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露と手を組み戦略的な外交を

一水会
代表
木村 三浩 氏

――近日、安倍総理が再びロシアを訪問するが、北方領土の進展具合は…。

木村 北方領土における経済協力活動については、現在、ロシアとの間で8項目の協力活動が行われている。それは米国との関係もきちんと考慮しながら、水面下で、静かに、着実に進んでいると言えよう。実際に、これまでは日本から船でしか行けなかった北方領土に、今では飛行機で乗り入れるようになった。また、今年5月25日に開かれるサンクトペテルブルグ経済フォーラムには安倍総理が出席することも決まっている。それも含めれば、安倍総理とロシアのプーチン大統領とは約20回もの会談を重ねていることになる。ロシアが今、日本に対して評価を高めているのは、英ソールズベリーで起きたロシア元スパイに対する神経ガス剤使用問題への対応だ。これは、3月18日の大統領選挙でプーチン大統領再選を阻むための作為的な反ロ宣伝だったという見方も出来る。そんな中で、日本政府は化学兵器使用に関しては悪だとしつつも、それをロシアが使用したという確かな証拠がない限りむやみにロシアを悪としないという姿勢を貫いている。このように、きちんと事実と法律にかなった判断を行っている日本の行動がロシアの求めているところと合致すると評価している訳だ。特に2018年は「ロシアにとっての日本年」及び「日本にとってのロシア年」であり、4月下旬には自民党二階幹事長もロシアへの訪問を予定している。統一ロシアとの親睦と人的交流を強化するためだ。そこでいかに交渉力を高めてロシアとの関係をうまく築いていけるかが今後の日露関係の進展のカギとなろう。

――ロシアはクリミア問題で制裁を受けているが…。

木村 先日のロシア大統領選挙ではクリミア住民におけるプーチン支持率が圧倒的に高かったことが証明された。つまり、クリミアがロシアに一方的に併合されたという見方は崩れてきている。そんな中で、米国は軍産複合体制を根底に置きながら、ロシアに経済制裁を課しつつ、しかし大統領選での勝利に際し、トランプ米大統領からプーチン露大統領へのお祝いの言葉が送られた。また、伊で再び首相に返り咲いたベルルスコーニ氏は、クリミア問題はロシアに理があると言っている。ベルルスコーニ氏はプーチン大統領と大変仲が良く、ロシアの状況を把握している人物だ。そして、ロシアが日本に対して求めていることと言えば、英のような言いがかりをつけない事、クリミアの状況をきちんと見て理解する事、そして、日露経済協力プラン8項目を進めて実現させる事だ。その大義はすべて、日露平和条約の締結を実現させる下支えになるということだ。

――日露平和条約の締結に当たっては、北方領土返還が4島ではなく2島でもよいと…。

木村 そもそも4島一括返還論は、1956年に当時の米ダレス国務長官が沖縄返還と抱き合わせに作った対露政策だ。何故、そのような米国が作った策に従わなくてはいけないのか。「2島でよし」と言っているわけではない。平和条約締結の中でまず2島を返してもらい、その後はまた考えればよいということだ。本当に2島の返還だって大変なことだ。つまり、これまでのすべては米国が親米反ソに仕向けるための路線だったが、そろそろ、その点から脱却しても良い頃だ。米国と日本の間の貿易収支はそれほどたいしたものではなく、一方で米株や米国債などに対する日本の投資額は非常に大きく、それが米国の力になっている。中国も39兆円の対米貿易黒字を記録している。そういう現在の状況においては、日本はむしろインドやロシア、アセアンなどに目を向けて、もう一度、外交関係を仕切り直していくべきだと思う。

――沈みゆく船の米国には、これ以上関係を深める必要はない。その代わりにロシアやインド、東南アジアと仲良くしていくべきだと。ただ、ロシアでは法律が曖昧なのが気になる…。

