た工作員が、石垣市から東京、大阪、名古屋、福岡への航空便を通じて、日本国中に散らばってしまうことだ。台湾有事は日本有事と安倍元首相は言っていたが、同じように避難民が石垣島に来ることは、石垣島や南西諸島だけの問題ではなく、日本全体の問題であると思っている。この3月から石垣島には自衛隊の駐屯地が開設するが、それだけではなく国防や安全保障は国全体で考えなければならない。石垣島単体ではなく、国全体でどう守るかという話が必要なので、全国の皆さんが台湾有事や尖閣諸島の問題を自分事としてぜひ考えてほしい。

――1月末に行った尖閣調査の印象は…。

 中山 尖閣諸島の調査は昨年に引き続き2回目だ。昨年は波が高くて島に近づくことが厳しかったが、今年は天気も穏やかだったので1マイル(約1600メートル)の距離まで接近でき、ドローンも飛ばして調査を行った。調査では、昨年よりも山肌の露出が増えて緑が減少し、自然破壊が進んでしまっていることが分かった。1978年にある政治団体が、万が一尖閣諸島周辺で遭難が発生した場合に備え、食料になるようにとヤギを放したが、そのヤギによる食害が進み、そこに雨が降って土壌が流れてしまったことが原因だ。尖閣諸島にはセンカクモグラやセンカクオトギリなど固有の動植物がいるので、安全保障だけでなく環境保全のための上陸調査が必要だ。また、前回同様、尖閣調査時には中国海警局の船が近づいてきた。前回は尖閣訪問を事前に告知していなかったので、われわれの船の周りに海警局の船が2隻併走し、海上保安庁がわれわれの調査船を守っていた。今回はあらかじめ伝わってしまっていたこともあり、中国海警局の船が前回の倍の4隻迫ってきたが、海上保安庁の船が8隻で、われわれの調査船に一切近づけない状況を作ってくれたので、安心感をもって調査ができた。われわれの調査は自治体としての活動だが、国はストップを掛けたりせずに、海上保安庁を動員して守ってくれたことに意義があると思う。石垣島には海上保安庁の1000トンクラスの巡視船が13隻体制、3000トン、6000トンクラスの船も優先的に配備されており、中国の圧力が強まっているが、日本側の防衛力も強化されている。

――今後の尖閣諸島での取り組みは…。

 中山 今回の調査で尖閣諸島の自然環境がかなり悪くなっていることが分かったため、実際に上陸して詳細な環境調査をしたり、ヤギの捕獲を行ったりする必要がある。戦時中に石垣島から台湾に疎開しようとしたが、米軍の攻撃を受けて尖閣の魚釣島に遭難した方がいる。そこで亡くなった方の慰霊祭を行いたい。また、石垣市中心部にある「登野城(とのしろ)」という住所地と字名が同じであるため、20年に尖閣諸島の字名を「登野城」から「登野城尖閣」に変更したが、「登野城尖閣」であることを示す標識を作ったので、これを置きに行きたい。このほか、戦時中に遭難し尖閣諸島で埋葬されてから遺骨を収集できていない方がおり、その遺骨収集もしたいと思っている。

――石垣市の経済は…。

 中山 経済の中心である観光業はかなり回復してきた。国内からの観光客は昨年の夏ごろから回復し始め、現在はほぼコロナ前の状況になっている。3月8日からは海外からのクルーズ船が寄港し始め、インバウンドの増加が期待できる。国内・海外ともにコロナ前を回復できると考えていて、ここ3年ほどは苦しい状況だったが、ようやく一息ついた。石垣市の新型コロナの新規感染者は1日2~3人程度にとどまっていて、感染対策が上手くいっている。経済安全保障上の観点もあり、石垣市はもともと中国からのお客さんは期待しておらず、欧州や台湾、香港からのお客さんがメインだ。中国では住宅バブル崩壊や経済失速の影響も大きくなっているが、こうしたことから、石垣市の観光業には大きな影響はない。

――今後の課題は…。

 中山 政府にはこれまでも随時空港や港の整備を行ってもらっていたが、石垣空港の滑走路をより長くしてほしいとお願いしている。現在の空港の滑走路は2000メートルで、国内の飛行機なら離着陸できるが、ヨーロッパなどから就航する大型機にとっては少し短い。本当なら3000メートル必要だが、今の敷地面積の範囲内で2800メートルまで整備してほしい。また、石垣港は大型の国際クルーズ船に対応しているが、さらに、富裕層が使用するクルーザーのためのマリーナのようなものを作りたいと思っている。これらは防衛や安全保障関係なく観光業の観点から政府に要望していたが、政府からは南西諸島の港や空港の整備を行うことによって、自衛隊との共同利用が可能になり、万が一の時に市民を逃がすために飛行機や船を運行する拠点となるという話が出てきた。われわれの要望している観光のための滑走路と、政府が想定している防衛のための滑走路で、それぞれの思いがあるが、手段は一致しているので、政府と協力して開発していきたい。尖閣諸島も戦前は人が住んでおり、今も日本人が住んでいれば領土問題に発展しなかったと思う。同様に、南西諸島も日本人が住み続けることが大切で、市民が潤うような政策を考えていきたい。

――台湾との交流については…。

 中山 石垣市は戦前から台湾との交流があり、今や石垣島の特産品となっているパインアップルやマンゴーは台湾からの移住者が持ち込んだものだ。戦後は日本に帰化した方も多く、2世3世と世代を重ね、石垣市のさまざまな分野で活躍している。石垣市は台湾の宜蘭縣蘇澳鎮と姉妹都市を結んでおり、去る2月10日にもコロナ明けを見越してチャーター便での交流を行った。国内観光客の次はインバウンドの観光客が戻ってくることを期待しているが、その主力は台湾だと考えている。石垣島からわずか200キロあまりの場所に2300万人のマーケットがあるので、そこを深掘りしていきたい。国内の他の観光地が中国からの観光客に期待するのとは一線を画す形になるが、これは地理的にも、また経済安全保障上も中国依存は避けたいと思っているためだ。 [B][N]

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