木村 法整備の問題も進んでいるとは思うが、ロシアは権力集中国家であるため、ロシアへの投資等は時限的に策定した方が良いだろう。政権が代われば180度政策が変わる可能性が高いからだ。いずれにしても、北方領土の経済協力プラン8項目は進んでいく。人口2万人の領土に日本の経済が浸透していけば、日本主導によるロシアと日本のより密接な関係が築いていけるに違いない。また、中国に比べたら、ロシアはまだ法治主義を守っている国だ。

――中国や北朝鮮の動きについて…。

木村 中国が将来的にどうなるかはわからないが、ロシアのような連邦制が訪れる可能性もある。日本以上に高齢化社会で人口も多い中国を、日本は俯瞰し、リスクヘッジしておく必要があるだろう。また、北朝鮮に関してだが、金正恩は朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に変えようとしている。その生き残りをかけてやるべきことは、韓国を含めた朝鮮半島全体の非核化だ。その話をするために、金正恩は習近平と会った。そして、次に会うべき人物が露プーチン大統領だ。そのタイミングは近いうちに必ず来るだろう。さらに、米朝会談のカギを握っているのも、実はプーチン大統領だ。トランプ大統領とプーチン大統領の仲は良いのだが、先日のシリアの化学兵器問題は気がかり材料だ。それは、シリアのアサド政権はロシア支援下にあるからだ。とはいえ、私にはシリアのアサド政権が化学兵器を使ったとは到底思えない。いずれにしても、今、北朝鮮は生き残りにかなり力を注いでいて、米朝会談を行った時に日本がどうなるのかは注視していきたい。

――日本は残念ながら外交のカードを持っていない。切り札も持っていないのに断固とした態度を取るという姿勢の安倍政権を、北朝鮮や米国はどのように見ているのか…。

木村 本当は、この時期に日本から北朝鮮に行って本音で話せる人物がいれば良いのだが、そのような関係を作れていない。米朝会談によって、日本はトランプ大統領に裏切られることになるか、兵器をたくさん買わされることになるかもしれない。安倍総理は自身の国際的なスタンスを上げるために、国民の税金約50億円をトランプ大統領の娘イヴァンカ氏の女性基金に寄付した。そのことで足元を見られてしまったといってもよいだろう。有力なカードを持っていないことで、お金だけを出すことになってしまっているのが今の日本だ。ちなみに、北朝鮮はクリミア半島のロシア編入を承認している数少ない国だ。だからプーチン大統領は北朝鮮を大事にしている。また、韓国もロシアに対する経済制裁は行っていない。日本はG7の中で抜け駆けの制裁破りをするわけにはいかないが、例えばクリミアの状況視察に行くとか、外務省が発表しているクリミア半島の地図情報を適切なレベルまで下げるとか、そういった取り組みを行えばロシアは歓迎するだろう。さらに安倍総理大臣がクリミアを訪問したら、それは凄いことになるだろう。

――日本の外交は何も言わずに笑っているだけで、何をやっているのかわからない…。

木村 今年は日中平和友好条約締結40周年を迎えるが、金正恩氏が訪中したことを受けてか、中国は米・韓・北朝鮮間で4か国協議を提案している。日本とロシア抜きの会談だ。また、次回行われる日中韓外相会談ではいかに韓国を味方につけるかが問われているのに、安倍総理は韓国に対して好きではないという感情が明らかすぎて、それでは日韓関係も上手くいくはずがない。逆に韓国につけ入れられてしまっている。このように、対中、対韓政策がうまくいかないのであれば、せめてロシアとはしっかり手を組むべきだ。ロシアは韓国が日本の慰安婦像をロシア国内に建てたときに、申請不備があったのか理由は分からないが、これを撤去したほどの対応を取ったことを是非知っておいてほしい。また、韓国の中にも、文在寅大統領と違って日本と手をつなぎたいと考える人はたくさんいる。文政権が変わった時のためにも、今のうちにそういった人たちと交流を重ねておくべきだ。戦略的な外交を、日本は心がけていくべきだ。(了)

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